【ファンシーピンク】■30日目(6月22日) それなりのプチロマンス 〔21/28〕
◆あらすじ◆
毎日の学校生活を無為に過ごす、やさぐれ少年の楢崎くん。
ふとした事からブログで一人ファッションショーを公開する、いちご大好き少女・仲原さんの隠された秘密を知ってしまいました。
お互いの秘密を握り合う間柄になってしまったクラスメイト二人は、ひょんな経緯から渋々ながらブログの写真撮影をすることに。
日ごと移り変わる仲原さんの華やかな衣装(いちご柄)。
日陰者である二人が撮影を重ねる果てに、たどり着く終着点とは?
まるで定点カメラでいちご柄の部屋を観測するかのように贈る、やさぐれ少年&いちご大好き少女、水と油の二人が織り成すポップ&キュートかつストレンジ&キッチュ、あとプチアダルトな放課後の……そして青春の日々。
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■ファンシーピンク■
作品概要
・ここは私、岩男ヨシノリが執筆した小説「ファンシーピンク」を掲載するスペースになります(注:pixivからの転載となります)。
・手慰みのように執筆していたものを、この場を借りて発表することにあいなりました。眠れない夜の暇つぶしにでもしていただければ幸いです。
・基本一日イコール一話というペースで、さながら主人公の日記のように展開していきます。
そのため時系列的に、日付がたびたび飛びまくることになるのですが(例:03日目→06日目)、エピソードの順序が把握できない場合は後書きのもくじを参照くださいませ(もしくは各エピソードのキャプションに[*/28]との表記を設けておりますので、全体の進捗状況をそちらで確認いただけるようお願いします)。
・ご意見&ご感想、ファンアート、はたまたコラボ企画の提案などはお気軽にどうぞ~
どこかしらのコミュニティや評価スレッドへの推薦なども、ご自由に。
できるのであれば事後報告を後に頂ければ幸いです(なくても構いません)。
注)劇中の登場人物の極端な行動は、真似しないほうが賢明です。
違いのわかる方のみお楽しみください。
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■30日目(6月22日) それなりのプチロマンス■
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――妙な夢を見た。
仲原の部屋に迷い込んで、逃げ出そうにもドアに錠が掛かっている。
力技ではどうにもならない。
バールでもこじ開けられないほどの、根拠のない強度。
さすが夢だ。
しかし俺だってこの部屋に通い詰めて結構経つわけで、どこになにがあるのか、ある程度把握している。
迷いなく机の引き出しを開けて、ジャラジャラと連なる鍵の束を取り出した。
……って待てよ、俺こんな引き出し開けたことあったか?
そんな疑問をよそに、夢の俺はあっさりと開錠して、扉を開け放つ。
扉のその先は、なぜか青空と海がどこまでも広がっていた。
白いくらいの真夏の日差しが降り注ぐ、クリアな蒼穹。
対して底の見えない、インディゴの青さをたたえた海。
そして一軒、ぽつんと存在するログハウス。
歩く度にボードウォークからの足音を立てつつも、とりあえずその方に向かってみる。
しかし雲ひとつない空の果てに、どこかで見慣れた姿を見かけた。
薄ボンヤリした、その顔のシルエットはいちごのように見える。
「……神様?」
しかし普通と、驚きも恐怖も湧きあがってこなかった。
それから、俺はいちごの神様と随分長いあいだ会話をしていたように思う。
なにを喋っていたのかは、全く頭に残っていない。
ただ一つこの言葉だけは、しっかりと記憶に焼きついている。
『あの子を、お願いします』
そして延々と続く話はとりとめのないままに、夢はとぎれた。
差し込む朝日の眩しさに、俺は目を覚ます。
もう少しまどろんでいたかったものの、頬に走る激痛が必要以上の気つけになった。
「いっ痛ぅ!」
飛び起きるも、部屋の違和感に戸惑う。
――自分の部屋じゃない。
寝巻きもなく、全裸で寝てるこの俺。
傍らには自分の制服がきちんと折りたたまれていて、鞄や財布といった私物も見受けられる。
ここはどこなんだ。
ふと自分の顔に触れると、先の鈍痛と共に妙な手触りを感じた。
「絆創膏?」
おもむろに鏡を覗きこみ、なんかすごい数の傷痕を確認したんだが。
なんじゃこりゃ?
