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第11話 中級ダンジョン初心者講習

「ほう、提案とは?」


 俺の提案という言葉に王様は興味を惹かれたらしく、軽く身を乗り出してくる。


「先程陛下もおっしゃっていましたが、私も今すぐに結婚というのはいささか性急すぎると考えております」

「ふむ、たしかにな……ワシもそこは同意見だ」

「私の生まれた地方に男子が結婚をするのは18歳以上になってからと、考える風習がございます。お許しを頂けるのでしたら、その風習に倣い、私が18歳になるまでは婚約という形に留めるというのはいかかでしょうか?」

「なるほどな……してカイトが18歳になるまでにはどのくらいの期間が有るのだ?」

「およそ1年ほどです」


 本当は後半年ほどで十八歳だがこの世界に分かる者はいないだろう。


「ふむ、ワシとして異存は無いな。むしろ今すぐというよりよっぽど良いだろう……エリザはどうだ?」

「私は、カイト様の決めた事でしたら従います」


 俺の提案はエリザの心境的にどうかと心配だったが、気分を害した様子は無いので、ほっと息をつく。


 俺の出した答えは……保留だった。

 もちろん理由はある。

 仮にエリザが俺への過大評価に気付き、関係を見直したいと考えても、結婚していたら色々と難しい問題が出てくるだろう。

 ただし、婚約という形に留めておけば最悪解消すればいいだけだ。


 まあ、それでも大なり小なりの問題は出てくるだろうがな。


 ただ一年後もエリザの気持ちが変わらなかったらその時は──

 俺は腹を括く くる。


 とりあえず、猶予期間ができた事で、細部の予定に関してはこれから徐々に詰めていくという話になり、とりあえず謁見は終了となる。


 王様と王妃様に一緒に食事でもと誘われたが、エリザが頑として拒否する。

 俺に対しての気遣いだろうか?


 結果、エリザと2人だけの食事となる。

 とは言っても身分が身分だけに給士等はいるかもしれないが。


 俺とエリザは食事をする為に場所を移動する。


 料理が運ばれて来るまで、時間が有る様なのでエリザに話しかける。


「そういえば、ご両親の誘いを断ってしまって良かったのか?」


 俺は非常に助かったが、エリザとしては何を思って断ったのだろうと素直に疑問をぶつける。


「はい、二人でゆっくり話す機会が全然無かったものですから。こういう時くらいはと思って……」


 エリザは少し赤くなっていたが、俺の目を見てそう答える。


 言われてみればたしかにそうだな。

 正直、お互いをよく知っているとは言い難い関係だ。


 婚約者なのに、お互いの事をあまり知らないという奇妙な関係に、俺は思わず苦笑いをしてしまうが、これを良い機会として、じっくり話してみる事にする。


 俺とエリザは食事を食べている最中こそあまりしゃべらなかったが、食事を終えると、徐々に言葉を交わし始める。


 半ば予想した通りではあったが、エリザにはかなりの質問攻めに遭う。

 まあ結婚するかもしれない相手だから色々な事に興味を持つのは、至極当たり前だとは思うが。


 とりあえず、元の世界の事や、本来の実力の事を知られるのは避けたい。

 俺は細心の注意を払い、エリザからの質問に終始無難な答えを返していく。

 もちろん、正直に答えられるところはちゃんと答えたつもりだ。


 エリザが俺の返答に満足したかどうかはその表情を見ても窺い知る事はできない。

 だが、最後まで笑顔で話を聞いていてくれたあたり、いきなり嫌われるといった事は無かった様子だ。


「カイト様、色々聞いてしまってご迷惑じゃありませんでしたか?」

「いや、俺もエリザの事をたくさん聞けて良かった」


 まあ俺がエリザから聞いた話など、たかが知れているが。


「それで、カイト様。この後の事なんですが……」


 エリザから、しばらく城に逗留してはどうか?と提案を受ける。

 しかし、俺は今この国に長く留まる事は避けたいと考えていた。


 ここに長くいるとボロが出そうだしな、やりたい事もあるし。

 それに実力差は感じていた様子だが、騎士団長のクリスやその他の兵士達に勝負を挑まれないとも限らない。仮に負けでもしたらまたややこしい話になってしまう。

 またルカに助けてもらえるかもよく分からないからな。


 だがさすがにすぐ帰ると言ったのでは、エリザが悲しむだろうと判断し、一日だけ城で厄介になることにした。


「一日だけですか……なにかご予定があるのでしょうか?」


 エリザは短い滞在期間に残念そうな顔を見せる。

 とりあえず俺は用意しておいた理由を述べる。


「当初は、帝都で食事だけの予定だったからな。ミルの連中に何も言わないで来てしまった。さすがに俺くらいの冒険者がしばらく街を離れる場合はギルドに一声かけるのが礼儀だ。まあギルドを含め他にも用事はあるんだが……」


