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9/28

【ファンシーピンク】■12日目(6月04日) 君をおかわりしたい 〔09/28〕

◆あらすじ◆

 毎日の学校生活を無為に過ごす、やさぐれ少年の楢崎くん。

 ふとした事からブログで一人ファッションショーを公開する、いちご大好き少女・仲原さんの隠された秘密を知ってしまいました。

 お互いの秘密を握り合う間柄になってしまったクラスメイト二人は、ひょんな経緯から渋々ながらブログの写真撮影をすることに。

 日ごと移り変わる仲原さんの華やかな衣装(いちご柄)。

 日陰者である二人が撮影を重ねる果てに、たどり着く終着点とは?


 まるで定点カメラでいちご柄の部屋を観測するかのように贈る、やさぐれ少年&いちご大好き少女、水と油の二人が織り成すポップ&キュートかつストレンジ&キッチュ、あとプチアダルトな放課後の……そして青春の日々。


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■ファンシーピンク■

作品概要


・ここは私、岩男ヨシノリが執筆した小説「ファンシーピンク」を掲載するスペースになります(注:pixivからの転載となります)。


・手慰みのように執筆していたものを、この場を借りて発表することにあいなりました。眠れない夜の暇つぶしにでもしていただければ幸いです。


・基本一日イコール一話というペースで、さながら主人公の日記のように展開していきます。

 そのため時系列的に、日付がたびたび飛びまくることになるのですが(例:03日目→06日目)、エピソードの順序が把握できない場合は後書きのもくじを参照くださいませ(もしくは各エピソードのキャプションに[*/28]との表記を設けておりますので、全体の進捗状況をそちらで確認いただけるようお願いします)。


・ご意見&ご感想、ファンアート、はたまたコラボ企画の提案などはお気軽にどうぞ~

 どこかしらのコミュニティや評価スレッドへの推薦なども、ご自由に。

 できるのであれば事後報告を後に頂ければ幸いです(なくても構いません)。


注)劇中の登場人物の極端な行動は、真似しないほうが賢明です。

  違いのわかる方のみお楽しみください。

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挿絵(By みてみん)

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■12日目(6月04日) 君をおかわりしたい■


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 翌日の月曜日になっても歯の痛みは治まらず、水のしみる感覚にしばし悶絶したりしながらも、授業の方は終わりを迎える。

