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26/28

【ファンシーピンク】■47日目(7月09日) それでも、君んちへ行こう 〔26/28〕

◆あらすじ◆

 毎日の学校生活を無為に過ごす、やさぐれ少年の楢崎くん。

 ふとした事からブログで一人ファッションショーを公開する、いちご大好き少女・仲原さんの隠された秘密を知ってしまいました。

 お互いの秘密を握り合う間柄になってしまったクラスメイト二人は、ひょんな経緯から渋々ながらブログの写真撮影をすることに。

 日ごと移り変わる仲原さんの華やかな衣装(いちご柄)。

 日陰者である二人が撮影を重ねる果てに、たどり着く終着点とは?


 まるで定点カメラでいちご柄の部屋を観測するかのように贈る、やさぐれ少年&いちご大好き少女、水と油の二人が織り成すポップ&キュートかつストレンジ&キッチュ、あとプチアダルトな放課後の……そして青春の日々。


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■ファンシーピンク■

作品概要


・ここは私、岩男ヨシノリが執筆した小説「ファンシーピンク」を掲載するスペースになります(注:pixivからの転載となります)。


・手慰みのように執筆していたものを、この場を借りて発表することにあいなりました。眠れない夜の暇つぶしにでもしていただければ幸いです。


・基本一日イコール一話というペースで、さながら主人公の日記のように展開していきます。

 そのため時系列的に、日付がたびたび飛びまくることになるのですが(例:03日目→06日目)、エピソードの順序が把握できない場合は後書きのもくじを参照くださいませ(もしくは各エピソードのキャプションに[*/28]との表記を設けておりますので、全体の進捗状況をそちらで確認いただけるようお願いします)。


・ご意見&ご感想、ファンアート、はたまたコラボ企画の提案などはお気軽にどうぞ~

 どこかしらのコミュニティや評価スレッドへの推薦なども、ご自由に。

 できるのであれば事後報告を後に頂ければ幸いです(なくても構いません)。


注)劇中の登場人物の極端な行動は、真似しないほうが賢明です。

  違いのわかる方のみお楽しみください。

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 あの後そのまま眠りこけてしまったせいで、寝覚めの悪い朝を迎えるハメになってしまい。

 今日も今日で、避けられないテストの返答を突きつけられる心情に呼応するかのように、空もまた淀んだ色を見せていた。

 いっそのことフケようかなんて考えたものの、今も耳に残る仲原の声が、帰り道に向く足を踏みとどまらせる。

 矢野にとっちゃ呼んじゃいないだろうし、仲原だってどこまで俺を必要としてるんだかわからない。

 後押しが欲しいのか、それともただの気休めしか求めていないのか。

 ただ見届ける義務がなかろうとも、部外者であろうとも、そこにいたかった。

 どうしてなのかはわからないけど。


 結論から云えば、予想外にテストの点数は良かった。

 赤点どころか全教科平均点の上をマークしている。

 サボり気味の態度が自分の危機感を煽ったのか、それとも撮影がてら仲原と勉強してたのが良かったのか。

 自宅じゃ気が散るが、仲原の家だと他にやることもないし。

 あのサイケ部屋でも集中できるようになってたのかよ、俺?

 自分の思う以上にあの場所に馴染んでいたのかもな、こんなことで実感するなんて皮肉なもんだ。

 ただ、後ろの席から仲原を見ていると、いまいち嬉しくないのも事実であり。

 黒板の前の彼女は、いつも以上に笑いのない顔をしていた。


 とても撮影がどうとかいうテンションでないらしく、期末も終わったというのに今日も別々の方向に帰る。

 ふと、あのレコード店の初回限定版の行く末が気になって、仲原邸の方向に折り返してみたものの。

 ――いつもの陳列に、俺の求めてやまない背表紙がない。

 ない。ない。ない。ない!

