【ファンシーピンク】■24日目(6月16日) 艶姿の映える土曜の宵 〔16/28〕
◆あらすじ◆
毎日の学校生活を無為に過ごす、やさぐれ少年の楢崎くん。
ふとした事からブログで一人ファッションショーを公開する、いちご大好き少女・仲原さんの隠された秘密を知ってしまいました。
お互いの秘密を握り合う間柄になってしまったクラスメイト二人は、ひょんな経緯から渋々ながらブログの写真撮影をすることに。
日ごと移り変わる仲原さんの華やかな衣装(いちご柄)。
日陰者である二人が撮影を重ねる果てに、たどり着く終着点とは?
まるで定点カメラでいちご柄の部屋を観測するかのように贈る、やさぐれ少年&いちご大好き少女、水と油の二人が織り成すポップ&キュートかつストレンジ&キッチュ、あとプチアダルトな放課後の……そして青春の日々。
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■ファンシーピンク■
作品概要
・ここは私、岩男ヨシノリが執筆した小説「ファンシーピンク」を掲載するスペースになります(注:pixivからの転載となります)。
・手慰みのように執筆していたものを、この場を借りて発表することにあいなりました。眠れない夜の暇つぶしにでもしていただければ幸いです。
・基本一日イコール一話というペースで、さながら主人公の日記のように展開していきます。
そのため時系列的に、日付がたびたび飛びまくることになるのですが(例:03日目→06日目)、エピソードの順序が把握できない場合は後書きのもくじを参照くださいませ(もしくは各エピソードのキャプションに[*/28]との表記を設けておりますので、全体の進捗状況をそちらで確認いただけるようお願いします)。
・ご意見&ご感想、ファンアート、はたまたコラボ企画の提案などはお気軽にどうぞ~
どこかしらのコミュニティや評価スレッドへの推薦なども、ご自由に。
できるのであれば事後報告を後に頂ければ幸いです(なくても構いません)。
注)劇中の登場人物の極端な行動は、真似しないほうが賢明です。
違いのわかる方のみお楽しみください。
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■24日目(6月16日) 艶姿の映える土曜の宵■
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二人の新たな一歩が始まったばかりで恐縮なんだが、早くも俺は戦線を離脱したい気持ちに駆られていた。
順調に撮影は進み、俺たちの行く先に憂いはないとか思っていたのも束の間。
撮ってみたブツをいつも通りにPC上で確かめる最中、ふと気にかかる箇所を見つけてズームアップしてみる。
画面上で笑う仲原の肩口にかかっている、なにやら薄ボンヤリした靄。
それはどことなく、人の顔にも見て取れるような……
姿を確かめる毎に俺は、自分の体温が引いていくのを体感した。
――これってもしかしてアレだよな、心霊写真とかいうヤツだよな?
「え、そんなのいるわけないじゃん?」
てっきり肝っ玉縮み上がるかと思いきや。
意外にも仲原は、その手の心霊現象を全く信じていなさそうだった。
「だって今21世紀だよ? こういうのはデジカメで出てくるものなの?」
根拠も理屈もないけど、妙な説得力を感じさせるのはなぜだろう。
いやいや、デジタル全盛の世の中だろうが容赦なく迷い出てくるからこそ、トンデモ人外なんだろうが。
流石の俺でも、悪霊を退散させるような高等スキルは専門外だ。
ホイホイとか殺虫剤とか噴いたら退治できるんだろうか?
にしても、こんな常識を逸脱しているモンまで呼び寄せるとは、あの部屋って一種の魔窟じゃね?
ツェー万賭けてもいい。
そんなわけで授業の終わった矢先、掃除当番も構わずブッチする予定だったが――
『あ』
間抜けにも三度、驚きの声がハモる。
俺と仲原は下駄箱で、靴を履き替えようとばったり出くわした。
前回、前々回とまた別の意味で気まずい。
鉢合わせないようにトンズラするつもりが、逆にカチ合う結果になってしまった。
こんなことなら真面目に掃除やってりゃよかったんだ、なにやってるよ俺!
