剣の世界の見習い鍛冶師、悪魔猫と剣をつくります!
「おい、今日も店番なのか?」
「しょ~がないじゃん? お師匠が用事だって言うんだもん」
宙に浮く黒猫のぬいぐるみ……じみたマスコットが零す愚痴に軽く答えるのは、桃色の髪を長く伸ばした少女だった。
ここはグレイヴズ鍛冶工房。地域に愛される小規模な店。
様々な刃物や金物を取り扱い、時にはオーダーメイドも請け負う個人店は、今日も穏やかな時間が流れていた。
「そうは言うが……俺達にはこうしている暇など……」
「まあまあ、デル。焦っても仕方ありません」
店の奥から金髪をひとつにまとめた少女が現れ、お盆に人数分のカップを運ぶ。
「お嬢! そんなことはこのディアヴロ・デルハウンド・デッドマンにお任せくだされば!」
「お邪魔しているのですから、これくらいできます」
「わぁ! この匂い、ミルクティ? エウレカの淹れたお茶、大好き!」
「お嬢を呼び捨てにするんじゃないっ!」
カウンターに置かれたお盆からそれぞれカップを受け取り、思い思いに口をつける。
黒猫のデルはきゃんきゃんと桃色の少女に怒るが、むぎゅっと金髪の少女――エウレカにつままれて静かになる。
「デル、今の私はただのエウレカで構いません。それにアルマもただ悪戯に過ごしているわけではないでしょう?」
「んっ! そうそう! 今度はこんな武器を作ってみようと思って!」
広げられた紙には、桃色の少女が描いた剣の青写真。
柄に大きく星型の装飾が付いた片手剣は結晶の刃を抱いていた。
「アルマらしい剣です、楽しみね」
「また変な剣を考えやがって……ほんとにこんな石が輝くのか?」
机の上に置かれたくすんだ結晶石を転がして、デルがため息をつく。
窓から差し込む陽光に内部がかすかに透ける結晶は、宝飾品に使えるとは到底思えなかった。
「わかんないけど……私はこの子が『輝きたい!』って言ってるように思えるんだ~!」
「本当かよ……? いつものことながら信じられねえぜ」
「ふふ、二人ならきっと作れます」
三者三様の反応を示し、紅茶を呑む彼らの背後。
店の裏手の部屋には荘厳なる設備があった。
*
「さて、試作品を作るが……確認するぞ?」
「うんうん! ばっちりなんでも聞いちゃって!」
鍛冶の祭壇――そう呼ばれる儀式の舞台に立って、炉に火をくべながらアルマは答えた。
赤々と揺れる炎。それによって薄暗かった室内全体へと魔力が満ちていく。
神聖な儀式の間に無数の光の帯が伸び、室内に文字や文様を浮かばせた。
「まずは材料。芯材は「銀鉄」、主材は「霞水晶」。触媒は「鉄羊の羊毛」と「月光妖花」」
「準備おっけー!」
満ちた魔力に反応してデルの姿が黒髪の眼鏡をかけた少年に変わり、ぴしっと燕尾服を整えた。
二人はがらがらとワゴンカートに詰めた素材を炉に入れて炎の色が変わるのを確かめる。
「気持ちを静めろ、魂を込めるぞ」
「すぅ……はぁ。――この心、剣の女神に捧げます。鉄と炎に宿りしあまつの精霊と舞いて、刃を生すはアルマ・エレメンツ。この名において鍛冶の儀を執り行う」
デルの言葉に精神を統一し、アルマは奉納の言葉を紡ぐ。
目を閉じ、炉に祈りをささげるその周囲、魔力の帯が拡がるのを見つつ、デルも続く。
「……何度やっても慣れないな……。――この心、剣の女神に捧げます。鉄と炎に宿りしあまつの精霊と舞いて、刃を生すはディアヴロ・デルハウンド・デッドマン。この名において鍛冶の儀を執り行う」
二人の宣言が終わると、炉の炎はまばゆく翡翠色になった。
「やろう、デル!」
「あんまり突っ走るなよ、半人前が」
軽口を言いながら二人はハンマーを握って鋼の塊を叩きだす。
「あなたの願う姿を見せて――っ!」
アルマはハンマーを打ちながら、独自のリズムでステップを踏む。
それはまるで舞うように、しかしふざけるのではなく真剣に素材と向き合って対話するが故の所作だった。
赤熱した塊を叩き伸ばすようにして造形を形作る工程をデルは注視する。
(相変わらず、センスはすげえな)
素直に感嘆しつつ相槌を打ち込み、アルマの自由なリズムで引き出される素材の耀き、すなわち魔力を制御する。
半人前のアルマの契約悪魔であるデルの仕事は対照的に冷静で的確なハンマー捌きで行われていた。
*
儀式の舞台に満ちた光の帯が中心の鉄床に集まり、はじけるように一際輝いた。
「完成~~っ! 試作「星繋ぎの剣」! んふふ~っエレぴかってる~~!」
「エレぴかってなんだよ。完成度は……5割ってとこか」
取り上げられた剣、その霞水晶で造形された刀身は淡い輝きを讃え、柄頭の結晶もところどころ内部の曇りがある。