 ちょっと見ないうちに先を越されていたようで、へこむ気分を胸に自動ドアをくぐる。

 憂さが溜まる一方だ。

 あの時液晶が割れてなければ、今ごろ――

 なんて思っていると、その壊れた携帯の振動にふと気づく。

 着信がこうも続くのは意外だなんて思ったが、胸をよぎる予感に着信のボタンを慌てて押す。

「仲原?」

 割れた液晶に名前が見えなくても、その声の主が誰なのか、俺は確信していた。

 間違えるもんか。

『楢崎くん……? ぐずっ』

 俺の予感は当たっていたけど、第一声が嗚咽で始まるというのはさすがに予想できなかった。

「どうした仲原? どうしたんだよ!」

 思わず店先で声を荒げてしまい、口をつぐむ。

『あのね? あれからいろいろ考えてね? 好きとか嫌いとかいう前に……本当のあたしを知って欲しいって思って……』

 そして今度は、悪いほうの予感が胸に去来する。

 全身がざわついた。

『あのブログのこととか教えたら、矢野くんから「だまされた」とか、「ハメられた」とか云われて……えぐっ』

 その先からは、もう嗚咽しか聞こえてこなかった。

「なにやってんだよ、バカかお前は!」

『なにって……?』

 仲原は自分の行動に疑いすら持っていない。

 ――ああそうだよ。

 こいつを取り巻くのは、あの部屋がほとんどなんだ。

 それしかないんだ。

 突き放す言葉が、仲原の自立に繋がるんなら俺の出番はそこまででしかない。

 それは単に淡い期待だったのか、自分自身の云い訳だったのか。

 しかし結果として、俺たち二人は互いに苦い気持ちを噛み潰している。

 決してこんなことを望んでいたはずじゃなかったのに。

「……今どこにいる? 仲原」

 またも俺は、感情を押し殺した声で呟く。

 嗚咽の続く受話器越しに、なだめるように。

「どこにいるって聞いてんだよ」

『え、えっ? あ――』

 しかし俺の気遣いも空しく、変にどもる声が聞こえたかと思うと通話がブツッと途切れる。

 断続的に耳元で聞こえる、会話の終了を告げる音。

 その最中で俺も、自分の中でなにかがブッちぎれる音を確かに聞いていた。

 発作的に駐輪場へダッシュする。

 自転車のサドルに点々と浮いた水滴に、崩れる天気を予感した。

 やがて空は本降りになだれ込む。

 傘の用意なんて持ち合わせちゃいない、それでも俺は、ぺダルを漕ぐ足の速度を落とさなかった。

 スリップしてつんのめりそうになりながらも、俺は仲原邸の玄関先に到着する。

「すいません奥さん! あいつ帰ってますか!」

 そこのドミンゴス(仮)が飛び起きそうな勢いで、呼び鈴に応じた仲原母に尋ねる。

「あら楢崎くん、またずぶ濡れでどうしたの?」

 またってなんだよ? とか気になったけど先の返答をもらう方が先だ。

「だから奥さん、仲原……」

「まのちゃん帰ってないわよ? 最近なんか元気ないけど……どうかした?」

「帰ってないならいいです!」

 そう返事をよこして、また探しに行こうとしたが、

「……ちょっと落ち着きなさい、楢崎くん」

 奥さんの、その一言に引き止められる。

「まのちゃんのことお願いね。今あの子の心に一番届く言葉を伝えられるのは、きっと楢崎くんなんじゃないかな」

 優しい言葉に、ささくれた気持ちが平静を取り戻す。

「だから頑張んなさいな、少年」

 差し出した傘を渡して、小さく手を振る仲原母。

 そんなことをてらいもなく云ってのけられると、やっぱりこの人は相応に大人なんだな……などと再認識させられる。

 ちっちゃいけど。


 しかしなおも、激しさを増す雨に向かって、

「どこ行ったんだよ、あいつはよ!」

 などとヤケになって叫ぶしかなかった。

 普段学校とあの部屋でしか顔を合わさないせいか、仲原が行きそうな場所なんて全然わかりゃしない。

 仲原邸の近辺から学校の周り、俺の通学ルートまで遡ってみるが、それらしい姿なんて一向に見当たらなかった。


 あの衣装は、自分を守るための鎧。

 あの部屋こそ、自分らしくいられる居場所。

 いつから仲原がそんな振るまいを始めたのかは、わからないけど。

 安全地帯を見つけて、その中で自分に酔って、都合の悪いことをシャットアウトして。

 可愛らしい自分を誰かが見つめてくれたなら、あいつはきっとなにも要らなかったんだろう。

 そして本当に仲原の欲しかったものは、絵に描いたような彼氏彼女の関係なんかじゃなくて。

 コメント欄の文面以外の、ただ一言、リアルで自分を受け入れてくれる肉声の言葉だったのかもしれない。

 しかしそれは今、最悪のかたちで裏切られることとなった。

 装ったうわっ面の自分だけに、好意を寄せていた奴の口から。

 ……いつまでも、都合のいい世界に浸れるわけがない。

 そんなこともわかってなかったんだ、仲原は。

 築いた砂の城はもろく突き崩され、たった一言で全部を否定されて。

 俺みたいな奴にまで、みっともなくすがり付いている。

 ――どんなにコメント欄の賛辞を受けても。

 ――どんなに綺麗なドレスを着飾っても。

 彼女はパーティーの予定も相手もいない、ひとりぼっちのお姫様だった。


 正直自分のやってることなんて、代わりになる奴ならごまんといるんだろうけど。

 それでも俺は、今のポジションを明け渡したくないんだよ。

 だから――



挿絵(By みてみん)

