【ファンシーピンク】■29日目(6月21日) はれんちがとまらない 〔20/28〕
◆あらすじ◆
毎日の学校生活を無為に過ごす、やさぐれ少年の楢崎くん。
ふとした事からブログで一人ファッションショーを公開する、いちご大好き少女・仲原さんの隠された秘密を知ってしまいました。
お互いの秘密を握り合う間柄になってしまったクラスメイト二人は、ひょんな経緯から渋々ながらブログの写真撮影をすることに。
日ごと移り変わる仲原さんの華やかな衣装(いちご柄)。
日陰者である二人が撮影を重ねる果てに、たどり着く終着点とは?
まるで定点カメラでいちご柄の部屋を観測するかのように贈る、やさぐれ少年&いちご大好き少女、水と油の二人が織り成すポップ&キュートかつストレンジ&キッチュ、あとプチアダルトな放課後の……そして青春の日々。
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■ファンシーピンク■
作品概要
・ここは私、岩男ヨシノリが執筆した小説「ファンシーピンク」を掲載するスペースになります(注:pixivからの転載となります)。
・手慰みのように執筆していたものを、この場を借りて発表することにあいなりました。眠れない夜の暇つぶしにでもしていただければ幸いです。
・基本一日イコール一話というペースで、さながら主人公の日記のように展開していきます。
そのため時系列的に、日付がたびたび飛びまくることになるのですが(例:03日目→06日目)、エピソードの順序が把握できない場合は後書きのもくじを参照くださいませ(もしくは各エピソードのキャプションに[*/28]との表記を設けておりますので、全体の進捗状況をそちらで確認いただけるようお願いします)。
・ご意見&ご感想、ファンアート、はたまたコラボ企画の提案などはお気軽にどうぞ~
どこかしらのコミュニティや評価スレッドへの推薦なども、ご自由に。
できるのであれば事後報告を後に頂ければ幸いです(なくても構いません)。
注)劇中の登場人物の極端な行動は、真似しないほうが賢明です。
違いのわかる方のみお楽しみください。
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■29日目(6月21日) はれんちがとまらない■
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季節は梅雨に入り、放課後の夕立ちはいかにも突然にやってきた。
こんな風景もきっと、初夏の一ページの一つなんだろう。
空一面が、灰一色に垂れ込める雨雲。
いや、むしろそれは緑がかったようなヤバい色だった。
程なくしてぐずついた天気は崩れ、俺たちに等しく雨は降り注ぐ。
アスファルトをひたすらに叩きつける豪雨。
あっという間に水溜りをつくり、排水溝はゴボゴボと音を立てる。
さらに目視できるほどの雷まで空を走り、遅れて轟音が轟くといった有様だ。
しかも光と音の間隔が短い、こりゃ相当近いぞ。
傘の用意もなかった俺たちは当然の如く、大自然にいいように翻弄される。
「いやー! いやぁー!」
稲光り、そして大音響の度に、背後から仲原の絶叫が聞こえてくる。
ええい恥ずかしい、我慢しろ!
こんな初夏の一ページなんて御免蒙りたいんだが、正直な話。
「先々行かないでよ、薄情者~!」
うるさい、こんな状況で2ケツしろってか?
んな命知らずな真似できるかよ!