だとしても形を成した剣に達成感を共有した少女と悪魔は喜び合う。
デルは子猫の姿に戻りふわふわと周りを周回していた。
少女が握る剣にはちかちかとはじけるような魔力のスパークが舞い、設計図のセンスが反映された神秘的な意匠が花のように鍔を飾っていた。
「完成したところお邪魔しますね。お二人にお客様です」
「エウレカ! えへへ、これすごくない~?」
「ふん、まあまあだろう? もう少し詰めれば十分に値段がつくだろうな」
「かわいい剣です、アルマはデザインの才能があります」
和気あいあい、と三人が剣を囲むその向こう。
店の方から高い声が響いた。
「おーーーーーーーっほっほっほ!! このゴールデンッ! 一族のコガネ・G・リナキンを待たせるとはいい度胸ですわ~~~~!!」
「コガネちゃん!? 今日はどうしたのっ?」
「そうそう、来客がいたんです」
「うげ……あの金ぴか令嬢か……」
鍛冶の舞台から店に戻ると、優雅な羽根飾りのされた扇子を構え、反りかえらんと上から目線で笑い声を上げる金髪縦ロールでドレスを纏ったお嬢様が居た。
作業着のまま駆け寄るアルマに対してそう変わらない身長の彼女は、執事を呼び寄せて一振りの剣を見せつけた。
「此度の課題――「霞水晶」を使用した儀式剣の作成の完成度を見せつけに来たに決まっているでしょう?」
「は、こちらがリナキンさまの打たれた儀式剣、「霧乙女の礼剣」でございます」
執事から剣を受け取り天に掲げたリナキンと、それを見上げる二人(と一匹)。
「おお~~! すっごいきらきら!」
「目が痛いです……」
「霧水晶より金色が目立ってねえか?」
「だーーーまらっしゃい悪魔猫! 霧水晶を柄にあしらいったこの淑やかさがわからないとは子供ですわ~~!!」
「誰が悪魔猫だ! だとしても刀身がギラギラなんだよ!!」
デルが喧嘩を始めようとすると、エウレカが首根っこをつまんで下がらせる。
「コガネちゃんらしくてすっごいエレぴか! 他の誰にも思いつかないよ!」
「ふふん! そうでしょうそうでしょう。貴方も庶民の割にはいいセンスですわ」
「でも、完成じゃないんでしょ?」
「――そうですわ。だからこそ、アルマ・エレメンツ!! 私の宿敵に決闘を申し込みますわ~~!!」
「結局こうなんのかよ……。アルマ! 俺たちの剣を見せてやれ!」
*
鍛冶店の裏、決闘には十分な広さの中庭でアルマとリナキンは見合っていた。
「立ち合いはわたし、エウレカ・シュヴァルツァ・ディスレーが行います。宣誓を」
エウレカを中心に剣を携えた二人は静かに呼吸を整えて静寂を待つ。
「……おーっほっほっほ!! 準備はいいですわねッ?」
「もちろん! デル!」
「ああ!」
掛け声とともに駆け寄った黒猫の姿のデルを胸に抱きとめ、作業服のアルマは目を閉じる。
すると、黒い魔力が繭のように包み込んではじけた。
――その内部、桃色に輝く空間では、アルマの体を覆うように広がったデルの魔力が衣装へと変化していく。
目を閉じたままステップを踏み、拍手をすればいつものオーバーオールは黒い華のつぼみのようなスカートドレスに変わる。
つま先をタップすれば、桃色のチュールに飾られたシューズが現れ、手を重ねれば黒いオペラグローブが軽くフィットした。
最後にお団子にまとめていた髪に触れれば、それは大きなウェーブしたポニーテールに変わる。
ぴょこん、と黒い猫耳としっぽの生えた戦うためのドレスに身を包んで繭の外へと放たれた。
彼女を知るものが「変身」と呼ぶデルの魔法によって、姿を変えたアルマは目を開く。
「……まったく、悪魔の業とは思えぬ変身ですわ」
「アルマのセンスに引っ張られているだけだ! 俺のじゃない!」
「いいからはじめよ! わくわくしてきた~っ!」
胸元に収まったデルの猫型ペンダントからの抗議をむぎゅっと手で押さえ、星繋ぎの剣を握る。
対するリナキンも霧乙女の礼剣を構えて己の契約した精霊の力を解き放つ。
金の粒子が舞い、優雅に帯を描いて手甲を形作り、決闘の準備は整った。
「「ひとつ、剣を失ったものを敗者とする」」
「「ひとつ、決闘はお互いの合意をもって行う」」
「「ひとつ、決闘の結果は決闘でしか覆せない」」
「「以上をもって決闘の誓いとする」」
二人の声が重なり、エウレカが手を振り下ろすのと同時、仕掛けたのはリナキンだった。
「黄金のサビにしてくれますわぁ~~!」
「黄金はサビねえだろうが!!」
デルが吠える。
黄金に輝く刀身を振り下ろす上段の攻撃を、素直に水晶の刃で受け止めた。
「すごい、やっぱりコガネちゃんは上手い……っ!」
「おーーーっほっほっほ~~~!!」
防御され、再度突撃するために一歩跳び退るリナキン。