 俺の言葉を聞きエリザは、俺がロイスにその場のノリで連れ出されて来た事を思い出したようだ。


「申し訳ありません。カイト様が帝都まで行く事になった経緯を失念しておりました。カイト様にも予定があるのは当たり前の事ですね……」


 そう言ってエリザが頭を下げる。


 実際は俺がいなくなったところでミルの連中は誰も気にしないと思うが、もちろんそんな事を言う必要は無い。


「もちろんエリザと会う為に、エルフ国には定期的に戻ってくるつもりだから心配するな」


 エリザはその言葉を聞いて安心したようだ。


 すぐ帰ってしまうお詫びとして俺はその後、丸一日エリザに付き合う事にした。

 とりあえず城の外に出て、一緒に買い物をしたり、景色の良い所に案内してもらったりしながら過ごした。


 次の日、俺は王様や王妃様への挨拶を済ませる。

 その席でエリザがしばらく俺に付いていきたいと話すが、あっさりと両親に却下される。


 まさかエリザがそんなことを言い出すと思わなかった俺は、肝を冷やした。

 エリザは少し落ち込んだ様子だったが、最初から許可されるとは思わなかったのだろう、反発せずに両親の言葉に従った。


 俺は予定通り1人で帰る事になり、エリザに転移魔法を頼む。


「えっ? 帝都にですか?」


 俺がミルではなく帝都への転移を頼んだのが意外だったようで、エリザが疑問に思い聞き返してくる。


「ああ、ミルの連中に帝都土産でも買って行ってやろうと思ってな」

「それならば、私が買い物に付き合ってから、もう一度ミルに転移すれば良いのでは?」

「さすがにエリザに悪いしな……それにミルへの道中でも、少し寄りたい所が有るんだ」


 もちろん方便だが、エリザは納得してくれたらしい。

 それでしたらと、転移の詠唱を始めるエリザ。


 だが、そこで何かに気が付いた様に詠唱を止める。


「いけない……忘れていました」

「どうした?」


 俺の問いに答えるでも無くエリザは自分の首元に手をやり、ネックレスの様な物を外す。


「カイト様、これをお持ち下さい」

「これは?」

「この首飾りは王家の魔道具です。昨日の夜に転移魔法を込めておいたので一度だけですが、転移魔法を発動する事ができます。もちろん詠唱は要りません。ただ、転移先は術者の所にしか行けません。つまりこの場合私のいる場所という事になります」


 エリザは危うく忘れるところでしたと言って、ほっと胸を撫で下ろしている。


 なるほど、かなり便利そうな物を貰ったな。これで好きな時にエルフ国に戻れるという事か。


「ありがとう。これでまたすぐに戻ってこれそうだ」

「はい、いつでもお待ちしております」



 エリザは俺に首飾りをつけた後、再び転移魔法の詠唱を始める。

 今度は最後まで止まる事は無く、転移は成功する。


 俺とエリザは転移先である帝都で最後に挨拶を交わし、別れた。


 エリザの転移を見送った後、俺は帝都の店を見て回る事にする。

 昨日ロイス達に案内された際に、チェックしていた店だ。


 まずは武具屋に足を向ける。

 エリザに借りていたメイスは流石に返したので、取り急ぎ武器を手に入れたかった。

 もちろん防具も新調するつもりだが。


 武具屋に到着して中に入ると、ミルとの規模の違いに驚く。

 建物の外観を見て、ある程度は予想していたが、まさかここまでとは。

 ざっと見渡しただけでも、武具の品揃えは五倍くらいありそうだ。

 とても自分で選ぶ気にならず、店員に話しかける。


「どうも」

「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」

「筋力値Dで装備できる剣が欲しいんだが……」


 ついでにオリハルコンの装備をここで処分してしまうことにする。

 あわよくばレベリングによって使用できるようにならないかという思惑もあったが、思った以上にステータスは伸びにくいようだ。


「この中からお選び下さい。使用するのに必要なステータスも記載されていますので」

 

