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第14話 戦闘技術テスト

 いきなりロイスからの御指名を受けた俺は、内心で慌てふためく。


 ロイスがにやけながら俺の方を見ている。

 完全に面白がっているな。


 ロイスが何も言わないので、講習参加者の目は俺に集まったままだ。

 雲行きがやばい気がする。

 なんだか断れる雰囲気じゃない。


 だがそもそも俺に他人の戦闘を指導できる訳が無い。

 ほとんど武器すら扱った事も無いからな。

 普段は剣が得意と言っているが、もはやエリザに借りたメイスでの戦闘経験の方が豊富なくらいだろう。


 なんとかこの状況を回避したい俺はとりあえずロイスに言い返す。


「みんなロイスにアドバイスを受けたいと思っている。俺の出る幕じゃないさ」


 俺の言葉を聞いた周囲が、その意見に同調し再びロイスの方へ向き直る。

 しかしロイスはそんな俺の意図を察しているかの様に、再び口を開く。


「彼はこう見えて既に中級ダンジョンを攻略済みだ。君達を指導できる力は十分に有る。それに戦闘における知識も豊富だ。きっと良きアドバイスが貰えると思うぞ」


 ロイスにそう言われると受講者連中は俺の事にも興味を持ち始めたらしく、反対意見は鳴りを潜める。


 まずい空気だ。

 何か反論しないと。

 俺が必死に考えている間に、ロイスは締めに入ろうとする。


「よし、反対意見は無いみたいだな。じゃあカイト。一言挨拶でもしておくか?」


 もはや俺にNOと言わせる気は無い様子だ。

 どうすべきか、適当にアドバイスしてごまかす事にするか?

 だがはたしてそれで通用するのかどうか。

 俺が必死に考えをまとめていると、徐々に全員の視線が俺に向き始める。


 仕方ないか。

 考えた末に引き受ける事に決めた俺は席を立って一度周りを見渡してから話し始める。


「お前達を指導する事になったカイトだ。俺はロイス程は優しくないのでな……覚悟しておくように」


 とりあえず実力者の様に振る舞う。

 舐められたら、指導どころじゃないからな。


 周囲の受講者連中の反応は様々で、中には俺の態度に気を悪くしている者もいるかもしれない。

 だがこう言っておけば俺を気に入らない奴はロイスに教えを請うだろう。


 ロイスが解散の号令を出し、受講者達は一斉に席を立ち上がり去っていく。

 俺はその流れに乗らず真っ先にロイスの元へ向かう。


「おい」

「いや……悪かったって。他に適任者がいなかったんだよ」

「そんなのこっちの知った事か。本来ロイスが全員を担当するのが筋ってもんだろ?」

「たしかにそうなんだが、あれだけの人数一人で見てたら日が暮れちまうよ。それにその場合の指導はどうしたって一人一人の密度は薄くなっちまうからな」

「物は言いようだな。ただ時間がかかるのが嫌だっただけだろう?」

「お前も講習なんか早く終わった方が良いだろう?」

「まあ、それは否定しないけどな」


 たしかに講習の座学部分は役に立ったが、明日からは戦闘技術だ。

 戦闘の技術も欲しいが、そういうものは一朝一夕で身に付くものでもなさそうだからな。

 それよりはとりあえず肉体を強化できるレベル上げに時間を割きたい。

 指導やテスト等は早く終わるに越したことは無い。


「ロイス。もちろん俺の戦闘技術テストは免除なんだよな?」

「は? 当然だろ。誰がお前のテストをするんだよ? 言っとくけど俺は嫌だぞ。国の騎士団長が一冒険者に負けたらかっこつかないだろう」

「ならいいけどな。それと今のうちに言っておくけど俺は誰かを指導した経験なんてないぞ?」

「ミルの中級ダンジョンで俺達を導いてくれた様に教えてやってくれればいいさ。あの時の指示は的確だったと思うぞ?」


 あの時はダンジョンの知識があったからできた事だ。

 俺に戦闘技術関連の知識は無いんだがな。

 まあ今更断るという選択肢は無い。だがとりあえず最低限の保険はかけておくか。


「じゃあ俺のやり方であのひよっ子共を指導させて貰う。批判は受け付けない」

「おっ? 調子でてきたじゃないか。自信の無さそうなカイトなんて初めて見たからな。よっぽど教えるのが嫌なのかと思ったが……」

「正直嫌だけどな。とりあえず貸しにしておく」

「わかったわかった。とりあえず借りておく事にするよ」


 その後ロイスと軽い打ち合わせをして別れた。

 帰る時にアキームに声をかけていくかと思ったが、既にその姿はなかった。

 ロイスと結構話し込んでいたからな。仕方ないか。


 俺はその場を離れ宿に向かう。

 結局その後は、翌日の指導についてどうするか頭を悩ませる事となった。


 次の日、ギルド指定の場所に到着すると、すでにかなりの数の参加者が集まっていた。

 戦闘をするだけあって屋外だが、周りが壁で覆われている。ギルドの訓練場か何かだろうか?


