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【ファンシーピンク】■38日目(6月30日) はれんちはおわらない 〔24/28〕

◆あらすじ◆

 毎日の学校生活を無為に過ごす、やさぐれ少年の楢崎くん。

 ふとした事からブログで一人ファッションショーを公開する、いちご大好き少女・仲原さんの隠された秘密を知ってしまいました。

 お互いの秘密を握り合う間柄になってしまったクラスメイト二人は、ひょんな経緯から渋々ながらブログの写真撮影をすることに。

 日ごと移り変わる仲原さんの華やかな衣装(いちご柄)。

 日陰者である二人が撮影を重ねる果てに、たどり着く終着点とは?


 まるで定点カメラでいちご柄の部屋を観測するかのように贈る、やさぐれ少年&いちご大好き少女、水と油の二人が織り成すポップ&キュートかつストレンジ&キッチュ、あとプチアダルトな放課後の……そして青春の日々。


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■ファンシーピンク■

作品概要


・ここは私、岩男ヨシノリが執筆した小説「ファンシーピンク」を掲載するスペースになります(注:pixivからの転載となります)。


・手慰みのように執筆していたものを、この場を借りて発表することにあいなりました。眠れない夜の暇つぶしにでもしていただければ幸いです。


・基本一日イコール一話というペースで、さながら主人公の日記のように展開していきます。

 そのため時系列的に、日付がたびたび飛びまくることになるのですが(例:03日目→06日目)、エピソードの順序が把握できない場合は後書きのもくじを参照くださいませ(もしくは各エピソードのキャプションに[*/28]との表記を設けておりますので、全体の進捗状況をそちらで確認いただけるようお願いします)。


・ご意見&ご感想、ファンアート、はたまたコラボ企画の提案などはお気軽にどうぞ~

 どこかしらのコミュニティや評価スレッドへの推薦なども、ご自由に。

 できるのであれば事後報告を後に頂ければ幸いです(なくても構いません)。


注)劇中の登場人物の極端な行動は、真似しないほうが賢明です。

  違いのわかる方のみお楽しみください。

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挿絵(By みてみん)

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■38日目(6月30日) はれんちはおわらない■


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 人知れず起こっていたという、顔面ボコボコ事件。

 その傷も完治して、今日ようやく最後の絆創膏を引っ剥がすことができた。


 仲原と一緒に撮影を繰り返していたら、いつの間にか終わっていた梅雨の六月。

 今日がその最終日である。

 しかし俺みたいな一般的学生の身分となると、ヘラヘラしながら七月を迎えるなんて気分には到底なれそうにない。

 目下懸案事項、期末テスト。

 土曜の授業も終わり、半ドンの午後。

 次に学校に登校する時は、もう試験は始まっている予定なんであり、この土日がデッドラインと言っても差し支えない。

 故に仲原の撮影やってる余裕なんぞ皆無であるんだが。

 あのドレスの撮った日から一時撮影中断してるにも関わらず、なぜか俺が仲原邸に通い詰める状況は変わっていなかった。

「……なんか落ち着かないの」

 テスト開始日に近づくにつれ、仲原の機嫌は目に見えて悪くなっていっている。

 なんだよあの日か? とか突っ込もうとしたのだが、せっかく顔面の怪我が治ったのに傷痕を上乗せするのもアレなんでヤメといた。

 原因を聞いてみると、まるでなにかの禁断症状とか起こしそうな表情で、

「とりあえずいつでも撮影できるように、リビングにいてて」

 なんていう指令が下ったため、俺はしぶしぶ仲原邸に通い詰めている。

 相変わらず訳のわからん奴だな。

「早く撮影したいの、ブログの皆もあたしを待ってるの」

 常連の「更新まだなんですか?」という書き込みが、欲求不満に拍車をかけているらしい。

 まあ下手に逆らおうもんなら、いつぞやのカリビアン拳法の餌食にされそうでかなわん。

 くわばらくわばら。


 実際このリビングは、作業に集中できる環境だったりする。

 自分の部屋だと、ついつい理由もなくマンガ本を全巻読破とか部屋の掃除をしたくなったりしそうなんだが、ここには無駄なものがないし。

 なによりあの仲原母の監視の目が光っているため、余計なことはできそうもない。

 今はおかずの材料買いに行ってるらしいが。

「ちょっと買い物行って来るから、それにあの仔の散歩もついでにね?」

 あの犬って本気で散歩とかすんのかよ?

