【ファンシーピンク】■06日目(5月29日) ガーリィステップ 〔05/28〕
◆あらすじ◆
毎日の学校生活を無為に過ごす、やさぐれ少年の楢崎くん。
ふとした事からブログで一人ファッションショーを公開する、いちご大好き少女・仲原さんの隠された秘密を知ってしまいました。
お互いの秘密を握り合う間柄になってしまったクラスメイト二人は、ひょんな経緯から渋々ながらブログの写真撮影をすることに。
日ごと移り変わる仲原さんの華やかな衣装(いちご柄)。
日陰者である二人が撮影を重ねる果てに、たどり着く終着点とは?
まるで定点カメラでいちご柄の部屋を観測するかのように贈る、やさぐれ少年&いちご大好き少女、水と油の二人が織り成すポップ&キュートかつストレンジ&キッチュ、あとプチアダルトな放課後の……そして青春の日々。
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■ファンシーピンク■
作品概要
・ここは私、岩男ヨシノリが執筆した小説「ファンシーピンク」を掲載するスペースになります(注:pixivからの転載となります)。
・手慰みのように執筆していたものを、この場を借りて発表することにあいなりました。眠れない夜の暇つぶしにでもしていただければ幸いです。
・基本一日イコール一話というペースで、さながら主人公の日記のように展開していきます。
そのため時系列的に、日付がたびたび飛びまくることになるのですが(例:03日目→06日目)、エピソードの順序が把握できない場合は後書きのもくじを参照くださいませ(もしくは各エピソードのキャプションに[*/28]との表記を設けておりますので、全体の進捗状況をそちらで確認いただけるようお願いします)。
・ご意見&ご感想、ファンアート、はたまたコラボ企画の提案などはお気軽にどうぞ~
どこかしらのコミュニティや評価スレッドへの推薦なども、ご自由に。
できるのであれば事後報告を後に頂ければ幸いです(なくても構いません)。
注)劇中の登場人物の極端な行動は、真似しないほうが賢明です。
違いのわかる方のみお楽しみください。
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■06日目(5月29日) ガーリィステップ■
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単刀直入に云ってしまうんだが。
一晩経過して、あんな安請け合いしてしまったことを醒めた頭で後悔した。
ノリとはいえ一時の気の迷いとはいえ、よもや仇敵の仲原と自分からよろしくやっちゃって。
こんないちごジャンキーと、なんでつるんでんだ俺。
いくらこいつとその愉快な常連どもに誉められても、ひび割れた携帯の液晶がもとに戻るわけでもなく。
依然としてもろもろの手数料の代金がバカ高いのも変わりない。
収入のない学生の小遣いが軽くスッ飛ぶ、手痛い出費だ。
来月原チャの免許取りに行く予定立ててたのに、せめてギャラくらい払え仲原。
矢野と共謀していた時ならまだしも、タダ働きなんて割に合わなさすぎじゃね?
四捨五入の四以下に取り組んだってどうしようもないのに。
なんでくだんない満足に、一緒になって盛り上がってんだか。
背後からの俺のため息は、前を往く当の彼女には届かないらしく。
対照的に、仲原の足取りはこれまでと違って心なしか軽やかに見えた。
自宅へのルートを先行する彼女、そして自転車を押して続く俺。
つかず離れずの、微妙な距離感は相変わらず不変のままである。
はたからどう見ても仲が良くなさそうなのは、まあ確かだろうな。
事実間違いじゃない。
しかし女の子のお部屋に上がり込むのがこんなに億劫というのも、贅沢な話なのかなんなのか。
――なんともイヤンな青春だなあ。
有志の方がいるのなら代わってやってもいいぞ。
俺以上に写真の腕が良かったら、という条件付きで。
動物園のニシキヘビ並に寝そべったまま動かない、番犬のとなりを行き過ぎ。
玄関をくぐり、三たび俺はあのいちごルームにお邪魔する。
このファンシーピンクな色合いももう慣れた、正直。
垂れ流すBGMのジャンルは相変わらずのラウンジポップ。
「しかしいつになくノリノリだな、仲原さんよ」
彼女はリハーサル的に、全身鏡の前でくるくると軽やかに回り、これからの自分の姿をイメージしては笑みを浮かべている。
「うん、ばっちり」
対照的に俺は不愉快満点ですよ、マジで。
横柄にもいちご柄の座布団にどっかとあぐらをかき、わざと悪態をついてやる。
「そんなに着飾って俺の前に見せるのが嬉しいのか」
「ううん、全然」
うわあ云いきりやがったよ、こいつ。
「んじゃなんでまた、俺なんぞに撮影頼むんだよ」
俺はお前の秘密を握り、それ以前にスカートの中身を盗撮した張本人なんだぜ?
