【ファンシーピンク】■28日目(6月20日) 苺娘々。(すとろべりーにゃんにゃん。) 〔19/28〕
◆あらすじ◆
毎日の学校生活を無為に過ごす、やさぐれ少年の楢崎くん。
ふとした事からブログで一人ファッションショーを公開する、いちご大好き少女・仲原さんの隠された秘密を知ってしまいました。
お互いの秘密を握り合う間柄になってしまったクラスメイト二人は、ひょんな経緯から渋々ながらブログの写真撮影をすることに。
日ごと移り変わる仲原さんの華やかな衣装(いちご柄)。
日陰者である二人が撮影を重ねる果てに、たどり着く終着点とは?
まるで定点カメラでいちご柄の部屋を観測するかのように贈る、やさぐれ少年&いちご大好き少女、水と油の二人が織り成すポップ&キュートかつストレンジ&キッチュ、あとプチアダルトな放課後の……そして青春の日々。
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■ファンシーピンク■
作品概要
・ここは私、岩男ヨシノリが執筆した小説「ファンシーピンク」を掲載するスペースになります(注:pixivからの転載となります)。
・手慰みのように執筆していたものを、この場を借りて発表することにあいなりました。眠れない夜の暇つぶしにでもしていただければ幸いです。
・基本一日イコール一話というペースで、さながら主人公の日記のように展開していきます。
そのため時系列的に、日付がたびたび飛びまくることになるのですが(例:03日目→06日目)、エピソードの順序が把握できない場合は後書きのもくじを参照くださいませ(もしくは各エピソードのキャプションに[*/28]との表記を設けておりますので、全体の進捗状況をそちらで確認いただけるようお願いします)。
・ご意見&ご感想、ファンアート、はたまたコラボ企画の提案などはお気軽にどうぞ~
どこかしらのコミュニティや評価スレッドへの推薦なども、ご自由に。
できるのであれば事後報告を後に頂ければ幸いです(なくても構いません)。
注)劇中の登場人物の極端な行動は、真似しないほうが賢明です。
違いのわかる方のみお楽しみください。
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■28日目(6月20日) 苺娘々。(すとろべりーにゃんにゃん。)■
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ここのところ水着撮影を連チャンでやったりしたもんだが、そんな極端な薄着も違和感のない時期に差し掛かってきた。
そう思ってもいいくらい気温は上がり、湿気に汗ばむ季節の到来である。
今年は猛暑になるというのが気象庁からのお達しなんだそうだ。
仲原もプライベートでは日々の暑さに耐えかねて、最近あのビキニで家の中をウロウロしてるらしい。
「まのちゃん、暑がりなくせに冷房弱いから」
無論それを本人が口外するわけもなく、あの奥さんからの告げ口である。
昨日帰る際にこっそり聞かされた。
「お前はなんで、そんな最優先事項を俺に報告しないんだよ!」
などと憤慨しそうになったが、逆に返り討ちに遭わされそうだから止めとこう。
――にしてもだ。
なにが悲しくてそんな季節に、むさい野郎共でスクラム組まにゃならんのだ。
よりによって、次の体育の授業はラグビーで。
これからあのアーモンド型ボールを、土埃あげながら追いかけるウンザリなひと時が待っていた。
対して六月にもかかわらず、女子はもうプール開きで、嬌声混じりに水の中で戯れているとのことである。
なんなんだよ、この格差はよ。
「チンタオ、チンタオ?」
体操着に着替えている青島……もといチンタオに声をかけてみる。
