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7/28

【ファンシーピンク】■10日目(6月02日) ストレンジストロベリーモア 〔07/28〕

◆あらすじ◆

 毎日の学校生活を無為に過ごす、やさぐれ少年の楢崎くん。

 ふとした事からブログで一人ファッションショーを公開する、いちご大好き少女・仲原さんの隠された秘密を知ってしまいました。

 お互いの秘密を握り合う間柄になってしまったクラスメイト二人は、ひょんな経緯から渋々ながらブログの写真撮影をすることに。

 日ごと移り変わる仲原さんの華やかな衣装(いちご柄)。

 日陰者である二人が撮影を重ねる果てに、たどり着く終着点とは?


 まるで定点カメラでいちご柄の部屋を観測するかのように贈る、やさぐれ少年&いちご大好き少女、水と油の二人が織り成すポップ&キュートかつストレンジ&キッチュ、あとプチアダルトな放課後の……そして青春の日々。


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■ファンシーピンク■

作品概要


・ここは私、岩男ヨシノリが執筆した小説「ファンシーピンク」を掲載するスペースになります(注:pixivからの転載となります)。


・手慰みのように執筆していたものを、この場を借りて発表することにあいなりました。眠れない夜の暇つぶしにでもしていただければ幸いです。


・基本一日イコール一話というペースで、さながら主人公の日記のように展開していきます。

 そのため時系列的に、日付がたびたび飛びまくることになるのですが(例:03日目→06日目)、エピソードの順序が把握できない場合は後書きのもくじを参照くださいませ(もしくは各エピソードのキャプションに[*/28]との表記を設けておりますので、全体の進捗状況をそちらで確認いただけるようお願いします)。


・ご意見&ご感想、ファンアート、はたまたコラボ企画の提案などはお気軽にどうぞ~

 どこかしらのコミュニティや評価スレッドへの推薦なども、ご自由に。

 できるのであれば事後報告を後に頂ければ幸いです(なくても構いません)。


注)劇中の登場人物の極端な行動は、真似しないほうが賢明です。

  違いのわかる方のみお楽しみください。

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挿絵(By みてみん)

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■10日目(6月02日) ストレンジストロベリーモア■


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「ただいまー」

「チョリーッス」

 今日も懲りずにお邪魔だ(半強制的に)。

 だんだんこの仲原邸に馴染んできてるのはどうなんだろう、とか思ったりするが深く考えるな俺。

 ここはネヴァーランドなんだ。

 一歩敷居を跨いだら日本じゃないんだ。

 治外法権なんだ。

「おかえりなさ~い♪」

 スリッパの音をパタパタさせながら出迎える、今日が初見の仲原母。

 ……っていうか、背ぇ低っ。

 そうとう若いお母さんだぞ、おさな妻か?

「あらあらー、まー!」

 俺たちなんかと大して変わらない年代に見える、その可憐な人妻の目の中に、きらきら星が浮いて見えるのは気のせいなんだろうか。

「うちの娘がお世話になってます~♪」

 ほにゃ~とした口調で喋る仲原夫人。

 いや、ここの家にお世話になってるのが俺なんすけど。

「あなたもまた、いちごダイスキ~なんですか?」

「いや、まあ……」

 曖昧に濁して、俺は答える。

 んなわけないっしょ普通。

 つーかダイスキ~って、娘の奇行っぷりは親公認なんですか、奥さん。

「そうなの~、よかったわねえ、いいおともだちができて!」

 いやちょっと、人の話聞けよ。

「これからもうちの娘と仲良くしてあげてくださいね。ほら、もしもの時にちゃんと用意できてるの?」

 小声で娘に耳打ちするも、しっかり聞こえてますよ奥さん。

 ってなにをするんだ、なにを。

 さり気なくとんでもないこと云ってませんか、ねえ?

「わかってるよ~、ママ」

 お前もほんとにわかってんのか?