 一瞬耳を疑う発言を残し、奥さんは出かけていった。

 気になってガレージを覗いてみるも、常に寝そべっているドミンゴス(仮)の姿は見当たらない。

 あの犬が歩いているその真実。

 これは見なかったことにした方がいいんだろうか?

 きっとそうだ、絶対そうだ。

 ツェー万賭けてもいい。

 ――あまり深く考えるのもなんだし、いちごアイスティーに一口つけながらも、俺は参考書に向き直った。

 半ば現実逃避気味に。

 これの飲み放題無料サービスまであるあたり、勉強するには理想的すぎる環境なんじゃなかろうか?

 なんて思いながらも、チンタオからのノートのコピーを眺めつつ、第一日目のテスト範囲を参照する。

 達筆なわりに相変わらず誤字が多いのは云うまでもない。

 ちなみに初日は、世界史と数学という最悪の組み合わせだ。

 もうちょっと気を利かせてくれてもいいんじゃねえの、なんて思っていたが。


「楢崎く~ん!」

 おもむろにドアから参上したその人を見て、思わずグラスの中身を噴いた。

 みつえさん――もとい仲原母である。

 しかしいつものエプロン姿かと思いきや、なにを血迷ったのかうちの学校の制服を着込んでいるではないか(ちなみに夏服)。

 半袖カッターシャツとサマーセーター、そして丈の短いミニスカート。

 そしてご丁寧にもツインテールに髪型をセットしてる徹底振りである。

 小学生並みの娘よりも低い反則的な身長に加え、およそ人妻と思えない童顔ぶり。

 まったくもって現役で通用しているのが、そら恐ろしい。

「ゲヘッ、ゴホッ……!」

 なんて風営法違反手前の仲原母の姿を確かめるのは、しばし咳込みに苦しむ時間の後であった。

「楢崎くん、だいじょぶ?」

「な、なにやってんすか、奥さん?」

 あんた買い物行ってたんじゃないのかよ!

 あまりにも突き抜けすぎた――っていうか、なにかを軽くブッちぎった状況のさなか、鼻からたれるものを拭いつつも尋ねてみる。

 っていうか納得いく解説して下さい、マジ頼んます。

「ん~、なんかひまだったから」

 ……前言撤回します。

 この人にまともな理屈を求めたのが間違いでした。

「だって楢崎くん、まのちゃんの写真撮るの随分上手くなってるじゃない? こんなに綺麗に撮ってもらえるのって、うらやましいな~って、ね?」

 などと年甲斐も関係ないような、ちょっとギリギリアウトな格好で誇らしげに胸を張る。

 ――一瞬、ちょっと揺れた。

「だからお母さんも、楢崎くんの勉強の休憩がてら、ちょっと撮ってほしいな~とか思っちゃったりして」

 俺の意向なんぞまるっきり無視したリクエストを述べた後、わざとらしく、くるんと一回転してみせる。

 およそ人妻と思えないほど細い素足と、プリーツのスカートがひらりと翻った。

 色々な意味で、いけないものを掻き立てるのは気のせいなんでしょうか奥さん。

「うん、ばっちり」

 なんて娘の口癖を真似してみせる。

 どこがバッチリなんだよ。

「奥さん、その制服って仲原さんの奴ですよね?」

 あんた娘の物品、勝手に強奪してきたのかよ?

 年頃なんだからプライバシーとか敏感な、デリケートな年齢だろうに……とか思ったが、この奥さん相手に真面目に論じても無駄のような気もする。

 ツェー万賭けてもいい。

「今まのちゃん、集中したいとか云って客間で勉強してるから。密教の修行僧ばりに気が立ってるし、声かけないほうがいいよ?」

 妨害すると後が怖いわよ~、なんて仲原母は茶化してくる。

 客間っつーと、あのパンク衣装の撮影とかやってたり、俺がこないだ全裸で寝てたあの部屋か。

 仲原のいちご部屋はただいま無人状態であり、カメラや衣装の一つや二つ拝借するのもワケない話だそうであるが。

 ……なんて母親だよ、この人。

 ただ俺だってそんな余興やってる余裕なんてないし、仲原に黙って撮影やってるなんて知れると「いちごチャランボ!」とか半殺しにされそうでならん。

 ガクガク。

「あのですね俺、月曜からテスト始まるんすよ?」

 強制的に休憩って、それ意訳すると「サボリ」ってことじゃないのか?

