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第34話 次の目標

 下見の成果もあり、危険ポイントを次々とパスしていく。

 今のところ順調だ。


「ここで一旦止まってくれ」

「どうしたの?」


 マリスが不思議そうに尋ねてくる。

 だがそれも仕方ない。

 周りに敵もいないし、一見何も障害が無い場所だからな。


「この先は罠が多い。目印に従って進んでくれ」

「目印?」


 俺は黙って地面を指差す。

 そこには俺が昨日あらかじめつけておいた目印があった。


「こんな事いつの間にやったのよ?」


 サラが当然の疑問を抱く。


「昨日ちょっとな……」

「呆れた……ここまで一人で来たの?」

「まあ……な」


 俺のその言葉にルイは疑問を投げかける。


「カイトならもしかして一人でこのダンジョンを攻略できてしまうんじゃないか?」


 ルイの言葉に俺は少し考えこう答える。


「まあ、たしかに楽勝だろうな……だが、お前たちがいた方がボスが速く倒せるからな」

「火力扱いか。たしかにボスを一人で倒すのはかなりの時間がかかりそうだ」


 もちろん楽勝の訳が無い。

 工夫次第でなんとかなりそうな気もするが、いずれにせよかなりのリスクが付きまとう。

 ここのダンジョンを攻略するのにそこまで自分を犠牲にする価値があるとも思えない。

 俺の言動はあくまで、ボス戦を円滑に進めるための布石でしかない。


「まあ目印に関してはただの保険だ。基本的に俺の後についてくればいい」


 そう言って、再び進行を開始する。


 慎重に、時には大胆に階層を進んで行く。

 資料や下見のお陰か、さほど苦戦することなくボス部屋の前に到着する。


「カイト……一言いいか?」

「ああ。なんだルイ」

「結局まだ、一度も戦っていないのだが……」

「そうだったか?」

「そうよ!!」


 今度はサラだ。


「心配するな。ボス戦ではいやというほど活躍してもらうからな」


 俺は作戦を全員に説明する。


「まあ簡単に言うと俺が引きつけてお前らが倒すという戦法だ」

「本当に簡単ね……私たちは攻撃するだけでいいの?」


 サラの確認に、ルイとマリスも俺に視線を向ける。


「その通りだ。ただし俺はボスを攻撃しない。だから攻略はお前らの手にかかっているぞ」


 あえて、攻撃しないというような言い方をしているが、もちろん避けるのに集中したいからだ。

 情報によるとここのボスは、スピードはさほど無いが一撃がでかいらしいからな。

 俺が攻撃を一手に引き受けたのにもここに理由が有る。

 全員を俺が抱き込んだみたいなもんだからな。

 大けがでもされたら寝覚めが悪い。


 まあ俺にも攻撃が万が一にでも当たったら、金銭的負担がまた増える事になる。

 もちろんそうならないように称号は敏捷特化にしてあるのを確認済みだ。


 攻撃を完全に任されたことに責任感を感じ始めたのか、全員が真剣な顔つきになる


「わかった。攻撃はまかせておけ」


 ルイの言葉に後の二人も頷く。


 最後に軽い注意点だけをいくつか説明し、全員でボス部屋に突入する。


 勝負は一方的だった。

 元より正攻法でもなんとか戦える相手だったが、各々が自分の役割をしっかりとこなしたことで、中級ダンジョンのボスを封殺する事に成功した。


「なんだ。楽勝じゃない」

「そうね。思ったより全然楽だったわ」

「うむ」


 マリスの一声に始まり皆一様に同意する。

 俺も、もちろんその流れに乗る。


「……まあ所詮こんなもんだろうな」


 そうは言ったが、内心は違った。

 俺はボス戦が意外に長引いたために、スタミナを消費し、わりとギリギリの所で踏ん張っていた。

 なんとか最後までもったが、体力はもう無いに等しかった。


 結構危なかった。もう少し時間がかかっていたら。一撃もらっていたかもな……。

 やはり本気で動くとスタミナの消費が激しい。この方法も考えものかもしれない。


 全員で勝どきを上げてから、魔法陣で外へと出る。


 自信満々の俺たちは、意気揚々と受付に戻る。


 もちろん結果は聞くまでも無く過去最速。わかりきっていた事だ。

 これでも賞金ゲットだが……。


「本当に要らないのか?」

「ああ。三人で分けてくれ」


 俺は賞金を辞退した。

 何の事はない。手持ちの金は初級ダンジョンで得た分で事足りるし。近々大量の金が手に入るアテもある。

 ここは手伝ってくれた礼という事にしておいた方が良いだろう。後々のためにな……。


「賞金がいらないなら、そもそもなんでダンジョンを攻略しようと思ったのよ?」


 サラの疑問はもっともだが、タイムアタックに対しての熱意を語っても理解はされないだろうな。

 とりあえずここは適当に答えておく。


「ダンジョンが俺を呼んでいたんだ」