 そして今日もゴロ寝のドミンゴス(仮)に挨拶しつつも、仲原さん家へ強制連行だ。

 またデザートの撮影やんのかよ? とか思ったけど、流石にネタ切れとのことらしい。

 っていうかもう、味見はマジ勘弁してくれ。

「そういえばちょっと疑問なんだけど」

 自分のPCに取り付いて、ゼリーパイの写真をいじり回しながらも、仲原は俺に質問する。

「……楢崎くんってさ、日曜とか一体どこでなにやってるの?」

 えらくいぶかしげな口調だった。

 いや、なにもそこまで疑わしい目を向けなくてもいいじゃんかよ。

「だってさ、楢崎くんって平日以外の姿がまったく想像できないし」

 俺からしたら、お前の生態の方がよっぽど不思議で仕方ないんだが。

 昨日のよそ行きの装いを思い出す。

「ま、いろいろな」

「彼女とデートとか~?」

 まあ適当にあしらっておけばいいかと思っていたが、仲原はいかにも人を軽くみてるような口調でその先を聞いてきた。

 くわっ、すっげえムカつく。

「いたよ? 高校入る前くらいまで」

「え、まじ?」

「激マジ」

「……嘘っ!」

 真顔で奴は声をあげる。

 おいそこ、露骨に驚くなよ。

「悪かったな、そりゃ意外で」

 別れた理由は、特に劇的な理由があったわけじゃない。

 学校も違えば接点も少なくなるわけで、向こうは女子校だし……まあ、あん時はお互いガキだったしな。

「きっとえっちなこと強要して振られたんでしょ~」

 云ってくれやがるなこのやろう、俺のプラトニックな純愛なめんな。

「んじゃ例えばどんなよ? 云ってみ云ってみ」

「え、えっ?」

 仲原は一瞬言葉を詰まらせ、そしてもごもご口篭もって、

「それは、その……ねっ」

 互いの人差し指を触れたり触れなかったりといった動きをくるくると始める。

 わかりやすいリアクションだな。

「なーに全力でエロい妄想やってんだよ、お前は」

 その言葉と共に、彼女の顔が耳まで真っ赤になる。

 いじりがいのある奴だ、なんて思ってると。

「もぉーっ!」

 仲原が駄々っ子よろしく、ちっちゃい握りこぶしでポコポコと乱打を繰り出してきた。

「ぁ痛っ」

 ぱんちに重さはないんだが、たまにピンポイントで入ってくるからタチが悪い。

「もーっ、もーっ!」

 もーってなんだよ、牛か?

「ええい、お前そんなんに縁がないからってやつ当りしてくんじゃねえよ!」

「あたしは楢崎くんみたいにいやらしくないのっ! ふぁ、ファーストキスはいちご味なのっ!」

 なんだよそのこっ恥ずかしい理屈は?

 案外生ぬるかったぞ? とか生々しく突っ込もうとしたら、丁度いちごぱんちが左頬にクリーンヒットして身悶える。

「いちごマグナム!」

 俺はしばしの間地獄を味わった……舌先の上に乗る異物を感じながら。

「ふぐぁ!」

 つ、詰め物が! 詰め物が取れた!


 しばし後、ようやく歯の痛みが引いたころ。

 先のカントリー仲原が給仕やってる画像を見て、ふと俺は質問してみた。

 ……時々激痛が、口内の奥から突き抜けるけどな。

「そういえばよ、メイド服とかそういうのって、この部屋にないのか?」

 どうせウェイトレスの真似事やりたいなら、そういう方がギャラリーの食いつき良いんじゃね?

 この衣装の数々に混ざっててもおかしくないようなものなんだが。

 なんたって治外法権だしな。

 提案のつもりで云ってみたけれど、しかし仲原はドン引きした面を浮かべて聞き返してきやがった。

「……楢崎くんって、もしかしてそういうのが趣味なの?」

 異星人を見るような目をすんな、それにお前にだけはそんな顔されたくねえぞ!

