第25話 スキル
称号欄を確認した俺は、一瞬にして混乱する。
「……なんだこれ」
新たに手に入れた称号を確認した俺は驚きを隠せない。
なぜなら今回取得した称号にはすべてに上級の名が入っていたからだ。
待て……どういうことだ?
俺が攻略したダンジョンは帝都の中級ダンジョンだったはずだ。
しかし、手に入れた称号は上級ダンジョン……。
考えても疑問に答えは出ないが、とにかく俺は手に入れた称号のチェックを始める。
その内容は俺の予想を遥かに上回るものだった……。
『上級ダンジョン攻略者』 ステータス補正 精神 3段階上昇
『上級ダンジョン低レベル攻略者』 ステータス補正 筋力値 4段階上昇
『帝都ダンジョン最速記録保持者(上級)』 ステータス補正 敏捷値、魔力 2段階上昇
このあたりの称号は以前の傾向からも予想はついた。
だが今回はそれだけではなかった。
『上級ダンジョン単独攻略者』 ステータス補正 ALL 1段階上昇
『上級ダンジョン低レベル単独攻略者』 ステータス補正 ALL 2段階上昇
『帝都ダンジョン単独攻略者(上級)』 スキル補正 S魔力半減
『帝都ダンジョン単独低レベル攻略者(上級)』 スキル補正 S+魔力吸収
さすがに上級……これはとんでもないな。
どうやら、ソロで攻略するのも偉業と認められるみたいだ。
考えてみれば当然か、低レベル攻略ならパーティーメンバーの誰かが強ければ可能かもしれないが、ソロの場合すべて一人で攻略しないといけないはずだ。その差は比べるまでもないだろう。
それにしても『単独低レベル攻略者』の称号はものすごくレアなのではないだろうか?
スキルの評価もS+になっているようだし。
武器や防具と同様にスキルの評価もEからS+まであると聞いたことがある。
もちろん俺は一つも持ち合わせていなかった。
この世界ではあまりスキルに関して他人に話さないようだから俺も詳しいことは今でもよくわかっていない。
引き続きスキルの内容をチェックする。
S 魔力半減 :自身の受けた攻撃魔法の威力を半減させる
S+ 魔力吸収:自身の受けた攻撃魔法を吸収する。
読んで字のごとくだな。
つまり魔力半減の強化版が魔力吸収なのだろう。
よって魔力半減の使用機会はなさそうに思えるが……。
しかし魔力吸収はすごいな。ゲームだったら反則技もいいところだ。デメリットもないだろうし、このスキルはいつも付けておきたいところだ。その場合称号の装備枠が一つ減ってしまうことになるが……。
結局俺はメリットの方が大きいと判断し、魔力吸収のスキルを付けることにした。
称号を付けようとすると、なぜか違和感を覚える。
俺はすぐにその正体に気付く。また称号の枠が増えているのだ。
「これで四個目か……正直かなり助かる」
それにしても攻撃魔法を吸収か……。
俺は改めて手に入れた称号とスキルを眺める。
このスキルをうまく使えばたとえルカと勝負することになっても、勝てる可能性が出てくるかもしれない。
もちろん俺から勝負を吹っ掛ける気はさらさらないけどな……。
俺は新しく手に入れた称号を含め、付ける称号を厳選する。
『ダンジョン最速記録保持者』 ステータス補正 敏捷値4段階上昇
『上級ダンジョン単独攻略者』 ステータス補正 ALL 1段階上昇
『上級ダンジョン低レベル単独攻略者』 ステータス補正 ALL 2段階上昇
『帝都ダンジョン単独低レベル攻略者(上級)』 スキル補正 S+魔力吸収
「とりあえずこんなところか」
まあ必要に応じて付け替えればいいだろう。
とりあえず情報集めに動くとするか。
取り急ぎ必要と思われるものは、ポイント制度に関しての情報とエレノアに関しての情報だろうか。
エレノアに関してはしばらく拠点になりそうだからな。
あとは、のちのちのを考えてレベリングもしたいな。
しかし、そのためには最適な場所を見つけないと……。
やらなきゃいけないことは多い。
「情報といえば、とりあえずギルドだな」
俺は出発の準備を始める。
ちなみに城は俺が留守の間に関しては、帝都のダンジョンで出会った精霊のルカに結界を張ってもらえることになった。
さすがに完全に留守にして無防備なのもどうかと思ったからだ。
別に取られるものもないけどな……。
まあ、ルカに頼む際に例の『俺と戦う』という約束に関して改めて念を押されたけどな。
ギルドの入り口まで差し掛かると人の波が見える。
やはり、例の制度が始まった余波がまだ残っているのだろう。無理もないな。
並んで待っていると、大柄な男に割り込まれる。
こいつもギルドに用か? 混んでいるからって、少しくらい待てばいいものを。
内心で悪態をつくが、こんなことで本気で怒ってもしょうがない。俺は渋々大柄な男に次いでギルドに入る。
その瞬間――
ギルド内に大きな機械音声でアナウンスが鳴り響く。
「世界ランキング一位、カイト様がギルドに入られました」
えっ?
ギルド内の視線がすべて俺と大柄な男に注がれる。
まさか自分の名前がいきなり呼ばれるとは思わず身体がビクリと反応する。
今アナウンスされたのは俺のこと……だよな?