「よかったら晩ごはんごちそうになっていってくださいね。今夜はお赤飯でいいかしら?」

「ママ!」

 どうやら娘の方はわかっとらんようだった。

「それでは、ごゆっくり……」

 どこか含み笑いを浮かべつつも、去っていく仲原母の足取りはなぜか軽やかだった。

 この娘にしてこの母ありですか。

 いずれにせよ、この家にまともな神経の人間がいないってことは、よくわかった。

 さすが治外法権というところか。


 そして、今日も懲りずに撮影のお時間だ(半強制的に)。

「今回も美味しそうに撮ってね?」

 などと当然のように云ってくれる。

 おいおい、またデザートの撮影かよ?

 だからまたかぼちゃぱんつ撮らせてくれ、かぼちゃぱんつ。

 そんなゲンナリした気分の俺をいちご部屋に置き去りにしつつも、彼女はキッチンに降りていこうとする。

 去り際に一言釘を差してきた。

「いい? 物色してもわかってんのよ? 枚数きちんと数えてあるんだかんね」

「確か二十七枚くらいあったよな? 云われなくても心配すんなよ」

 この数値が多いのか、もしくは少ない結果を示すのかはようわからんが。

 しかしいちご入りのをよくぞそこまで収集したもんだな、執念すら感じるぞ。

 ちなみに結構エグいデザインが多かったりするのはここだけの内緒な。

 微妙な年頃を反映した、実に――

「なんでそんなこと知っとるんじゃ、おのれは!」

 刹那、俺の下腹部に衝撃が走った。

 くるりと身を翻したかと思えば、遠心力で倍加された仲原の蹴りが炸裂する。

 ――股間に。

 インパクトの瞬間、ゴリュっていったぞ変な音が。

「ふぐぁ!」

 言葉にならない痛みを抱え、その場に背を丸める。

 そして子孫断絶の警鐘に俺は、しばしの間のたうち回った。

 なんてことしやがる、若くしてEDになったらどうしてくれようか。

 正規品高いからジェネリック品をお求め――なんて心配、まだ若い身空でしたくねえぞ俺は。

「相変わらずいい動きだな……しかし金的は国際ルール違反だぞ……」

 脂汗まで滲んでるけど、ちょっぴり強がってみた。

 俺っておちゃめ。

「エクササイズの賜物」

 嘘つけ、あの動きは真に迫ってたぞ!

 悶絶のあまり、床に額を擦りつける。

 その眼前に仲原の軸足が回転した、円運動によってえぐれたカーペットの形跡が……

 マジかよ。

「それより、もしかしてアレとか見たの? ねえ! ねえっ!」

 女の子にその激痛は伝わらないのか、うずくまる俺の背をゆすりながら聞いてくる。

 なんだよ、まだ隠し持ってんのか?


