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第22話 変化

「まさか今のを避けるとはな……」


周辺に突如として現れた彼らの一人が声を上げる。


「お前らは……一体?」


最終的に俺の視界には5人の相手が立ち塞がる。

まだどこかに隠れている可能性は否定できないが。


相手は全員きちんと武装している。特徴的なのは全員顔の下半分を、布で覆っている事だ。

面が割れるとまずいということか?


「カイト様……」


エリザが俺の事を心配そうに見つめる。

俺は小声でエリザに指示を出す。


「エリザ……いつでも転移できる準備を」

「……はい」


エリザは頷く。だがそのやりとりを見透かした様に彼らのうちの一人が声を出す。


「そこの姫さんが転移魔法を使える事は知ってる。詠唱する時間が有ると思わない事だ」


なるほど、どうやらこちらが何者なのか知っていて仕掛けたらしい。

まあ偶然にしたら出来すぎている。さほど驚きは無い。


「お前たちの目的は?」

「とりあえず、俺達についてきてもらう事かな」

「断ったら?」

「強引に一緒に来てもらうまでだ」


根本的な目的はわからないが、どうやら俺たちを拉致しようと考えているらしい。これ以上聞いても答えてくれないだろうな。


「抵抗せずについて来てくれると助かるんだけどな」

「……ついていくと思うか?」

「来ないだろうな……」


彼らも俺たちが無抵抗で捕まるとは思っていなかったのだろう。

五人が顔を見合わせ、彼らは戦闘態勢をとる。


だが俺もさすがにこのまま五人と戦う気は無い。

彼らが俺の事を知っているかは分からないが、少なくともエリザのことを知りながら勝てる算段があるということだ。

つまりそこに俺が参加しても負ける可能性が圧倒的に高い。


とりあえず何か手を打たないと。


「戦う気になっているところ悪いが、条件次第では無抵抗でついていってもいい」


俺の提案に彼らは驚きの表情を見せる。

エリザも驚くかと思ったが、俺の事を信用しているのか、特に大きな反応は見せない。


「どういう事だ?」


彼らのリーダー格なのだろうか? 先程から喋っているのは同じ男だな。


「そちらの中で一番強い奴と俺が戦って、俺が負けたらエリザ共々お前らについて行くってのはどうだ? もちろん殺しは無しだ」


彼らは再び顔を見合わせる。

そして再びリーダー格の男が口を開く。


「そちらが勝ったらどうなる?」


さて、どうするかな。

俺はいくつかの選択肢の中から一番相手が拒否しそうなものから試す事にする。


「俺が勝ったら、エリザだけは見逃すってのはどうだ?」


エリザは一瞬俺に何かを言いかけたが、結局何も言わなかった。

俺の考えを察してくれたのかもしれない。


まあこの条件を相手が飲むとは思えないけどな。

俺はそこで考えを止めず次の選択肢を考えておく。


だが、相手の答えは意外なものだった。


「その条件なら受けてもいいな」


まさかOKするとは……。

俺は相手の目的がさらに見えなくなる。

まあこちらとしても好都合だ。ネックレスがある限り、エリザが逃げられるのならば、それは俺が逃げられることと同義だ。


「じゃあ早速やるか。そっちは誰がやるんだ?」

「もちろん俺がやる」


そう答えたのは先程まで話していたリーダー格の男だ。

まあこちらも予想通りだ。彼の実力の程は分からないが華麗に負けてもらう事にしよう。


相手の男と対峙する。


とにかくここで負けてちゃ話にならない。

なるべく余力を残して勝ちたいが。


とりあえず余計な事をされる前に先手必勝で決めにいく。


俺は申し訳程度に剣を構え、相手に向かって走り出す。

相手に向かって剣を一振り。


だが、あっさりと横に飛んで避けられる。

もちろん織り込み済みだ。

続けて俺は、相手が避けた先に手をかざす。

こんな感じでいいか?


その瞬間、俺の手から魔法が飛び出した――かのように見えたはずだ。


もちろん、実際に魔法を使ったのはルカだ。

姿は現していない。というより見えなくしているだけか?