俺は少々の犠牲もやむを得ず、仲原を置いてペダルの速度を速めた。
徒歩と自転車では、チャリ通の俺の方に圧倒的な分がある。
ならばついでだ。
ドサクサ紛れに日頃の鬱憤を晴らさせていただこうか。
「悪いなこれも運命って奴だ、諦めろ!」
そんな捨て台詞を発した瞬間、前面からやってきたトラックが水溜りを跳ねてきて、盛大な飛沫が俺を襲った。
「ふぐぁ!」
そして頭からモロに被る。
ちょっと口に入ったぞ。
……これも運命って奴かよ、ちくしょう。
「お邪魔します……」
結局、俺たち二人は肩を並べて、彼女の家の玄関口にいた。
あまりの雷雨にその場に泣きじゃくり、頑として動かない仲原。
そのケツを強引に押して、なんとかここまで帰り着いたのはそれから三十分後。
こいつは変なところで泣き虫なんだから始末が悪い。
下着までずぶ濡れの俺たちは、早くに帰り着くのはとうの昔に諦めていた。
「ほらもう泣くんじゃないよ、ったく」
「ひっぐ、ひぐっ……」
べそをかいている仲原には悪いものの。
濡れた夏服に貼り付いて、ピンク色した下着のいちご柄まで透けて見えてしまう。
そして着痩せするせいか普段ではわからない、ふくよかな胸のラインがくっきりと……
いや、こんな役得がないと正直、ねえ。
ちなみに全身から雨粒を滴らせる俺たちの足元に、ドミンゴス(仮)がゴロ寝していた。
流石にこの雨の中玄関先に放置しとくのはアレなので、屋内に避難させたみたいだが。
雷が鳴ろうが雨が降ろうがお構いなしに、当人はよだれ垂らしながら快眠中である。
主人と違ってなかなか肝が据わってやがる。
このアホ犬、もしかしたらすごい大物かもしれんな。
「おかえりなさ~い、大変だったでしょ?」
「大変やったッス……」
スリッパをパタパタさせつつも、廊下の奥から仲原母がやってくる。
全然大変とか思ってないだろ、正直。
「あーもーずぶ濡れじゃない! 妖怪泥太坊が来襲してきたかと思っちゃったわよお母さん」
いや奥さん、全然なごまないッスからそれ……。
「取り敢えずお風呂沸かしといたから入ってらっしゃい、制服は乾燥機にね」
しかしその気遣いは認めよう。
雨水を廊下に滴らせながら、俺たちはドアに向かう――が。
「……っ!」
仲原と俺、ドアノブに互いの手が交差した。
「――俺の勝ちだ」
「今のはあたしが早かった」
「いや、刹那の差でお前の負けだ」
「あたしここん家の者だし」
「なにを云うか、ここは招かれた食客が先という定理が!」
「人を雨の中置き去りにする人間の、誰が食客なのよ!」
仲原は頑として譲る気はないようだ。
無論俺もない。
「いくら楢崎くんでもレディファーストって単語は知ってるよね!」
「この世はしょせん弱肉強食だ! 俺の辞書にそんな言葉はない!」
ましてこんな奴が相手なんだったら尚のこと、返答ついでにミドルフィンガーを突きつけてやる。
一触即発の事態、雨空もそんな不穏な空気に呼応して、いっそう轟く。
なおも全身から雫を垂らしながら、避けられぬ対立に俺たちは臨む。
「……んじゃ、ここは民主的に」
ジャンケンで勝負という提案に、仲原も異論はないようだ。
ちなみに最初はグーから始まるのはお約束。
互いにひねりにひねった末の一手は――
あいこ。
「シャーッ!」
俺は結果に、思わず歓喜の声を挙げる。
それに遅れてタイミング良く、いかずちが鳴り響いた。
「え、えっ?」
仲原はというと、唐突に吼える俺に思わず後ずさっている。
「あいこっつったらなあ、あいこっつったらなあ……一緒に入るってことだろ?」
なんたってこの着痩せせくしーな仲原と混浴だ。
――想像してみよう。
狭い浴槽の中で、触れ合う互いの肩先。
しかる後にマットの上で、ボディソープで、互いに洗いっことかなんとか。
なんていい響きなんだろう、混浴って。
「一緒に入るって……その、あの……?」
仲原はというとまた、両手の人差し指をくるくると絡めながらも、足らないおつむですごい想像をフル回転させている。
首筋まで真っ赤だぞ、このエロ娘め。
ちょっと可愛いじゃねーか。
「さあいざ二人のバスルームへ! ワンダフル入浴!」
「いや! そんなの絶対にいや!」
「お前の得意技・殿方をいたわる背流しを見せるチャンスだぞ、仲原」
「そんな特技持ってないー!」
仲原は必死に拒否ってるが、無論そんな選択肢なんぞ存在しない。
俺の持ちうる全権限を行使の上で、却下してくれるわ。
「じつは俺、風呂場で二人でハモって唄うのが密かな夢だったんだ」
「今さっき思いついたような夢を勝手に押し付けないでよ!」
「この期に及んで今更なに云ってんだよ。俺とお前の仲じゃないか……」
その刹那。
窓から閃く雷光と共に、仲原が軽く踏み込んだかと思うと――
「いちごぱんち!」
まさに電光石火、水月と肝臓に二撃が走った。
躊躇もなく人体急所をえぐるその拳に温情はなく、俺はまたも死にかけのゴキよろしくその場に悶絶する。
「ふぐぁ!」
……こんな事態は、今回でもう何度目なんだろうな。
「あたしと楢崎くんは、そんなストロベリーな仲じゃありませんっ!」
敗者に吐き捨てつつも奴はドアをかたく閉め、遅れて内側から錠をかける音がした。
表面的な意味以上に断絶を感じさせるのは、気のせいだろうか。
ちくしょう。
お前の恥ずかしいエピソードを指折り云って聞かせられる自信があるぞ、俺は。
日ごろ無償でかわゆく撮ってやってるのはどこの誰だと思ってんだ。
その恩を仇で返しよってからに、このいちごジャンキー!