「なんやねんな、ナラやん」
「次の授業、フケねーか?」
俺は奴を道連れにすべく、悪の誘いを持ちかけてみた。
「おいおい、なに考えとんねん? あの毛深い先生に、竹刀で追っかけ回されてもええのんか?」
「サクラザワのスクール水着見たくないのか、お前は」
うちの学校は体育の授業をふたクラス合同で行っている。
無論女子も例外ではなく、隣のクラスのサクラザワも水泳タイムのはずだ。
「……その誘い、乗ったでナラやん」
あっさり前言を撤回し、奴はサムズアップで同意の意思を示す。
互いの欲望に忠実な二人による、即席同盟がここに締結の運びとなった。
「しかしやで、そんなプール覗けるところってあるんか?」
「俺に任せろって、地の利を把握してなきゃこんな誘いしてねえよ」
元盗撮マイスターをなめんなよ。
そんなわけで俺たちは連れションを装い、真面目に授業に向かう生徒の群れから外れていった。
校舎の外れにあるプール場。
日差しを跳ねて輝く水面、そして頭に水泳帽を被った紺色の群集。
伸びやかな太股もあらわなスクール水着の一団に、思わず俺たちの目は釘付けになる。
ある者はおしゃべりを止めず、ある者は隣にじゃれ付いて黄色い声をあげてみたり。
お尻の布のたわみに、指を入れて直してみるショットとかたまに見れたりして。
遠くから聞こえるむさ苦しいかけ声とは隔絶された、パラダイスがそこにあった。
「いいポジション知ってるやんか、ナラやん?」
「偶然、偶然発見したんだよ」
俺とチンタオはプール脇の茂みに身を潜め、必死に目を凝らして楽園に見入っている。
辿り着いた場所には、足が届かない奴のためにベンチが用意されてあったりして、先人の知恵が密かに息づいているのを感じさせた。
こうやって伝統は、後世に受け継がれていくものなのだろうな。
……たかだか覗きに大仰過ぎるか。
「サクラザワどこやろ、サクラザワ」
チンタオは普段の細目から一転して目を見開き、くまなく目標を見渡す。
俺も普段のクラスメイトの密かな一面を、瞳に焼き付けようと凝視してみる。
そんな中、多数の女生徒がいるにもかかわらず、ひときわ目に留まる女の子がいた。
「おいアレ。あんな娘って隣のクラスにおったっけ?」
チンタオが見間違うのも無理はない。
プールサイドに並ぶ一列の中で、ひときわ小さい背丈の女子。
にもかかわらず、同年代の子と比べて胸の自己主張ぶりが際立っている。
さすがは推定Eカップ、着痩せの仲原だ。
眼鏡を取って水泳帽を被った姿は、普段から見慣れてる俺くらいじゃないと、まず気づかないだろう。
「ちょっとこっからじゃ、名前見えんなあ」
うちの学校はゼッケンを左胸に小さくつけているので、遠目に名前を読み取るのは難しい。
だが他の奴にはわからなくとも、俺にはわかる。
それくらい普段と違う格好を見続けてきたからな。
しかし、以前から勝負用ビキニとか度々撮ってる身としては、いささか物足りないと云わざるを得ない。
これって贅沢な意見なんだろうか?
いつも全身鏡の前でそうしてるように、くるくる回って自分の姿を確かめている。
学校指定用の水着では露出の少ないその背面に、こないだの撮影を思い出す。
『自分の背中をじっくり見ることってないんだけど、結構綺麗じゃない?』
写真撮影の成果をPCモニターの上で確かめて、自画自賛してる仲原。
染みのない白い肌、かたちのいい肩甲骨、そして首筋と背中の愛らしい蝶々結び。
画面に写っていたすべてが、今の格好では確認できない。
――そういえば、あいつへそ近くにホクロあるんだったよな。
こないだが人生初ビキニ、そして画像編集されて一般には知られないホクロの位置。
もしかして俺って、選ばれし勇者ばりにレアなもん知ってるんじゃなかろうか?