この状況はあまりよろしくない。こんなに人がいる場で世界ランキング一位だと知られたらあまりに目立ち過ぎる。できればいらぬ注目は浴びたくはない。しかも順位自体、何かの間違いの可能性もあるしな。
俺はとっさの判断で大柄な男に近づく。
そして手を差し出す。
男は俺の意図を察したらしく、条件反射的に手を差し出し、握手に応じてくれる。俺はさらに一言告げる。
「世界ランキングに入っている方を見たのは初めてです! 頑張って下さい!!」
大柄な男は何を言っているのかわからないといった表情をする。
まあ当然だろう。本当は俺のことだからな。
恐らくこの男はまだランキングシステムのことを知らないのだろう。
もしかするとこれから説明を聞くつもりだったのかもしれない。
俺の行動は周りの連中に効果覿面だったようで、大柄な男を世界ランク一位だと思い込んだようだ。
それでも周囲の者たちはその男を遠巻きに眺めるだけで話しかけるようなことはしない。
まあ世界一の実力者と思われていても仕方ないからな……。気軽に話せる相手とは思わないだろう。
ギルド内に妙な緊張感が流れる。
俺は周囲のそんな状況もお構いなしに、ほっと息をつく。
それにしてもあの音声は一体なんだったんだ?
俺がギルドに入ったと同時に声がした気がするが……。
もしかするとギルドカードかなんかを入口で読み取っているとでもいうのだろうか?
だとしたら結構なハイテクだな。それにしても、事実なら余計な機能をつけてくれたものだ。
俺は目立たないように受付へと移動する。
「本日は何の御用でしょうか?」
まず率直に気になったことを聞いてみる。
「さっきの世界ランクやらなんやらの音声は?」
「ああ、あれは今回のランキングシステム導入にあたっての新たな機能です」
ふうん。しかし何のための機能だがいまいちよくわからないが……。
その時、再びあの音声が流れた。
「エレノアランキング二十三位、バシム様がギルドに入られました」
俺の視線は自然と入口へと向く。
入ってきた男はその音声に驚きもせず、むしろ得意げな顔で周りを見渡している。
どうやら呼ばれるのが初めてではないようだ。
「なるほどな。自分の順位を周囲に誇示できるということか」
俺の呟きに、受付は律義に反応を返してくれる。
「そういう側面がないとは言えませんが、それだけではありません。実力がある
冒険者は人数が少ないため、同レベル帯でパーティーが組みにくいのです。ある程度の実力者が音声で読み上げられればメンバーも探しやすくなるという配慮もあるのです」
なるほど……。たしかにパーティーメンバーを探す時なんかには使えそうだ。特に俺なんかは相手の見た目では全く実力を判断できないからな。だが――。
「なるほどな。そう喧伝すれば実力者はギルドへ集まりやすくなる……というわけか。結果的に難度の高い依頼の達成率は上がりそうだな」
俺の言葉に受付は少し笑みを浮かべる。
「……そこまでお気づきになる冒険者の方は多くないのですけどね」
カマをかけたつもりだったが、当然の如く織り込み済みだったようだ。思った以上にちゃんと考えてシステムを作っているように感じられる。まあこういう組織が冒険者のためだけに新たな機能を実装するとは考えにくいからな。もちろん表向きは冒険者のためということになっているとは思うが。
入ってきた男に対しての周囲の反応は冷めたものだった。
まあ、さっき世界一位が来たのに、その後エレノア二十三位が入って来ても周囲も感覚がマヒしてしまうだろう。
男は周りの反応が気に入らなかったのか、もう一度入り直すか悩んでいるように見える。
「アホだな、あれは」
「フフッ」
小さな笑い声が受付の方から聞こえたが、聞こえない振りをする。
「音声は他のギルドでも流れるのか?」
「ええ、もちろんです。世界ランカーは百位まで世界中どこのギルドでも呼ばれます。たとえばエレノアのような国ごとのランカーは五十位まで国内でのみ呼ばれるようになっております」
つまり俺は世界中どこのギルドでも呼ばれるが、先程の自己顕示欲の強そうな男はエレノア国内のギルドでしか呼ばれないということか。
それにしても厄介なシステムを作ってくれたもんだ。あまり目立ちたくないというのに……。
「話は変わるが、この辺りの簡単な地図はないか?」
「ええ他国からの冒険者用にギルドが作成した地図がございますがご入り用ですか? とてもお安くなっておりますよ」
金取るのかよ……。まあいい。
俺は指定された金額を支払い、地図を受け取る。
「あと今回のポイントシステムの説明会が開かれていると聞いたんだが?」
「ええ、開かれていますよ。予約しますか?」
「ああ、頼む」
「では、ギルドカードのご提示を願います」
「……カードの提示?」
「はい。そうですが?」
ここでカードを出すという事は受付の反応の仕方にもよるが、大事になってしまう可能性が有る。
もちろん名前が書いてあるからだ。
さっきのランキング一位と同じ名前だという事は偶然だとは思ってくれまい。というかギルドカード自体を調べられたら簡単に本人だとばれるだろう。
まあギルドの受付に個人のデータを見る権限があるかは知らないが。
これは困ったな。
もう少し様子を見てみるか……。
俺は結局、現段階で身分を明かすことを避ける。
「やっぱり予約はいい。地図はありがたく受け取っておくよ」
「あ……あの!?」
俺は呼びかける受付を無視してギルドの外へ出る。
う~ん、でも説明は聞きたいよな。
さて、どうしたものか。
考えた末に俺はすでに説明会を終えた奴を捕まえて、そいつから内容を聞き出すことを思いついた。
ギルドの前でそれらしい人物を探す。
なるべく親切そうな人が良いよな。
おっ?
あの人が良さそうだ。俺の勘がそう告げている。とりあえず聞いてみるか。
俺は目標を定めその人物に近づいて行った――。