「……どこ行くの、これから?」
「どこ行こうが、なにしようが俺の勝手だろ」
いくらなんでも、人外魔境に嬉々として乗り込んでいく好奇心は持ち合わせちゃいない。
お前が巫女さんのコスプレでもやって、祈祷とかで追っ払ってくれりゃいいんだ。
――でも、こないだのメイド衣装の件からして、そういうタクオ君が喜びそうなブツは持ってなさそうだよな。
八方塞がりか、このままでは有無を云わさず幽霊さんと仲良くやるハメになっちまう。
せっかくの土曜の半ドンなのに、イヤンな週末だよ。
「また歯医者? 今日ね、このあいだから予定してるものをいよいよ撮ろうと思っててさ。ママと着付けの準備しなきゃいけないし、時間かかるから先行ってるよ?」
もう俺の事情については熟知しているのか、云うだけ云って帰り道を歩いていく仲原。
こないだから撮ろうとしてるもの、ママと着付けの準備。
断片的なキーワードから、俺は今日の撮影の内容を察する。
――浴衣、仲原のゆかた!
「誰が撮らねーっつったよ」
俺は自分のチャリンコにまたがると、爆コギで校門を駆け抜けた。
なんぴとたりとも、俺の行く手を妨げる奴は実力をもって排除してくれるわ。
たとえそれが人外であろうが、喜び勇んで中指立てててやるよ。
「なんだか嬉しそうね、楢崎くん」
仲原邸にお邪魔すると、着付けの手を一時止めた仲原母が出迎えてくれる。
「……浴衣ですか?」
「浴衣です」
奥さんは即答した。
「お待ちかねは、もう少し待っててね?」
俺の本心を見透かした言葉を残して、仲原母は二階の奥に消えていく。
うっわ、俺そんなにも顔に出てたかな?
面の皮を引き締めようとするも、思わず唇の端がニヤニヤしてしまう。
リビングに通され、俺はいちごアイスティーを片手にしばし待たされる。
平常心を装うつもりでいても隠し通すことは難しく、止まらない貧乏ゆすりが本心を表していた。
――まだか、ああまだか。
「おっ待たせ~」
「ちょ、ちょっとママ!」
やがて嬉しそうな奥さんの声と、どこか遠慮がちな仲原の声に、俺は振り向いた。
鮮やかなピンク色が視界に飛びこむ。
期待通りの、あでやかな浴衣姿の仲原。
アップに結った長髪と、ピンクの地に和風ないちごの絵が描かれた浴衣。
真紅の帯と、ソックスを脱いだ裸足の白さが妙に目についた。
「褒めてあげなさいよ~、楢崎くん?」
なんて奥さんも後ろに回り、娘の晴れ姿の背を強引に押す。
着飾ったその本人は、流石に照れを隠せないようで、ほんのりと頬が赤らんで見えた。
――この場を借りて正直な本心を語らせて欲しい。
俺、やっぱこの撮影に復帰してよかったです。
雨降って地固まるというか、二人のいさかいは決して無駄ではなかったようだ。
俺好みの方向に路線変更してくれちゃって、もっと早めにやってくれりゃ良かったのに。
「へ、変じゃない? おかしくない?」
仲原本人は自信がないのか、しきりにそんなことを聞いてくる。
「別にまあ、おかしくはないんじゃねえか?」
こいつ自身がそもそも変だとかいう事実はさておき、艶姿にまじまじと見入ってしまう。
――それにしてもいいなあ、浴衣いいなあ。
仲原の趣味に合わせて、相変わらずファンシーピンクな色合いなのが少々残念だ。
白だったらいろんなモンが透けて見えたかもしれんのに。
惜しいことをしやがる、チッ。
……って、今のままでも具体的なラインが見えんのだが、俺の気のせいか?
「仲原、下着はどうした?」
わりと跳び蹴りとか飛んでくるのを覚悟して聞いてみたんだが、
「え……こういうのって着けないものなんじゃないの?」
なに? 今なんて云いましたか仲原さん?
「ほら浴衣って薄いし、下着がはっきり見えたりとかするからって、ママが……」
マジっすか。
そんなことを云われると、思わずあるところの血の巡りが活発化してくるじゃねえか。
隠し通すのが難しくなってくるほどに。
――あと、奥さんグッジョブ。
「ちょっとスースーするんだけどね、なんか変な気分」
仲原の生々しい言葉は、想像をさらにたくましく喚起させる。
お前はそこまでして、俺にいろんな変革を促したいのか、ええ?
「……もしかして、上も?」
聞いてみるものの返答はなく、仲原は黙して語らない。
流石に照れがあるらしく、顔がちと赤かった。
オイオイ、具体的な否定がなかったら、更にいろんな妄想を掻きたてられてしまうんだが。
――はいてない。
本気でなにも履いてないんだよな?
