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第17話 状況再現

 ダンジョンへ入った俺は慎重に進んで行く。


 今回はミルダンジョンの様にリスクを取る事は避けたい。

 あの時は本当に死にかけたからな。

 無理と感じたら即時帰還するつもりだ。

 最悪エリザから貰ったネックレスの力も出し惜しみするつもりはない。


 今回俺がこの中級ダンジョン攻略を決めたのは、ルカから最深部の部屋にボスがいないという情報を得られたことが最大の理由だ。

 まあ未攻略のダンジョンをクリアすると追加で称号が貰えるかもという邪な考えもあるにはあるが。

 やはり一番というのは気持ちがいいからな。


 とにかく昨日攻略のために仕入れたアイテムと、前のダンジョンで使いそびれたアイテムが尽きるまではゴリ押しで行ってみよう。

 何階層まであるか分からないけどな。


 まずこの階層に出てくる敵の力量を知りたい。

 俺の敏捷値で逃げ切れる相手だと楽なんだが。

 そんな事を考え俺はダンジョンをゆっくり進んでいく。


 ん?

 なんかおかしいな。

 敵が見当たらない。

 もう少し奥に行ってみるか。


 さらに奥に狭い通路から一気に開けた場所が有った。

 俺はとりあえず通路からその場所を覗きこむ。


 いた!

 一瞬大きな岩の塊かと思ったが、じっと見つめるとかすかに動いていた。

 ゲームで言うところのゴーレムによく似ている。


 まさかいきなり中ボスのフロアか?

 のっけから予定外の出来事に少し困惑するが、これでこの階層に魔物がいなかった訳が分かった。


 いきなりボスか。

 だが幸い動きは速くなさそうに見える。


「よし、一気に行くか」


 もちろん戦う気など微塵も無い。

 俺はまずは手持ちの装備を確認する。


 ゴーレムとの距離はかなり離れているし、抜けられそうなスペースもある。

 とりあえず見つかるまでは、ゴーレムに気付かれない様に静かに抜ける事にする。

 そしてまず最初の一歩を踏み出す。


 だが、通路から一歩フロアに出ると。

 ゴーレムがなぜかすごい勢いでこちらに顔を向ける。


 マズイ、気付かれたか?

 俺は慌てて通路に引っ込む。


 なんでだ? 足音すら立ててない筈なのに。

 俺はゴーレムがこちらに向かってきているか確認する為、再びフロアを覗きこむ。

 ゴーレムがかなり近い所まで来ている事を想像していたが、予想に反してゴーレムは元の場所に戻っていた。


「まさか……」


 もしかすると、フロアに入った敵を察知するが、フロア外の敵は感知しないのか?


 俺は仮説を試す為、もう一度フロアに足を踏み入れる。


 ゴーレムはやはりこちらを向く。

 次に鈍重な動きで俺の方へと向かってくる。


 よし。

 これで完全に見つかったはずだ。俺は再び通路に戻る。

 そしてゆっくりとフロアを覗きこむ。


 そこには静かに元の位置に戻るゴーレムの姿があった。


「なるほどな……そういう事か」


 こうなっては見つからずに駆け抜ける事は不可能だ。

 だが動きを見る限り、捕まらずに難なく通り抜けられそうだ。


 どうせフロアに入ったら気付かれる。

 むしろ通路から助走して一気に抜けることに決める。


 呼吸を整えスタートする。

 フロアに足を踏み入れた途端、ゴーレムは反応してこちらに向かって来るが、その動きは遅い。


 俺は難なくフロアを通り抜け反対側の通路に駆け込む。


 するとゴーレムは何もなかった様に元の場所へ戻っていく。


「突破されても追ってこないのか……こりゃ楽だな」


 通路の奥に次の階層への階段があった。

 俺は迷わず階段を下りていく。


 次の階層に到着するとなにやら見覚えがあった。


 ん?

 これはさっきの階層と同じ造りだな。

 ふと嫌な予感がして奥に進む。


 そして通路の奥には案の定開けたフロアがあった。


「まさか……まさかな」


 俺はフロアを覗きこむ。


 ああ、やっぱり。


 そこには再び大型のボスらしき魔物がいた。

 今度の敵は巨大なオークだ。手に大きなこん棒を持っている。


 二回連続ボスがくるとはな……。たしか講習では五十階層まで行った奴がいるとか言ってなかったか?