呉越同舟にも程がある。
「だってこういったコラボレーションって、多少仲悪いくらいがカッコ良いじゃない?」
どこで憶えた持論だよ、そりゃ。
「それともなに? さっきから楢崎くん乗り気じゃないけど、こないだのアレって……もしかしてマグレ?」
いぶかしげに俺を見てきやがる仲原。
その言葉に再びイラッときた。
だからお前に見くびられるのだけは我慢ならねーんだよ!
「こないだも云わなかったか? この俺をそっち系だけの男と思ってんじゃねえぞ!」
荒々しく切って返すついでに、ミドルフィンガーを突きつけてやる。
「二ヶ年計画で南米にまで進出してやらあ! さあ、今日はなに撮るんだ?」
「その前に着替えるから、あっち行っててよ」
息巻く俺に対し、軽くあしらうような手つきの仲原。
野良犬レベルの扱いだ。
「よっし、さーて撮ろうかな~。今日も一日頑張りまっしょい」
そんな仲原の催促を無視して、いそいそとカメラの準備を始める。
「おい」
「なに遠慮はいらんぞ、容量が尽きるまで激写してやろうではないか。ささ、俺のことは信楽焼きの狸だと思って早ようヌギヌギしとくれや」
「気にするわ!」
「いやむしろ気にするな。楽屋オチショットは基本だぞ? これを用意せんと現場の楽しい雰囲気がリスナーに伝わらんだろが」
この仲原のヌギヌギするショットだ。
その筋の奴は辛抱たまらんじゃろ、たとえば矢野とかな。
「断固却下! 強権発動!」
「え~、だってほらこないだ云ってたじゃん! 撮影の為だったら脱いでもいいって!」
「云ってない!」
「いやいや血判状まで押してるの見たね! さあ撮らせろ、俺の為にな!」
その刹那。
仲原が床を蹴りあげて、中空を跳ぶのが目に入ったかと思いきや――
「いちごきっく!」
強烈な跳び蹴りがテンプルに直撃、俺は吹っ飛ぶ。
クリーンヒットだ。
「ふぐぁ!」
僕らの仮面ヒーローばりの必殺キックに、俺はあえなくお空の星となる。
ちびっこの癖になんて威力の跳び蹴りしてやがんだよ。
お前はどこの神奈川ナンバーワンPGだ、地上から一メートルは跳んでたぞ。
――ちなみに一瞬チラ見したが、今日も柄物だったのはここだけの内緒だ。
「てめぇ武力行使してくれやがったな! ここが治外法権なのをいいことに!」
強引に部屋の外へ蹴り出された俺に、奴はドアを固く閉める音で返す。
「もし着替え撮ってたりしたら、本気で殺すからね!」
そんなおぞましい一言が隔てた先から聴こえ、遅れて錠を掛ける音がした。
……あの跳び蹴りは戯れのうちにすぎなかったのかよ。
つくづくこいつの恫喝は効果絶大だな。
殺人すら容認とはいくらなんでも治外法権すぎじゃろ、ねえ?
しばしの間、締め出されるこの俺。
その間ずっと側頭部をドアに押し付けて、衣擦れの音に耳をそばだてる。
いまだ痛む、テンプルを押さえつつも。
閉ざされたヘヴンズドアの向こう側。
俺は妄想もたくましく、音を頼りに脳内ビジョンを目まぐるしく展開させていた。
だって気になるんだから仕方ないじゃん。
たまに妙な異音がしたりするのは、正直云って心臓に悪いんだが。
一体なにをやっとるんだか、こいつはよ。
あのちびっこが、覗きたいとか思わせるくらい可愛い事実は認めよう。
――不本意ながら百歩、いや一万歩譲ってだが。
初めて撮影したあの日を思い出す。
かわいらしく着飾って、俺の前でポーズを決める仲原の姿。
ちょっとムラムラしたというのは、まあ嘘じゃない。
もう少し色気を出してくれてもいいんじゃねえの? とか思ったりもするんだが。
バチは当たんないだろうし、ましてや減るもんでもないし――
そこまで考えたところで、ふとした考えが脳裏をよぎった。
「とりあえず入ってよ」
やがて扉が開き、催促する仲原に気づかれないように俺はほくそ笑む。
ああ付き合ってやろうとも、俺なりの流儀でな。
仲原の格好はこないだと変わりなく、以前の撮影に心残りがあるとかで、もう一度同じ物を撮れとか云ってきやがった。
いきなり萎える話だったが、事の主導権は向こうにあるのでしょうがない。
了承しておけば油断するだろうという目算も、多分にあるのだが。
――この俺の計画のために。
「しかしだな、このブログには大いに改善の余地がある」
俺は仲原の机の前に陣取り、モニタの前であのいちご色のブログを眺めつつも話を振ってやる。
しかしデスクトップの壁紙をいちご柄にカスタマイズしてるのはいいとして、PCの筐体やマウスまで同じ柄なのは如何ともしがたい。
どこで売ってんだよ、ネット通販か?