呪ってやる!
「……すみません、バスタオル取ってきて貰えませんか?」
腹部もさすりさすり、俺はリビングにお邪魔する。
いまだ濡れ鼠で申し訳ない、全てはあんたの娘さんが元凶なんだ。
「楢崎くん?」
夕食の用意もそのままに、台所からちっこい姿が参上した。
仲原母である。
ちなみにこのお母さん、なんと小学生並にちっちゃい実の娘より背が低い。
実年齢を聞くのがそら恐ろしくてたまらん。
きっと法に抵触しそうな年齢で仲原を出産したとか、なんとも微笑ましいエピソードを聞かせてくれそうだ。
この治外法権の場ではおかしい話じゃない、ガクガク。
「あらあら、どうしたの? お風呂入ったんじゃなかったカナ?」
いまだずぶ濡れの俺の姿をいぶかしんでか、奥さんは尋ねてきた。
カナってなんだよ、カナって。
「叩き出されました……」
あなたの娘さんにな。
「あらそう~、てっきり二人で仲良く入ってると思ってたけど……違った?」
その言葉に思わず噴いた。
さも当然といった感じだったぞ、今のリアクションは!
「ほら、『さあいざ二人のバスルームへ! ワンダフル入浴!』とかさっき云ってなかったかしら?」
うわ、聞こえてたのか!
っていうか額面通りに受け取るなよ、額面通りに!
「いやあの、ただの冗談っすから……」
「んもう! そんなテレ隠しでごまかさないの! 女の子はいざって時をいつも待ってるものなのよ?」
もはや額面通りにすら受け取ってくれない。
そのいざって時イコール、俺の最期の刻って予感するんですが。
――いちごよりも赤い血だまりの海の中、無残に転がる自分の姿。
戦慄にうち震える俺をよそに、奥さんの力説はなおも続いていた。
「あの子はねえ、我が強いわりに押しに弱いとこあるから。真剣に迫ればもう一発よ? お母さんからのアドバイス☆」
勝手に話を飛躍させまくる仲原母。
こう、人の云うことに耳を傾けてくれないところはさすが奴の母親だよな。
「今度試してみ? 楢崎くん」
「あのですね、それよりまずバスタオル取ってきてください……」
ハナシはそれからにしてくれ、ぶっちゃけ頼む。
つーかさっきから寒いんですけど、このリビング。
仲原母から取ってきてもらったタオルで、ようやく頭を拭く。
ちなみに奴の私物を拝借してきたのか、やはりいちご柄なのはお約束。
勝手に自分の物品を使われて、後で仲原に痛い目に遭わされないかどうか心配でならない。
ガクガク。
「で、で? うちの娘とはぶっちゃけどこまでいったのよ、少年」
俺の危惧をよそに、さらに事の核心に迫ろうとする仲原母。
そんな核心なんぞ有名無実もいいところなんですが。
っていうかそれ以前に、正直あなたに少年呼ばわりされたくないんすけど。
この奥さんの背丈、俺の胸の下あたりまでしかないし。
「だってあの子が男の子をここに呼んでくるのって、ようちえんの時によしかずくんを連れてきて以来なのよ?」
それ誰なんだよ、よしかずくんって。
「あのですね、俺とあいつは……」
反論しようとして、思わず口をつぐむ。
今の今まで真剣に考えたことなかったが、俺と仲原の関係って一体なんなんだろうか?
改めて考えてしまう。
――正直云って俺たちふたり、仲は全然よろしくない。
っていうかあの、いちごジャンキーとダチ扱いされるなんてまっぴらごめんだ。
なのに放課後を過ごす時間が一番長いのは、紛れもなくあいつであり。
あのいちご部屋に上がり込んで、いろんな格好に茶々を入れながらも撮影して。
アップされた更新内容に対する書き込みに、今は一喜一憂したりしてる。
そもそもの発端は互いの秘密がバレて、紆余曲折を経て今に至ってるわけなんだが。
――なにをやってんだ、俺は?