「仲原……」
我慢ならず浴衣の彼女に向けて、俺は一歩詰め寄る。
「唐突だが……一生のお願いだ」
「え? え?」
困惑の彼女、しかしそれすらも普段と違って、可愛さが二割増しに見えるのは気のせいだろうか。
「よいではないかゴッコをさせてくれ、俺の為だけに」
文字通り、生涯を賭けた俺の懇願。
しかしそれは聞き入れられるどころか、逆に肘鉄で返答を返してきやがった。
容赦なく鳩尾のあたりをえぐる。
「ふぐぁ!」
仲原の全体重を乗せた一撃に俺は沈黙し、その場にうずくまってしばし悶え苦しむ。
「一生かかっても、そのお願いは聞き入れられませんっ」
大きく足を踏み込んだ際に乱れたんだろうか、浴衣の裾をそそくさと直しつつも、彼女は俺にとどめの一言くれやがった。
つくづく口より先に手の出るヤツだ……結局跳び蹴りじゃなかったけど。
「相変わらず、仲いいわねえ」
奥さんはいつぞやと同じく、俺たちのやり取りを見てぽつりと漏らす。
おいおい、この悶絶のどこを見てそんな言葉が出るんだよ?
「その格好であんま暴れるなよ、着崩れするぞ」
ついでにうっかり見えちゃうぞ、などと釘を刺しておく。
むしろいろいろ見てみたいんだが、その前に俺の命のともしびが消えてそうだ。
くわばらくわばら。
「暴れさせてるのは楢崎くんでしょ? 余計なこと云うほうが悪いのっ」
浴衣姿で腕組みする、いらだちの仲原。
その胸元が妙に盛り上がって見えるのは気のせいだろうか?
きっと薄い布地がたわんでるんだろう、そうに違いない。
このちびっこ童顔の仲原に、いろいろ期待するのも無理な話だろう。
「え、お母さんやってたよ? よいではないかゴッコ」
俺たちの後ろで、仲原母がさりげなく問題発言を呟いた。
一瞬聞き間違いと思ったが、娘の仲原もマジ? と俺と同様の表情をしている。
「やっぱりほら、こういうのはいつの時代でもやってるものなのね。多分女の子なら誰でも通る道なのよ、まのちゃん」
人差し指を唇に押し当て、可愛くウインク。
……多分ってなんだよ。
「はじめてのプレゼントのリボンをほどくような、ときめきがそこにあるのよ。きっと」
乙女のたしなみを説きたいのか、それとも悪ノリなんだろうか。
なんにせよ、良からぬ含み笑いにしか見えないんですが、奥さん。
「……だそうだが、どうする? 」
あわよくばの期待を胸にいま一度、仲原に質問してみる。
彼女は自分の固定観念を覆されそうな発言に困惑していたが、やがて持ち直したらしく、
「どうもしません! 楢崎くんがするのは撮影!」
そう云って、俺にカメラを押し付けてきた。
「ママもせっかく着付けしたのに、なんで帯を解くようなこと云うの?」
「え? お母さんちっちゃいころ、積み木を組み上げて崩すの好きな子だったよ?」
……それ物騒すぎる発言だろ。
よいではないかゴッコといい、この奥さん一体どんな少女時代を送ってきたんだ?
馬鹿ばっかりやってるように見えるが、いつだって俺たちは真剣に撮影に取り組んでいる。
今だってそんな時だ。
一階のリビングから場所を移り、畳敷きの和室に通される。
和風の味付けが欲しいという仲原の意向により、今日はここで撮影ということになったのだが、やけに広いな。
あの客間といい、どんだけこの家でかいんだよ。
「ちょっと、しゃがんでみてくんないか」
線香花火してる感じ、と仲原にそんな指示を出してみる。
ポーズに困ったらしゃがんでもらう、というのが最近の俺の鉄則なんだが。
「……えっち」
しかし渋った顔をして、仲原は俺にガン飛ばしてきやがった。
見ると、浴衣の裾……太ももの辺りをはだけないように押さえている。
「うるさいな、浴衣ってポーズの幅が意外に狭いんだよ」
「絶対前から撮らないでよ、撮ったら殺すからね!」
もぞもぞと内股を擦り合わせ、鉄壁のガードをアピールする。
仲原が気を抜いたら見えそうなんだが、俺もそこまでして命を賭けるつもりはない。
これはわざとでなくとも、こいつの不始末だとしても、俺にとばっちり飛んできそうだ。
ツェー万賭けてもいい。
「ほら怖い顔すんなよ、笑え笑え」
そう突っかかる彼女をいなすように、俺はカメラを構える。
「せっかくの浴衣なんだから、おとなしくしろ。可憐に写んないぞ?」
俺の意見にコホンと咳払いして、一呼吸おくとスマイルを作ってくれた。
しかし今回だけはポーズのバリエーションが思いつかないな、直立とか屈む姿勢……あと正座くらいだろうか?