しかも口腔にうずく痛みがいつのまにやら消えている――かと思いきや、財布の横っちょに治療中の奥歯が転がっていた。
その後仲原母が俺を起こしに来て、ここは仲原ん家だと知る。
なんでも、昨日雨に祟られて風邪ひいて、この家で一晩明かすことになったらしいのだが。
どうも思い出せない。
それに風邪ひいたのに全裸で寝てるのも不自然じゃねーか……あと病気なんだろ、なんでこんなボコられてんだよ。
「有難うございます、みつえさん」
あれ、俺なんで仲原母の名前なんか知ってんだ?
そしてシーツ一枚の俺の姿を見る、その浮ついた目つきはどうだ。
そういえば、先日の夕方辺りからの記憶が――まるでないぞ。
飛んでいると云ってもいいだろう。
それにスッゲー惜しいものを見逃してるというか、そんな気分なんだけど、なぜか思い出せない。
身もだえするほどの隔靴掻痒。
わけもなく生殺し状態に置かれてると思うのは、俺の気のせいなのか。
あと廊下のこのソファとかタンスとか、なんでこんなに散らかってんだ?
なんか西洋甲冑とか混ざってるんすけど。
リビングまで下りて、トーストにいちごジャムを塗りつけてる仲原と目が合う。
ちなみにパジャマの柄はもうお約束だ。
「お、おは、おはようございました!」
なに全力で赤くなってんだよ、おまえは。
その後も仲原は、俺よりずいぶん早くに登校して。
授業中もふと視線が合いそうになった時、すごい勢いで目を逸らす有様だ。
……昨日なにかが、あった。
それは間違いない。
しかしそれを確かめる術はなく、ウンウン唸ってる俺だけがひとり取り残されている。
なんなんだよ、一体。
「一体どないしてん、ナラやん」
柄にもなくチンタオの奴も、マジな表情で俺の顔面について尋ねてくる。
こいつにシリアスな顔をされても実に似合わんな。
「俺もよう知らん」
経緯上そう答えるしかないだろ。
周囲の心配をよそに、俺だけがなぜか醒めたような目をしている。
事件の当事者というのは案外いつだって、そういうものなのかもしれない。
「にしてもチンタオ、昨日って……雨降ってたのか?」
窓の外、荒れたグラウンドを横目で眺めつつも俺は尋ねてみる。
おかげで午前の体育の授業は潰れちまったんだが。
「……は?」
思わずその薄目を見開くチンタオ。
だから宇宙人を見るような目で見んなっつーの。
「昨日は雷まで鳴ってたのに、なに云うとんねんや? ナラやん」
「……は?」
今度は俺が宇宙人を見るような目をする番だった。
んな目立つモン鳴ってりゃ、そうそう思い出せない筈が――
なんて思い出そうとした刹那、文字通りのイナズマが脳裏に閃いた。
トラックが跳ねた水溜りの味や、あいこに終わったジャンケン、みつえさんの柔らかな感触と吐息、バスタオルの下の仲原の――
仲原の――
「ふぐぁ! 雷が、雷ががががが!」
幾つものフラッシュバックが交錯する。
錯綜するデジャヴに俺は悶え、発作的に胸元を掻きむしりながら地べたにのた打ち回った。
「うわっ、ナラやんがレッドゾーンに突入した!」
「口の中にタオルを!」
「オイ誰か、保健の先生呼んでこい!」
ブラックアウトした視界の外で、バタバタとした足音が遠ざかり。
混濁する意識の中で、最後に見た仲原の不安げな表情と、どこか紅潮した顔の赤みがなぜか目に付いた。
だから昨日なんかあったのかよ、オイ――
その日の午前中に、なぜか仲原も気分が悪いと学校を早退した。
なんか今朝から顔が熱っぽく見えたが、気のせいじゃなかったのか。
――彼女の席に目をやる。
仲原はあれはあれで、日々の生活態度は真面目なたちであり。
遅刻や欠席のたぐいには縁がないだけに、黒板から前にあるホームポジションが空席なのもちょっと違和感があった。
んなことを思っているのも、放課後のあいつの生態を熟知してる俺だけなんだろうけど。
目立ちもせずイジられもせず、傍から見て味気のない生活があいつの理想。
しかしそんなスタンスが災いしてるのか、机の上に無造作に置かれたプリントはそのままで。
放課後家まで届けにいってやるとかいう、気の利いたことをする友達はひとりもいなかった。
「楢崎、ちょっといい?」
委員長の黒木に呼び止められ、俺は思わず足を止める。
「んあ?」
「今日日直でしょ、仲原さんちにコレ届けに行ってくれない?」
などと今しがた目にやっていたそれを押し付けられる。
オイオイ、午前中意味不明の発作を起こしてブッ倒れてたんだぜ、俺?