 普段からろくでなしの癖になに云ってんのとか思われそうだが、俺だって流石に補習だけはご勘弁願いたい。

「それに仲原さんも真剣に勉強やってんのに、俺だけこんなことやってんのも……」

 とか云いかけた矢先、おもむろに仲原母は低い声を作り、

「『……いい夢見ろよ、仲原』」

 その声マネに思わず噴いた。

「あの時の楢崎くん、とっても可愛かったよね……? ちょみっ」

 なんて云って、暗に脅迫を示す意思を込めて俺をツンツクしてくる。

 指先が妙に痛かった。

 ううわっ、恥づっ! 俺恥づっ!

「……承知しやした、謹んで撮影させていただきやす。奥様」

 俺に拒否権なんぞ存在しないということか。

 謎の病気うつされたり脅迫のタネにされたり、マジあんなことすんじゃなかったよ。


 今週月曜のドレスの撮影ぶりに、久々の撮影はこうしてスタートした。

 ……いちごゼリーパイ以来にリビングでの撮影とか、そもそも被写体からして違ってたりとか、えらい変化球なんだけどな今回。

「そんじゃま奥さん、撮りますよ?」

 制服姿の仲原母に合図を送る。

 このイメクラ紛いのシチュエーションに関して、これまで相当撮影を重ねてきた俺でさえも違和感バリバリなんだが、あんま深く考えるな俺。

 ここはネヴァーランドで治外法権の仲原邸なんだ。

 今に始まったことじゃないだろ、自分。

 なんていう水面下の葛藤がありながらも、俺は奥さんに向かってシャッターを切り続ける。

 奥さんもまるで臆すことなく、学生鞄(やはり仲原の私物)を手に登校前の一ページを演出してみたり。

 まるで緊張や動揺のかけらも見せないのが、なんともはや。


 液晶画面越しに、仲原母を凝視してみる。

 なんだかんだでこの奥さんと、これまで親交を深めてきたもんだが、改めて向き合うと謎すぎる人だよな。

「どうせだから、普段まのちゃんが撮らないようなのを撮ってみない?」

 なんて提案して、ソファにごろんして足をプラプラさせながら、雑誌を読みふけるふりをしてみせる。

 まるで無防備な子供のような仕草。

 しかし、丈の短いプリーツスカートから覗く太股の肉付きと、うっかり下着の見えそうな危うさが扇情を掻き立てる。

 このみつえさんの考えることなんだから、たぶん計算づくなんだろうが、俺だって十代半ばのいたいけな若者なんであり。

 罠だと理解はしていても、思わず注視せずにはいられない。


「奥さん、あのブログ見てたんですね」

 仲原母の取るポーズは的確で、俺がこれまで撮ったことがないと思わせるような提案を次々してみせる。

 これはよほど熟知していなければ出てこない発想だろう。

「そりゃね、愛しの娘が頑張ってるんですもの。応援しないわけにはいかないでしょ?」

 結構なところまでチェックしていると、奥さんは豪語する。

「楢崎くんも、まのちゃんのわがままに毎回付き合わさせてごめんなさいね。こないだ風邪までうつしちゃって……」

「いや、別にかまわないっすよ? 俺だって、撮った写真誉めてもらえるのは嬉しいですし」

 今も集中できる環境で勉強させてもらってるし。

 なんて云ってみると、仲原母は俺の背中をバンバンと叩いてきた。

「んもう、やっさしいんだから! そうだ。期末テスト終わったら、一度楢崎くんちにご挨拶に伺ってもいいかな? お茶菓子持って」

 色々お世話になってるし、なんて奥さんはニコニコ顔で提案してくるが……

「いや、別にいいです」

 俺だって、このみつえさんとの付き合いは短いわけじゃない。

 その瞳に灯る、どこか邪な眼光。

 これはあれだ。

 いったん敷居にあげたら最後、俺の部屋までガサ入れされた挙げ句、エロ本の隠し場所とか全部暴かれそうだ。

 ツェー万賭けてもいいぞ。

「え~、つまんな~い! ぷー」

 どこか子供のように、みつえさんは口を尖らせる。