ウンウンと唸りながら脳内でアイデアを捻り出そうとするが、ピンとひらめいた。
「そこに寝っ転がるのはどうだ?」
これまでそんなポーズ撮ったことないだろ、と説き伏せてみる。
その意見を受け、仲原は座布団を除けると畳の上に寝転んでくれた。
少しだけ覗く、形のいい鎖骨。
規則正しく上下する、息づく胸元。
投げ出した四肢と、ちょっとめくれた裾から伸びる白い素足。
凝視してみると、薄い布地の向こうにうっすらとボディラインが透けて見える。
「楢崎くん? どうしたの?」
首だけを上げて、仲原はしばし無言の俺に尋ねてきた。
「あ、いやなんでもない。次、うつ伏せ頼む」
……ちょっと見惚れたなんて、口が裂けても云えないよな、とか思いつつもさらなる指示をお願いする。
背面には、まるで背負ったように見える帯のリボンが、いかにも可愛らしい。
緑色の畳に映える、ピンク色の布地と深紅の帯。
さらに窓の先の、格子状の桟から落ちる影がちょっとしたアクセントをくれている。
――いい画が撮れそうだ。
「あと、もっとうなじを見せてやったらリスナーは喜ぶぞ?」
個々の体のパーツをピックアップしたいと云う提案にOKをもらい、ここぞとばかりにカメラを近づける。
あのケンカ別れを経て、却下ばっかりだったのが打って変わって、俺の意見を聞き入れてくれようになった。
我の強い仲原にしては、大きい進歩じゃないかと思う。
「いいけど、綺麗に撮ってよね?」
うつ伏せから起き上がり、自ら襟元の後ろを引っ張ってみせる。
生っちろい首筋が妙にまぶしい。
そしてアップにした長髪の後れ毛が、雛鳥の産毛のように柔らかく揺れる。
「ふっ」
反射的に思わず、そこに息を吹きかけてしまう。
俺の吐息で後れ毛がそよぐ、なんとも微笑ましき光景。
「ひぃっ!」
対して、その主はさぶいぼを立てていた。
「いやすまんな、こういうのは思わずやってしまいたくな――」
和やかに云ってみたつもりだが、その後の言葉は相応の仕打ちによって掻き消された。
おとがいを突き上げる、その衝撃。
「ふぐぁ!」
意見を聞いてくれるようになっても、口より手が早いのは直らないのな。
そんなことを実感しながらも、俺は畳の上に崩れ落ちた。
俺の断末魔とともに、この日の撮影は終わりを迎える。
くそ、直接殴られたわけじゃないが虫歯に響くな。
カエル跳びアッパーで殴られた顎をさすりつつも、これで見納めかとその下に履いてない(らしい)浴衣姿を目に焼き付けておこうと思ったのだが。
「まのちゃんと楢崎くん、ちょっといい?」
奥さんがノックしてきて、俺たち二人は戸のほうに向き直る。
「楢崎くんは家と反対方向だから知らないかもしれないけど、今日は近所の神社でお祭りがあってね、二人で行ってきなさいな」
と云いつつ、俺に千円札を手渡してくれる。
「あ、ありがとうございます」
ひとりあたま五百円の計算とのことだが、降って沸いた突然の臨時収入に感謝した。
しかし六月の中途半端な時期になんでまた……と思ったが、うちの近くの神社も十一月みたいなオフシーズンに、唐突に出店が出てたりするし。
俺みたいな一般人には、あずかり知らぬ大事な日とかあるんだろう。
まあやってくれる分にはありがたいけど。
「そんなわけで、出かけるか?」
仲原に質問してみるも、その表情はなぜか渋った顔をしていた。
「……いい、行きたくない」
思わずは? と聞き返したくなった。
オイオイ、このお祭りのための浴衣じゃないのかよ?