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■47日目(7月09日) それでも、君んちへ行こう■


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 もう、どこまで走ったんだろうか。

 考え付く先を走り回り、行方の全てを辿って俺は、再び仲原邸の前に着いた。

 いちご部屋の明かりは依然として暗いままで、その結果に肩を落としながら、立ち去ろうとしたが。

 ――ガレージの隅。

 探し求めたその姿に、俺は名前を呼ぶ。

「仲原?」

 彼女は三角座りして膝を抱え、横たわるドミンゴス(仮)の背中をひたすら撫でていた。

 犬も気を遣ってるのか、それともなにも考えていないのか。

 押し黙ったままゆっくり尻尾を振っている。

「……楢崎くん?」

 すん、と鼻をすすり、その顔を上げる。

 目はそれこそいちごのように赤く、涙の跡がかすかに残って見えた。

 これがあのブログで華やいだ姿をみせる仲原だと、常連連中は到底信じないだろう。

 でも俺は見抜いてやるさ、誰よりも早く。

「どこ行ってたんだよ、バカ」

 初めは怒鳴ってやろうかと思ったが、精魂尽き果ててそんな気力もない。

 結果的に穏やかな口調になってしまった。

「云うだけ云って勝手に切んなよ、心配するだろが」

「だって、楢崎くんに泣いてるとこ見つけられたくなかったし……」

 そう云って下唇を突き出す。

 変なところで意地っ張りで、俺に泣きついてきたかと思えば、逆のことを云って振り回しちゃって。

 思わず苦笑いを浮かべる。

「それより家に入れ、降ってんだろ」

「……あの部屋に、今は戻りたくない」

 よく云うよ、あそこしか戻る場所もないくせに。

 なにも着飾るものもない、ありのままの彼女はその背丈以上に小さく見えた。

 ――これが、本当の仲原の姿なのか。

 こんなに消え入りそうで、か細い女の子が、いろんな殻の剥けた仲原なのか。

「いいから、今は風呂入って飯食ってさっさと寝ろっつうんだ」

 そして一晩ゆっくり考えろ。

 眠れない夜を過ごすのもこの際仕方ないし、一晩寝てケロリと忘れるのも構わない。

 ただ、あんな野郎の一言だけで自分自身を簡単に否定するのも――

「もういいでしょ!」

 俺の言葉が悠長に聞こえたのか、突然かんしゃくを起こす。

「もういいよ! どうせ、どうせあたしなんて、みじめで……変な子で……」

 たぶん何度目かなんだろう、再びぶり返してきた涙を拭いながら嗚咽を漏らしはじめる。

「――ああ、変だね」

 その言葉に一瞬はっと驚いたものの、彼女はすぐに恨めしそうな目を向けてきた。

 しかしそれに怯まず、俺は続ける。

「変だけどな、称えられていいことをお前はやってんだぜ? 今までサイトにあんなに人を集められたのは、お前の力がそうさせたんだ。仲原だけしかできないことなんだよ」

 俺は所詮、サブに回って見た目をちょっと良くしてやっただけだ。

 大それたことなんてそんなにしちゃいない。

「あのブログに来てる常連全員を裏切る気か? ここまでついて来てくれてんだぜ? お前を認めてくれる人間なんていっぱいいるじゃねえか」

「で、でも……」

 なおも煮え切らない返事ばかりの仲原に、思わず声を荒げてしまう。

「でもなんだよ? リアルでも見せつけてやりゃいいじゃねえか、それが本当の自分なんだろ! お前の欲しかったもんは見栄えのいい外ヅラだったのか? 俺はそんなチンケなもんの為に、これまで撮影やってたってのか? ふざけんなよ!」

 んな理由で納得するわきゃねえだろ!

 俺たちが積み上げてきたあの写真の数々を、虚飾なんていう一言で片付けるのか?

 お前が良くてもそんなこと俺が認めないぞ、全力で却下してやる!