ちょっとはいたわってくれっつーの。
「こないだの土曜日掃除さぼってたでしょ、たまには役に立つようなことしなさいよね」
それに、いちいち昔のことを蒸し返してくるから、こいつは始末が悪い。
ちなみにこの委員長、いかにもしっかりしたことを云ってるワリには、下着が総じて黒色だというのはここだけの内緒だ。
仲原といいこいつといい、うちのクラスはろくな女がいねえな。
B組からサクラザワとかドラフト指名してくりゃいいんだ。
「誰が行かねーっつったよ」
彼女の手からそいつを巻き上げ、背を向けて歩き出す。
意外そうな顔の、黒木を尻目に。
――合法的に、仲原の家に行く理由ができちまったな。
「ち、ちょっと楢崎! 仲原さんの家ってどこか知ってるの?」
まるで俺と仲原の接点なんてないような口ぶり。
悪いが予想以上にお邪魔になってんだよ、昨日裸で夜を明かしたくらいにな。
隣に奴はいなかったけど。
お前の知らないところで、地球は確かに回ってんだぜ。
「う~ん、残念ですねえ」
相変わらず血走ったその目で、歯科担当医は俺の歯をつまんで凝視している。
人知れず起こっていた、顔面ボコボコ事件で取れたという左奥の虫歯。
さすがに報告しないわけにはいかないので、仲原邸にプリント渡す前に立ち寄ってみたんだが。
「お楽しみはこれからだったのに、ねえ? まさよしくん」
物騒な同意を求められても困ります。
それに名残惜しげにドリルをギュンギュンいわすのやめて下さい、頼むから。
兎にも角にも、治す箇所が取れてしまった以上、治療は唐突に打ち止めとあいなった。
「……まあいいか、これ乳歯ですし。上の方から投げるとイキのいい歯がじきに生えてきますよ」
本当にそんな大雑把でいいのかよ?
最後に見た現実逃避用モニターには、ニューカレドニアの海に落ちる鮮やかな夕日が映し出されていた。
「また来て下さいね~」
ご苦労なことに、担当医は会計を終えて立ち去る俺を、玄関口まで来て見送っていた。
……いや、俺もう来ねえし。
ハンカチを手に、いつまでも手を振ってくれる担当医を尻目に、今度は仲原邸に進路を向ける。
もうすっかりおなじみの道になった、自分の通学路とは逆のルート。
今日は珍しくペダルをこいで、その道を駆け抜ける。
いつもより速い速度で。
普段チャリンコ押して歩いてたけど、本当はこんなにも近かったのか。
あっという間に仲原邸の前までたどりついてしまう。
いつしか見慣れてしまった仲原んち。
その日はお屋敷が心なしか、小さく見えるような気がしていた。
相変わらずゴロ寝してるドミンゴス(仮)に軽く挨拶して、普段あまり押すことのない呼び鈴を押してみる。
出迎えたのはみつえさん――もとい仲原母。
「今日日直で、仲原さんにプリント渡すように頼まれたんすよ」
「ありがとね楢崎くん。でも~、ほんとにそれだけ~?」
仲原母はさっきからニヤニヤ笑いが止まらない様子だ。
実の娘が病気してんのに、なんだよこの母親は。
「それだけっすよ」
他意もなにもねーよ。
「にしても、仲原さん……具合大丈夫なんですか?」
HRで風邪ひいたって聞いていたんだが、いちごってビタミン豊富なんだろ。
常日頃それ系のモン食ってんのに、なんで季節外れに病気してんだ。
「んもう、やっさしいんだから! なんなら様子見てみる? だいぶん熱もひいたようだし」
「は?」
なんでそんな話になってんだよ?
