セレンの疑惑
「君たちは職務を全うせねばならない」
上司の言葉に警察官たちは一斉に敬礼をする。
セレンはその言葉に疑問を覚え始めていた。
あの男性と話して以来、セレンの世界は少し歪んだ。
しかし歪んだだけで大きな変化はないと思っていたのだが、日常の動作に嫌気がさすようになってしまったのだ。
(俺たちは操られている)
彼は確かにそう感じるようになってしまっていた。
「セレン。セレン・ボガード。聞いているのかね」
上司に問われ、セレンは慌てて敬礼した。
「よろしい」
上司は満足げに頷くと周りを見渡し、台を降りた。
「俺たちどこに行かされるのかな」
同僚の言葉にセレンは目を見開いた。
「そんな話をしていたのか」
今度は同僚が驚く番だった。
「セレン、お前聞いてなかったのかよ。珍しいな」
「すこしぼーっとしてて、な。で、何が言われてたんだ」
「もう少ししたら、俺らもこの下町での研修を終えて、町に出ていくってことだよ」
セレンははっとした。下町では犯罪がなくならない理由。それは下町をただの研修所としてしか見ていないからではないのか。だから上からの圧力も通る。
「なるほど、な」
セレンのつぶやきには同僚は気付かなかったようでつづけた。
「うーん、首都レナかな?それとも貿易で栄えている土地、ミュランかな?」
同僚はいかにも楽しみで仕方がないというように妄想を始めた。
「平和だな、お前は」
同僚に気付かれないようにセレンは一人ぼやいた。
「おい、レン。それは希望がだせるのか」
少し間をおいて、セレンは慌てて尋ねた。
「それは、できなかったと、思う。だってみんなレナとかミュランとかに行きたいじゃないか」
そうでもないぞ、とセレンは思ったが、それは胸のうちだけにとどめておくだけにした。
「そうか、ありがとう」
セレンはそういうと、同僚のレンに背を向け、自らの宿舎に向かっていった。