寄ってくる蚊を始末しながらも、そんな考えを巡らせる。
「やっぱジャージ着てくりゃ良かったな、ほあちゃ!」
妙な掛け声を発しつつ、チンタオも通算六匹目を撃墜した。
「あんま騒ぐなよ、チンタオ?」
と云いつつも、蒸し暑さに襟元へ手をかけながら、短パンゆえに虫刺されのひどい太股をかきむしる。
羽音が耳障りで、かつ目障り極まりない。
ベストポジションなんだが快適という言葉には程遠いな。
そんな不快な状況といえど、目の前のオアシスに俺たち二人は目を離せない。
これからクロールの速さを競い合うようで、仲原を含め一同がスタンバっていた。
男子はまだプールの授業が始まっていないから、底の深さがわからないんだが。
クラスの背の高い女子が結構な高さまで浸かるもんだから、相応の深さがあることは間違いない。
あんなちびっこが泳いで、溺れないかどうか心配になってくる。
そして先生の合図とともに、横一列がスタートを切った。
いくつものしなやかな白い手が、水を掻き分けては進んでいく。
しかし我らが仲原は、二十五メートルの前半でもう立ち上がり、足をついていた。
「なにやってんだよ、あいつは?」
そのままゴールへ直進する女子の流れから外れて、一人リタイアしようとプールサイドに移動していく。
泳げないのは本気のようで、あの時ムキになって反論したのも頷ける。
これは俺が、直々に指導してやらにゃならんようだな。
手ぇかけさせんなよ――と海での教習内容を考えていた矢先だった。
羽音と共に、凝視する視界を横切る物体。
また蚊かと思ったが、チンタオもその正体を察したようで、思わず身をのけぞらせた。
「うわっ、蜂かよ!」
しかもやたらでかい。
不穏な空中軌道を描きつつ、奴は俺たちに迫ってくる。
これってアレだ、スズメバチとかクマンバチとかそんな奴じゃないか?
「ほ、ほあちゃあ!」
へっぴり腰ながらチンタオは、自分に寄ってくるそいつを迎え撃つ。
まぐれかもしれないが、先制の平手打ちが目標にクリーンヒットした。
「ナイスチンタオ!」
その動体視力の高さに賞賛するも、結果的に云うとそれは仇にしかならなかった。
俺たちを明確に敵と断定したのか、徹底的に追いかけ回してくる。
一撃ダウンどころかピンピンしてんじゃねーか!
それどころか先ほどと違う俊敏な動きは、威嚇じゃないと俺たちに悟らせる凄みがあった。
「うわ、こっち来んなっちゅーねん!」
「てめえチンタオ、俺の方に誘導すんじゃねえ!」
もう覗きどころの話ではなく、小さな脅威に俺たちはひたすら逃げ惑う。
ケンカの十八番は逃げるが勝ち、その言葉に偽りはなかったようだ。
蜂はチンタオに恨みがあるようで、奴を標的に絞って飛んでいる。
それをいいことに俺はいち早く離脱、ガサガサと緑をかき分け、奴を生け贄に逃走ルートを確保した。
許せチンタオ、お前の尊い犠牲は無駄にしないぞ。
そして一人、戦略的撤退を決め込み、茂みを抜けたと思いきや――
「ふぐぁ!」
一難去ってまた一難。
俺が道なき道をくぐりぬけたその先には、花壇が広がっていて。
不意にそこへ出てきた俺は、用務員のオッチャンが撒いている水をモロに浴びる羽目になった。
ホースからの勢いある水流に、頭からビチョ濡れにさせられる。
――俺はこのとき、海よりも深く誓いました。
覗きなんてもう二度とやんねーぞ、と。
「なんだ覗きかい? 若いってのはいいねぇ」
用務員は話がわかる人らしく、ずぶ濡れの俺にタオルとか貸してくれて、なんとかその場は逃げおおせることができたんだが。
その日の放課後。
「――今日ね、プールの授業の時に楢崎くんの声がしたかと思ったんだけど」
仲原邸への道すがら、奴に尋ねられてヒヤリとさせられた。
「だって青島くんをチンタオとか呼ぶのって、楢崎くんくらいでしょ?」
そういやこいつは地獄耳だったよな。
コンピュータ室で、衝立の向こう側から睨んできた時のことを思い出す。
「さてね。奴本人はサクラザワがいるかどうか、授業中気にしてたけど」
ちなみにチンタオはなんとか逃げきることができたようだが、「もう蜂はええ、蜂は」とうわごとのように呟いていた。
「サクラザワさん、今日は見学だったよ?」
「そうか、それは知らなかった」
とかなんとか別の方面に話題を振ってごまかした。
知らないんだったら、覗きに来てるなんて思わないだろう。
「名前といえば……そういえば、楢崎くんの下の名前ってなんだっけ?」
唐突に仲原は、そんなことを質問してきた。
「まさよし」
「ふーん……」
とりたてて特徴のない名前に、仲原は淡白な反応を返す。
しかし、問題はそのあとにあった。
「どんな漢字で書くの?」
「正義、セイギと書いてマサヨシと読む」
俺への返答に耳を疑うような面を浮かべた後、失礼にも奴は露骨に噴き出しやがった。
「……なにそれ、ギャグ? ものすっごい似合わない!」
肩をひくつかせ、腹を押さえながら笑いを堪えている。
「うるさいな、人の名前を馬鹿にすんじゃねーよ」
「だって、楢崎くんのどこを叩いたらセイギとかいう言葉が出てくるの? こんなに名が体をあらわさない人なんて、あたし初めて見たよ?」
親に聞いてくれ、名前は本人が付けるものじゃないんだからさ。
でも大概の責任は本人に行くんだから不条理だよな。
「これからはジャスティス楢崎って呼んでくれ」
「無限大とかつきそうな赤いロボットみたい」
「なんだよ、核爆発かよ」
そんなこんなで、今日もまた撮影である。
俺は毎度のように、廊下でいちごアイスティーを片手にしばし待つ。
ここ最近ヒット連発なだけに、今回の服装にも期待を寄せずにはいられない。
……っつーか俺ってその実、恵まれた環境バリバリなんじゃないか?