 ぷーって、あんた立派な大人だろ。


 そんなやり取りを繰り返しながらも、撮影はなおも進んでいく。

「いやんもう、綺麗に撮れてるじゃないのよう」

 カメラのプレビューをチェックしつつも、奥さんはその出来映えにご満悦のようである。

 その姿を見て、こちらも安堵の溜め息を漏らす。

 俺も内心、手汗が滲むほどのプレッシャーを感じていたのはここだけの秘密だ。

 この人相手に滅多なモン撮った日には、後々えらい目に遭わされかねん。

 しかし俺の心中空しく、たとえどんな努力をしようとも、えらい目に遭わされるシナリオに変更はないらしかった。

「楢崎くんって……」

 やけに沈んだトーンで、奥さんは切り出してきた。

 いつもはっちゃけたテンションからは、想像もできないくらいの声色。

 俺もただごとではない空気を悟り、思わず傾注してしまう。

「楢崎くんって、まのちゃんのいろんな格好見せられても……見てるだけなんて、ほんとに大丈夫?」

 さも可哀想な目でこっちを見てくる。

 奥さんの持つカメラの液晶には、いつぞやの水着やチャイナドレスの、扇情的なプレビュー画面が映っていた。

「いやあの、なんすかその心配!」

「そういやお見舞いに来たときも『……いい夢見ろよ、仲原』とか云いながら、我慢できなくなってチューしようとしたんだよね?」

 奥さん、それめっさグサッとくるから。

 蒸し返すの本気でやめれ、頼む。

「お母さん知ってるわよ! 楢崎くんぐらいの年頃の男の子って、一日一回必ず出さないと死んじゃうんでしょ?」

「なにを出すんすか、なにを!」

 えらいこと云ってきやがるこの奥さん。

 それはまあ俺だって、うら若き十代半ばのいたいけな高校生なんであり。

 幾度となく扇情的な格好の仲原を前に、ヌード撮影の期待とか、生殺しな思いを味わい続けてきたもんだが。

 それでも俺がこれまで間違いを起こすことがなかったのは、己の命が惜しいからなんだよ。

 勘違いしてもらっちゃ困る。

「よし、色々頑張ってる楢崎くんに、お母さんが出血大サービス!」

「は?」

 俺に対する唐突なねぎらいに対し、思わず聞き返してしまう。

「お母さんが楢崎くんの、いちばん撮りたいの着てあげる!」

 唐突どころか飛躍しまくったその提案に、開いた口が塞がらなかった。

 年甲斐もなく娘の衣装を着込むのに、この奥さんは躊躇が微塵も見られない。

 なんだそりゃみつえさん!

「どれでもいいわよ~、これまで色々撮ってきたの、楢崎くん覚えてる?」

 その言葉にしばし、沈思黙考してみる。

 ネグリジェ、カントリー娘(この奥さんのお古)、ロリータ、パンク。

 ワンピース、浴衣、ビキニ(ピンク&黒)、チャイナドレス、んでこないだのラメ入りドレスが最新作なんであるが。

 ……うっわ悩む、すっげー悩む!

 俺は思案中の体勢のまま、眉間も険しく悶え苦しみ出す。

 この中から一択選べってのかよ、っつーかどれも捨てがたいぞ!

「あ、でも、ちょっと着れないのもあるから、そこんとこよろしくね?」

 などと思い出したかのように、仲原母は心中ひっかき乱す発言してくれる。

「なんでなんすか?」

「胸がきついから」

 その一言は、苦悶の俺をますます悶えさせた。

「うあぁああ……!」

「決まんないんなら、適当にチョイスしてくるからね~、楢崎くん☆」

 青臭い少年のハートをさんざん弄んだ末に、制服姿の奥さんはリビングから立ち去ろうとする。

「ちょっ、みつえさん! 待っ……!」

 その独断専行に待ったをかけようとしたものの、立ち止まってくれるキャラなわけがない。

 残された俺は、またも頭を抱えて唸るしか道はなかった。

「うあぁああ……!」

 誰もいないリビングに、俺の慟哭がこだまする。

 アレとかコレとか、今のうちにリクエストしときゃ良かった!

 ひでえ、ひでえっす奥さん!