俺は今回もルカに頼んで手を貸してもらった。

というより、それ以外に強い相手と戦う術がない。


俺とルカは頭の中で既に作戦会議を終えていたので、動きに無駄はなかった。


ルカの放った魔法は狙い通りに命中する。

さすがだな。

まあドラゴンの出る様なダンジョンでボスをしているのだから生半可な強さな訳はないけどな。

使った魔法は、以前エルフ国で使ったものと同じ水魔法みたいだ。


だが俺にとっては、ルカがその魔法を使ったのは意外だった。

打ち合わせでは、極力弱い魔法で片づけるという話だったはずだ。


ルカが強力な魔法を使ったため、俺の魔力は大量に消費され、少しふらつく。

正直もう戦える状態じゃない。


「ルカ? 少し話が違うんじゃないか?」

「私も、もう少し弱い魔法を使おうとしたのよ……でも彼、相当できるわよ。つい強めの魔法を使ってしまったわ」

「ルカがそう言うんならそうなんだろう。良い判断だ」


たしかに最初の不意打ちで倒せなかったら目も当てられないからな。

結果的には正解だったのかもしれない。


俺はだるい体に鞭を打ち、辺りを見渡す。


まさか一瞬で勝負が決まるとは思わなかったのだろう。

襲撃者たちの顔が一様に驚きに満ちている。


「勝負はこっちの勝ちだな」

「殺したのか?」


彼らのうちの一人がそう聞き返す。


「殺してはいない……派手に吹っ飛んだから怪我しているかもしれないけどな」

「……そうか」


それを聞いて少し安心したようだ。


「エリザは帰っても問題無いな?」

「約束だからな」


やけにあっさりだな。

それに襲撃してきたわりには律義に約束を守るのか。


とりあえずエリザを帰還させれば俺も安全を確保できるので、早速帰す事にする。


「カイト様もすぐお帰りになりますよね?」


エリザは心配そうな表情をしている。

だが、俺の狙いもわかっているのだろう。こちらが頷くと渋々ではあったが転移の魔法を唱え始める。


そして約束通り邪魔も入らず、エリザの転移が完了した。


さて、俺もこれですぐにエリザの元へ飛んでいけるわけだ。

だが俺は少し彼らの目的に興味が出てきた。


少し探ってから帰るのも悪くはないだろう。

また狙われないとも限らない。


「お前らの目的は何なんだ? エリザを素直に行かせたという事は、目的は俺なのか?」

「それは一緒に来てもらわないと説明できないな。だがそうだな……後者に関してはその通りだと言っておこう」


目的は俺だったのか。だとしたら俺は随分間抜けな条件を出したものだな。

自分から戦力分散した様なものだからな。

だが俺は彼らのリーダー格を一瞬で倒している。

軽々と手を出しては来ないだろう。


「ついて行ってもいいが何か不審な点があればすぐさま攻撃する。それでもいいか?」

「ああ、さすがにあんたと戦うのはゴメンだね。さっきあんたと戦った奴はレベル30を超えているんだ……つまりあんたは単純にそれより上の戦闘力を有している事になる」


レベル9なんです――と言ったらズッコケそうだな。

間違っても言わないが。


「わかった。興味もあるし、お前らについて行ってやる」

「それだとこっちも助かるな」


俺は彼らの目的を探るため、とりあえずついて行く事に決めた。


遠く離れた所で気絶していた彼らのリーダーを回収してから転移で移動を始める。

どうやら彼らの中にも魔法を使える者がいたようだ。


連れて行かれる場所も大きなヒントになると思っていたが、どうやらそんなにうまくはいかないようだ。


到着した場所は石造りの室内だった。

どこか帝都の城に造りが似ている気がする。

ここもどこかのお城なのだろうか?


俺はすぐそばにあった椅子に勝手に腰かける。


「じゃあ、話を聞かせてもらおうか?」

「ああ、わかった」


彼らのうち一人が、負傷した男を別室に移し、他の三人がここに残るようだ。

早速彼らのうちの一人が喋り出す。


「最初に一つ確認していいか?」

「ああ……構わないが」

「あんたが中級ダンジョンを一人で攻略したというのは本当か?」


俺はその言葉にかなり衝撃を受ける。


さすがに情報が早すぎないか?

誰かから漏れたのか?