今さらながらそんなことを考える。
合法的に浴衣とか水着とか、とっくりと至近距離で拝ませて貰ってるわけで。
しかも仲原が推進してるわけだから、俺自身に非は一切ナシ。
いくらなんでも、こんな奴そうそういないだろう。
……これが日常の一部と化しているというのも考え物だが。
よくよく考えてみたら、俺たちって倫理的にかなりアレな部類くさい気がする。
うら若き男女が部屋に篭って不健康極まりない。
まあそれは、仲原が出不精というのも原因の一つなんだが。
縁日といい海の予定の時といい、あいつは基本的に外出を拒む傾向にある。
正確に云うと「撮影時の姿で外に出たがらない」というのが正しいか。
基本的に公の場で着るには、恥ずかしい格好ばかりというのもあるけれども。
それ以上にクラスの面々といった、自分を良く知る人間に面が割れるのを恐れている。
日々の生活を否定するような振る舞い。
仲原はこの撮影以外、なにを楽しみに過ごしてるんだろうか?
そして着飾ったり偽ったりをくり返す、あいつの本当の素顔って一体なんなんだろうな――
「に~はお!」
唐突にドアが開き、俺はむせ入りながらも現実に引き戻される。
「仲原よ、だから突然驚かすのは本気でやめれ」
そんなに俺の気管支詰まらせるのが楽しいのか? と奴の方に向き直るものの。
きらびやかなサテンの輝きに、思わず目を奪われる。
「春休みにママと中華街に行った時に買ったの、これ!」
普段と違う、アジアンな装いの仲原。
ファンシーピンクの地に、中華風のいちごが目を引くチャイナドレス。
足元はこれまた、いちごの刺繍が施されたミュール。
仲原自身もその長い髪をシニヨンにまとめ、手には羽扇子という完全武装ぶりだ。
「中華料理店の店員かと思ったぞ」
などと茶化してみせるが、そのほっそりしたボディラインに思わず見入ってしまう。
スレンダーな体型に沿った、タイトなドレスが実にマッチしている。
そして生意気にも深さのある腰のスリットから覗く、白い生足のラインに思わず注視せざるを得ない。
このちびっこに悩殺させられるのって、もの凄い負けた気分になってくるんだが、あんま深く考えるな俺。
しかし俺の目線に気付いたのか、仲原は羽扇子でそのスリットを隠してしまう。
「また楢崎くん、『せくしー度がもうちょっと足らない』とか云って、裾をはだけさせたりとかしたいんでしょ?」
俺の行動パターンを導き出して、そんな牽制をかけてくる。
……つーか俺って、ひどい認識されてんだな。
仲原の自分に対するビジョンが、垣間見えたような気がした。
「いいから、ほら撮影始めるぞ?」
「楢崎くんは都合が悪くなると、そう云ってごまかそうとするよね」
「うるさいな」
そんなやりとりを重ねつつも、今日の撮影はスタートした。
水泳とか日中やってたにもかかわらず、撮影に臨む体力には恐れ入るな。
普段から部屋に籠もり気味のくせして。
今回について立っている姿はいいが、座りの体勢になると、仲原は途端に裾を気にし始める。
「あんまり見せるとNGなとこがあるの!」
よくわからない理屈を主張してくる彼女。
全くもって、乙女心は微妙で複雑だよな。
「いいから見せてやれ。常連に脚キレイとか褒められたいんだろ? 内心見られたい属性の仲原さんよ」
そんなアドバイスに妥協したのだろうか。
脚線美をいかに見せるか、全身鏡と向き合ってポーズの試行錯誤を始める。
「つま先をピンと伸ばすと綺麗に見えるぞ?」
確か写真関係の本に、そう書いてあったな。
俺の言葉を受け仲原は、すねからつま先まで一直線に伸ばしてくれる。