 結局俺は、廊下の方に閉め出されて。

 どこに行くあてもないまま、下のリビングにしょうがないからお邪魔する。

「失礼します」

 などと一応声をかけておく。

 散々無礼なことをやっておいて、なにを今さらって感じだけど。

「あら? 楢崎くん……でしたっけ?」

 先ほどの奥さんが出迎えてくれる。

 エプロンで手を拭いてるところからして、晩ごはんの準備か洗い物をしてたんだろう。

「ごゆっくりしたかったんですけど、叩き出されました……」

 あなたの娘さんにな。

 しかも男の子の大事なところを容赦なく狙ってきやがったぞ、どんな教育してんのか是非問い詰めさせてくれ。

「あらそう? 私もキッチンから追い出されちゃって。ほら、あの子って強引な性格してるから。まったく誰に似たんでしょ、ねえ?」

 それは十中八九、あなたじゃないかと……

「なにか云ったカナ? 楢崎くん」

 物云いこそソフトだったが、奥さんの目が笑っていなかったのを俺は見た。

 カナってなんだよ、カナって。

「いえいえ、なにも」

 やばいやばい、滅多なことを考えるべきじゃないな。

 っつーかこの奥さん、怖え。

「ああそうそう、仲原……さんは、たった今ケーキのカットしてる最中なんですよね?」

 慌てて話の矛先を、別の向きに逸らす。

 文脈からするとそうなるんだろうな。

「今も絶賛格闘中よ、なんでわかったの?」

「こないだ二十分以上も時間かけたって聞きましたから。あ、あの時はごちそうさまでした、美味しかったです」

 とか云ってみると、仲原母は俺の背中をバンバンと叩いてきた。

「んもう、やっさしいんだから! それはまのちゃんにこの後云ってあげなさい、きっと喜ぶわよ?」

「は、はあ」

 っていうかさっきから痛いっすよ、奥さん。

「あのパイの生地は私が教えてあげたんだけど、ババロワ固める前に漉してなかったでしょ? で、あんな歯ざわりになっちゃって」

 あのゴムっぽいのはそれだったのかよ。

 仲原母の話によると、レアチーズケーキとかゼラチンで固めるようなデザートは、漉すとなめらかさが違ってくるらしいが……

「まのちゃんってほら、凝り性のわりに詰めが甘いから。ねえ?」

 仲原は見事に途中過程をスッ飛ばしてしまった、それがこないだの話なんだそうだ。

「この間突っ込まれたの、結構気にしてたみたいよ? リベンジハートに火をつけたって感じで」

 そこまで奥さんが云ったところで、キッチンの方から意味不明なモータ-の駆動音が聞こえてきた。

 一体なにやってんだよ、不穏すぎるぞ!

 無意味に高トルクの回転音が、これからの恐怖をいっそう煽ってくれる。

「本気にさせちゃって憎いねこの! ちょみっ」

 戦慄にうち震える俺を、奥さんはちょんちょんと指で突っついてくる。

 ……ごめん、今だけは過去最高にすっげえ帰りてえ、マジで。


 やがて審判の時は、覚悟も許されないまま唐突にやってきて。

「楢崎くん、そこにいる?」

 ホイップしたクリームいっぱいのボウルを抱えた仲原が、リビングに参上する。

 その格好を見て思わず噴いた。

 いちご柄のエプロンしてるところはこないだと一緒なんだけど、なんだその名作劇場とかに出て来そうな女の子みたいな服は。

 しかもそのカラーはやっぱり、いちご柄のファンシーピンク。

 普段のポニーテールと違って三つ編みの髪型を、三角巾で覆っている。

 片田舎のカントリー娘のような趣だ。

「まあ、懐かしい!」

 などと仲原母が、俺の傍らで声を上げる。

「これって私のお古なのよ、楢崎くん! 結構似合ってると思わない?」

 いや、お古どころかあなたの童顔ぶりは、今なお現役で通用するんじゃないかと……

「……楢崎くん、命って大事だよね?」

 まるで俺の心を見透かすかのような言葉の後、奥さんは見るも壮絶な笑顔を浮かべてきた。

 だから目が笑ってないんすけど!

 脇の下から変な汗が垂れてきてるのは気のせいなんだろうか?

 っつーかこの奥さん、超怖え。

「それよりも楢崎くん、今日はこれ撮って欲しいんだけど、いいかな?」

 空気読んでないんだか母親のこんな様子に慣れっこなのかわからないが、仲原はいつもと変わらない様子で被写体を用意してくれる。

 どうでもいいけど、鼻の頭にホイップクリームくっついてるの激しく間抜けなんだが。

 気づいてないんだろうか?