 とりあえず広げたノートに向き直り、気を紛らわせようと試みるが。

 ……落ち着けるわけないじゃん。

 いくら平静を装ったとしても、自家発電できそうなほどの貧乏ゆすりが、俺の偽らぬ心情を如実に示していた。

 奥さんと仲原の身長は、仲原が若干高いくらいで、衣装が相互互換きくのは先の制服姿を見ても理解できるんだが。

「胸がきついから」って推定Eカップの仲原の衣装が無理だとか、あの奥さん一体どんな体型なんだよ。

 そういやチャイナドレスの時、既に「胸が邪魔」とか仲原云ってたよな?

 あれはひとまず候補から消えたとして――

「楢崎くん、おっ待たせ~!」

 俺の苦悩なんぞ知ったこっちゃないという感じで、二階に消えた仲原母が戻ってきた。

 なんかえらい時間が経過していたような気がするな。

「――浴衣ですか」

「浴衣です」

 奥さんは即答した。

 いたいけなグリーンボーイのハートを散々もてあそんだ末のセレクトは――浴衣だった。

 ファンシーピンクの薄い布地と、思わず目を引く真紅の帯。

 そしてアップにした髪と、いつか着付けした仲原と同じスタイルを踏襲しているものの。

 半月前の娘の時とは、一味違った魅力に溢れていた。

「変じゃない? おかしくない?」

 などと奥さんはいつぞやの、うろたえた娘の台詞を真似てくる。

 無論この人に限って、そんな狼狽なんぞしてるわけがない。

 あんた自慢したい気バリバリなんじゃん。

 変です、あなたが太鼓判レベルで激しく変です。

「いや、別に変じゃないっすよ」

 ――しかし俺に、その言葉以外の選択肢は許されない。

 その裏付けとして、奥さんの目は決して笑ってはいなかった。

 こんな仲原母相手にウケを狙えるほど、俺だって愚かしくはない。

 ガクガク。

「浴衣ダイスキ楢崎くんの為に、お母さん出血大サービス!」

「勝手に人の嗜好を決めないでくださいよ」

 まあ、おおよそ間違ってちゃいないんだけどな。

 チンタオとか呼んでくりゃ良かったんだろうか、これ?


「ほらほら~、さっさと撮影始めちゃいましょ?」

 とか奥さんは、俺をこないだの和室に誘ってくる。

 滅多に入ることのない、畳敷きの部屋。

 だが幽霊さんもとい、いちごの神様とかたまに出入りしたりしてるのは、ここだけの内緒だ。

 しかもノリノリで。

 そういやあの時の撮影、後で仲原と一緒に夏祭りに行ったりしたんだよな。

 んでラストに鼻血とか出してたりして。

「そういや、奥さん」

 俺は無理を承知で、些細かつ大いなる疑問をぶつけてみた。

 この奥さんは昔、よいではないかゴッコを容認発言してたよな。

 ならば今も、浴衣の下は……

「……穿いてますか?」

「ないしょ☆」

 人差し指を唇に押し当て、可愛くウインク。

 その奥さんのずるっこい仕草は、俺をますます悩ましく悶えさせた。

「うあぁああ……!」

 再びリビングに、俺の慟哭がこだまする。

 もう生殺しだよ生殺し。

「さあ楢崎くん、撮影撮影っ」

 仲原母はそんな俺に目もくれず、いちご柄の座布団の上に座り、たおやかそうなポーズを作ってみせる。

 脚を横に重ねるような、いわゆるお嬢さん座り。

 浴衣の裾から白い素足が覗く。

「オトナっぽく撮ってね?」

 いちごの絵の団扇で口元を隠しつつ、甘い声でリクエストしてくる。

 その仕草はちょっと、くらくらしそうな魅力に溢れていた。

 ……たとえ隠した口元が、意味ありげな含み笑いを浮かべていたとしても。

「あ、もうちょっとせくしー度をあげた方が、ギャラリー受け良かったりする?」

 などと浴衣の裾をさらに広げて、健康的な色っぽさを演出。

 仲原母の太腿とふくらはぎは、高校生のいる人妻と思えないほど伸びやかで。

 つま先に並ぶ指先は、まるで幼児を思わせる程に小さかった。

 俺はまるで、仲原母に魅入られたかのように、次々シャッターを切り続ける。

 ――すいません奥さん。

 なんか色々たまんないです。


「楢崎くぅん……」

 などと奥さんが俺を呼ぶその声も、どこか艶めいたもののように聞こえる。

 しかし、どこか熱に浮かされたような気分も、次の言葉で半分醒めた。

「――ぬ、ってこないだ云いかけたのって、なんだったの?」

 その質問に噴いた。

 っていうかだ、なんでそんなこと知ってんだこの奥さんは!