先のとがったミュールもあいまって、それはすらりと綺麗に見えた。
「そうそう、いい感じだ」
最近本屋の写真コーナーの前で、立ち読みしたりする時間がにわかに増えてきた。
写真関係の本は非常に種類が多く、その中から一冊選び出すのは、骨の折れる話なんで敬遠していたんだが。
好みの娘が表紙のグラビアに釣られて手に取った本が、なかなか参考になる内容だったので、度々読み返している。
常連連中にリアクションもらえるのが素直に嬉しくて、もっと褒められたいというのが正直な動機だ。
ただ撮るだけでも褒めてくれるんだろうけど、それだけじゃ物足りない。
俺って案外サービス精神とかあったんだな、なんて自分の知られざる一面に苦笑してみる。
「一眼レフのいいカメラって、値段どれくらいすんのかな?」
欲しい気持ちが口を突いて出たのか、気がつけばそんなことを話していた。
「なんで? いつものカメラって性能低いほうじゃないけど」
疑問のかけらもない発言を聞いて、なんとなく察しがつく。
あの弾いてないギターといい、こいつはモノに対するこだわりが薄いのな。
動けば十分とかいう典型的タイプなんじゃなかろうか?
「あんまりカメラ重かったら、自分で自分撮影するときに片手で持ちきれないし」
だからこそ今のカメラに落ち着いた、というのが仲原の弁であるらしい。
けれど今はもう、撮影係の俺がいるし。
「やっぱりさ、ちゃんとしたので撮ってみたいんだよ。みんな写真やってる奴はそれなりのものを持ってるのが普通だし」
それに高級機の魅力をあれだけ書きつづってたら、食指がうずく気にもなる。
……金欠の時ほど、物欲って増してくるんだよな。
「夏休みになったらバイトやろうかな?」
ぶっ壊れた携帯の件もあるし、正直金はいくらあっても足らない。
『入学祝いに買った携帯、さっそく潰しやがって! 自腹でなんとかしろ!』
とか親父にこっぴどく叱られたし、頼るのも筋違いなんだろうな。
ここは己の力でカバーするしかないか。
「うちの学校バイト禁止だよ?」
「だからって大人しくしてても、誰もなにもしてくんないだろうが」
皆がみんな、お前ん家みたいなブルジョワとか思ってんじゃねえぞ。
「俺なりに頑張ってみたいんだよ、色々とな」
自分より写真撮れる人間なんて、正直な話ごまんといるだろうけど、それでもこれに賭けてみたいと強く思う。
ブログ見てる常連に、俺がソロ活動で撮ったものを見せても、食いついてくれる奴なんて一握りしかいないのかもしれない。
あくまで仲原の姿を見てみたいと思っている連中が大半なんだし。
でも、まずはその一部の人間に褒められるのを目標に、始めてみるのも悪くないんじゃないかな。
「なんか楢崎くんが真面目な顔してる! すごい似合わない!」
変なものでも食べたんじゃないの? とか聞いてきやがった。
悪いが俺も、お前なんぞにそんな心配されたくねえ。
「俺のような憂国の士を捕まえてなにを云う、非礼と思わんのか」
「楢崎くんの生き様そのものが非礼でしょ」
云ってくれるな、このやろう。
「そうかよ、だったら今に覆してやらあ」
憎まれ口を叩く相手に向けて、再び俺はカメラを構えてみた。
ここ最近の撮影で、仲原がその童顔に似合わない、隠れ巨乳とかいう事実が発覚したわけであるが。
今回みたいな体型がはっきり出る服装は、流石に隠し通すのが難しいようだ。
急な胸元の盛り上がりが照明を反射して、サテンの光沢を帯びている。
……だから色々たまりません、仲原さん。
しかし当の彼女はポーズを変える度に、なにやら襟元へ手をかけて正したりしていた。
首が締まったりするんだろうか?