今さらながらそんなことを考える。
「ふ~ん、そう……」
しかし肝心なところで押し黙ってしまったせいか、仲原母にいいように解釈されてしまう。
「ときおり部屋が静かになるけど、そういうことだったのね……」
どこか含みのある笑みを浮かべる奥さん。
って、なんか曲解してるぞこのヒトは!
「いや、あの違うんですよ奥さん? 俺とあいつは……」
「や~もう、照れなくてもいいのよ楢崎くん! 二人のお楽しみに無粋な横槍なんて入れませんもの、お母さん」
横槍入れなかったらなんで、部屋の様子知ってんだ?
「そもそも俺と仲原は、は――っつきしっ!」
そのとき意図せず、俺は口から盛大に飛沫を飛ばす。
寒っ……
いまだ濡れついた恰好の俺は、思わず寒気に身を震わせる。
「あら? もしかして、寒かったりする?」
そりゃ未だにずぶ濡れのままじゃな。
っていうか、いつになったら風呂から出てくんだよ仲原は。
「まー大変、とりあえず服だけでも脱いで乾燥機にかけないとっ」
あの、部屋の冷房をどうにかするって発想はないのかよ奥さん。
大変なのはあんたの頭の方だろ、正直。
「あのちょっと、着替えとかないんすか?」
「え? べつに裸でもお母さん気にしないわよ? 七人の真っ裸」
気にしろよ奥さん!
いや、むしろこの人の好奇心に満ちた目は……
なんかやる気ウェキウェキって感じにしか見えないんすけど!
「ちょっと待ってくださいよ! おばさ……」
「えいっ、地獄突きっ☆」
刹那、仲原母の鋭い手刀が俺の喉笛に飛び込んだ。
「ふぐぁ!」
目にもとまらぬその動き。
まともに直撃を食らった俺は、あえなくその場に崩れ落ちる。
俺は己の身をもって思い知りました。
仲原のインファイト能力はこの人譲りだったんですね。
「えいっ! 楢崎くんのぱんつ、いっただき~!」
「ああっ、そんなとこまで!」
仲原母は「いや~ん♪」とか嬉し恥ずかしな媚声を挙げながらも、次々と俺を剥いていく。
そして抵抗も空しく、とうとう最後の一枚もここに陥落した。
今まさに俺は、腰巻き一枚のみというフルチン一歩手前の危機にさらされている。
っていうか、真っ裸でいちご柄のバスタオル一枚のこの格好は、いい年こいた野郎として間違いなくアウトだよな。
いろんな意味で。
自分の物品をこんな風に扱われて、後で仲原に血を見るような目に遭わされないか、ますます心配でならん。
ガクガク。
「いま制服、乾燥機にかけてるから」
さらにダメ押し。
「うう、ひどいよ奥さん」
こんないけないコトさせられるなんて、ボクもうお嫁に行けません。
そんな俺のフルヌードを、仲原母はいろいろ角度を変えて凝視している。
「あの、なんか俺に付いてますか?」
「ん~?」
なんてはぐらかしながらも、俺に対する視線をそむけることはない。
強制ストリップの次は視姦行為か、奥さん。
椅子の上で俺は、熱視線に思わず体を縮こませる。
……正直やりづらい。
「この年頃の男の子って、結構がっちりしてるんだなーって。えいっ、ちょみっ☆」
などと俺の胸板の先端を、人差し指で突っついてくる。
「んあっ!」
妙なタイミングで、今も降りしきる空がまたたいた。
俺の背中に電流が走り。
自分でも知りえなかった弱点を突かれ、思わず身をよじらせる。
「んふふ、楢崎くんって可愛い……」
突ついた指をぺろりと舐めて、俺の露骨な反応に微笑む仲原母。
その笑みは、どこか淫靡なものをはらんでいるように見えるのは気のせいか。
「それによく見ると、あのヒトによく似てる……」
奥さんの瞳は俺を見ているようで、どこか違うものを瞳に映していた。
それは遠い昔日、愛しりそめし頃。
小さな胸に想いを馳せて。
密かにしたためた一通の恋文から、ふたりの恋は始まった。
届かぬ、その憧れのひと。
胸の詰まるようなこの想い。
しかし乙女の秘めたる恋の矢は、見事ときめきと共に彼のハートを射止めた。