 地獄耳なのは娘だけにしてくれ!

「『ぬ』で始まる言葉ってそんなにないよね、楢崎くん?」

 その先を知ってるくせに、わざとらしく追求してくる。

 団扇で隠した口元に、ニヤニヤ笑いが見て取れた。

「あのね、楢崎くんが撮りたいんだったら、脱いでも――いいよ?」

 などと衝撃の決意表明の後、俺に背を向けていそいそと、浴衣に手をかけ始める。

「お、奥さん! ちょっ」

 大して仲がいいとは云えないクラスメイトのお母さんが、何故かストリップを展開してるこの状況。

 ――なんなんすかこれ。

 教えていちごの神様。


 浴衣は脱げやすい構造をしてるらしく、逸る心境そっちのけの早さで、するっと帯が畳の上に落ちた。

 しかし俺の顔を伺うような、焦らすような進行の遅さ加減が、なんとも悩ましい。

 この奥さん、ストリップの何たるかを心得てるだろ絶対。

 ツェー万賭けてもいい。

 ただみつえさんは、サプライズとかも巧みに盛り込んでくれるキャラしてるらしく――

「キャストオフ!」

 唐突にファンシーピンクの浴衣を脱ぎ捨てて、誇らしげにその下を俺に披露してくれた。

 薄地の浴衣がふわり、と音もなく畳敷きの床に着地する。

 その下の裸身は、俺の想像とちょっと違ったりしたものの、視線を釘付けにするには充分だった。

「こんなサービス、滅多にないんだからねっ!」

 どこぞの歌姫みたいな決め台詞。

 脱ぎ捨てたその下には、いつか撮影したファンシーピンクのビキニ。

 この奥さん、最初から見せつける気満々だったんだろ?

 とか突っ込みたくなるが、それでも豊かな体つきに注視せずにはいられない。

 仲原もそうだが、この奥さんも小学生くらいの背丈のわりに、出るとこ出てて細いとこは細いようだ。

 っていうかその胴の細さは、高校生の娘のいる母親のものじゃないだろ、正直。

 肋骨の一本二本、手術して取ってんじゃなかろうか?