「仲原、もしかして気分悪かったりするのか」
流石に危ない状況を考えてしまい、尋ねずにはいられなかった。
仲原本人は、健康的に異常はないと云い張るのだが、
「こうピタピタの服とか着たら、なんか胸が邪魔だなーとか思っちゃう」
返答を聞いて俺は、思わず別方面でマジな表情をしてしまう。
なんですと、その発言は聞き捨てならんですよ仲原さん!
「買ったのつい最近なのに、なんでだろ?」
それはあれか、現在進行形で成長中とか云いたいのか?
本人ですら持てあます程に。
俺は予想以上の、局所的な発育ペースに驚愕せずにはいられなかった。
つくづく女の子は謎がいっぱいだぜ、上背はちっとも伸びないくせに。
「……なにか云った?」
とか向けられる疑わしげな視線に、ブンブンと手を振って返す。
「いえいえ、滅相もありません。ボス」
危ない危ない、こいつの第六感はつくづく侮れんな。
乙女の勘か、野性的直感のどっちかは知らんけど。
今日の格好が格好だけに、怪しげ拳法とか繰り出してきてもおかしくない。
くわばらくわばら。
「今日はちょっと、かっこいい系の写真を撮ろうと思ってるんだけど」
なんて思った矢先から、仲原はそれらしいポーズを取りはじめる。
堂に入ったその構え、片足立ちでも揺らぎのないボディバランスの妙。
……だからお前がそんなポーズすると、冗談にならんからやめれ。
「こんな感じで、波っ! とか」
仲原は手のひらを合わせて、なにかのトンデモ光線とか発射するポージングをしてみせる。
それどこの流派なんだよ、カリビアン拳法かなんかか?
疑問に思いつつも俺は、律儀にシャッターを次々切り続ける。
「得物とか持ってないのか? サイとかヌンチャクとか青龍偃月刀とか」
云って本気で出てきたらどうしようとか思いつつも、敢えて聞いてみた。
この治外法権の家なら出てきてもなんらおかしくない。
アンダーグラウンドマーケットから買い付けた、上海ヒットマンご用達の暗器とか。
「鉄砲ならあるよ?」
なんて仲原は凄いことをさらりと発言しつつ、引き出しから黒光りする奴を一丁取り出す。
銃刀法違反だろ、それ!
思わず後ずさってしまうが、その形状には見覚えがあった。
……それこそ目に痛いほどに。
なんせ顔面に零距離射撃を食らったりしたからな。
こないだ魅惑の黒ビキニ撮影の際に、仲原が取り出してきた水鉄砲。
通称「いちごビーム」、実弾式拳銃のなりをしてビームが出てくるアルテマウェポンだ。
それが仕様なんだから仕方ない。
「こうやって、目標を狙い撃つぜ! とか。ちょっとポーズつけるから撮ってくれる?」
手馴れた感じに銃を取り回し、構えてみせる。
語尾からどうやら、兄の方を意識しているらしいが。
……だからなんで必要以上に決まったポーズ取れるんだよ、あとフリでも銃口こっちに向けんな。
「んじゃそのまま動くな仲原、フリーズ」
この台詞って銃持ってる奴が云う言葉だな、逆か?
とりあえず発射はするなよ、カメラに当たったりしたらシャレにならん。
「あ、やっぱりストップ! 二丁あったほうがもっとかっこいいよね?」
そしてまた、先ほどと同じところから同型銃を取り出して、俺はくらっとさせられた。
女の子の部屋の引き出しにあるものとはおよそ程遠いんですが、仲原さん。
俺が乙女の常識を知らないだけなのかもしれないが。
ご丁寧にもそれは、ホルスターのオプションまで付いているらしく、スリットの側の脚にそれを装着して。
「乱れ撃つぜ!」
全身鏡を見ながら、二丁拳銃の構えを模索し始める。
それ劇場版だろ、兄貴の方意識してんじゃなかったのか?