「い、いや俺、今日は上がるつもりはないっすから」
他になんか別のモンうつされかねん。
そんな俺の意向を完全スルーして、奥さんは仲原の元へと階段を駆け登っていく。
この人はある意味、あいつ以上に人の話を聞いてくれないからなあ。
「まのちゃ~ん、楢崎くんがお見えになったわよ~♪」
「ママ! 今日は家に入れちゃだめって云ったでしょ!」
とかいう声がしたかと思えば、あのいちごルームからドタドタという音が続く。
病気なのか元気なのかハッキリしてくれ。
やがて俺は奥さんに背中を押されて、階段を登りドアの前まで導かれる。
「今のまのちゃんは隙だらけだから、上手くやんなさいよ~、少年」
俺を小突きながらも、そんな言葉をひそりと漏らす。
だからあなたに少年呼ばわりされたくないんすけど――って、俺そんなこと云われたっけ?
「……なにしにきたのよう」
ドアを開けると、仲原はえらい随分な台詞で出迎えてくれた。
今朝とは違うパジャマ――俺が初めて撮影した、あのネグリジェでベッドに横になっている彼女。
目もどことなくうつろで、時おりゲボゲボと気の毒そうな咳をしていた。
「なんとかは風邪引かねーってのに」
「誰がバカなのよう」
「なにも云ってねえだろ、なにも」
互いに憎まれ口を叩きながらも、さっき奥さんからもらった、スポーツドリンクのペットボトルを手渡してやる。
「モモ缶欲しいか」
「いらない」
……だろうと思ったよ。
「下にいちごの、シラップ漬の瓶あるから取ってくる」
いまいちろれつの回らない口調で、仲原は身を起こす。
おいおい、こんな状態でふらふら立ち歩いて大丈夫かよ?
「無理すんな、俺が持ってきてやっから」
そう云って即座に席を立つ。
「あ……」
仲原はなにかを云いかけたけど、結局のところは口をつぐんで、その後の言葉を続けなかった。
扉を開けると、なぜか真っ先に仲原母と目が合う。
「……こんなとこでなにしてんすか、奥さん」
「いや、あの、まのちゃんの調子どうかな~って思ってですね?」
もっともそうなことを云ってるわりには、どこか目が泳いでいる。
聞き耳立ててたな、みつえさん。
「しかし、なんでまた風邪引いてんだ仲原」
云われた通りのブツを、彼女に渡しながら質問してみる。
「どうせ腹出して寝てたりしてたんだろ」
「え、そんなことないのですよ? ねえ?」
いや同意とか求められても。
なぜそこで露骨に否定するかね?
こう図星を突かれた時のはぐらかし方をみると、あの人と母娘なんだなあ……なんて妙に納得してしまう。
「うそつけ、薄い格好見られるの内心好きなくせして」
「いじわる……」
なんだか態度が妙にしおらしい。
真っ赤ないちごのように紅潮したその顔。
ゆるく開かれた唇。
病気してるこいつには悪いけど、心なしか普段よりも色っぽく見えて、ちょっとドキッとさせられた。
「あ、ああそうだった。今日日直でさ、委員チョにプリント家まで持ってけって頼まれてな」
強引に話題をすり替えようとして、鞄から本題の用紙を引っぱり出す。
うっかり忘れて帰るとこだった、なんのためにここまで来たんだよ俺。
「え、わざわざうちまで届けてくれたの? 楢崎くんも、休み時間に倒れたりしたのに……」
驚いた顔をしながら、彼女はプリントを手に取る。
普段と違って赤い面してるせいか、その意外性がより際立って見えた。
「他に届ける奴もいなかったしな。期末も近いし、なかったら困るだろ?」
こいつ友達少ないしなあ。
「そうなんだ……ありがと」
は? と思わず聞き返しかけた。
あまりにもこいつに似つかわしくない感謝の言葉が、その口から突いて出たからだ。
しかもごく自然に。
おいおい、どういう風の吹き回しだよ?
「今日の楢崎くん、なんか優しいよね……」
そんな鳩に豆鉄砲な俺をよそに、熱っぽい顔で彼女はくすっと微笑む。
「仲原?」
いつもの憎まれ口はどこへやら、普段とは違う空気の俺たち。
――だからなんでドキドキしてんだ自分。
こいつはいちごジャンキーの、デュエルプリンセス仲原だぞ?
血迷うのも大概にしろ、俺!
しかし当の本人は、ひそかに平静を装う俺から寝返りを打って目をそらし。
あっちの方向を向いて一言。
「……ちょっと、気持ち悪い」
今のは盛大に突っ伏すところだった。
あのな仲原、寝込んでるのをいいことに色々やっちゃっていいか?
