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第四話【佐倉の動揺】

飽きた、とか。そういう話じゃない。

ただ、他の選択肢に惑う気力がなくなっているだけだ。


そんな日常が今日の正午、覆ってしまった。


「佐倉さん?」


後輩と外回りしていた時だった。

まだマシな発注先ではあったが、相手の出方をある程度把握してこちらから仕掛けるという交渉は、かなり精神を消耗する。


「コンビニで買ってきたけど食べるか?」

「ああ〜先輩!すんません!ありがとうございますっ!」


社用車の助手席と運転席で、俺達は電子レンジで温められたロコモコ丼をかき込む。

一日に必要な野菜の2分の1がと摂取できると書いてあったので、効率的だと思ったからだ。


後輩はついこの前入ってきた新卒で、勤務態度は遅刻もあって目を瞑る日もあるが、気の利く良い奴だった。


「先輩って結婚とか考えないんすか」

「…………は」

「だって真面目だし、仕事も卒無くこなせるし。あとはもう、人生のバージンロードって言ったら、結婚くらいじゃないですか」

「ないな。俺、誰かと暮らすって無理だと思うわ」

「怖いから?」

「めんどくさいから」


そう。人生は面倒くさいことの連続だ。

それに俺には、誰かの人生を抱えて、幸せにさせてあげられるような。

そんな器量も努力も、地位すらも無いと思っている。なぜなら凡人だからだ。女性はそんな凡人に夢だとか、恋心だとかを抱くことはないだろう。


「……その顔、満更でもないっすね!」

「はあ!?お前な、誰がこの前の尻ぬぐいしてやったと思ってんだ!」

「それとこれとは別ですよ!……じゃあ、一歩ずつでもやってみたらどうですか?」


一歩ずつって、何をだよ。

そんな言葉を投げかけようとして、吐きかけた唾と呑み込む。

それはきっと、俺が少し見栄を張ったからなのだと思う。無意識のうちに。



***



券売機の前で一分も惑うのは、これが最初で最後になるだろう。

いつもなら、ああ、腹満たせればいいや。と間髪入れず定番メニューをタップする。ところが今日の俺は、季節のおすすめというボタンをタップしていた。


そこにあったのは“韓国フェア”。唐辛子マークが何個もついた辛そうな料理が連なる中、トッポギトマトチーズ牛丼というのを発見した。


『一歩ずつでもやってみたらどうですか?』


くだらない。やっぱり俺は、きっと今、くだらない見栄を張っている。


――店員が運んできてくれた、目の前の丼に思わず目を見開いた。


「なに、これ?」


目の前の情報量が明らかに多い。値段もワンコインでは済まないし、付け合わせの味噌汁も絶対に合わない。

しかし、牛肉に合わないはずがないマリアージュ。案外いいな。ああ、このトッポギとかいうのも最初はふざけた名前だと思ってたが脳内の格付けトッピングの順位を訂正しよう。


「いらっしゃいませー」


今日は満足だ。店内も混んでいるし、食べ終わったらすぐ立ち去ろう。

そう思い、トッポギを箸で摘んだその時だった。



「あの!牛丼、どうして今日違うんですか!」



そこには、いつの出来事だったかも思い出せないほどの、日常の渦で垣間見た。

暗澹な日常へ差し込まれる純朴の光が、真っ直ぐ俺を見据えていた。



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