その事を知っている奴はまだ少ないはずだ。

いや、そういえば兵舎の食堂でロイス相手に普通に喋ったな。

誰が聞いてても不思議はないが……。

しかし、さすがに早すぎる。


どうせ考えてもすぐには答えは出ないだろう。

こういう時に動揺を見抜かれるのは良くない。俺は冷静さを装い、質問に答える。


「ああ、本当だ」


半信半疑だったのだろうか、俺の言葉に彼らにも動揺が見えた。


「まあ、あの強さならありえなくもないか……だがそれにしても一人でなんてそんな話は聞いた事が無い」

「そんな事はどうでもいい。今の話と俺をここに連れてきた事とどう関係がある?」

「まあ焦るな……もうひとつ聞きたい。帝都やエルフ国の王から誘いを受けなかったか?」

「誘い?」


その誘いがどんな意味を指しているのか、ある程度察しはついていたが一応相手の口から聞こうと思い問い返す。


「まあ、簡単に言うと仲間に誘われなかったかという事だ。味方に取り込む素振りを見せたかどうか、だな」


やはりそういう事か。

もちろん正直に答えるならイエスだが、あまりこちらから情報を出し過ぎるのもな。

とりあえず俺は質問を流し、様子見をする事にした。


「さあ、どうだったかな」


俺の答えをどう受け止めたかわからないが、男は話を続ける。


「実は俺たちの要求は、仮に誘いを受けていたら、それを断って欲しいっていう話なんだ。まあ正確には俺たちは上の命令で動いているだけだけどな」

「話が見えないな……俺が受けるとどうあんたらの上と関係が出てくるんだ」


俺は少しだけ話の輪郭を掴んできた。

細部まではさすがにまだ読めないけどな。


「あんた、二日後から何が始まるか知っているか?」

「二日後? 知らないな……」


二日後に何があるというのだろうか?

次々と考える事ができて頭の中が追いつかない。


「知らないのか? じゃあ特別に教えてやる。本来であれば発表は明日なんだがな……まあいい。実は二日後から全ての国とギルドが協力して、新たな試みが始まるのさ」

「新たな試み?」

「そう。簡単に言うと強い冒険者が多数所属している国は様々な面で優遇されるようになる。当然発言力も強くなる」

「よくそんな話すべての国が同意したな。そもそもどうやって強い冒険者が多い事を判断するんだ?」

「別に全ての国が賛成した訳じゃない。まあその辺の説明は省くが……」


俺は黙って続きを促す。


「えと、どうやって冒険者を判断するかだったな? それはギルドカードにダンジョンのクリア記録が残るだろう? そこからどのダンジョンをクリアしたかで細かいポイントが算出される。それが冒険者個人のポイントだ。そのポイントが各人が所属しているギルドに加算される。その合計値で各国のランクが決まる」


なんだか頭が混乱してきた。

すでに俺の予想した展開のナナメ上を行っている。


男は続けて説明する。


「まあいきなり言われても理解できないよな……詳しい話は後日ギルドから教えてもらえると思うが、参考までにお前を例にして計算してやろう。お前は中級ダンジョンをクリアしたらしいが、普通はそれで1000ポイント入る」


俺は黙って頷く。


「だが……お前がクリアした帝都のダンジョンは中級の中では最難関のレベルだ。その場合はポイントは5000になる」


5倍か。

まあ、あのダンジョンの厳しさで言ったらそのくらいの価値は有りそうだ。


「その他にお前がいくつかダンジョンをクリアしていたらもちろんそのポイントも加算される……どういう事かわかるか?」


何が聞きたいのか分からない問いだ。

俺は黙って首を振る。


「お前はすでに、すべての国の中でトップクラスのポイントを所持している事になるって話だ……つまりそのポイントを持って帝都や、エルフ国のギルドに所属されては困るんだ」


ようやく話が繋がった。

だが困ると言われてもこいつらの言う事を俺が聞く必要は無い筈だ。

俺はその事をきっぱりと告げようとしたが、再び男が話しだす。



「そこで、俺達や諸外国の総意としては……お前にはランクが最下位になる予定のエレノア国のギルドに所属してもらいたい」



各人の思惑はともかく、俺の周りでは、何かが大きく動き出そうとしていた――



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