 真っ向勝負で進んで行ったんなら相当な実力者だな。


 爺さんは四十階層まで到着したと言っていたな。つまりここは四十一階層なんだろう。まだまだ先は長い。


 オークはどう対処すべきか。


 試しに先程と同じ要領で、一歩だけ足をフロアに踏み入れてみる。

 その瞬間、オークが雄たけびを上げながらこちらに向かってきた。


 やっぱりそうか。

 どうやらこのあたりの魔物はどういうわけか、同じ特性を持っているようだ。

 だがスピードはさっきのゴーレムより格段に速そうだ。


 俺は一旦通路に戻る。


 初期位置から察するに強引な突破では一回は攻撃されてしまう可能性が有りそうだ。


 さて、どうしたもんかな。

 できればリスクは取りたくない。


 待てよ、もしかすると。


 俺はふと思いついた事があった。

 もう一度フロアに足を踏み入れる。

 それに合わせオークがもう一度こちらに向かってくる。


 オークは攻撃の間合いに入ると、手にしているこん棒を振りかぶる。

 その瞬間俺は急いで通路に戻る。


 オークは動きを途中で止め再び元の場所に戻って行く。


「振りかぶったか……」


 俺は再びフロアに足を踏み入れる。

 またオークが来る。

 こん棒を振りかぶる。

 通路に戻る。


 俺はこの一連の流れを、五回程繰り返した。

 出した結論は、いける。


「よし、状況再現で抜けよう」


 状況再現とは、ゲームの乱数調整みたいなものだ。

 乱数はゲームにランダム性を演出するが、実は完全なランダムではない。

 あくまで一定の法則でランダム性を演出しているだけだ。


 つまり、乱数により発生した結果なら、そこにたどりつくまでの経緯をそのまま再現してやれば、全く同じ乱数と結果を狙って出すことができるのだ。

 ゲームで例えてわかりやすく言うなら、全く同じ操作をすることで同じ敵を出したり、クリティカルヒットを何度も再現したり、必ず敵から逃げられたりする状況を作り出したりするわけだ。

 