そんな俺の憤懣やるかたない気持ちをよそに、やがて規則正しい寝息が聞こえてきた。
覗きこむと、なんとも無防備な顔で眠りの底へと落ちている。
っていうか寝付き早っ、こいつ。
やがて沈黙が訪れて、途端に部屋が静かになった。
いつもこれくらい大人しくして欲しいもんだけど。
――まだ、誰も触れたことのないであろう無垢なその唇。
とても小さくて軟らかそうで、ときおり呼吸の度に薄く開く。
上気づいた表情と相まって、なんだかいつもよりも可愛くみえる。
俺は意を決して、ベッドの反対側に移り。
はやる心を抑えつつも、仲原との距離をちょっとづつ詰めていく。
……いいよな?
秘密のキスはノーカウントだよな?
根拠のない、手前勝手な理屈を大上段に持ち出して、色素の薄いそこへ迫っていく。
俺はいよいよ血迷ったことをやってる。
いろんな意味で。
仲原に対してこんなに心臓バクバク云わせて、絆創膏だらけの顔で今までになくマジな顔やってるのも、本気で間抜けだけど。
それでも引き寄せられるみたいに、そこに近づかずにはいられなかった。
唇の先をふるわせながら、数センチ単位で間隔を狭めていく。
――あと三十センチ。
――あと十五センチ。
しかしあと一歩と迫った、その時。
「んっ、うぅんっ……!」
いきなり色っぽい寝息をたてて、彼女が突然寝返りを打つ。
『ひょう!』
声にならない叫びが漏れる。
不意を突かれた俺は思わず、その場からバックステップで飛び退く。
しかし逃げた先にちょうど机の角があり、自ら背中をえぐる格好になってしまった。
なんか不穏な音がゴリュっていったぞ。
『ふぐぁ!』
凄まじい激痛が背椎を突く。
またも俺は無言の絶叫をあげ、しばしの間生き地獄を味わった。
仲原がなにも手を下していないにも関わらず、またも必要以上にもだえ苦しんでいる。
呪われてんのかな、自分。
因果応報にしてはあんまり過ぎないか?
やがて痛みが引き、俺はその場からようやく立ちあがる。
時々思い出したかのように、激痛が背筋を突き抜けるけどな。
あれだけドキドキしてたのはどこへやら、動悸も熱も驚くくらいに覚めていた。
やっぱ滅多なことはするもんじゃ……
「んんっ、ならさきくん……」
不意に自分の名前を呼ばれ、思わずびくりとさせられた。
やっべ、バレたのか?
こりゃマジに下半身不随を覚悟――
「うにゅ……きのう……」
振り向いてみたが、仲原は変わらず布団の中で、どうやらそれは寝言らしかった。
なんだよ紛らわしいな!
その寝顔に一筆、油性マジックで額に「肉」あるいは「殺」とか書いてやろうかなんて思ったが、
「ならさきくん……ごめん、なさい……」
どんな夢を見てんだろうか、寝言で俺に謝ってるのを聞いて、とりあえず許してやることにした。
っていうか、謝らなきゃいけないのは俺の方だってのに。
こんなときだけしか、素直になれないっていうのもアホな話だよな。
仲原も、俺のほうも。
『ふぁ、ファーストキスはいちご味なのっ!』
あの時そんなことを云ってたか。
いかにも夢見る乙女チックな妄想と願望。
いくらなんでも本人が知らないうちに、それを踏みにじってしまうのも――
柄にもなく、胸の奥がチクリと痛んだ。
ホントに今さらって感じだけど。
こいつは寝息こそ健やかだが、寝相は大いに悪いようで。
眠りについてから間もないにも関わらず、ふとももが見えるくらいに、細い足がベッドからはみ出ていた。
ついでに半開きの口から、よだれがつーっと垂れてるし。
やれやれ、しょうがない奴だな。
布団をかけなおして、ついでにずり落ちた額のタオルを絞って取り替えてやる。
まだかなりの熱をもっていた。
これでだいぶん熱が下がったほうかよ、もしかしてかなり無理してたんじゃないか?
