表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
営業成績最下位の俺がバブル時代の商社にタイムスリップしたら、昭和の気合営業に現代マーケティングを持ち込んだら出世してしまった  作者: かーすけ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/16

プロローグ タイムスリップ

「営業は気合だ! 気合が足りないから売れないんだ!」


 フロア中に怒鳴り声が響いた。

 視線が一斉にこちらに集まる。

 俺――坂本恒一は、黙って頭を下げた。

 営業成績、最下位。

 三か月連続。


 机の上には返品された見積書の山。

 パソコン画面の営業管理システムには、赤い数字が並んでいる。

「坂本、お前なぁ……」

 上司は深いため息をついた。

「この会社、営業で食ってるんだぞ? 分かってるのか?」

分かっている。

 痛いほど分かっている。

 だけど――売れない。


 俺は営業が向いていないのかもしれない。

「とにかくだ!」

 上司はデスクを叩いた。

「今夜は取引先と飲み会だ! お前も来い!」

 俺は思わず顔をしかめた。

 また飲み会だ。

 酒は弱いし、接待トークもめちゃ苦手だ。

 だが断る権利なんてない。

「……はい」

 小さく答えた。

 周りの同僚たちは忙しそうにキーボードを叩いている。

 誰も俺を見ていない。

 いや、正確には――興味がない。

 会社にとって、営業最下位の人間は空気と同じだ。


 深夜。

 飲み会が終わり、俺は駅前をトボトボと歩いていた。

 ネオンがにじむ。

 スマホを見る。

 メッセージはゼロ。

 恋人もいない。

 友達もほとんどいない。

 SNSには、同級生の幸せそうな写真が並んでいる。

 結婚。

 マイホーム。

 海外旅行。


 スマホをポケットに戻した。

「……はあ」

 情けないため息が出た。

 コンビニで缶コーヒーを買う。

 自動ドアが開いた瞬間、冷たい夜風が吹き込んできた。

 そのとき、ふと目に入った。

 コンビニの片隅。

 小さな棚。

 そこに、古い雑誌が並んでいた。

 昭和の雑誌特集らしい。

 表紙には派手な文字が踊っている。

「バブル絶頂! 日本は世界一の経済大国へ!」

 笑ってしまった。

「いいよなぁ……この時代」


 バブル期。

 テレビで何度も見た。

 人々は派手なスーツを着て、高級車に乗り、毎晩のように飲み歩いていた。

 給料もボーナスも右肩上がり。

 努力すれば成功できる時代。

 今とはまるで違う。

 俺はページをめくった。

 そこには、笑顔のサラリーマンたち。

 肩パッドの入ったスーツ。

 ポケベル。

 ゴルフ接待。

 夜の六本木。


 まるで別の国みたいだ。

「もし、あの時代に生まれてたらなぁ……」

 俺は苦笑した。

 そのときだった。

 雑誌のページから、何かが滑り落ちた。

 古い――名刺だった。

 黄ばんだ紙。

 そこにはこう書かれていた。


 東都物産株式会社

 営業部

 武田 進


 名刺の裏には、手書きの文字。

「1988年 最高の時代」


 次の瞬間。


 店内の蛍光灯が一瞬だけ――チカッと明滅した。


 頭がぐらりと揺れる。

 耳鳴りがした。

「……?」

 店員の声が遠くなる。

 視界が歪む。

 雑誌のページが風にめくれた。

 そこに写っていたのは、夜の東京。

 ネオンに包まれた街。

 派手な服の若者たち。

 タクシーの行列。

 そして大きな見出し。

「日本経済、史上最高へ」

 世界が回転した。

 足元が崩れる。


 俺の意識は、闇に沈んだ。

 目を開けると。

 俺は――ネオンがまぶしい街の真ん中に立っていた。

 通りを歩く人々の服装が、妙に派手だ。

 男はダブルのスーツ。

 女はボディコン。

 肩パッド。

 そして、やたら大きな携帯電話。

 遠くからタクシーの運転手の声が聞こえる。

「お客さん! 六本木ですか!?」

 目の前の電光掲示板を見た。

 そこに表示されていた日付。


 1988年10月12日


 俺は、呆然とつぶやいた。

「……嘘だろ」

 そして、この時代が――

 日本が世界で一番浮かれていた、バブルの真っ只中だということをまだ知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