 もちろん、RTAにもそれを利用したテクニックが存在する。 


 ただ状況再現は時としてフレーム単位のシビアな操作が求められる事もあるのでRPGをやっているのに格闘ゲームや音ゲーをやっている様な感覚になることもある。


「俺は少し苦手なんだがな……」


 今回の場面は完全には状況再現とは言えないが、考え方としては使えそうだ。


 俺が正面から間合いに入った場合のオークの初撃がこん棒を振りかぶっての攻撃だとわかれば避けるのは容易だ。


 とりあえず入り口付近で避けるタイミングを掴むか。

 俺はふたたびオークのいるフロアに入る。


 しばらくオーク相手に状況再現に使うデータを集める。


「全く……俺は異世界に来てまで何をしているんだかな」


 思わず口から愚痴がこぼれる。


 だが、初撃を避ければ問題なく抜けられそうなことがわかり、十分程でデータ集めを終える。


「もう十分だ。さっさと行くか」


 俺は自分の突破を確信し、ダッシュでフロアに侵入する。

 あえて自分で正面から間合いに入り、こん棒を振らせる。

 俺は流れるような動作でそれをあっさりと避ける。

 そして何の問題もなく奥の通路へ到達する。


「少し時間がかかったが、まあこんなもんだろう」


 俺は次の階層への階段を下りる。


「まさかとは思ったが……」


 薄々嫌な予感はしていた。

 下りた先の階層も同じ造りをしていた。


「2度ある事は3度あるってやつか……」


 半ば諦めながらフロアを覗きこむ。

 そこには勿論ボスが存在していた。


「勘弁してくれよ……」


 今度は大型の獣だ。オオカミと似た風貌をしている。

 先程の様に状況再現で抜ける事を決めた俺は、早速データを集め始める。

 この魔物はどうやら俺と同程度のスピードを持っているらしい。


 大きいくせに速いのは反則だろ!! と言いたかったが、愚痴をこぼしてもどうなるものでもない。

 諦めて、突破するためのデータを収集していく。


 先程のオークの様にあっさりとはいかずデータを集めるだけで一時間ほど時間を要した。

 やはり相手が速いと攻撃をくらう回数が違う分、様々な事を想定したデータが必要だった。

 リスクは最小限にしたいとの思いからだ。


 もちろん以前のダンジョンでお世話になった身代わりの指輪も身につけてはいるが、できれば使いたくはない。

 あくまでノーダメージが目標だ。


 データが揃った俺は再びボスのフロアに突入する。

 一時間のデータ集めの甲斐有って、なんとか一撃ももらわずオオカミを突破する事に成功した。


 続けてさらに下の階層へ潜る。


 案の定同じ造りだ。


「ここにはボスしかいないのか?」


 だが逆に納得できた。

 ロイスやライカやおっさんが組んで挑戦しても無理だったと言ってたもんな。

 ミルの中級ダンジョンのようにボス戦が一回ならまだしも、こうも連戦ですべて倒していくとなると大抵のパーティーでは無理だろう。


 次のボスは大型の鳥だ。かなり素早い動きで空を飛んでいる。こいつはやっかいそうだ。


 結論から言うと俺の体感で4時間程度かかった。

 自分より速いとなると完全に相手がどう動くか、自分がどう動くかを記憶しなければならない。

 さらに自分の動作の練習も、今までよりみっちりとしなければならなかった。


 反対側の通路まではさほど長い距離ではないというのに、見た目以上に遠く感じた。


 四時間かけてなんとか無傷で反対側の通路にたどり着く。

 俺はこの時点でこのダンジョンに来たのを後悔し始めていた。


「後、何層あるんだよ……」


 文句を言いつつも階段を下りる。

 フロアを確認する。


 そこにはドラゴンがいた。


 俺はすぐさま帰ろうとしたが、そこに爺さんの顔が浮かんできた。

 やっぱり逃げ帰ってきたか!! と笑われる事は想像に難くない。


 俺は無理そうだったらすぐ帰ると自分に言い聞かせて、なんとか気持ちを奮い立たせる。



 そして気の遠くなるような時間ドラゴンと戯れていた俺は、なんとか反対側の通路に存在していた。


「くそ、あいつが炎さえ吐かなければもっと……」


 俺はずっと苛立っていた。そして愚痴っていた。

 途中休憩はしたが、ずっと食事は取っていない。苛つくのも無理ないだろう。

 軽い食事は持ってきていたが、あえて食べなかった。集中力を切らしたくなかったからだ。


 体感だが、ドラゴンを突破するまで体感で十二時間くらいかかっただろうか?

 今は一体何時なんだろうな。

 もちろん俺の問いに答える者はいない。

 今回のダンジョンは後進の者に最速記録を譲る事になりそうだ。


 俺はすでに帰る事を決めていた。

 もちろんこれ以上は無理だと判断したからだ。

 肉体的にも精神的にもな。


「とりあえず、次もどうせボスだろう。せめてボスの顔を拝んでから帰るか。情報自体は貴重なものだろうからな。だが爺さんに馬鹿にされる事は間違いない……」


 かなりげんなりしたが仕方がない。

 自分で蒔いた種だ。


 自然と俺の足取りは重くなるが、それでも次の階層へ下りる。


 通路を真っすぐ行くと、さっきまでと明らかに違う、大きな扉があった。


「えっ! まさかボス部屋か?」


 まだ5階層しかクリアしてない。さすがに早すぎるだろう。


 いやそもそも五十階層まで行った奴がいるという情報が嘘だった可能性もあるな。

 ロイスも裏は取れてないと言っていた気がする。


 とにかく入ってみるか。

 本当にボス部屋ならルカがいる筈だ。

 それ以外なら、即脱出だ。

 エリザに貰ったネックレスを握りしめる。


 俺は意を決して扉を開ける。


 そこには予想した通りルカの姿が有った。

 俺のことを呆れた顔で見つめている。


「もしかしたら、一番早くここに来るのは、カイトかもしれないとは思ってたわ」

「ルカにそう言ってもらえるとは光栄だな」

「ただ、こんなに早く来るなんて想像すらしてなかった……」


 なんかルカの様子がおかしい気がする。


「さあ、やりましょうか」


 やる? なんの事だ。


「ルカ、それは一体どういう事だ? やるって何をだ?」


 俺の問いにルカはさも当然と言った風に答える。


「もちろん戦いよ。あなたと私のね……」


 その瞬間ルカから発せられた殺気が感じられた。

 どうやら冗談の類では無いらしい。

 あまりの展開に俺は冷静さを失い、言葉を並べたてる。


「ルカ、一体どういう事だ? 昨日最初に到達した人にはアイテムをあげるって言ってたじゃないか!?  戦うなんて一言も言ってなかっただろ!?」


 今度は俺の問いにルカがわからないと言った表情をする。


「カイト。あなたこそ何言ってるのよ? それは帝都の中級ダンジョンの話だったと思うけど?」


 その返答に俺の頭はさらにこんがらがる。


「ここがそうだろ!!」


 俺が今いるのは帝都の中級ダンジョンの筈だ。

 間違いない。


「カイト。あなた戦いたくないからわざと混乱している振りをしてるのね」

「違う!!」

「もういいわ。始めてしまえばあなたも戦わざるをえないもの」


 マズイ。

 ルカはもうやる気だ。

 なんとかしないと、なんとか。


 俺は必死に考える、そして――


「殺せよ」

「えっ?」

「殺せって言ったんだよ」

「ど……どういうこと?」

「俺は、お前の様に美しい女と戦う事はできない。それに短い付き合いだがお前……いい奴だしな」

「な……何を言って」


 ルカに少し動揺が見える。


 俺は腕を広げる。


「さあ、殺せよ。俺が見ているとやりづらいか? なら目を瞑ってるさ」


 そう言って俺は本当に目を瞑った――かのように見せかけ薄眼でルカを見る。


 見た感じかなりの葛藤があるみたいだ。

 だが、しばらくすると構えをとり、手に魔力を集中させ始める。


 無理か。

 俺がそう思いかけた時。


 ルカは手に集めた魔力を消し、こう言った。


「私の負けよ。カイト……私にあなたは殺せない」

「いいのか? お前に殺されるなら本望なんだがな……」


 俺はそう言いながらも内心で激しくガッツポーズを取る。


 もちろんさっきの魔力が俺に放たれていたら、俺は一瞬のうちにエリザの元へ転移していただろう事は言うまでも無い。詠唱はいらないとエリザも言っていたしな。


 俺がほっと胸を撫でおろしていると、ルカの声が響く。



「でも……でも一つだけ条件があるわ!!」


 どうやらまだ完全に解決した訳ではなさそうだ――



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