「なになに?」
思ったとおり、身を乗り出してくる仲原。
撮影に乗り気なフリをすると途端に食いつきが良くなるな。
実にわかりやすい奴だ。
「……お前って、せくしー度になんとも欠けるよな」
過去の更新の履歴を振り返りつつ、感想を述べてみた。
可愛さを前面に押し出す傾向は、飛び交ういちご柄から推して知るべしというところだが。
そろそろ色気の方も前面に押し出していい頃と思わないか?
「またいちごきっく食らいたいの? 楢崎くん」
……だから身構えるな跳びかかる体勢に入るな、仲原。
ムキになるのは図星だからか? などと勘ぐりたくなるが、今は半殺しにされかねん。
「武力に訴えるのやめれ、いつまでもキュート路線だとマンネリは否めないっつーとるんだよ、俺は」
口論を力ずくで制するきらいのある彼女を牽制しつつ、本題に持ち込む。
「ここいらでちょっと路線変更を視野に入れてはどうかと思ってな、せっかく新体制発足したんだしよ」
なんてもっともらしい理由を並べ立てて、俺は説得にかかる。
タダで撮ってたんじゃ割に合わないのは判ってんだ、ならばせいぜい撮って楽しむ方向にシフトしてくれるわ。
ちょうど夏の気配もそろそろ到来、薄着の季節だ。
露出を増やすのもいい頃合いじゃろ。
そんなきわどいものをナマで至近距離でとっくりと拝めるシチュエーションなんて、滅多にあるもんかよ。
いくらちびっこ仲原とはいえ、それはもういろんな格好を合法的に撮らせてくれるなら、毎日でもこのいちご部屋に通いつめてやるさ。
「さしあたっての目標は、クラス全員の男子をムラムラってとこか」
「なっ! ちょっと、やめてよっ」
露骨な拒否反応……というよりか羞恥心が勝った反応を彼女は見せる。
意外にも可愛い。
「お前悔しくないのか? 『ちょっとムラムラした』よりも『もっとムラムラした』とか云われたいだろ、内心見られたい属性の仲原さんよ」
クラス中の男子が同じ晩、一人のクラスメイトを肴に、そして……
想像してみると凄い話だな、ある意味ギネスに残るかもしれん。
「で、でもねっ……」
耳まで真っ赤にしながらも、人差し指を胸元でくるくるさせつつ、ぽつりぽつり仲原は漏らす。
「なんかその、Yシャツ一枚だけなのを四つんばいで後ろから撮るとか……ひ、紐みたいのだけとか、そういうのは事務所がNGとかなんとか――」
なにを妄想にターボエフェクトかけとるんだ、お前は。
それに事務所ってなんだよ事務所って。
「誰もそんな、露骨に扇情的な格好しろなんて云っとらんぞ」
――今はな。
この先の保障は俺もするつもりはない。
そもそも具体的な妄想出てくんのは内心、着てみたい意識のあらわれじゃねーのか。
「勘違いすんな、セクシー路線と着エロは別物だぞ? 云うなればオタクとサブカル狂ばりの格差ってところか」
「なに云ってるのかワケわかんないよ……」
オルタカルチャーに理解のないヤツだな、お前の生き様自体がオルタナティヴな癖に。
「もしかしたら常連の連中に『一皮むけた』『垢抜けた』とか誉められるかもよ?」
「そ、それは、まあ……」
おっ、脈アリとみた。
俺はニヤニヤ笑いをこらえつつも、逆にシリアスに顔を引き締める。
「任せとけよ、この俺が誰からも愛されるアイドルにしてやるぜ」
夜限定だけどな。
俺にかかればあんなブログ、R指定なんて軽くブッちぎってやるよ。
「……んじゃそのうち、ちょっとだけ」
いまだ照れは隠せないものの、仲原は肯定的な意思を見せてくれた。
――ふっ、堕ちたな仲原。
「まあ別に急がなくてもいいし、それは今後の課題として考えようや。さてと、今日もお前の一番可愛い顔をカメラの前に見せとくれ」
なおも続く笑みをこらえつつも俺は、カメラを携えて席から立ちあがった。
敢えて自分から話題を切り上げて、油断を誘ってみるのも戦略の一端にすぎない。
ここまでくれば、半分は条件をクリアしたも同然だ。
今のうちにせいぜい俺の手のひらの上で踊っているがいい、仲原!