「はい、第二弾」

 皿の上に乗っているものの、鮮やかな色合いに目を見張る。

 艶めいた光沢を放ついちごが、幾つも敷き詰められたパイ。

 底のパイ生地はこないだと多分同じと思って差し支えないんだろうが、今回はスポンジケーキを間に挟んでいた。

 散りばめたピスタチオの緑色が、鮮やかな緋色とのコントラストが、見るも食欲をそそる。

「切るの苦労したんだかんね、今回」

 前回はカットする面が平らだったから良かったものの、今回の表面は飾りのいちごのせいで切り分ける難度は段違いに高い。

 しかし取り分けられたそれは、ぼろっと端のいちごが崩れるような箇所は見当たらず、傍目から見ても綺麗にカットされている。

 なんというか、仲原は才能や努力とかじゃなくて、根気や執念が強さの根源なんじゃないかって思えてきた。

「うん、こないだよりも美味そうに見えるな」

 ――率直な感想を述べてみる。

 正直云って写真映えするのは、こないだよりも全体的に鮮やかなこっちだわな。

「え、ほんと? えへへへ」

 などと照れながら、またもささやかな胸を誇らしげに反らすけど、鼻クリームのせいかどうにも締まらない。

「んで、今回はこれを添えて食べるの」

 そんなことは気にもせず、仲原はノリノリでボウルに溢れるホイップクリームをひとすくいして皿に盛りつける。

 ふと後方のキッチンに、ハンドミキサーとクリームにまみれた金属の刃が見えた。

 あの物騒なモーター音はこれだったのか。

 なにはともあれ彩りの中に、白いアクセントがさらに加わったのも事実であり。

 準備が整ったところで、俺は今日もカメラを構える。

 ――さあ、撮影のお時間だ。


 前回のババロワを挟んでいたせいか、二度目になる撮影はスムーズに進行する……

「これ皿の端が切れてる、ボツ」

 ……かと思ったが、手持ち無沙汰で口出ししてくるの仲原の存在がうっとうしいのは、前回と変わりなかった。

 はっきり云って目の上のコブ以外、何物でもない。

 そして例によって、仲原の背後にはクリームを盛った皿が幾つも並んでいる。

「やっぱりさ、こっちの方撮ってくんない?」

 四皿目が差し出され、俺は渋々ながらカメラのシャッターを切りはじめる。

 だからいくつ用意したら気が済むんだよ?

「仲原よ、良かったら今日も撮ってやってもいいがどうする? ほら、今日も皿持ってにこやかにスマイルおくれ」

 っていうか、じっとしててくれ切実に。

「そう云うと思って、これ用意したのっ」

 服の裾をつまんで彼女は、どこか誇らしげに仲原母のお下がり服を見せつける。

 前回とはうって変わって積極的な姿勢だ。

 実は撮影の声がかかるのを楽しみにしてたんだろ、ツェー万かけてもいいぞ。

 ……でも鼻クリームのせいか、格好つけてもやっぱり間抜けにしか見えないよな。

 まあ面白いからしばらく黙っとこう。

「こんな感じで、撮って欲しいんだけど」

 とか云ってこの間と同じポーズを決めてきた、しかも前よりも堂に入っている。

 きっと密かに、全身鏡の前でリハーサルに励んでたに違いない。

 こないだあんなに嫌がってたくせに、そこまでして普段の自分からかけ離れたものに演出したいのか。

「おう。そのまま動くなよ、そのまま」

 俺としては正直どっちでもいい。

 文字どおりそのまま動いてくれないほうが、口出しされなくて好都合だ。


 普段と違ったリビングでの撮影。

 俺はせっかくなんだから、これまでやったことのないことを提案し、テーブルに向かって座らせてみる。

 普段立ちポーズばかり撮ってるし、これ新鮮なんじゃないか?