「……意味わかんない」


 まあそうだろうな。

 何故かルイも俺の言葉に反応する。


「なるほど……深いな」


 ルイ。そこは納得するところじゃない。


「ねえ。私から提案があるんだけど?」


 全員がマリスに注目する。


「良かったら酒場で祝勝会しましょうよ!!」


 ルイとサラは二つ返事でOKを出す。


 俺は……。


 決めた。俺も行こう。

 何事もチャレンジだ。誰もが通る道だからな。

 俺は初めての飲酒体験に戦々恐々としながらも、一応強がりを言っておく。


「あらかじめ言っておくが……俺は強いぜ?」


 他の三人は顔を見合わせて笑う。


「うふふ。期待しているわ」


 完全に子供扱いだな。

 俺は少し不愉快になりながらも、サラの行きつけという酒場について行く。


 中に入ると、まだ暗くはなっていないというのに多くの人がいて賑わっていた。


「こいつら……こんな時間から酒場に入り浸っているのか」


 俺の独り言に、サラが答えを返してくれる。


「ここは、酒場だけど料理もおいしいからね。賑わっているのはそのせいね。もっとも本当に酒を飲んでいるひとも相当数いると思うわ。まあ私たちも人の事はいえないけどね」

「そうね……だってこれから飲むんだし」


 マリスは上機嫌だ。

 酒が大好きなのかもしれない。


 俺たちが席に着くと、手慣れた感じでサラが注文をしていく。


 さて、俺は何を飲もう。

 と、とりあえず皆と同じものをいっておくかな……。

 少し不安になりながらも、皆と同じものを頼むと言おうとしたら、サラが先に注文してしまう。


「この子にはミルクを」

「ミルクね……注文は以上かい?」

「ええ、お願いね」


 注文を取りにきたおばちゃんが去っていく。

 どうやら俺の飲酒体験はお預けのようだ。

 興味もあっただけに少し失望した。


 俺はサラに憮然とした表情を向ける。


「あたりまえでしょ? 私たち三人大人がいて、あなたに飲ませるわけないでしょ」


 そういってサラはクスクスと笑っている。

 ルイとマリスは微笑ましく状況を見守っている。


 仕方ない……。

 どうやらこの世界でも飲酒は大人の嗜みらしい。


 俺は仕方なくミルクでちびちびやっていると、酒に酔ってきたのかルイが急に大きい事を言いだす。


「今日の中級ダンジョンの攻略具合を考えると、もしかして俺たちなら上級ダンジョンも目指せるんじゃないか?」

「……上級。まだ誰も突破した者はいないと言われているのよ。さすがに酔い過ぎよ」


 マリスが旦那をたしなめる。

 サラもマリスに同調する。


「私も上級は無理だと思う。今日だってカイトがいたから楽だったというだけだもの……」


 意外にも、今回の事で、サラの俺に対する評価は上がっていたらしい。


「カイトはどう思う?」


 ルイが俺にも意見を求めてくる。

 ここは正直に答えるしかないだろう。


「無理だ。諦めろ」


 そういうとルイはがっかりした様子を見せうなだれる。

 相当酔っているなあれは。


 それにしても上級ダンジョンか、調べてみない事にはなんとも言えないが、次の目標に設定してもいいのかもしれない。


 その時マリスは俺の知らなかった事実を告げる。


「上級ダンジョンは世界ランカーしか入れないわよ」

「どういう事だ?」


 その言葉にルイが反応する。


「言葉のまんまよ。上級ダンジョンは世界ランカーにしか開放されなくなったのよ。危険すぎるし、一般の冒険者じゃ攻略の見込みもないからね。世界ランカーなんて私たちには関係ないから説明の時はあえて言わなかったけどね」


 関係あるな。

 少なくとも俺には。


 もちろんこのパーティーで向かうつもりは無い。

 どう考えたって無理だ。足手まといにしかならないだろう。


 皆の実力が相当高い事はわかるが、それでも今日のダンジョン攻略も俺にとっては縛りプレイをさせられていた状況に近い。

 させられていた……というか自分からしたというか、むしろ楽しんでいたと言った方が正しいか。


 俺が最初からこの三人に時間をかけ徹底的に手順を叩きこんでいたら、前回の初級ダンジョンと同じく全く緊張感のかけらもないつまらない勝負になったことに疑う余地はない。


 それは……対戦相手がいないからだ。

 始めから勝負にならない。圧倒的一位。今日のタイムとは比較にならないだろう。


 勝負に緊張感を持たせたくて、今回はあえていくつかの事を縛ってみたが……。

 結果として、少しは楽しめたが俺は全然満足できていなかった。



 上級ダンジョンね……。


 俺は少しずつではあるが、上級ダンジョン攻略のチャートを頭の中に描き始めていた……。



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