 何やら色々な武器が書いてあるリストを店員に渡される。

 そのリストには各武器の性能値や特殊能力の有無まで記載されていた。

 カタログまであるのか、ますます田舎の武具屋とは違うな。


 こうして見てみるとやはり特殊効果のある武具は高額だな。しかも総じて要求ステータスが高い。

 だが、あくまで今回は間に合わせだ。あまり高価な武器を買うつもりはなかった。


 カタログの中から無難にバスタードソードを選ぶ。

 刀身がやや長く、中級レベルの冒険者間では、ごく一般的な剣だ。

 値段も手頃だしな。

 俺は同じ要領で防具も選び会計を済ませる。


 さて、次はどうするかな。


 しばらく帝都に滞在するつもりだったので、適当な宿をとった。


 その後冒険者ギルドへ向かうことにする。

 帝都の中級ダンジョンの情報を集めようと思ったからだが、それと同時にレベリング方法を模索するためでもある。


 俺はまだ自分のレベル不足を痛感していた。

 かといって前回のように中級ダンジョンの奥に、いきなり潜るのはさすがに懲りた。

 あの方法では命とお金がいくらあっても足りない。何よりリスクが高すぎる。


 ギルドに入ると、前回来た時に資料を借りた職員がいたので声をかけようとするが、逆に声をかけられる。


「あら、資料は役に立ちましたか?」

「ええ、とても」

「それは良かったです。それで今日は?」

「今日は中級ダンジョンの資料を見せてもらえるか?」

「……中級ですか?」

「何か問題でも?」

「帝都の中級ダンジョンは未攻略ですので、入るために講習を受けて頂くことになりますが……」


 講習と聞いてげんなりしたが、とりあえず詳細を聞いてみる。

 どうやら講習は三日間行われ、座学と戦闘技術を見るテストがあるようだ。

 戦闘技術テストで落ちた場合は中級ダンジョンに入る許可が下りないみたいだ。


 前回の講習のように一週間以上という訳ではないらしい。

 まあ三日ならいいかと考え、俺は職員に申し込みを頼む。

 それに座学の内容を聞いた限りでは、俺の欲しい情報も手に入りそうだからな。


 一瞬、中級ダンジョン攻略者の称号を見せれば免除になるんじゃ?と考えたが色々と面倒な事があるかもしれないのでやめておく。

 さすがにレベル9の俺には過分な称号だからな。


 とりあえず翌日からの講習を受けることに決めた俺は、ギルドを後にして道具屋や露天等で買い物を済ませ、とってある宿に戻った。


 翌日、講習のためにギルドで指定された場所に向かうと、やけに人が多い。

 すごいな。この人数が講習を受けるのか。


 周りを見渡していると、見知った顔が目に入る。

 向こうも俺に気がついた様子だ。


「カイトさん……でしたよね? 先日はありがとうございました」


 たしか名前は――アキームだったか。

 2日前、女神のダンジョンで出会った男だ。


「ああ、カイトだ。奇遇だな」

「カイトさんも講習に?」

「そうだ。講習を受けないと中級ダンジョンに入れないと言われたんでな。アキームも中級ダンジョンへ行くのか?」

「初級ダンジョンの奥で、自分だけで狩りをするのは、一旦諦めました。今度は、パーティーを組んで中級に行ってみようと思いまして……それで妹と一緒に講習を受けに来たんです」

「妹?」


 アキームが俺と話をしているので所在無さそうにしている女の子が目に入る。


「あ、紹介します」


 アキームが手招きして妹を呼ぶ。

 まずは俺の事を妹に紹介するアキーム。

 兄の話を聞き、俺が恩人だという事を理解すると、頭を下げてから自己紹介を始める。


「アーシェです。兄がお世話になったようで、お礼申し上げます」


 歳は俺達とそう変わらないだろう。

 まだ幼さは残っているが、整った顔立ちと、凛とした佇まいの女の子だ。


「カイトだ。まあたいした事はしてないがな……十分に恩に着てくれ」


 マズ……。

 最近演技ばっかりしているからか、こういう上からな喋りが完全にクセになってるな。


 アーシェと名乗った少女は俺が取った態度に良い印象は抱かなかったようで、俺の返事にぎこちない笑顔を浮かべている。

 まあそれも当然だろう。……兄を助けたと言っても同世代であろう男から、初対面でこんな態度を取られたら好感の持ちようもない。


 失敗したと思わないでもなかったが、今更取り繕ってもしょうがない。

 それに兄の方はなんら気にしていない様子だしな。

 俺も気にしないことにした。


「講習参加者の方は、席に着いて下さい」


 その時、講習の担当者であろうギルド職員が参加者全員に聞こえる様に声を上げる。


 俺はとりあえず手近な席に腰を下ろす。

 自然とアキームが俺の隣に座り、さらにその隣にアーシェが座る。


 座学ではまず最初に、中級ダンジョンに入るための心得、というものを教えてもらえるらしい。

 だが、俺の興味は中級ダンジョン内部の情報のみにしかない。しばらくは退屈な時間を過ごす事になりそうだな。


 座学が始まると予想通りの内容で、俺は適当に聞き流して過ごす。


 退屈な座学が休憩に入り、各々が食事等に向かい始める。

 アキームが前のお礼を兼ねて、俺を昼食に誘ってくる。

 アーシェは複雑な表情をしていたが、兄の言う事に反対はしないようだ。


 俺達は近場で食事を済ませ戻る。

 ちなみに食事中は、俺とアキームばかりが話をして、アーシェが会話に参加してくる事はあまりなかった。


 午後の座学が始まる直前になり、ゾロゾロと席を離れていた連中が戻ってくる。



 その時、意外な人物がいたので、俺は驚いてつい大きな声を上げてしまった。



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