 それにしても、やっぱり無理に気の乗らないものを強要するよりも、表情が活き活きしてるよな。

「そのまま動くなよ~」

 仲原は仲原で食べてるシーンが欲しい! とか云いだして、フォークを口に入れようとしてる体勢を必死に維持している。

 半口開けて、手に持つその先をプルプルしてる姿はかなり間抜けだ。

 脇で仲原母もくすくす笑ってるし。

「……垂れてきてるぞ、よだれ」

 その言葉に思わずぴくり、と動く仲原。

 すると突き刺したフォークの先のパイが、ぼろっと崩れて皿に落ちた。

「も、もう! 早く撮ってよっ」

 顔を真っ赤にしながらも、手の甲で口元をゴシゴシする。

 ……年頃の女の子がそれでいいのかよ。

 さらにはしたないのは、未だに鼻にクリームくっつけてるのがわかんないところか。

「いいかげん気づけっての、もう」

 とうとう俺は彼女の側に歩み寄り、指で鼻先のホイップクリームを拭い去った。

「ひゃあ!」

 前触れもなく触れられ、反射的に彼女は身をすくめる。

 そして俺も、指についた白いものを思わずぺろっと舐めてしまった。

 さわやかな甘さが口の中に広がる。

「……うん、仲原の味がするな」

 などとウケ狙いに走ったのが命取りだった。

「ギャーッ!」

 椅子から立ったと思いきや、マッハをも超越する勢いでヤクザキックが顔面に飛ぶ。

「ふぐぁ!」

 上背はないのにも関わらず、その足が顔面ヒットするのは、それだけ柔軟性があることに他ならない。

 ちなみに足を振り上げた際にチラ見したが、今日はいつか見たあのかぼちゃぱんつだった。

 こんな時に俺のツボを突いたものを拝めるなんて、つくづく皮肉だよな。

「死ねえ! 万死に値する!」

 真っ赤になりながら、手に持ったいちご柄のお盆で次々と追い討ちをかけてくる。

 それが怒り心頭なのか、照れによるものなのか俺にはわかんなかったんだけど。

「……仲いいわねえ、二人とも」

 どこかニヤニヤしながらも、仲原母がぽつりと呟いた。

 おいおい、この状況をどう見たらそんな言葉が出てくるんだよ?


 なんていうトラブルがありながらも、撮影は終わって定例となりつつある、試食タイムのお時間だ。

「はいどうぞー」

 先ほどまで撮影していた、いちごのゼリーパイが目の前に差し出される。

 お盆まで用意して、紅茶までサービスしてくれる仲原は、まるでウェイトレスみたいな振る舞いに見える。

 しかし渋々といった表情でフォークを添える仲原は、まださっきのことを気にしているのか愛想は最悪だった。

 まあ本人も、こんな給仕ごっこに浸りたくてやってんだから、気にしててもしょうがない。

「ゴチになりやす、お嬢様」

 一応ものを頂けることに関してはお礼を述べておこう、そう思いながら手を合わせる。

 味は前回のババロワで確認済みだ。

 このあいだ戦々恐々としていた頃が、なんだか懐かしい。

 早速はじっこをフォークでカット、添えられたクリームをつけてみて、まずは一口。

 仲原はいつになく、緊張した面持ちでこちらを見つめている。

「うん、美味い」

 パイは前回と変わらないが、生いちごのフレッシュな甘ずっぱさやまったりとしたクリームの、それぞれ異なった食感が口の中で混ざり合う。

 あと、流し入れたゼリーが味の上で大きい位置を占めていることがわかる。

 スポンジケーキに染みこんだゼリーがことのほか美味かったりして。

 食べてみないと、色々わかんないもんだ。

「結構手をかけたんじゃないか? これ」

 早速俺はひと皿を平らげてしまい、食後の紅茶をすすりながらもひと息つく。

 ほのかな甘さが薫るストロベリーティ、この異様な徹底ぶりが仲原なりの流儀だ。

 ちなみにティーカップセット一式にすべて、いちごの絵が入っている。

「えへへ~」

 さっきの不機嫌さ加減はどこへやら、もう褒めて褒めてって感じで頬が緩んでいる。

 現金な奴だ。

 ただひとつわかっていることは、俺へのおもてなしを楽しんでるんじゃないってことか。

 なんか悲しいけど。

「あとパイとスポンジケーキの間に、つなぎのジャムを塗っておいたりとか……」

 表のいちごの表面に、刷毛でゼリーを塗って艶やかさをだしてみたりとか、頼んでもないのにそんなウンチクをくっちゃべってきた。

 相槌をうちながら適度にそれを聞き流し、ポットに入ったお茶をおかわりさせてもらう。

「これはお母さんも負けてらんないな~」

 キッチンからそんな言葉が聞こえてきて、仲原母がテーブルに晩飯を持ってきた。

「お母さんの料理も味見してくれない? デザートと前後しちゃったけど、まのちゃん実はいちご関係以外はてんでからっきしだし」

「ママ! バラしちゃだめって云ったでしょ!」

 真っ赤になって母に突っかかる仲原。

 ……こないだのゼラチンを思い出す。

 なんだ、一歩違えばひょっとしてエラいもん食わされることになってたのかよ、俺?