幾重に巻かれた縦ロールがなびいて黄金の奇跡が宙に描かれた。
アルマは自分の刀身が大上段からの一撃に問題なく耐えたことを喜びつつも、リナキンの剣の完成度にも目を見張っていた。
通常、黄金は柔らかく、重い。そのため、剣に使用するには向かない素材。
リナキンは独自の配分で素材を加工しているからこそあの細い腕で金の剣を振るえるのだ。
「あの令嬢、うるさいだけじゃないのが厄介なんだよ」
「すっごくエレぴか! デル! 私たちも魅せよう!」
再度上段を構えるリナキンへ、地面を蹴って跳びかかる。
それはなめらかなステップ。
宙を滑るような軌道で剣を低く構え、逆袈裟に切り上げるような速攻。
「アルマさんは、霧の中に流星をみたんですのねっ!」
パチパチ、と翡翠にはじける軌道の魔力に満足げな笑みを浮かべ、その場でスピンするように跳びながら下段を守るリナキン。
光の精霊の力を借りて物理を無視した動きに再度剣戟が火花を散らす。
「もっともっと、エレぴかさせよう!」
「まだ折るんじゃねえぞ!」
虹色に輝く目を見開き、魔力をきらめかせるアルマとそれを礼装という形で押し留めるデル。
少女と悪魔は弾かれた刃を支点に跳び、リナキンへと追い縋る。
一方、リナキンもただ防戦しているわけではなく。
刃に魔力を流し、その潜在能力を引き出そうとしていた。
「覚醒めなさい! 霧乙女の礼剣!!」
ヂヂ、と剣がかすかに震え、黄金の霧が鍔の水晶から吹き出る。
「目くらましか!」
「なわけないっ!」
視界を奪うように広がる金に、何かを感じ取ったアルマが宙返る。
「黄金の舞踏! わたくしの舞台ですわぁぁ!!」
瞬間。
1秒前までアルマが居た空間を金の閃光が貫いた。
「なんっ……!?」
「コガネちゃんはそこにスポットライトを見たんだよ!」
夕日に霞む黄金の霧の隙間。
差し込む黄金の陽のような閃光を間一髪で避け、猫のようにしなやかに着地して一発の閃光を刀身で受ける。
「さすがですわ、それでこそわたくしの宿敵ですわ~~っ!!」
「お前ら何言ってんの!?」
「すっごいどきどきした! まだまだ行くよ~~っ!」
興奮に跳ねるアルマと、一匹ついていけてないデルの声。
再度合わせられる刃と刃が幾重の音色を奏でる。
「そろそろ、終わりにして差し上げますわ!」
額に汗をにじませたリナキンがそう吠え、纏った黄金の光を剣へと注ぎ込む。
一方でアルマは気迫に押し戻されて低い姿勢で地に手をついていた。
「黄金の舞踏、最大出力ですわ~~っ!!」
「設備は壊さないでくださいね?」
「常識の範囲でですわ~~!!」
リナキンの興奮に満ちた声に、冷たくエウレカが注意した。
中庭には倉庫や薪などの資材も積まれている。
斯くして、積乱雲のように吹き上がった霧から放たれた金の閃光は激しく地面に突き刺さった。
――そこへ一陣の風が吹き、土煙と霧が晴れる。
「っ!? いない!? わたくし殺ってしまいましたの!?」
「違う、上っ」
一瞬慌てたリナキンの頭上。
高く跳びあがって閃光を回避したアルマが宙を舞っていた。
ひらり、と剣をひらめかせて魔力を込めた光。
鮮やかな月明りに交じって翠の極光を描く――。
「すごいすごいすごーいっ! エレぴか!」
「おい、おい! 出力を上げすぎだ!」
「いっしょに謡おっ! 星繋ぎの剣!!」
振りかざされた刃が光を集め、無数の光点をつなぐ。
それは星座を遊ぶような自由さを以って宙を奔る一閃に変わっていく。
一歩宙を蹴るたびに凛と鈴の音が響き、ステップを踏むごとに光点が煌めく星座になる。
衝撃に向かうごとに光を集めて輝きを増す水晶の刃。
幻想的な斬撃がリナキンの剣に叩きつけられた――!!
*
「この決闘は……引き分けです」
「うわわわっ! 星繋ぎの剣が折れちゃった!」
「当たり前だバカ! 試作品だって言っただろ! あんな魔力を流したら折れるに決まってる!」
「わたくしの霧乙女の礼剣もぽっきりですわ~~!!」
「お嬢様、まだまだ改善の余地がありそうですな」
店番を代わっていた執事も顔を出し、にぎやかに騒ぐ。
これは、聖剣と魔剣が統べる世界でたった二人。
ヒトと悪魔が手をつないで剣を紡ぐ、そんなお話の1ページ。
続きはまた、いつか語りましょう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。
誤字脱字などありましたら、こっそり教えていただけると助かります。
もしよければ、このお話への一言メッセージもお願いします。
とても励みになります!
もっと面白いお話が書けるように頑張ります、これからも応援していただけると嬉しいです。