そして再び、俺たちは撮影を始める。
この前と比べて明らかな変化を感じたのは、仲原の表情にずいぶんと硬さがとれたこと。
前回と同じ衣装なだけに、それがより際立ってみえる。
初めて撮った時からお互いの理解もだいぶ進んできたもので、リラックスした空気は意外な撮影結果をもたらした。
「なんか顔では笑ってても目が笑ってないよな、前撮ったヤツ」
「ほっといてよ」
今しがた撮影したものと前回の写真を見比べて、二人で笑う。
ポージングも余裕が出てきたのか、画像の彼女は実にのびのびとしている。
こうなると欲もでてくるというもので、仲原も前回では考えつかなかったポーズを提案してきた。
「こんな感じの画を撮りたい」
などとでっかいいちご抱き枕をきゅっとハグして、ベッドの上に座る。
「……お前絶対、世界で自分が一番可愛いとか思ってるだろ」
このナルシス娘め。
俺も内心ちょっと転びかけたのは敢えて内緒にしとこう。
変に甘やかすと図に乗るからな、この手のタイプは。
しかし後日いざ更新分をアップしてみると、その写真についての返信が一番多かった。
常連連中、君ら引っかかりすぎ。
俺もポーズのアドバイスという名目で、仲原をベッドの上で合法的に四つんばいにさせてみる。
ヒラヒラしたいちご柄のネグリジェの下から、ときおり覗く下穿き。
なにを穿いてるのか前回の撮影から疑問に思っていたんだが、これ幸いに後ろに回り確認させてもらおう。
「こんな感じでいいの?」
その下に穿くのは、いちご柄のかぼちゃぱんつ。
いちごなのにかぼちゃぱんつというのも、妙な話なんだが。
相変わらずガキ臭い趣味だけど、そのちっちゃい仲原のお尻に大きくふくらんだ見せパンに心ときめくのはなぜだろう。
ケツ派の俺のフェチ心をピンポイントでくすぐるフワフワモコモコに、思わず手を伸ばしてモフろうとしては、思い留まり引っ込める。
――その後の生命の危機を感じて。
いかん危ない危ない、一時の気の迷いが命取りになるぞ俺。
「後ろからジロジロ見ないでよ、えっち」
振り向いた肩越しに、そんな言葉を投げかけてくる仲原。
ほらな、考えたそばからこれかよ。
俺だってなにも学習能力がないわけじゃない、こいつのインファイト能力の高さを侮ってはならん。
まずスジがいい、そしてキレも違う。
むしろタイマン最強じゃね?
……国際ルールは違反してるけどな、こないだ目ぇ狙ってきたし。
人呼んで、デュエルプリンセス仲原(勝手に命名)。
そのうちカポエイラのヘジォナウの動きで翻弄してきたりしそうだ。
くわばらくわばら。
「今いい画が撮れそうなんだよ、動くな仲原」
とかなんとか云ってごまかしておく。
しかしこれは俺のツボに見事シュートだ、後で私的バックアップしとくか。
そして一連の作業も一息つき、俺は仲原邸を後にする。
例の犬は、今度はガレージの車の下に下半身だけ出して横たわっていた。
車検やってんじゃないんだから、誤って足元不注意で轢き殺されたりしないだろうな。
本人(人じゃないけど)はそんな心配なんぞ、きっと微塵もかけてないのだろう。
このアホ犬、なかなかズ太い神経してやがる。
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【→】 09日目(6月01日) ストレンジストロベリー [2013/6/4 更新予定]
06日目(5月29日) ガーリィステップ
【←】 05日目(5月28日) なにげないきっかけ、その後
ファンシーピンク
次回予告
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……しかしだ。
毎回ここにやって来る度に思うんだが、この犬って歩いたりするのか?