 ――そして。

 全体的に小柄なつくりの、身体のパーツの中で不釣り合いに大きい箇所。

 まるで年頃の少女みたいな張りを保ちつつも、はちきれんばかりに大きい胸。

 白桃のような白さの、持て余し気味のそれが、まるで俺に向かって自己主張するかのように突き出している。

 仲原といいこの奥さんといい、もうちょっと身長に栄養がいかなかったんだろうか――

「なにか云ったカナ? 楢崎くん」

「いえいえ、なにも」

 だからカナってなんだよ、カナって。


「うん、ばっちり!」

 などと娘の口癖を真似しながらも、奥さんは目のやり場に困る水着姿を確認する。

 ただ己を疑わないその口調が、仲原と大きく違っていた。

 揺るぎのない自信満々なポーズを決めてくるが、それに反して些細な動きにも大ぶりな胸がふるん、ふるんと揺れる。

 かねてより仲原が勝負用に用意した疑いのあるちっちゃい水着だが、奥さんが着用すると胸を保持してるよりは、ただ布が胸に乗ってるという方が適切と云えた。

 ――横乳と下乳はみ出てるし。

 俺はというと、直立姿勢で局所的な変化を悟られないよう、男の子ならではのポジション取りにただ必死であった。

 いや、布面積の少ないこのみつえさんを目前にして、平静を保っていられる野郎がいたら、間違いなくED確定であろう。

 この人相手に露骨な前屈みでもしようもんなら、未来永劫それでいじられかねん。

 ガクガク。

「ねえねえ楢崎くんっ、お母さん実はカラダ軟らかいんだよ?」

 などと片足立ちで、器用にもY字バランスを披露してみせた。

 この辺の妙な芸達者ぶりは、間違いなく娘に受け継がれているよな。

 とか思った矢先に、一本足がおぼつかずにグラグラし始める。

 やがて、どや顔のままで奥さんは後ろに傾いて――

「危ねっ!」

 考えるよりも先に飛び出していた。

 そしてコケそうな仲原母を、すかさず受け止める。

 間一髪だった。

 ここでキャッチしなかったら、俺は後頭部を強打した奥さんを前に取り乱していることであろう。

 変なウケを狙って失敗こくのも、しっかり仲原家の遺伝情報に織り込まれているらしい。

「……楢崎くんっ」

 みつえさんは実際に抱きとめると、その小ささが実感できた。

 腕の中にすっぽりとおさまるくらいの体格に、すべすべの肌の感触とたっぷりした量感が――

 え、量感?

「右手、触ってるよ……?」

 指摘を受けるまで気づかなかった。

 俺の右手は、奥さんの豊満な胸に指を埋め込むようにして、触れていた。

 掌にのしかかる確かな重量感と、押し返すような張りの良さ。

 その深く、どこまでも沈み込む軟らかさに、動揺のあまり硬直してしまう。

「お、おくっ、さ……」

 この時、俺は気づいていなかった。

 仲原母の潤んだ瞳が、どこか違うものを見つめていることに。


「ママ~、お茶淹れてくれる~?」

 そしてよりによって、このタイミングで闖入者が乱入してきやがった。

 余人の介入を許さぬ勉強部屋へこもっていたはずの仲原、その人である。

「氷ちゃんと、入れて……」

 勉強疲れの残る顔は、なんとも云えない表情ですぐに固まった。

 畳の上に脱ぎ散らかされた浴衣。

 そして水着姿の奥さんの胸を揉んでいる俺。

 これはもう、まったくもって――

「な、な、なにやってるのっ、楢崎くん!」

 非難は俺に向けられていた。

 まあこの体勢は、いかような誤解を受けてもしょうがないかもしれないが。

「あのねまのちゃん! これは全部お母さんが悪……」

 奥さんは俺の腕の中から、身を起こそうとするものの――

 ここで予期せぬ悲劇が待っていた。


 俺の左手の、指に絡まる水着の結び目が、引っ張られるようにしてほどけて。

 まるで弾き出されるように、ぷるっ……と揺れて二つの胸が躍り出た。

 補正もなく本来のかたちを取り戻したそれに、思わず目を奪われてしまう。

 まぶしいくらいの肌の白さと、ツンとしたファンシーピンクの先端に、

「見え――





 それは遠い昔日、愛しりそめし頃。

 熱い砂浜と、灼け付く日差し。

 ふたりが出会ってはじめての、暑い夏の一ページ。


 まぶしい太陽を遮るその影。

 見開く目には、水滴を滴らせるあの人の瞳。

 虚脱した自分を抱える、逞しい彼の腕。

 やがてわたしは、溺れる波間から助け出されたことを知る。


 人工呼吸。

 それが二人の、初めての口づけだと知り、青白い顔に紅がさす。


 誰にも知られることのない、小さな恋。

 お姫様抱っこのわたしは、彼の胸に顔をうずめて、いちごみたいな赤い頬を隠す。

 星空のきらめく夏の夜、月に見守られるふたりはその夜……





「いっ痛ぅ!」

 もう少しまどろんでいたかったものの、頬に走る激痛が必要以上の気つけになった。

 飛び起きるも、部屋の違和感に戸惑う。

 ――自分の部屋じゃない。

 俺はまたも、あの客間でぐっすり寝ていたらしい。

 ふと自分の顔に触れると、先の鈍痛と共に妙な手触りを感じた。

「絆創膏?」

 おもむろに鏡を覗きこみ、すごい数の傷痕を確認したんだが。

 なんだよ、またか?


 その後仲原が起こしに来て、俺はまた眠っていたのを知る。

 なんでもテスト勉強を仲原邸でしていたらしいのだが、俺そんなんやってたっけ?

