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第37話 人材

「実は……私の旦那に関係する事なんだけど……」


 先に帰らせた時点でルイ絡みなのは容易に想像がついた。

 しかし、俺は首を捻り思考を働かせるが、内容については全くと言っていいほど心当たりがない。

 いったいどんな話なんだ?


「……最近あの人、伸び悩んでいてね」

「伸び悩む? それは……戦闘的な意味合いでか?」

「ええ、そうなの……」


 俺を探していたこととあまり繋がりがあるようには感じないが……。

 あれか?

 世界一位だったら、戦闘力も当然一級品のはず……と思いこみ、アドバイスでも欲しいのだろうか?

 それとも勝負を挑み、負けてもいいから何かきっかけを掴みたいとかそういう可能性もあるか……。

 どちらにせよ、俺にとっては引き受けづらい内容だ。


「カイトは聞いたかもしれないけど……エレノアに世界ランキング一位がいるならぜひ教えを請いたいと言っているのよ……」


 俺の予想を裏付けるかようなマリスの言葉に少し眩暈がする。


 ……思い出した。

 たしかに言っていたな。師事したいと……。


「それで、カイトのおかげで臨時収入もあったし、軽い気持ちでギルドに依頼してみようと思ったのよ。けど……まさかね」


 マリスは俺に視線を向け、ひとつ息を吐く。

 まるでこの展開は予想していなかったとでも言いたげだ。

 まあ……全面的に同意するけどな。


 いまマリスが言った収入とは中級ダンジョン攻略時にもらった賞金のことを言っているのだろう。

 あぶく銭のようなものだろうが、黙って旦那のために使おうとするとは……。

 俺は改めてマリスの人間性を高く評価する。


 ……だが。

 それと依頼を受ける事は全くの別の話だ。

 俺がルイに戦闘面において、教えることなどないに等しい。

 いかにダンジョンを素早く攻略するかなら、教えられるだろうけどな。


 マリスだって探していた者の正体が俺だったということがわかり、なおも依頼しようと思ってはいまいが、

 いちおう牽制しておくか……。


「マリスはもう知っていると思うが……俺は指導向きの性格じゃない」

「……そうでしょうか?」


 それまで、黙って話を聞いていたミントからなぜか横やりが入る。


「……ミント、どういうことだ?」

「私の集めた情報によりますと……カイト様は帝都のギルドで立派に講師役を務められ、それも大好評だったとか」


 よ、余計なことを……。


「帝都はランキングでいうと一位の国よね? その帝都のギルドで講師って……それはすごいエリートなんじゃ……」

「いや、ただ頼まれただけだ。全然すごいことはない」

「なんでも、帝都の騎士団長から直々に頼まれたとか……」

「帝都の騎士団長!? カイト、あなたどれだけ偉い人と知り合いなのよ!?」

「すごい人脈ね……」


 サラまでが興奮気味だ。


 ……ミントよ。お前はいったいどこまで知っている?


 ミントの言葉にマリスの俺を見る目が輝き出す。


 これはまずい。

 特にミントの存在がな。

 ……仕方ないか。

 これ以上面倒な話を出される前に軽く引き受けておこう。


「マリス」

「なに?」

「……ルイには今度組んだときにでも簡単なアドバイスを送るよ。もちろん無料でな。それでいいか?」

「さすがカイト! 話がわかるわね。旦那に代わりお礼を言っておくわ」


 なにか考えておかないとな……。

 それにしても、ミントの奴め……。

 いずれ口は災いの元という言葉を知ることになるだろう。

 ……人のことは言えないけどな。



 マリスの依頼を引き受けた後は、全員の用事が済んだこともあり、今回のパーティーはいったん解散となる。

 俺はひとりギルドを出ると、軽く伸びをする。

 随分長く感じた一日だった。

 いつの間にか陽も沈み、あたりは闇がたちこめている。


 俺は体の疲労がピークに達していることを感じ、早々に城へ帰ることにする。


 ん?

 ……何だ?

 城の前までたどり着くとなにやら門の前に人がいるようだ。

 正面から入ろうとしているということは純粋に用事がある者だろう。

 俺は特に心配することなく近づき、後ろから来訪者数人に声をかける。


「私の城に何か用かな?」


 芝居がかった口調で話しかける。

 この台詞も一度言ってみたかった。

 もうすぐ自分の城と言えなくなるかもしれないからな……。


 いきなり声をかけられ驚いたのだろう。肩がビクリと震える。


 振り返った相手には見覚えがあった。

 先日訪ねて来た隣国の大臣だ……。

 たしかアール王国と言ったか。


 しかし参ったな……。

 国があんな早々に城の買い取りを持ちかけてくるとは思わなんだから、使用人を頼んだつもりだったが……。


 元々のエレノア国の連中が戻ってきたら、隣国の使用人なんていらないだろう。

 エレノアの連中に俺の世話もしてもらえばいい話だ。

 何も高い金を出して個人的な使用人を雇う必要などない。


 さて……どう言って断ったものかな。

 でも、もしかしたらすごい人材を紹介してくれる可能性もある……。

 とにかく話だけでも聞いてみるか。


「おお、カイト様、お出かけでしたか」

「すまんな……少し出ていた」


 正確な日時を決めていた訳ではないのでこちらが謝る理由もないがな。


 俺はとりあえず全員を中へ通す。


 俺の予想に反して大臣が連れて来た使用人候補は1人だけだった。

 ほっと胸を撫で下ろす。

 逆に助かった。

 何人か連れてくると思っていたからな。


 連れて来たひとりがとびきりの人材ということだろうか?

 よっぽどの人材ならひとりくらいなら雇ってもいいかもしれないな。


 だが、大臣が連れて来た女性を見るに俺が欲しかった人材とはかけ離れているように感じる。

 どう見ても家事が得意そうでも、戦闘が得意そうにも見えない。

 あえて良いところをあげるとすると、その見た目だろうか。

 綺麗なドレスで着飾り、その宝石を思わせる容姿をいっそう引き立てている。


 それにしても無表情だ……。

 喜怒哀楽どの感情も全く読み取れない。


 それにしてもこの大臣は俺の話をきちんと聞いていたのだろうか?

 能力を重視すると言ったと思うんだがな。


 ……まあいい。

 人を見かけで判断してはいけない。こう見えても家事も戦闘もばっちりできる人材である可能性は否定できない。

 いやせめて家事は出来て欲しいが……。

 俺は切実に願った。


 俺の願いを知ってか知らずか、大臣が連れて来た女性の紹介を始める。

「今日私がカイト様のためにお連れしたお方は、我がアール王国第4王女レイア様でございます」

「………………レイアです」


 そう短く名乗りレイアという女性は頭を下げる。

 相変わらずその表情からは何を考えているのか、ひとつとして読み取ることはできない。


 ……しかし、まさかとは思ったが、王族を連れてくるとは。

 家事や炊事をやってもらうと言ったはずなんだが。


 大臣がレイアの事を細かく説明してくれるようだ。


 ――とにかく聞いてみるか。


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