 辺りを見渡すと皆一様に気合の入った格好をしている。

 まあ今日はテストとはいえ戦うわけだからな。


 既に到着していたアキームを見つけたので、早速声を掛けに行く。その近くにはアーシェの姿も見える。


「よお。昨日ぶりだな」

「カイトさん。今日はよろしくお願いします」


 そう言ってアキームは頭を下げる。

 やけに昨日より畏まった態度だな。

 最初は理由がわからなかったが、すぐに気がつく。

 おそらく今日は俺が指導を請け負っているからだろう。


「気にする必要はないぞアキーム。指導するといってもたいしたことは教えられないからな。というより悪いことは言わないから今日はロイスに指導を仰いだ方がいい」

「いえ。自分は今日カイトさんに指導してもらおうと思ってます」


 俺はアキームがなぜロイスではなく俺の指導に固執するのかわからず、知り合いである俺相手の方が合格しやすくなると思ったか? と邪推もしたが、アキームはそういうタイプではなさそうだ。

 まあ、深く追及する必要もないか。


「カイトさん。今日はよろしくお願いします」


 妹の方が兄と全く同じ語り口調で話しかけてきた。


「君はてっきりロイスに指導してもらうものだとばかり思っていたが……」

「兄を一人にするのは心配なので」


 それ絶対嘘だろと突っ込みたくなったがやめておく。

 だいたい明らかに兄の方がしっかり者に見えるしな。

 まあ妹の方も理由は追及しないでおこう。


 しばらく他愛の無い話をしていると、ロイスやギルドの職員達も続々と到着する。

 そろそろ始まりそうだな。


「じゃあ講習参加者は集まってくれ! 軽く説明をする」


 ロイスが大きな声で参加者に呼びかける。


 簡単な流れは昨日のうちにロイスに聞いたので、俺は集まる必要は無さそうだ。

 そもそも教える側ということになってるからな。

 俺は近くの壁に寄りかかり、説明が終わるのを待つ。


 話を聞く限り、講習参加者はロイスか俺のどちらかを選べるらしい。


 おいおい。それじゃあ殆どの参加者はロイスに教えを請うに決まっていると思うんだがな。

 まあ俺は人数が少ない方が楽でいいんだが。


 説明が終わると、宣言していた通りアキームとアーシェがこちらに向かってくる。

 どうやら本気で俺の指導を受ける気らしい。


 だが俺の方向へ歩いて来るのは二人だけではなかった。

 やけにゾロゾロとこちらに向かってくる。


 ちょっと多すぎないか?

 特に男が多い。元々受講者の男女比率は男の方が高いから仕方がないかもしれないが……。

 基本的に女性はロイス側を選んでいる様子だ。

 人気者というのは伊達じゃないらしいな。

 女性でこちら側に来たのはアーシェともう一人だけだ。


 それにしてもこの男連中は何故俺の方へ来たのだろうか。

 ロイスより俺の方が弱そうだからか?

