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俺と女

6時50分。俺は起床した。適当に朝食をすませ、制服に着替え家を出る。


7時41分。俺は水原詩織に出会う。水原詩織は俺の幼馴染み。かなりクラスの男子からモテるらしいが俺は対象外。

「あんたさ、相変わらずつまんなそうだよね。」

「あ?」

「この前、あんた、隣のクラスの吉木さんに告られたじゃん。あれ返事どうしたの。」

「振ったよ。」

「なんで?」

「興味ねーから。」

その言葉を聞いて水原詩織の表情が変わり声の強さも変わった。

「あんたのいう興味ってなに?」

その問いかけに俺は感情のこもっていない声で答える。

「わかんねー。」

少しだけ静寂の時が流れたが、すぐに水原詩織は俺に激怒する。

「ばっかじゃねーの。」


8時2分。俺は水原詩織に殴られる。水原詩織は去っていく。一人で歩く俺。


8時13分。 俺は校門前でしゃがんでじっとしている女を発見する。俺は立ち止まって女を見た。

「・・・・。」

女は急にしゃべりだした。

「二酸化炭素~。」

俺は女が発した言葉の意味を到底理解できるわけもなく、俺はただ突っ立ていた。

「・・・・。」


8時14分。 俺は女をスルーする。


8時25分。 俺は隣の席に女が座っているのに気付き驚く。この驚きはただの驚きではない。例えるなら身体中の細胞が刺激を一斉に感知し、脳に一斉に信号を送りかけてくるくらいの驚きだ。いや寧ろ衝撃に近い。暫くして女に耐性が出来たらしく俺は話しかけてみた。

「・・・・。あ、あのー。」

女は振り返り俺を見る。

「何?」

少し茶色ぽい髪が振り返る時に揺れてそれと同時に人の心を見透かすような瞳が俺に向けられる。俺は一瞬ドキッとしたが平生を保った振りをした。

「今日、校門にいたよね。何してたの?」

彼女は一つも表情を変えずただ当たり前のように答えた。

「光合成ごっこ。」

彼女の返答は俺にとっては質問のように聞こえた。しかし俺はとっさに返事を返した。

「・・・・。楽しい?」

俺は自分が咄嗟に言った言葉の意味も理解できぬまま返事を待った。

「そこそこ、この前やった擬態ごっこよりは楽しくないけど。」

女の返事は相変わらず俺の予想の上を言っていた。

「・・・・。」


8時30分。 俺はこいつとはかかわらないでおこうと強く思った。


8時50分。 俺は退屈だった。最初の授業が数学の授業だからだ。


9時40分。 俺は苦痛から解放される。女子たちが足早に教室から出ていくの知り、次が何の授業なのか察した。

「次は体育か。」

俺の予想は確信へと変わる。体育委員の吉野速人が俺に近づいてきた。

「なー。俺の代わりに用具室に行ってカラーコーン取ってきてくれねー。」

吉野速人とは同じ部活の仲間であるが少し冷めた感じで答えた。

「何で?」

吉野速人はお構いなしに続けて。

「実は足首痛めちゃってよ。頼む。同じバスケ部のチームメイトだろ。」

俺は内心悔しかった。女のように振る舞ってみたもののそれはただの真似事であって偽物の俺だ。俺はクラス一の馬鹿。吉野速人にも見透かされた気がしたのでそれを隠すかのように吉野速人の頼みを快諾した。

「しょーがねーな。」


9時42分。 俺は吉野速人の頼みを安請け合いする。


9時48分。 俺は用具室の中で同じクラスの倉知沙耶と沖早苗が女を虐めているのを目撃する。

「なにやってんだ。」

二人は俺を睨みつける。しかし事がばれては困ると思い自分たちを必死で正当化し始める。

「こ、こいつがいつも気味わりーことばっかしてっからしめてやろうとおもって。」

倉橋沙耶が口火を切るとすぐに沖早苗が続く。

「だってこいつあたしらの顔見て笑うんだぜ。」

俺は倉知沙耶と沖早苗を見透かした目で見た。そして平然と第三者的な意見を言った。

「だけどやっぱこーいうのまずくね。どんな理由であろうと。」

彼女たちはあまりにも冷静な俺を見て焦りを覚え、気に食わない顔で出ていいった。


9時50分。 俺は女と二人きりになる。俺は倉橋達を見つめた目で女を見た。そして俺は少しの優越感に浸りながら女に問いかけた。

「どうして笑ったんだ。」

女は相変わらず淡々と答えた。

「ああいうタイプに喧嘩売るとどういう目に合うか検証してみたかっただけ。ただの好奇心。」

女の返答によって一瞬にして形成が逆転し四面楚歌になった。俺は窮地に立たされながらも必死に答えた。

「お前な。もし俺が来なかったらもっとひどい目に合ってたかもしれねーんだぞ」

俺は女に恩を着せる作戦にでた。

「検証結果。あざだらけになる。」

一瞬にして作戦失敗。しかし俺は自分の思い通りの展開にならない事に少し快感を覚えた。そして無意識的に俺は女に手を差し出す。

「保健室に連れてってやるよ。」

女は俺を見つめて。

「検証結果。異性に同情してもらう。」

女の相変わらずさにちょっとした安心感を覚えつつも俺は呆れた声で。

「まったく。」

俺は女の手を無理やり掴んだ。女の手は少し温かかった。


10時24分。 女を保健室に届けて遅れて体育に参加する。


10時50分。 三時間目の現代文がスタートする。


11時23分。俺は空腹と戦う。隣の席の女はいない。


11時41分。俺は早飯をする。隣の席の女はいない。


12時26分。俺は睡魔と戦う。隣の席の女はいない。


12時40分。俺は四時間目の終わりのチャイムが鳴ると同時に席を立ち、そそくさと保健室へ向かう。保健室の中には外を見つめる絆創膏を貼った女がいた。

「お前、授業サボったな。」

俺の声を聞くが外を見つめ続ける女。

「サボりましたけど何か。」

俺は少し嫉妬のような粘っこい感情になる。俺は少し不貞腐れたような声で女に話す。

「急にいなくなると気になるじゃんか。」

女の体が少し動いた気がした。恐らく気のせいだろうが。女は少し笑いじみた声で。

「私が気になる?」

初めて女の感情のこもった声を聞いた。何度も脳内でその声を再生しようと思ったが続けざまに女は話した。

「随分と変わりものだね。舟橋圭太君。」

女は振り返り不思議な笑みをした。俺はそれを見るや否や胸の鼓動が高まり、頬を赤くした。この時はまだこの感覚が意味することを理解できなかった。


12時50分。 舟橋圭太は篠原実和子に無意識に恋をした。


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