「だって、これは撮影に用意したもので、よそに行く格好じゃないし――」
この間のいちごムースの時もそんなことを云ってたな。
あまり家の外で、面が割れそうなことをしたくないという彼女の理屈。
ったく自意識過剰なんだから、お前が思うほど誰も気にしてねえっつーの。
どうせみんな焼酎とか、ビール片手にデキ上がってんだよ。
「なんだよ、もったいない。出店っていちご系のモン多いんじゃねえの? カキ氷とか、クレープとか」
その言葉に、仲原がピクンと大きく反応した。
「なんなら俺が、代わりにいただいてこようか?」
「だ、だめ!」
すごい剣幕で食い下がってくる。
もちろんこれはフリだけで、本気で食いたいなんて思っちゃいない。
考えるだけで虫歯の完治が遠のいていきそうだ。
「だったら行こうぜ? そう何回もあるわけじゃねえしよ」
俺の説得に渋々ながらも、彼女は参加の意思を見せてくれた。
「まのちゃんのこと、お願いね?」
「はい。それじゃ行ってきます、奥さん」
俺は制服の格好のままで、仲原は例の浴衣にいちご柄の巾着を持って、それぞれに門をくぐる。
ドミンゴス(仮)が俺たちをガン見して、よだれを垂らしながらハァハァ云ってるが、とりあえず放置しておこう。
なんでこの犬、行き先わかってんだ?
「今から行く場所あんま知らねーんだけど、どっち方面よ?」
ここは地元の仲原に先導してもらうしかないわけで、渋ってる奴を連れてくる理由はそこにあった。
赤い鼻緒の下駄。
彼女が歩くたびに、カラコロと音が鳴る。
「チャリンコ停められる場所ってないのか?」
「混んでるから、やめといたほうがいいよ」
現地事情から愛車を仲原邸に置き、俺も彼女の後ろについて歩く。
撮影に夢中で、すっかり日も落ちた土曜の晩。
後ろから見る浴衣姿は彩やかに、夜に映えて見えて。
部屋に篭って撮影よりも外に出たほうがよかったんじゃないか、なんて今さらながら考える。
「俺も着替えてくりゃよかった」
「え、なんで?」
「制服のままだと、ナマ中買えねーじゃんよ」
暑くなってきたし、ここは一つキンキンに冷えた奴が欲しいところだ。
「……ろくでなしなんだから」
「なんだよ、その元ヤンを見るような目は」
「元、じゃなくて現役の間違いでしょ?」
そんなくだらない会話を繰り広げつつも、俺たちは目的地に到着した。
なんとか神社の、よくわからないお祭り。
その規模は思いのほか大きく、通路の両サイドの露店が先の先まで続いていた。
ごったがえす人の群れを押しのけて、俺たちはその中に混ざる。
「迷子にならないように、ちゃんと付いてこいよ~」
「なによその小学校低学年レベルの注意は」
お前の背丈は十分小学生クラスだろ、とか思いつつも、俺も童心の気分で出店の数々を見回す。
一般家庭では使いきれないバターが、缶いっぱい付け放題のじゃがバター。
水槽の中にひしめく赤い金魚の群れ、その中でひときわ目立って見える黒い出目金。
ところによっては、足の生えたおたまじゃくしが代わりに混ざっていたりする。
そのほか、ミドリ亀とかウナギとか、ザリガニからひよこまで、節操もなく古今東西の生きモンが大集合だ。
最近流行りの白いたい焼きや飛騨牛の串焼き、パスタフライとかいうニューカマーに驚いてみたり。
時に試食のベビーカステラをつまんでみたりしながらも、俺たちは進んでいく。
「わ~、わ~!」
仲原はというと数々の出店を前にして、小鳩でも追っかける三歳児の如く、そこかしこにふらふら歩いている。
目には星が輝き、今にもよだれが垂れてきそうな締まりのない口元。
せっかく着飾った年頃の女の子が、はしたないな。