さながらエンゼルの如く。
誰にも知られることのない、小さな恋。
普段は互いの立場を弁えつつも、密に逢い引きを重ねる度、ふたりの愛は燃え上がる。
互いの小指を結ぶ赤い糸。
それは幾重にも結い繋いで、ふたりは互いに指と指を絡めあう。
やがて鳴り響く祝福の鐘。
万雷の拍手と喝采に包まれ、見守られるふたりはその夜……
「いやんっ!」
……などと仲原母は、恥じらいにその身をよじらせる。
唐突に始まった昔語りに俺は、しばし唖然としていた。
要約すると、年齢差●年の大恋愛云々という回春らしいんだが……
わけわからんぞ。
「あ、あの、奥さん?」
「男の子の好みも、母娘で似たりするものなのね……」
しかし、なにやらスイッチ入ってる仲原母は簡単に止まりそうにないっぽい。
至近距離に奥さんの顔が迫る。
いつしか俺と仲原母の距離は、寄り添うほどに近づいていた。
「その孤狼のような瞳も……世の中を斜め読みしたたたずまいも、すべてあの頃のあの人にそっくり……」
どこかもの欲しそうな、うるんだ瞳。
濡れたくちびる。
それに、どこからかほのかにいい匂いがして……
年齢不詳の容姿の中に、ぞくりとするほどの強烈な色香を漂わせる仲原母。
「ああんっ、惣一郎さん……」
やがて俺のほうに全体重を預け、胸元に顔を埋めてきた。
力を抜いて、もたれかかってくる。
――むにゅ。
俺はというと真逆に、えぷろん越しにふにふにと伝わる豊胸の感触に、身をこわばらせてばかりいる。
この有り余る量感と柔らかさをお伝えできないのが実に残念だ。
っていうかこの背丈とその顔で、反則じゃないですか奥さん?
マジありえねー。
――俺はまたも思い知りました。
仲原が着やせせくしーなのはこの人譲りだったんですね。
「いや、だから、あのですね奥さん?」
云いかけた俺の唇は、軽くおさえた人指し指で閉じられた。
「んもう、今はほら……みつえさんって呼んでくれなきゃ駄目なのっ☆」
そして俺もまあ、うら若き十代半ばのいたいけな青少年なんであり。
当然こんな状況に立たされて平常心を保てるほど、人格できあがっちゃいない。
薄い腰巻きの下には、それを押し上げんばかりに戦々恐々の状況が人知れず展開されている。
やばい、これはやばいですよ。
「本当にあのコのコトが気にならないの……? じゃあ、お母さんが……」
消え入りそうな語尾の変わりに、内股を意味ありげに擦り合わせて意思表示をするみつえさん……いやさ仲原母。
成熟された大人の魅力に俺は、今まさに翻弄されていた。
なすすべもなく。
「いい、よね……?」
おりる唾を飲み込む音が、なぜか大きく聞こえたような気がした。
あの、ちょっと。
俺ってもしかして、このまま奪われたりするんすか……?
思わず流されるまま二つ返事をしそうになる、その時。
「ちょーっと待ったー!」
勢いよくドアが開け放たれて。
閃くサンダーと共に、ようやくフロから上がった仲原が参上した。
ちなみにこいつもバスタオル一枚というきわどい格好である。
……その柄のタオル、まだあったのか。
「チッ」
みつえさん……もとい仲原母から、舌打ちが聞こえたのは気のせいだろうか。
「な、な、なにやってるのっ、ママ!」
上気してるのは風呂上りのせいか、はたまた別の理由かどっちだろう。
「丁度いいところに来たわね、まのちゃん! 二人で楢崎くんに、いろんな悪戯しちゃいましょっ☆」
あの、奥さん?
もしかして俺の純情もてあそんだのか、ひでえ!
「な、なによそれっ? あとなんなの、そこのバリケードは!」
仲原が指差したドアの向こうには、ソファとかタンスといった大掛かりな家具が山盛りに置かれていた。
なんか西洋甲冑とか混ざってるんすけど。
「ちょっと部屋の掃除中で、楢崎くんと一緒にくつろいでたのよ」
嘘つけみつえさん!
さっきまで廊下になにもなかったじゃねーかよ!