いい加減、退散したほうが良さそうだ。
「……いい夢見ろよ、仲原」
そう云い残し、起こさないよう戸を閉める。
人に謝るような夢じゃなくて、な。
廊下に目を向けると、またも真っ先に仲原母と目が合った。
「だから、こんなとこでなにやってんすか」
「……色々とお楽しみでしたね、楢崎くん」
またもニヤニヤ笑いで俺のほうを見る。
うっわ、忘れてた!
さっきの聞き耳からこの奥さんの行動は予想できたのに!
「『……いい夢見ろよ、仲原』な~んて、もーかーわいいっ、ちょみっ」
俺をツンツクしながら、その口調を真似てくるみつえさん。
ううわっ、恥づっ! 俺恥づっ!
その後突つき回されながらも奥さんに事の一部始終を、包み隠さずゲロさせられた。
……この人だけは敵に回したくねえよな、マジで。
帰り道。
まだ仲原の熱い体温が、手に残っているような気がする。
それを思うとまた、ちょっとドキドキした。
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【→】 31日目(6月23日) ヤツの影、再び [2013/7/30 更新予定]
30日目(6月22日) それなりのプチロマンス
【←】 29日目(6月21日) はれんちがとまらない
ファンシーピンク
次回予告
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……そういえば。
あの屋上ってあんま行かなくなったけど、どうなってんのかな。
俺の足はためらいなく階段を駆けあがり、あっという間に屋上への扉の前に辿りつく。
思考体系が短絡的になってきてんな、この迷いのなさはいよいよヤバいのかも、俺。
「立入禁止」のプレートが申し訳程度に飾ってある入り口。
そのザル管理っぷりは相変わらずで、いとも簡単に進入することができた。
まあこんなゴミが散乱して、雑草の繁茂してるとこに厳重セキュリティやってんのも、金の無駄なんだけどな。
押し開けたその先には、調子外れなくらい快晴の青空が広がっていた。
ちょっと前まではここで煙草吸ってたり、そこにいる死人面と共謀して、スカートの中の盗撮プラン練ってたりしてたんだよな。
なにもかも懐かしい……って、え?
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■31日目(6月23日) ヤツの影、再び
[2013/7/30 更新予定]
◆もくじ◆ [全28回予定]
●00日目(5月23日) 始まりは唐突に 〔水〕
●01日目(5月24日) 知りすぎた人 〔木〕
●02日目(5月25日) 君んちへ行こう 〔金〕
○03日目(5月26日) ※欠番 〔土〕
○04日目(5月27日) ※欠番 〔日〕
●05日目(5月28日) なにげないきっかけ、その後 〔月〕
●06日目(5月29日) ガーリィステップ 〔火〕
○07日目(5月30日) ※欠番 〔水〕
○08日目(5月31日) ※欠番 〔木〕
●09日目(6月01日) ストレンジストロベリー 〔金〕
●10日目(6月02日) ストレンジストロベリーモア 〔土〕
●11日目(6月03日) インタールード 〔日〕
●12日目(6月04日) 君をおかわりしたい 〔月〕
●13日目(6月05日) インタールード その2 〔火〕
●14日目(6月06日) ファニーピンク 〔水〕
○15日目(6月07日) ※欠番 〔木〕
●16日目(6月08日) ファンシーパンク 〔金〕
○17日目(6月09日) ※欠番 〔土〕
○18日目(6月10日) ※欠番 〔日〕
●19日目(6月11日) 勝手にしやがれ 〔月〕
○20日目(6月12日) ※欠番 〔火〕
●21日目(6月13日) ままならぬふたり 〔水〕
●22日目(6月14日) 俺なりの意思を持って 〔木〕
○23日目(6月15日) ※欠番 〔金〕
●24日目(6月16日) 艶姿の映える土曜の宵 〔土〕
○25日目(6月17日) ※欠番 〔日〕
●26日目(6月18日) ビキニ姿の君が見たいから 〔月〕
●27日目(6月19日) もっとビキニ姿の君が見たいから 〔火〕
●28日目(6月20日) 苺娘々。(すとろべりーにゃんにゃん。) 〔水〕
●29日目(6月21日) はれんちがとまらない 〔木〕
●30日目(6月22日) それなりのプチロマンス 〔金〕
●31日目(6月23日) ヤツの影、再び 〔土〕
○32日目(6月24日) ※欠番 〔日〕
●33日目(6月25日) ファンシーピンク 〔月〕
●??? 〔土〕
●??? 〔土〕
●??? 〔月〕
●??? 〔火〕
●???