「滅多にこんなこと云わないんだからな、よく聞けよ! 今のままのお前を認めてんだよ、俺は!」

 撮影してる以外の、普段の素顔も含めてな。

 でなかったら、ここまで必死に追っかけたりするもんかよ!

「そうだろ仲原! 仲原まのか!」

 念を押すように、確かめるように。

 まるで自分の中に刻み込むように、彼女のその名前を、俺は呼んだ。

 特別な、女の子の名前を。


 その後奥さんを呼び出して、ほうけた顔の彼女を無理やり家の中に押し込んでやる。

 仲原母の「おかえりなさい」の声が、妙に耳に残ったような気がした。





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――次回、ファンシーピンク最終回。


【→】 48日目(7月10日) この夏一番、風の強い午後に [2013/8/16 更新予定]

    47日目(7月09日) それでも、君んちへ行こう

【←】 45日目(7月07日) 彼女は時々スマイルレス

ファンシーピンク

次回予告

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 俺たちは、物言わず階段を降りていく。

 いつまでも自分の世界に篭っていられるわけがない、誰も彼もいつか、外の世界に向き合うべき時が来る。

 現実に。

 わかっていたはずじゃないのか、俺。

 おおよそこんな結末を迎えることになるなんて。

 矢野が好意を持ったのも、その装っていた外面が原因であるわけで、「裏切られた」とかなじられても仕方のない話だ。

 演じてるそんな自分に、責任持つようなことを考えもしなかったんだから。

 でも、どこか自業自得と切り捨てられないのは、何故なんだろうか。


 それはたとえ本物でも偽りだとしても、仲原がただひたむきに、熱っぽく撮影に取り組んでいたのは間違いなんかじゃなく。

 たまに見せる飾らない笑顔も、昨日流していた涙の熱さも。

 なにもかも、嘘なんかじゃないと知っているからだ。



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■48日目(7月10日) この夏一番、風の強い午後に

[2013/8/16 更新予定]






◆もくじ◆ [全28回予定]



●00日目(5月23日) 始まりは唐突に 〔水〕


●01日目(5月24日) 知りすぎた人 〔木〕


●02日目(5月25日) 君んちへ行こう 〔金〕


 ○03日目(5月26日) ※欠番 〔土〕


 ○04日目(5月27日) ※欠番 〔日〕


●05日目(5月28日) なにげないきっかけ、その後 〔月〕


●06日目(5月29日) ガーリィステップ 〔火〕


 ○07日目(5月30日) ※欠番 〔水〕


 ○08日目(5月31日) ※欠番 〔木〕


●09日目(6月01日) ストレンジストロベリー 〔金〕


●10日目(6月02日) ストレンジストロベリーモア 〔土〕


●11日目(6月03日) インタールード 〔日〕


●12日目(6月04日) 君をおかわりしたい 〔月〕


●13日目(6月05日) インタールード その2 〔火〕


●14日目(6月06日) ファニーピンク 〔水〕


 ○15日目(6月07日) ※欠番 〔木〕


●16日目(6月08日) ファンシーパンク 〔金〕


 ○17日目(6月09日) ※欠番 〔土〕


 ○18日目(6月10日) ※欠番 〔日〕


●19日目(6月11日) 勝手にしやがれ 〔月〕


 ○20日目(6月12日) ※欠番 〔火〕


●21日目(6月13日) ままならぬふたり 〔水〕


●22日目(6月14日) 俺なりの意思を持って 〔木〕


 ○23日目(6月15日) ※欠番 〔金〕


●24日目(6月16日) 艶姿の映える土曜の宵 〔土〕


 ○25日目(6月17日) ※欠番 〔日〕


●26日目(6月18日) ビキニ姿の君が見たいから 〔月〕


●27日目(6月19日) もっとビキニ姿の君が見たいから 〔火〕


●28日目(6月20日) 苺娘々。(すとろべりーにゃんにゃん。) 〔水〕


●29日目(6月21日) はれんちがとまらない 〔木〕


●30日目(6月22日) それなりのプチロマンス 〔金〕


●31日目(6月23日) ヤツの影、再び 〔土〕


 ○32日目(6月24日) ※欠番 〔日〕


●33日目(6月25日) ファンシーピンク 〔月〕



●38日目(6月30日) はれんちはおわらない 〔土〕



●45日目(7月07日) 彼女は時々スマイルレス 〔土〕


 ○46日目(7月08日) ※欠番 〔日〕


●47日目(7月09日) それでも、君んちへ行こう 〔月〕


●48日目(7月10日) この夏一番、風の強い午後に 〔火〕


●???

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