多分バスタオル取りに行った際に色々と仕込みを行っていたとみえるが、よくそんな短時間で用意できたもんだな。
いくら笑いを取る為とはいえ、無理にも程があるぞ。
「それになんで楢崎くんが、たっ、タオル一枚なのよ!」
こいつも常日頃、殿方の裸を見慣れてるわけじゃないんだろう、真っ裸の俺を前にして赤面は隠せないようだ。
露出した肩まで赤みが差している。
風呂上りなのも手伝ってか、いつもより色っぽく見えるのは気のせいなのか。
……仲原のくせに。
あと、股下数センチの格好でそんなにせわしく動くんじゃないよ。
いろんな意味でギリギリすぎるぞ。
「それよりも、楢崎くんのぱんつ格好いいのよう! ほらっ、登り龍」
みつえさん……もとい仲原母はさも嬉しそうに、先刻奪い取った最後の一枚を娘に見せつける。
黒地に金のドラゴンが入った下穿き。
まさか俺の密かなお気に入りを、多数の女性(しかも母娘)を前にして、白日の下にさらされることになろうとは思いもよらなんだ。
っていうか、それさっき乾燥機に入れてたんじゃなかったのか?
「あと楢崎くんって……脱いでも結構すごいのよう?」
親指と人差し指で意味深な、なにかの長さを指し示す。
そこニヤニヤしながら云うなよ、みつえさん!
「ひゃああ!」
思いもよらなかったのは仲原も同様らしく、フルの手前だと改めて認識したのか、変な嬌声を挙げてその赤面を覆い隠す。
――この俺が一番恥ずかしいわ。
「そんなことよりまのちゃん! 楢崎くんってここが弱点なのよっ、ちょみっ☆」
強引に話の筋をすりかえたと思いきや、またも俺の胸元の、鴇色に色づく先端を指先でなぞってきた。
そのままグリグリしてくる。
「あっ奥さん! やめてやめてやめてっ」
刺激にびくびくとわななく俺の背筋。
「今度試してみ? じゃなかったらお母さんが色々試しちゃおっか……?」
そう云って、ぴとっと俺にハグしてきた。
豊満な胸の谷間に挟まれる二の腕。
――ごめん、最高。
「もっ……も、もぉ! 楢崎くんにヘンなコトしないでよぉ!」
腰巻き一枚のクラスメイトを篭絡する実の母。
複雑な光景を眼前に突きつけられたせいか、仲原は反射的に拒絶しようとする。
「ん~? じゃあまのちゃんが色々やってみたいの~? こんな風に」
「んあっ! つまむのやめてやめてっ」
本気でやめれ、これ以上開発されたらなにかに目覚めそうだ。
「えっ……?」
額からつま先まで、いちごよりも真っ赤になる仲原。
もうそれは、明らかに風呂上りのせいじゃない。
「いや、あの……あ、あたし……」
口をつぐんで顔を伏せ、説き伏せる答えを出すこともできなくて。
「さっきの楢崎くんもそんな感じだったわよ? んもう、二人ともじれったいんだからっ」
「……で、でもっ……ひっくっ」
当惑する自分の感情をどうすることもできないのか、しまいには感極まって嗚咽が混ざってきた。
小さい肩を震わせて、鼻をすすりあげる。
「らって、らって……」
「またそうやって泣くー」
追い討ちをかけるみつえさん。
あんた鬼だろ。
「らって……楢崎くんはあたしのオモチャなんらもん!」
こいつ、ものすごい発言しやがった。
誰がオモチャか、誰が!
「いつまでも楢崎くんを手元に置いておきたいのはわかるけど、本当に欲しいんだったらもっと積極的にもぎ取らないと、ねえ楢崎くん?」
云って、もはや完全に暴かれた俺のウィークポイントを攻撃してくる。
「あっ! もうやめてよして癖になるっ」
「じゃなかったらいつか、こんな風に取られちゃったりしちゃうのよ? まのちゃん、あとこれ楢崎くんにも云えることなんだからっ」
およそ母娘の関係とはかけ離れたアドバイス。
訂正しよう、あんた鬼じゃねえ。
この奥さん母でもねえ――雌だ!
「えっぐ、もう、もうやら……タオルも、タオルかえしてよぉ……」
大事なのはそっちなのかよ!
