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第36話 依頼

 世界ランキング一位の男?

 俺以外に?


 何だろう頭の片隅に何か引っかかっている……。

 何かあった気が……。


 あっ。

 もしかして……。

 ある可能性に思い当たった俺は、ギルドに報告しに来た男の所へ駆けて行く。


「……カイト。あの男が言ってるのは……」


 サラに声をかけられるが、今は確認の方が先だ。


「すまんサラ。後で説明する」

「わかったわ」


 俺は男の前まで行き、早速問いかける。


「倒された男はどこに?」

「あ、ああ……すぐそこの路地裏だ。もし行くなら気をつけた方がいい。相手の男は強そうだったぞ」


 俺はギルドを飛び出し、確認に行く。


 路地裏……。

 強そう……。

 何か嫌な予感がする。


 俺の足は自然と速くなる。

 目的の路地裏は目と鼻の先だ。走れば一瞬で到着する。


 目的地に到着した俺だったが、そこには予想を裏切らない光景が待っていた。


 一番最初に目に入ってきたのは――ルイの姿だ。

 酔いも醒めてきたのかなんとか一人で立っている。


 その近くに倒れている男。


「やっぱり……」


 俺が前に、世界一の称号をなすりつけてしまった大柄の男だった。

 だが、何故ルイと……?


 倒れた男の傍にマリスがしゃがみ込んでいる。

 介抱しているのだろうか?

 とにかく話を聞いてみよう。


「マリス。この惨状は何だ?」

「ああ……カイト。何って言われてもね」


 マリスは考え込む様子を見せる。


「簡単に言うと……ただの酔っ払い同士のケンカよ」

「お前、その言い方はないだろう……」


 マリスの説明にルイは異議を唱える。

 ルイはああ言ってるが、おそらくマリスが正解だろう。

 酔っ払いの言う事は当てにならないと聞いた事が有る。


「どういう状況だったんだ?」

「状況も何もぶつかったぶつかってないって言い合いになってね。ウチの旦那、酔うと手が早いから……」


 本当にただの酔っ払いのケンカだな……。

 ただ、倒れている男の実力はどうだったんだろうか?

 気になったので、マリスに聞いてみる。


「戦いはどういう風にケリがついたんだ?」

「……戦いにもなってないわね。一発で伸びちゃったから……」


 ……なんと。

 最初見た時は強そうだと思ったんだがな……。

 やはり俺の見る目は当てにならないらしい。


「そういえば、その時周りが少し騒がしかったわね。何か世界一がどうとか」


 さっきギルドに来た男かもしれない。

 おそらく、最初に俺がアナウンスで呼ばれた時にギルドにいたんだろう。もしくは、誰かに聞いたかだ。


「その件は俺が後で説明するさ」

「ふうん? わかったわ」


 俺は倒れている男に近寄り、懐に金を少々忍ばせてやった。

 初級ダンジョン攻略で手に入れた金の一部だ。


 あの時は助かったからな……。迷惑料ってところだ。


 そういえば、サラには後で説明すると言ったっけな。

 気にしているかもしれない。

 報告に行くか。


「マリス、ルイ。俺はサラに簡単に報告してくる」

「ええ、わかったわ。私も後から行くから」

「俺は少し酔いを覚ます」

「わかった」


 俺はギルドに戻り、サラ……ついでにミントにも仕方なく事のあらましを説明する。

 もちろん、俺が世界一の肩書きを意図的に押しつけた事は内緒にしたままだ。


「話は理解したわ。でも一つわからないわね……。何でその男はカイトではないのに世界一と呼ばれていたのかしらね? 今の話を聞く限り強いとも思えないけど……」

「私にもさっぱりです……」


 ミントから突っ込みが入るかと思ったがどうやら知らなかったらしい。

 俺があの男と一緒にギルドに入った日は非番だったのかもしれない。


 これは都合がいいな。


「おそらくこういう事だろう。俺は覚えていないがあの男と俺がほとんど同時にギルドに入った時があったのかもしれない……」

「どういこと?」


 サラは今の話だけでは、俺が何を言いたいのか完全には理解できなかった様子で、続きを促してくる。

 ミントの方は表情を見るに理解できたようだ。


「いいか、よく聞け。俺みたいな若造とゴツイおっさんが同時にギルドに入って来て、例のアナウンスが流れるとする……さて、どちらが世界一だと周囲は思うかな?」

「……なるほどね。理解したわ」


 サラは俺の方を見て感心したように頷く。


「それにしても、そんな事良く推理できるわね。私ではそんな可能性気付きもしないでしょうね」


 実際に起こった事だからな。

 ……とは言えない。


 丁度その時マリスがギルドの中へやってくる。

 近くにルイの姿は無い。まだ酔い醒ましか?