 もしくは、俺の偉そうな態度に腹を立てたから一泡吹かせてやろうとでも思っているのだろうか。

 まあ考えてわかるわけでもない。


 とりあえず俺に指導を受けなければいけない目の前の彼らには同情を禁じ得ないが、一度引き受けた事だ。やれるだけやってみるか。


 俺は一度咳払いをしてから声を出す。


「これからお前達の指導をするカイトだ。ロイスのやり方は知らないが、俺は俺のやり方でやらせてもらう」


 言いつつ彼らの表情を見渡す。

 特に文句も出ないみたいだ。

 ……アーシェは不満そうだったが。


 続けて俺は説明を開始する。


「内容は至極簡単、俺と1分間模擬戦をやるだけだ。そこでアドバイスをしたのち、全員終わった後にテストの合否を言い渡す」


 当初は指導とテストを分ける予定だったみたいだが、そこは俺とロイスの利害が一致し、同時にやる事にした。

 時間は大切だよな。


「さて、それじゃあ始めるか……誰からでもいいぞ?」


 俺がそう言うと真っ先に動いた奴がいた。半ば予想通りではあったが、アキームだ。


「じゃあ僕からいかせてもらいます」


 誰も異論は無かったのだろう。

 一番手が決まると他の参加者はその場を少し離れて様子を見守っている。


 アキームは武器を構える。


 剣か。

 なんてアドバイスをするかな。

 戦闘の事よりそっちに頭を悩ませている俺。


 模擬戦をやるというのに一向に構えをとる様子がない俺を疑問に思ったのかアキームが質問してくる。


「構えないのですか? そもそも武器を持っていないような……」

「ああ。こちらからは攻撃しないからな、だがそちらは好きに攻撃して構わないぞ! もちろん峰打ちの必要もない」


 その言葉を傲慢に感じたのか、周囲で聞いていた連中はざわめき出す。


「わかりました。ではいきます」


 実際に俺の事をかなりの格上だと思っているアキームはさして驚いた様子もなく、剣を片手に向かってくる。


 アキームの初撃を俺は難なく体を反らして避ける。

 続けて剣を水平にしそのまま二撃目を放って来るがそれも軽く後ろに跳び、かわす。


 ふむ。遅いな。

 やはり相手がこのレベル帯だと称号で敏捷値の底上げをしたら全く問題にならないスピードだな。

 なんとか恥をかかずに済みそうだ。


 その後もアキームは俺に幾度も攻撃を当てようと試みたが、結局終了までの1分間俺に攻撃が届く事は無かった。


「ありがとうございました」


 肩で息をしながらアキームは頭を下げる。

 まあ俺も結構疲れたけどな。周りには疲れた様子は見せない様にしながらアキームに話しかける。


「じゃあ早速だが、手合わせして感じた事を踏まえて少し助言をさせてもらおう」

「お願いします」


 さて、なんて言ったものかな。

 まあ悪く思わないでくれアキーム。


「まだお前は基礎ができていないな。スタミナも無い」


 自分でも思うところがあるのか、アキームは少し悔しそうにうなだれる。


 もちろん俺はフォローも忘れない。


「だが、圧倒的な実力差がある相手に時間ギリギリまで諦めずに向かってきた事は称賛に値する」


 本来アキームと俺にはそれほどレベル差はないはずだが、無意味に自分の実力を盛ってみる。

 まあ他の連中もなるべく強い奴に指導を受けたいだろうからな。実力者を装っていたほうが真面目に指導を受けるやつも多いだろう。


「だから今は真面目に体力作りと基礎をやっておく事だ。今の段階で小手先の技術はむしろ邪魔になるからな。ただまあそれだけというのもあんまりだから少しだけお前に戦いというものを教えておこう」


 俺は言うべきか言わざるべきか最後まで迷ったが結局言うことにした。


「……大事なのは間合い、そして退かぬ心だ」


 と言って決めのポーズをとる。


 周りは静まりかえる。

 もしや、外したか?

 俺が早くも言った事を後悔しそうになった時。


「はい!! ご指導ありがとうございました!」


 アキームが大きな声でお礼を言う。


「うむ。お前はもう退かぬ心を持っているようだ。その心をこれから伸ばしていくといいだろう。但し、無謀と履き違えるなよ?」


 アキームが大きく頷き満足気な表情で下がっていく。


 危なかった。

 一瞬すべったかと思った。


 もちろんさっき言った最後の言葉は俺が考えたセリフではない。

 ゲームキャラのセリフだ。

 RTAをやっていると、テストプレイで何度も同じゲームプレイすることが普通だ。その中で印象的なセリフはいつの間にか覚えてしまったりもする。


 もちろん間合いと退かぬ心が本当に大事になのかは俺は知らない。

 とりあえず俺は心の中でアキームに謝罪をしておいた。


 あのセリフ言ってみたかったからな。

 まさか本当に使える日が来るとは。

 異世界に来た事もまんざら悪い事ばかりじゃない気がしてきた。

 俺が一人でニヤついていると、


「次お願いします!」


 次の受講者がやる気まんまんといった様子で俺の前に立つ。

 彼らも先程のセリフに心を動かされたのだろうか?

 まあ気持ちはわからんでもないな。俺も気に入ったセリフだからな。


 周囲を見回すと、俺の指導を真面目に受けようという熱気が伝わってきた。

 もはや俺にケンカを売ってやろう等という雰囲気は微塵も感じられなかった。

 名言の効果はすごいな。


 よし、このノリで今まで言いたかったセリフを吐き出し、ストレスを解消させてもらうことにするか。

 俺は次々と言ってみたかった名言を参加者にぶつけていく。


「決してあきらめるな! 己の感覚を信じろ!!」


「剣の道が、魔法よりも優れている事を証明してみろ!!」


「この強さがあれば、全てを守れると思った」


「くにへかえるんだな。おまえにもかぞくがいるだろう……」


 俺は技術的な指導は煙に巻いて、抽象的な話しや精神論でごまかしつつも、ゲームキャラのセリフを用いて指導を続けていく。


 彼らが本当にセリフを理解しているかは謎だが反応は上々だ。

 もはや敬意を含んだ視線すら感じる。


 そして次々と試験を終えて残った参加者は後二人、アキームの妹アーシェともう一人の女性参加者だ。

 二人はどちらが行く? といった感じに顔を見合わせる。

 そして名前の知らない女性が先に俺の前に出てきた。


「よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げてくる。


「よろしく」


 とこちらも頭を下げる。



 そして頭を上げた瞬間、俺は予想もしていなかった攻撃を受けることになった――





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