こいつは泣き出すといつも、わけわからん発言をしてくるな。
以前、初めて仲原宅に来た時の状況を回顧する。
とはいえ――
俺は自分の下半身をちらり見た。
なんか押し上げる頂点から、ここではおよそ書けない、湿り気みたいなのが広がってるような気が……
やばい、超やばいですよ。
これはいくらなんでも半殺しじゃ済まんですよ。
「あ、あの奥さん! そろそろ乾燥機――」
「はい♪」
あろうことか、奥さんは腰巻きをむんずと掴むと、豪快に剥ぎ取って娘に投げ返した。
――そしてまた、空が轟く。
奥さんは「いや~ん♪」とか嬉し恥ずかしな嬌声を挙げて。
対照的に仲原は大きくまなこを見開き硬直して、渡されたタオルを取り落とした。
そして眼下に気を取られ、注意を怠ったのがいけなかったのか、彼女の身にまとうタオルの結び目がはらりと解けて。
するんと床に落ち、それは俺のタオルと一緒に、奴の足元へとわだかまる。
白く、そしてほのかに色づいた素肌が目に飛び込んで、
「見え――
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【→】 30日目(6月22日) それなりのプチロマンス [2013/7/26 更新予定]
29日目(6月21日) はれんちがとまらない
【←】 28日目(6月20日) 苺娘々。
ファンシーピンク
次回予告
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「一体どないしてん、ナラやん」
柄にもなくチンタオの奴も、マジな表情で俺の顔面について尋ねてくる。
こいつにシリアスな顔をされても実に似合わんな。
「俺もよう知らん」
経緯上そう答えるしかないだろ。
周囲の心配をよそに、俺だけがなぜか醒めたような目をしている。
事件の当事者というのは案外いつだって、そういうものなのかもしれない。
「にしてもチンタオ、昨日って……雨降ってたのか?」
窓の外、荒れたグラウンドを横目で眺めつつも俺は尋ねてみる。
おかげで午前の体育の授業は潰れちまったんだが。
「……は?」
思わずその薄目を見開くチンタオ。
だから宇宙人を見るような目で見んなっつーの。
「昨日は雷まで鳴ってたのに、なに云うとんねんや? ナラやん」
「……は?」
今度は俺が宇宙人を見るような目をする番だった。
んな目立つモン鳴ってりゃ、そうそう思い出せない筈が――
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■30日目(6月22日) それなりのプチロマンス
[2013/7/26 更新予定]
◆もくじ◆ [全28回予定]
●00日目(5月23日) 始まりは唐突に 〔水〕
●01日目(5月24日) 知りすぎた人 〔木〕
●02日目(5月25日) 君んちへ行こう 〔金〕
○03日目(5月26日) ※欠番 〔土〕
○04日目(5月27日) ※欠番 〔日〕
●05日目(5月28日) なにげないきっかけ、その後 〔月〕
●06日目(5月29日) ガーリィステップ 〔火〕
○07日目(5月30日) ※欠番 〔水〕
○08日目(5月31日) ※欠番 〔木〕
●09日目(6月01日) ストレンジストロベリー 〔金〕
●10日目(6月02日) ストレンジストロベリーモア 〔土〕
●11日目(6月03日) インタールード 〔日〕
●12日目(6月04日) 君をおかわりしたい 〔月〕
●13日目(6月05日) インタールード その2 〔火〕
●14日目(6月06日) ファニーピンク 〔水〕
○15日目(6月07日) ※欠番 〔木〕
●16日目(6月08日) ファンシーパンク 〔金〕
○17日目(6月09日) ※欠番 〔土〕
○18日目(6月10日) ※欠番 〔日〕
●19日目(6月11日) 勝手にしやがれ 〔月〕
○20日目(6月12日) ※欠番 〔火〕
●21日目(6月13日) ままならぬふたり 〔水〕
●22日目(6月14日) 俺なりの意思を持って 〔木〕
○23日目(6月15日) ※欠番 〔金〕
●24日目(6月16日) 艶姿の映える土曜の宵 〔土〕
○25日目(6月17日) ※欠番 〔日〕
●26日目(6月18日) ビキニ姿の君が見たいから 〔月〕
●27日目(6月19日) もっとビキニ姿の君が見たいから 〔火〕
●28日目(6月20日) 苺娘々。(すとろべりーにゃんにゃん。) 〔水〕
●29日目(6月21日) はれんちがとまらない 〔木〕
●30日目(6月22日) それなりのプチロマンス 〔金〕
●31日目(6月23日) ヤツの影、再び 〔土〕
○32日目(6月24日) ※欠番 〔日〕
●33日目(6月25日) ファンシーピンク 〔月〕
●??? 〔土〕
●??? 〔土〕
●??? 〔月〕
●??? 〔火〕
●???