「マリス、ルイはどうした?」

「一人で歩けるみたいだったから帰らせたわ。ケンカした男の人とも和解できたしね」

「そいつは良かった。でもルイはこっちに連れてきても良かったんじゃないか?」

「ちょっと……ね」


 訳有りだろうか?

 そういえば何か依頼があるとかなんとか言っていた気がする。


 俺がそんな事を考えていると、マリスがミントに話しかける。


「ミントちゃんって言ったっけ?」

「……ちゃん」


 ミントはミントで言いたい事があったらしいが、マリスは明らかにお姉さんで、この国上位の冒険者だ。

 結局何も言う事ができずに、呼び方に関しては目をつぶる事にしたようだ。


 まあマリスの気持ちもわかる。

 ミントはどうみても若いし、まだ半人前に見える。

 ミントの名誉の為に言っておくが、あくまで見た目の話だ。


 だが、実際に仕事ができるかはまだよくわからないな。


 しかし、どのみちマリスに抗議しても無駄だろう。

 呼び方を諦めたのは懸命だ。


「はい、ミントと申しますが何か?」

「ギルドに依頼したい事があるんだけど……」

「お仕事の依頼ですか?」


 ミントが少し驚いた表情を見せる。やはり国のトップクラスがギルドに依頼するというのは珍しいのだろうか?

 だがマリスは上位とはいえこの国に来たばかりだからな、別におかしな話ではないだろう。

 地元ならともかく、新天地で信用できる情報を手に入れるツテなんてある方がおかしい。

 そういう意味では俺も似たような状況だけどな。


 俺の興味は既にマリスの依頼内容に移っている。

 一体何を依頼するのやら。


「実は……ある情報が欲しいのよ」

「ある情報? それは一体どういう情報ですか?」


 ミントが当然の疑問を抱く。


「正直ギルドにどのくらいの情報があるのかはわからないんだけど……今ランキングで世界一位の人がエレノア所属らしいじゃない? その人の情報が知りたいのよ」


 その質問にはさすがの俺も驚く。

 二組の視線が俺に集まる。

 もちろんサラとミントだ。


「……らしいわよカイト。答えてあげたら?」

「この依頼……さすがにお金は貰えないでしょうね」

「?」


 二人とも、俺に気を使うとかそういう感情は全く持ち合わせてないらしい。

 当のマリスは二人の言動を全く理解できていないようだ。


 だが俺としても、もうマリスに隠しておく理由は無い。

 それに、実際何が知りたいのか興味もある。


「で……何が知りたいんだ?」

「……え? え?」


 困惑しているマリスをよそに、俺はなんて説明するかを考え始める。


 ……しかし、先にサラがあっさりとネタばらしをしてしまう。


「あなたが知りたいと言った情報はそこの男のことよ。本人に聞いた方が安上がりじゃない? 世界一位の個人情報なんて普通に買ったらいくらするのか想像もつかないし」


 サラのその言葉にマリスは皆が言わんとするところは理解したようだ。

 だが、あまりに俺のイメージと結びつかないのだろう。

 懐疑的な視線を俺に向ける。


「……え? 本当なの?」

「残念な事にな……」


 俺は両手を上げ、肩を竦めて見せる。


「……冗談でしょ?」

「本当です……私が保証します」

「……ミントちゃん」


 ギルドのお墨付きが出ると、さすがにマリスも信用したようだ。

 一応マリスにはダンジョン攻略を手伝ってもらい、さらには説明会の内容も教えてもらっている。


 賞金を放棄した事でチャラにした気にはなっていたが、話も聞かないのでは義理は果たせないだろう。


「それで……俺の何が知りたいんだ? それとも俺に何か用事でもあったのか?」


 マリスはポツポツと話し出す。


「実は――」


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