「バカ云え、寝言は寝てから云えっつーの」

 メイドの頭に猫耳生やしたりとか、それっぽいキーワードを色々チラつかせてりゃ勝手に入れ食い状態なんだろ、ボロい世界だよな。

「ああいうタクオ君の掟とやらを押し付けられんのが迷惑なんだよ、うっとうしい」

 あの手の人種は恥ずかしい物を「感動できるから」とか鼻息荒く押し付けてくるからタチが悪い。

 基本的に他人がなにやってようが知ったこっちゃないんだが、俺の知らんところでやって欲しいもんだ。

「にしても、メイド服てっきり持ってると思ってたけど、この部屋にないとは意外なもんだ」

「あのねえ、楢崎くんのあたしに対する印象ってなんなの? この際聞いとくけど」

 不快感もあらわに、彼女は食ってかかる。

「コスプレ趣味のいちごスキー」

 ……あ、目もとが更にイラッてした。

 詰め物が取れた箇所をさらに追い討ちしてきても、おかしくない殺意をはらんでいる。

 こいつに国際ルールを求めても無駄だよな、容赦なく人体急所を狙ってくるし。

 以前の金的の衝撃も生々しく、カーペットには円形のえぐれが未だに残っている。

 おお、怖え。

「だいたいね、楢崎くんはそんなにあたしがご奉仕するところとか撮りたいわけ?」

 すっげえ嫌そうな顔してやがるな。

 ……こいつがご奉仕、ねえ。



 ――フリル付きのカチューシャ。

 そのエプロンドレスは例によってファンシーピンクで、やっぱりいちご柄してて。

 ひらひらしたミニスカートの裾をひるがえし、お盆を片手にやってくる。

「お茶菓子お持ちいたしました、ご主人様」

 歩くたびに、その上に乗った茶器がかちゃかちゃと音を立てた。

「仲原、ご苦労」

 俺がねぎらいの言葉をかけると、彼女は嬉しそうにお辞儀してくれる。

 やがて目の前に供出される、この間のいちごゼリーパイと、添えられるフォーク。

 例によってホイップしたクリームをかけるのだが、なぜか鼻の頭にいつの間にかくっついてるのがかなりアホだ。

 そして、やっぱり気づいていない。

「お茶のおかわりは、いかがですか?」

「いただくよ」

 俺の返事に、ポットのお茶を淹れてくれる仲原だが、背筋をピンとしてかしこまっても鼻クリームで全てが台無しである。

 やがて注がれるストロベリーティ。

 その色は濃く、まるでいちごを目いっぱい濃縮したかのように見えた。

 ある意味こいつの執念や偏愛が篭っているというか、そんな感じである。

 まあ折角だし、満足のいくまでその味と香りを堪能してみるのも悪くない。

「パイも他におかわりありますから、たーんと召し上がってくださいませー」

 その声に振り向くも、思わず茶を噴いた。

 おぼつかない足取りでこっちにやってくる鼻クリーム仲原。

 その両手は片手ずつお盆を支えているものの、明らかに過積載なほどおかわりを積んでいる。

 ええい、なんでこいつはこう強引なんだ!

