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第20話 急接近

 な、泣いてるのか?

 まさかあのライカが。


 もしかしてさっきのやりとりが原因なのか?

 さすがにそこまで嫌がっている感じでもなかったと思うが。

 謝った方がいいだろうか? いや、まずは理由を聞いてからの方が。


 頭の中で色々と考えていると、先にライカが話出す。


「変な所を見られてしまいましたね……忘れてくれると助かります」


 ライカは腕で目を擦り涙を拭う。


 とりあえず俺は一番気になった事を聞く。


「すまない……もしかしてさっきの事がライカにはとても負担だったのか?」


 さすがにここで肯定されてしまっては、さっき決めた話は取り消さざるをえないな。


「いえ、さっきの事は関係無いんです……とは言っても全く無関係な訳でもないんですが」


 ライカは少し落ち着きを取り戻してきたみたいだ。

 無関係じゃないと言われ多少の責任を感じた俺は、とりあえず話を聞いてみたいと思った。

 もしかして俺になんとかできる事かもしれないしな。


「話せる事なら話してみないか? なにか力になれるかもしれないぞ?」

「話せる事……」


 ライカは少し考える素振りを見せる。

 そして自嘲気味に少し笑う。


「……たしかにこの城の中で話せるとしたら、カイト殿くらいでしょうね……」

「俺くらい?」


 どういうことだ?

 つまり内部の者には話しにくい内容ということだろうか? なんか不安になってきたな。

 しかし、同時に興味も湧いた。


「俺になら話せるなら、なおさら話せ。どんな内容だろうとアドバイスくらいはしてやるさ」

「本当ですか? それはたしかに魅力的な提案ですが……」


 だが、まだ最後の踏ん切りがつかないらしく、少し考え込んでいる。

 なので俺はその背中を押す。


「よし、話は決まった。俺の部屋か、ライカの部屋で話そう。ついでに飯も作ってくれ。何も食べてないんだ」


 ドサクサ紛れで自分の要求をねじ込む。

 ライカは少し笑顔を見せ、了承する。


「そういえば約束でしたね……わかりました。ではカイト殿は自分の部屋で待っていて下さい。用意ができたら私も向かいます」

「わかりました」



 俺はその後、部屋でライカに料理を振る舞われる。

 どんな料理が出てくるかと戦々恐々していたが、出てきた料理は俺を満足させる。


 少し意外だったな。料理もここまでできるとは。

 いや、意外というのは失礼か。


 ライカに礼を言い、さっそく話を聞く態勢に入る。


「じゃあライカ、聞かせてくれ」

「わかりました。少し恥ずかしい話なんですが……私には、憧れていた人がいたんです」


 俺は神妙な顔になって聞く。

 あまり茶化す雰囲気ではない。

 とりあえず気になった事を聞く。


「憧れていた人か……男か?」

「ええ」


 ライカは素直に頷く。


 なるほど、少し方向性が見えてきた気もする。

 続きが気になったので先を促す。


「すまない。続けてくれ」

「……その人は少し年上の騎士で今もこの城の騎士団に所属しています、剣の腕も一流で、昔その人の元で剣術を習っていました。彼のように強くなりたいという一心で懸命に努力しました。その頃から自然と憧れの気持ちを抱くようになりました」

「少なくとも俺の見立てではライカの腕はもう立派に一級品だな」

「ありがとうございます。カイト殿にそう言ってもらえると自信になりますね……だけど強いということは、存外良い事ばかりではないようです」


 どういう事だ?

 強くて困る事もあるのだろうか?


「話を続けましょう。さっきの話です……カイト殿と別れた後すぐに今話した騎士と会ったんですが、その時カイト殿との事を茶化されてしまって……焦った私は誤解を解きたい一心で全てぶちまけてしまったんです。隠していた思いも……」


 ライカは少し思い出したのか悲しげな表情になる。


「……だが、カイト殿に信用の有る者には話していいと言われてたとはいえ少し軽率だったかもしれませんね……」

「いや……そんなことはない。ライカが信用に足ると思った人物は、俺も信用する事と同義だ」

「そう言ってもらえると、幾分気持ちが楽になりますね」

 

 ライカの顔に僅かばかり笑みが浮かぶ。


 俺はすでにこの話の終着点がおぼろげながら見えてきていた。


「もうカイト殿も話は読めたと思いますが……簡単に言うと……そこで玉砕した訳です」


 ライカは軽い感じに笑い飛ばそうとするが、失敗した。


 表情は笑おうとしているがもう目の両端からは、涙がこぼれ始めていた。

 美しい顔が涙でくしゃくしゃになる。


 俺に話したせいで、その時の事を思い出してしまったのだろう。



「すみません……変なところを見せてしまって」

「いいさ。泣きたい時には好きなだけ泣けばいい」


 ライカはその後しばらく、肩を震わせ泣き続けた。


 俺はそんなライカを見てるだけで、何もする事ができなかった。


「自分より強い女は合わないと言われました」

「俺は強い女性の方がいいな。一緒にダンジョンに入れるし、守るだけじゃなくて時として守ってもらえそうだしな」


「明るい女性の方が好みみたいです」

「俺は物静かな方が好きかな。一緒にいて癒される感じがとてもいいな」


「可愛らしい女性が好きだと言ってました」

「美人だと思うぞ?」


 そこまで言ってライカはようやくクスリと笑う。


「ありがとう」

「さて? なんのことだろうな」


 俺のとぼけた態度に追及をあきらめたのか、ライカは不意に立ち上がる。


「もうかなり遅い時間ですね……私は部屋に戻ることにしましょう」

「わかった」


 俺も立ち上がり二人で扉の前まで移動する。


「変な話を聞いてもらって悪かったですね」

「構わない。うまい料理も食べれたしな」


 そこまで言ってライカの顔を見る。


 その時不意にライカの唇が俺の唇を塞いだ。

 俺はびっくりして身動きが全くとれなかった。


 おそらく触れていた時間はほんの一瞬の事だったろう。

 しばらくするとライカは俺から離れる。


 顔を見るとほんのり赤くなっていた。

 涙の跡はもうなくなりかけている。


「わ……私たちは恋人同士なのでしょう? そこまで驚くことはないと思います」

「でも……恋人と言っても……」

「じゃ……じゃあ私は部屋に戻ります。今のは私が勝手にやった事だからエリザには内緒にしておいて下さい」

「お、おい!」


 そう言って部屋を出て行くライカ。


 どうやら、考えなくちゃいけない事がまたひとつ増えたようだ―― 


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