「女の子二人の手料理をいちどきに食べられるなんて、この果報者! ちょみっ」

 ムキになって怒る娘を意に介さず、奥さんはまたも俺をツンツクしてくる。

 いや仲原はきっと、俺への愛は込めちゃいないんだろうけど、多分。

 それにだ、あなたを女の子のカテゴリーに入れるのは、ちょっと無理が……

「……楢崎くん、涅槃って場所知ってる?」

「ありがたく頂戴しやす、奥様」

 だから目がマジ笑ってないって!

 っつーかこの奥さん、超ハンパねぇ。


 しかる後、ホントに仲原家の夕食にご招待されて、ゴチになってしまったものの。

 ……マジ美味かった。

 それと同時に、ますます俺の中の仲原母ビジョンは混迷の度合いを深めていったような気がする。

「なあ、仲原」

「なに?」

「……お前のママンって、一体何モンなんだ」

 今度はお父さんの顔を見てみたいぞ。




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【→】 11日目(6月03日) インタールード [2013/6/11 更新予定]

    10日目(6月02日) ストレンジストロベリーモア

【←】 09日目(6月01日) ストレンジストロベリー

ファンシーピンク

次回予告

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 ドドメ色の気分と呼応するように、空は雨雲をたたえている。

 暦の上では六月に突入、梅雨のシーズンもそろそろ近い。

 晴れてるのはあの現実逃避用モニターに映っていたモルディブの空だけか。

 っつーか夏きたら海に行きたくなるよな、単純にあんなもの見せられると。

 取りあえず今はパラついたりしないうちに、とっとと帰るのが吉だろう。

 そう思って帰りの道を行っていたが、ふと見慣れた姿を俺は見かけた。

「……はかはら?」


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■11日目(6月03日) インタールード

[2013/6/11 更新予定]






◆もくじ◆ [全28回予定]



●00日目(5月23日) 始まりは唐突に 〔水〕


●01日目(5月24日) 知りすぎた人 〔木〕


●02日目(5月25日) 君んちへ行こう 〔金〕


 ○03日目(5月26日) ※欠番 〔土〕


 ○04日目(5月27日) ※欠番 〔日〕


●05日目(5月28日) なにげないきっかけ、その後 〔月〕


●06日目(5月29日) ガーリィステップ 〔火〕


 ○07日目(5月30日) ※欠番 〔水〕


 ○08日目(5月31日) ※欠番 〔木〕


●09日目(6月01日) ストレンジストロベリー 〔金〕


●10日目(6月02日) ストレンジストロベリーモア 〔土〕


●11日目(6月03日) インタールード 〔日〕


●12日目(6月04日) 君をおかわりしたい 〔月〕


●13日目(6月05日) インタールード その2 〔火〕


●14日目(6月06日) ファニーピンク 〔水〕


 ○15日目(6月07日) ※欠番 〔木〕


●16日目(6月08日) ファンシーパンク 〔金〕


 ○17日目(6月09日) ※欠番 〔土〕


 ○18日目(6月10日) ※欠番 〔日〕


●19日目(6月11日) 勝手にしやがれ 〔月〕


 ○20日目(6月12日) ※欠番 〔火〕


●21日目(6月13日) ままならぬふたり 〔水〕


●22日目(6月14日) 俺なりの意思を持って 〔木〕


 ○23日目(6月15日) ※欠番 〔金〕


●24日目(6月16日) 艶姿の映える土曜の宵 〔土〕


 ○25日目(6月17日) ※欠番 〔日〕


●26日目(6月18日) ??? 〔月〕


●27日目(6月19日) ??? 〔火〕


●28日目(6月20日) ??? 〔水〕


●29日目(6月21日) ??? 〔木〕


●30日目(6月22日) ??? 〔金〕


●31日目(6月23日) ??? 〔土〕


●33日目(6月25日) ??? 〔月〕


●??? 〔土〕


●??? 〔土〕


●??? 〔月〕


●??? 〔火〕


●???

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