興味のおもむく先を順にたどってみると、いちごクレープ、いちごタピオカジュース、いちごがけのチョコバナナ、りんご飴ならぬいちご飴、いちご水あめ……
よくもまあここまで、テーマの統一されたものを次々と見つけられるもんだ。
っていうか、露店のいちごメニューって無意味に多いんだな。
「どれにしようかな、どれにしようかな?」
いちごスムージーに目を輝かせながらも、俺に聞いてくる。
「そこのきゅうりの浅漬けとかどうだ、通好みで美味そうだろ?」
先端に割り箸をブッ刺した、スティック一本漬を指差して勧めてみた。
「ひとりで食べててよ、あ!」
そう云って次なる目標に向かって突き進んでいく。
なんだよ、渋ってたワリにゃ楽しんでるじゃねーか。
人が虫歯にもかかわらず、甘いモンばっかり欲しがるのはイヤミとか思うけどな。
見てるだけで口の奥がうずいてきそうだ。
奴が購入したブツは、いちごチュロスとカキ氷。
俺はというと、いかにも脂の乗ってなさそうな鮎の塩焼きをかじっている。
云うほど旨くないし、やたら塩辛い。
ちくしょう、ババ引いたな。
さっきのやたら白い歯も逆に暑苦しいトルコ人のケバブか、シャーピン(焼餅)にすりゃ良かったか。
「そんなに甘い物ガバガバ食ってると、帯がきつくなるぞ?」
「いちごは別腹だから大丈夫だよ」
そういう台詞を云う奴に限って、メタボとかになるんだよな。
「撮影にも影響するんじゃねえの? 常連連中から腰まわりについて突っ込まれたりとかな」
まあそんな開放感のある格好をするのは、当分先なんだろうけど。
一体いつの話になるのやら……
「ねー」
唐突に仲原に呼ばれて、俺は向き直る。
シャリシャリした音が聞こえないと思いきや、仲原はもうカキ氷を食べ終わっていたようだ。
「舌ね、赤くなってる?」
びーっ、と可愛く舌を突き出す。
可愛さを狙ってる自覚はないんだろうが、その仕草はちょっとドキッとさせるものがあった。
「あー赤い赤い、どこぞの妖怪みたいだ」
照れ隠しに頭を掻きながら、そんな事を云ってごまかす。
アレじゃなかったら、コイツもそれなりなんだけどなあ。
……っていうか浴衣で、二人して出店回ってる今の俺たちの姿って。
もしかしてこれ、デートとか云う奴じゃなかろうか?
今更ながら、そんな事実に気づいて狼狽してしまう。
それはまあ浴衣であっても、こいつはあの仲原であるからして、でも決して嬉しくないといえばまあ嘘じゃないわけで……
「あぁ!」
傍らの仲原が突然声を上げ、俺は我にかえる。
「な、なんだよ、びっくりさせんなよ!」
思わず怒鳴りそうになってしまったが、指差す珍しいものにまず注目してみる。
チョコレートファウンテンだったか。
あの、噴水から液体チョコが噴出するブルジョワジーなアレだ。
スティックに突き刺したバナナをはじめ、チョコ噴水に浸すためのフルーツがたくさん並んでいる。
無論、いちごも例外じゃない。
仲原は早々に小遣いを使い切ってしまったためか、遠目からブラウンの噴水を眺めることしかできずに、地団駄踏んでいる。
「もっと色々見回ってから買ったらよかった……」
つくづく己の欲望に忠実な奴だよな。
「お前もう十分食ったろうが」
人差し指を唇にくわえつつも、諦めの悪い仲原を強引に引っ張る。
あんな甘すぎる道楽なんぞ、虫歯に悪くてたまらんわ。
「ほら行くぞ? もしかしたら、あのチョコのいちご版で、ストロベリーファウンテンとかいうのがこの先にあるかもしれんだろうが」
そんな口からでまかせを云ってみた、しばし後に――
「ふっ!」
なにを想像したんだろうか?