「ほあっ!」
あと、ガン持って型を構えるのもやめてくれ。
つくづくこいつは武闘派な性格してるよな。
やはり仲原は、動きのあるポーズの方が活き活きとしてみえる。
それだけに、自分からこの部屋に押し留まっているスタンスが、妙に残念に思えた。
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【→】 29日目(6月21日) はれんちがとまらない [2013/7/23 更新予定]
28日目(6月20日) 苺娘々。
【←】 27日目(6月19日) もっとビキニ姿の君が見たいから
ファンシーピンク
次回予告
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「で、で? うちの娘とはぶっちゃけどこまでいったのよ、少年」
俺の危惧をよそに、さらに事の核心に迫ろうとする仲原母。
そんな核心なんぞ有名無実もいいところなんですが。
っていうかそれ以前に、正直あなたに少年呼ばわりされたくないんすけど。
この奥さんの背丈、俺の胸の下あたりまでしかないし。
「だってあの子が男の子をここに呼んでくるのって、ようちえんの時によしかずくんを連れてきて以来なのよ?」
それ誰なんだよ、よしかずくんって。
「あのですね、俺とあいつは……」
反論しようとして、思わず口をつぐむ。
今の今まで真剣に考えたことなかったが、俺と仲原の関係って一体なんなんだろうか?
改めて考えてしまう。
――正直云って俺たちふたり、仲は全然よろしくない。
っていうかあの、いちごジャンキーとダチ扱いされるなんてまっぴらごめんだ。
なのに放課後を過ごす時間が一番長いのは、紛れもなくあいつであり。
あのいちご部屋に上がり込んで、いろんな格好に茶々を入れながらも撮影して。
アップされた更新内容に対する書き込みに、今は一喜一憂したりしてる。
そもそもの発端は互いの秘密がバレて、紆余曲折を経て今に至ってるわけなんだが。
――なにをやってんだ、俺は?
今さらながらそんなことを考える。
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■29日目(6月21日) はれんちがとまらない
[2013/7/23 更新予定]
◆もくじ◆ [全28回予定]
●00日目(5月23日) 始まりは唐突に 〔水〕
●01日目(5月24日) 知りすぎた人 〔木〕
●02日目(5月25日) 君んちへ行こう 〔金〕
○03日目(5月26日) ※欠番 〔土〕
○04日目(5月27日) ※欠番 〔日〕
●05日目(5月28日) なにげないきっかけ、その後 〔月〕
●06日目(5月29日) ガーリィステップ 〔火〕
○07日目(5月30日) ※欠番 〔水〕
○08日目(5月31日) ※欠番 〔木〕
●09日目(6月01日) ストレンジストロベリー 〔金〕
●10日目(6月02日) ストレンジストロベリーモア 〔土〕
●11日目(6月03日) インタールード 〔日〕
●12日目(6月04日) 君をおかわりしたい 〔月〕
●13日目(6月05日) インタールード その2 〔火〕
●14日目(6月06日) ファニーピンク 〔水〕
○15日目(6月07日) ※欠番 〔木〕
●16日目(6月08日) ファンシーパンク 〔金〕
○17日目(6月09日) ※欠番 〔土〕
○18日目(6月10日) ※欠番 〔日〕
●19日目(6月11日) 勝手にしやがれ 〔月〕
○20日目(6月12日) ※欠番 〔火〕
●21日目(6月13日) ままならぬふたり 〔水〕
●22日目(6月14日) 俺なりの意思を持って 〔木〕
○23日目(6月15日) ※欠番 〔金〕
●24日目(6月16日) 艶姿の映える土曜の宵 〔土〕
○25日目(6月17日) ※欠番 〔日〕
●26日目(6月18日) ビキニ姿の君が見たいから 〔月〕
●27日目(6月19日) もっとビキニ姿の君が見たいから 〔火〕
●28日目(6月20日) 苺娘々。(すとろべりーにゃんにゃん。) 〔水〕
●29日目(6月21日) はれんちがとまらない 〔木〕
●30日目(6月22日) それなりのプチロマンス 〔金〕
●31日目(6月23日) ヤツの影、再び 〔土〕
○32日目(6月24日) ※欠番 〔日〕
●33日目(6月25日) ファンシーピンク 〔月〕
●??? 〔土〕
●??? 〔土〕
●??? 〔月〕
●??? 〔火〕
●???