 やがて足をつまづかせ、案の定バランスを崩してよろめいて。

「わあ!」

 お盆を中空に投げ出して、豪快に尻からすっ転ぶドジっ娘メイドさん。

 うわあ、それすっげえステレオ。

「大丈夫か、仲原!」

 思わず席を立ち、彼女の元に駆け寄ろうとするも、その惨状に絶句した。

 さまざまないちご色のスイーツにまみれたその姿に加え、痛そうに尻もちをさするも例のかぼちゃぱんつが丸見えである。

「痛い~、それになんかべとべとする~」

 顔に付着した白いクリームを拭う仲原。

 自覚はないんだろうが、それはなんとも扇情的な魅力に溢れていて。

 心配もよそに、いても立ってもいられず彼女の側に駆け寄った。

「仲原よ、ひとつ懇願していいか?」

 今までになくマジな瞳で詰め寄る俺。

 対していちごソースと生クリームにまみれた、間抜け面で見上げる仲原。

「楢崎く――じゃなかった、ご主人様?」

「……仲原、お前をおかわりしたい」

 髪にくっついた粒いちごが、ぽろっと床に落っこちるも、そんなことも気にかけないくらい、しばし彼女は硬直する。

「え?」

 俺の言葉の意図がわかった瞬間、仲原の顔が一気に、いちごの如く真っ赤になった。

 鼻先の白いクリームとのコントラストのせいか、より際立ってみえる。

「だ、駄目です楢崎くん――じゃなかった、ご主人様! あっ、あ、あ――!」



「――ぎゃははは!」

 机をバンバン叩きながら、自分で思い描いた筋書きに大笑いしてしまう。

「お前がメイドでご奉仕なんて似合わねー! でもある意味チョー似合ってる!」

 腹がよじれてたまらん、もう正直云って破顔大笑ものだ。

 ヒクついて止まらない腹筋を抱えて、死に損ないのゴキよろしく俺は床に転げ回る。

 っていうか、笑いすぎでもう苦しい。

「し、死ぬ! 笑い死ぬ!」

「だったら――いっぺん、死んでみる?」

 妙に冷ややかな声がした。

 涙でにじむ視界、その歪んだ先に高く掲げたカカトが目に入ったかと思いきや。

 直後、脳天にネリチャギが炸裂する。

「ふぐぁ!」

 まったく隙だらけの俺に対する仕打ちに、今度は頭を抱えて転げ回った。

 ちなみにしなやかな足のラインと共に、一瞬だけスカートの中身が見えたが、今日もやっぱり柄物だったことを付け加えておく。

 ……意識が途切れゆく前に。

 いや脳天はまずいだろ、脳天は。


 今日はそんな感じでとても撮影にはならず、仲原はPCのレタッチソフトで終始、あの日のゼリーパイの写真をいじり回していた。

 基本的に彼女が満足いったところで終わりって感じで、気の向くままに色合いを変更したり、セピア色にしてたりしている。

 ちなみに自分の身元が割れないようにする隠蔽工作もこの時点で行っており、目もとのほくろを抹消したり、髪や目の色を黒から変えてみたりと抜かりない。

 あと、鼻に生クリームくっついていたのは、すべてデジタル修正という力技で見る影もなくなっていた。

 ……無駄に凄いよな。

 それにしても、色々事情があっていじらざるを得ないのはわかるが、もっと俺が撮ったのを尊重してくれないだろうか。

 たまに俺が撮る意味あったのか? なんて思うくらい加工してんだけど。

 抗議しても無駄なんだろな、多分。




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【→】 13日目(6月05日) インタールード その2 [2013/6/18 更新予定]

    12日目(6月04日) 君をおかわりしたい

【←】 11日目(6月03日) インタールード

ファンシーピンク

次回予告

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 そんなわけで、仲原んちの前にまで来るのも成り行き上仕方がなかったんだが。

 あいもかわらずドミンゴス(仮)はぐうたらしてる……かと思いきや、俺の姿を確認するなりその首を上げた。

 ――あの犬が珍しいな。

 思わずペダルを漕ぐ足を止め、奴の近くに近寄ってみた。

 舌を出して「ハッハッ」とさかんに息をついている犬。

 その視線は、先ほど買ってきたコンビニ袋に注がれていた。

「なんだ、これが欲しいのかドミンゴス(仮)」

 食いさしのフライドチキンの骨を見せると、奴は思わず口からよだれを垂らす。

 もう待ちきれないという感じだ。

 っていうかチャリンコで走ってる俺を見て、どうやったら骨に気がつくんだよ。

 このアホ犬、もしかしたら結構大物なのかもしれんな。

「ほいよ」

 俺はその期待に応え、奴の方に骨を放り投げてやる。

 その時、いつもなにも考えていないような犬の瞳に、野生が宿るのを垣間見た。


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■13日目(6月05日) インタールード その2

[2013/6/18 更新予定]






◆もくじ◆ [全28回予定]



●00日目(5月23日) 始まりは唐突に 〔水〕


●01日目(5月24日) 知りすぎた人 〔木〕


●02日目(5月25日) 君んちへ行こう 〔金〕


 ○03日目(5月26日) ※欠番 〔土〕


 ○04日目(5月27日) ※欠番 〔日〕


●05日目(5月28日) なにげないきっかけ、その後 〔月〕


●06日目(5月29日) ガーリィステップ 〔火〕


 ○07日目(5月30日) ※欠番 〔水〕


 ○08日目(5月31日) ※欠番 〔木〕


●09日目(6月01日) ストレンジストロベリー 〔金〕


●10日目(6月02日) ストレンジストロベリーモア 〔土〕


●11日目(6月03日) インタールード 〔日〕


●12日目(6月04日) 君をおかわりしたい 〔月〕


●13日目(6月05日) インタールード その2 〔火〕


●14日目(6月06日) ファニーピンク 〔水〕


 ○15日目(6月07日) ※欠番 〔木〕


●16日目(6月08日) ファンシーパンク 〔金〕


 ○17日目(6月09日) ※欠番 〔土〕


 ○18日目(6月10日) ※欠番 〔日〕


●19日目(6月11日) 勝手にしやがれ 〔月〕


 ○20日目(6月12日) ※欠番 〔火〕


●21日目(6月13日) ままならぬふたり 〔水〕


●22日目(6月14日) 俺なりの意思を持って 〔木〕


 ○23日目(6月15日) ※欠番 〔金〕


●24日目(6月16日) 艶姿の映える土曜の宵 〔土〕


 ○25日目(6月17日) ※欠番 〔日〕


●26日目(6月18日) ??? 〔月〕


●27日目(6月19日) ??? 〔火〕


●28日目(6月20日) ??? 〔水〕


●29日目(6月21日) ??? 〔木〕


●30日目(6月22日) ??? 〔金〕


●31日目(6月23日) ??? 〔土〕


●33日目(6月25日) ??? 〔月〕


●??? 〔土〕


●??? 〔土〕


●??? 〔月〕


●??? 〔火〕


●???

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