彼女の小さい鼻孔から、いちごのように赤いものが、たらっと一筋垂れる。
「仲原、鼻血! はなぢ!」
「ふあっ! てっしゅ、てぃっしゅ!」
俺はすかさずポケットティッシュを手に取り、数枚を仲原の小鼻に押し付けた。
「ちょっ! はらはきふん、やへへよっ!」
「じっとしてろ、ばかもの」
制止もきかず、彼女の鼻先をくにくにしながら赤いのを拭ってやる。
女の子が鼻血出す瞬間なんて、初めて見たぞ俺。
ある程度出血が止まったのを確認して、チリ紙を丸めてドリルのように右穴へねじ込んでやる。
「あんまり大きいの入れたら広がっちゃう!」
そのセリフ微妙にヤバいぞ、仲原。
全く、チョコ食う前から興奮して鼻血出してんじゃないよ。
せっかくの浴衣を真紅に染めるつもりか。
これが今日の締めくくりなんだから、なんともイヤンなデートだよな。
「ごべんね、楢崎くん」
その鼻声を聞いて、意識してる俺が間違いだったと思わず苦笑してしまった。
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【→】 26日目(6月18日) ビキニ姿の君が見たいから [2013/7/12 更新予定]
24日目(6月16日) 艶姿の映える土曜の宵
【←】 22日目(6月14日) 俺なりの意思を持って
ファンシーピンク
次回予告
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「うん、ばっちりかな?」
全身鏡の前でくるくる回りつつも、仲原は普段よりも肌色増しの姿を確認する。
姿勢を変えるたびに、首筋や腰サイドの結び目が揺れた。
なんでも今年が人生初ビキニなんだそうで、本人的には冒険してるつもりらしい。
「いやあ眼福、眼福」
「だから棒読みで云われると、なんかムカつく」
「ただ一つ問題があるならば、ケツの青みがまだ残って見えることか」
予想もしない指摘に、仲原はひどく驚きを見せた。
いや、ほんの出まかせなんだけど。
「え? うそうそっ!」
そう云うと全身鏡に背中を向け、お尻の丸みに沿った布地をちょっと引っ張り、ないはずの蒙古斑を確認する。
ちっちゃい小尻の普段見えない箇所がちらちらと、鏡に反射して見えた。
……すいません仲原さん、めっさたまりません。
必死に首を動かして、鏡の中のベストポジションを覗き込もうとしてみるが、
「結局ないんじゃん、ばか!」
事実に気づいた仲原は俺に振り返り、顔を真っ赤にして突っかかってきた。
愛らしいヒップは途端に遮られ、見えなくなってしまう。
案外気づくのが早かったな、チッ。
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■26日目(6月18日) ビキニ姿の君が見たいから
[2013/7/12 更新予定]
◆もくじ◆ [全28回予定]
●00日目(5月23日) 始まりは唐突に 〔水〕
●01日目(5月24日) 知りすぎた人 〔木〕
●02日目(5月25日) 君んちへ行こう 〔金〕
○03日目(5月26日) ※欠番 〔土〕
○04日目(5月27日) ※欠番 〔日〕
●05日目(5月28日) なにげないきっかけ、その後 〔月〕
●06日目(5月29日) ガーリィステップ 〔火〕
○07日目(5月30日) ※欠番 〔水〕
○08日目(5月31日) ※欠番 〔木〕
●09日目(6月01日) ストレンジストロベリー 〔金〕
●10日目(6月02日) ストレンジストロベリーモア 〔土〕
●11日目(6月03日) インタールード 〔日〕
●12日目(6月04日) 君をおかわりしたい 〔月〕
●13日目(6月05日) インタールード その2 〔火〕
●14日目(6月06日) ファニーピンク 〔水〕
○15日目(6月07日) ※欠番 〔木〕
●16日目(6月08日) ファンシーパンク 〔金〕
○17日目(6月09日) ※欠番 〔土〕
○18日目(6月10日) ※欠番 〔日〕
●19日目(6月11日) 勝手にしやがれ 〔月〕
○20日目(6月12日) ※欠番 〔火〕
●21日目(6月13日) ままならぬふたり 〔水〕
●22日目(6月14日) 俺なりの意思を持って 〔木〕
○23日目(6月15日) ※欠番 〔金〕
●24日目(6月16日) 艶姿の映える土曜の宵 〔土〕
○25日目(6月17日) ※欠番 〔日〕
●26日目(6月18日) ビキニ姿の君が見たいから 〔月〕
●27日目(6月19日) もっとビキニ姿の君が見たいから 〔火〕
●28日目(6月20日) 苺娘々。(すとろべりーにゃんにゃん。) 〔水〕
●29日目(6月21日) はれんちがとまらない 〔木〕
●30日目(6月22日) それなりのプチロマンス 〔金〕
●31日目(6月23日) ヤツの影、再び 〔土〕
○32日目(6月24日) ※欠番 〔日〕
●33日目(6月25日) ファンシーピンク 〔月〕
●??? 〔土〕
●??? 〔土〕
●??? 〔月〕
●??? 〔火〕
●???