 それにスッゲー惜しいものを忘れてるというか、そんな気分なんだけどなぜか思い出せない。

 身もだえするほどの隔靴掻痒。

 わけもなく生殺し状態に置かれてると思うのは、俺の気のせいなのか。

「仲原よ」

「なに?」

「……月曜のテスト範囲って、古文と物理だったっけ?」


 その後俺がきちんと記憶を取り戻すのに、また幾らか悶着あったりしたのだが。

 遠くから俺を見守っていた、仲原母の視線が妙に熱を帯びていたことを、ついでに付記しておく。

 ……なにがあったんだろうか?





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【→】 45日目(7月07日) 彼女は時々スマイルレス [2013/8/9 更新予定]

    38日目(6月30日) はれんちはおわらない

【←】 33日目(6月25日) ファンシーピンク

ファンシーピンク

次回予告

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「ナラやんこそ、あのいちご大好きっ娘はどないしてん? こないだ久しぶりにブログ見たけど、随分写真のクオリティ上がってたな」

 それを聞いて、隠し切れないくらいの笑いがこみあげる。

 悪いな、それ撮ってんの実は俺なんだよ。

 たまに心霊写真とか撮れたりもするが、そういやチャイナドレスを最後に出てこなくなったな。

 ウケ狙いに飽きたんだろうか?

「あのドレスやったっけ? めっちゃええ感じやん。カメラ撮ってる奴もいい表情撮るようになってきたし、あれ浴衣とか水着とか至近距離で撮ってんねんやろ? うらやましいで」

 いや~、あんまおだてんなってチンタオ。

 これが実力って奴だよ、そして撮影側の特権って奴よ。

 知られざる数多のオフショットを見せられないのが実に残念だ。

 しかし、次の言葉を聞いて俺のしたり笑いは、そのまま凍りついた。



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■45日目(7月07日) 彼女は時々スマイルレス

[2013/8/9 更新予定]






◆もくじ◆ [全28回予定]



●00日目(5月23日) 始まりは唐突に 〔水〕


●01日目(5月24日) 知りすぎた人 〔木〕


●02日目(5月25日) 君んちへ行こう 〔金〕


 ○03日目(5月26日) ※欠番 〔土〕


 ○04日目(5月27日) ※欠番 〔日〕


●05日目(5月28日) なにげないきっかけ、その後 〔月〕


●06日目(5月29日) ガーリィステップ 〔火〕


 ○07日目(5月30日) ※欠番 〔水〕


 ○08日目(5月31日) ※欠番 〔木〕


●09日目(6月01日) ストレンジストロベリー 〔金〕


●10日目(6月02日) ストレンジストロベリーモア 〔土〕


●11日目(6月03日) インタールード 〔日〕


●12日目(6月04日) 君をおかわりしたい 〔月〕


●13日目(6月05日) インタールード その2 〔火〕


●14日目(6月06日) ファニーピンク 〔水〕


 ○15日目(6月07日) ※欠番 〔木〕


●16日目(6月08日) ファンシーパンク 〔金〕


 ○17日目(6月09日) ※欠番 〔土〕


 ○18日目(6月10日) ※欠番 〔日〕


●19日目(6月11日) 勝手にしやがれ 〔月〕


 ○20日目(6月12日) ※欠番 〔火〕


●21日目(6月13日) ままならぬふたり 〔水〕


●22日目(6月14日) 俺なりの意思を持って 〔木〕


 ○23日目(6月15日) ※欠番 〔金〕


●24日目(6月16日) 艶姿の映える土曜の宵 〔土〕


 ○25日目(6月17日) ※欠番 〔日〕


●26日目(6月18日) ビキニ姿の君が見たいから 〔月〕


●27日目(6月19日) もっとビキニ姿の君が見たいから 〔火〕


●28日目(6月20日) 苺娘々。(すとろべりーにゃんにゃん。) 〔水〕


●29日目(6月21日) はれんちがとまらない 〔木〕


●30日目(6月22日) それなりのプチロマンス 〔金〕


●31日目(6月23日) ヤツの影、再び 〔土〕


 ○32日目(6月24日) ※欠番 〔日〕


●33日目(6月25日) ファンシーピンク 〔月〕



●38日目(6月30日) はれんちはおわらない 〔土〕



●45日目(7月07日) 彼女は時々スマイルレス 〔土〕


 ○46日目(7月08日) ※欠番 〔日〕


●47日目(7月09日) それでも、君んちへ行こう 〔月〕


●48日目(7月10日) この夏一番、風の強い午後に 〔火〕


●???

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