居眠りしてる姿しか見たことがないんだが、密かに死んでんじゃないだろうな。
ガレージにお邪魔して、冷たい床に横たわるその姿を確かめる。
――息はしているようだ。
毛皮の下は血色のいいピンク色の肌。
息づく度に上下してるお腹。
その姿に思わずモフりたくなり、まずは背中に沿って撫でてやる。
なかなか手触りのいい毛並み。
それにしても無意味に引き締まった、良いガタイしてるなこいつ。
いつしか犬は目を閉じてうっとりとした顔をしていた。
「おーおー気持ちいいか、ドミンゴス(仮)」
適当な名前をつけて呼んでやる。
しかもピクッと反応しやがったぞ。
やがて奴はもそもそと動いて姿勢を変え(っていうか動くのかこの犬!)、俺に向かって仰向けになりお腹を見せてきた。
――もっと撫でて。
無心に見つめるその瞳が語りかけている。
おおっ、ドミンゴス(仮)!
人と人が心を通わせた瞬間だった――犬だけどな。
俺は彼の無言のリクエストに応え、そのお腹に手を伸ばした。
ちょっと生暖かい。
こちょこちょしてる間、なぜかドミンゴス(仮)は決まって前足をぴんと伸ばす。
……なんで万歳してんだ、こいつ。
そして面白いことに撫ぜる手を離すと、その伸ばした両足で宙を掻く仕草を始めた。
――だからもっと撫でて。
舌を突き出して、はふはふと荒い息をつきながら俺にねだる。
うむ、流石アホっぽいぞ仲原ん家の犬。
撫でるのを止めれば、その度に奴は決まってまた、前足で中空を掻き催促する。
まるで新手のホビーのようだ、愉快よのう。
俺もドミンゴス(仮)の反応に気を良くして片方の靴を脱ぎ、今度は足の指でお腹をコチョコチョしてやる。
すると犬は突っ張った足の先端をピクピクさせて、盛んに尻尾を振るわせた。
恍惚に満ちたその表情。
もしかしてMっ気でもあるんじゃねえのか、この犬。
真性Sの主人とはまるで正反対な――
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■09日目(6月01日) ストレンジストロベリー
[2013/6/4 更新予定]
◆もくじ◆ [全28回予定]
●00日目(5月23日) 始まりは唐突に 〔水〕
●01日目(5月24日) 知りすぎた人 〔木〕
●02日目(5月25日) 君んちへ行こう 〔金〕
○03日目(5月26日) ※欠番 〔土〕
○04日目(5月27日) ※欠番 〔日〕
●05日目(5月28日) なにげないきっかけ、その後 〔月〕
●06日目(5月29日) ガーリィステップ 〔火〕
○07日目(5月30日) ※欠番 〔水〕
○08日目(5月31日) ※欠番 〔木〕
●09日目(6月01日) ストレンジストロベリー 〔金〕
●10日目(6月02日) ストレンジストロベリーモア 〔土〕
●11日目(6月03日) インタールード 〔日〕
●12日目(6月04日) 君をおかわりしたい 〔月〕
●13日目(6月05日) インタールード その2 〔火〕
●14日目(6月06日) ファニーピンク 〔水〕
○15日目(6月07日) ※欠番 〔木〕
●16日目(6月08日) ファンシーパンク 〔金〕
○17日目(6月09日) ※欠番 〔土〕
○18日目(6月10日) ※欠番 〔日〕
●19日目(6月11日) 勝手にしやがれ 〔月〕
○20日目(6月12日) ※欠番 〔火〕
●21日目(6月13日) ままならぬふたり 〔水〕
●22日目(6月14日) 俺なりの意思を持って 〔木〕
○23日目(6月15日) ※欠番 〔金〕
●24日目(6月16日) 艶姿の映える土曜の宵 〔土〕
○25日目(6月17日) ※欠番 〔日〕
●26日目(6月18日) ??? 〔月〕
●27日目(6月19日) ??? 〔火〕
●28日目(6月20日) ??? 〔水〕
●29日目(6月21日) ??? 〔木〕
●30日目(6月22日) ??? 〔金〕
●31日目(6月23日) ??? 〔土〕
●33日目(6月25日) ??? 〔月〕
●??? 〔土〕
●??? 〔土〕
●??? 〔月〕
●??? 〔火〕
●???