第一話【鈴木の日常】
「おーい鈴木!こっちこっち!」
午後5時。駅前。賑やかな店内。
談笑する客らを横目に、通りがけの猫のロボットを撫でてやる。
そしていつものメンツであることに目を通して、私のために空けられた奥側のソファ。
退いてくれた森中に「あんがと!」軽く会釈して、一人分のスペースに座る。
「はいはいー!もう頼んだ?」
「まだ。あたし達も今着いた所だからさ!てか何にすんの?」
「メロン!メロンソーダフロート!」
「それ好きだなーすずぴ!森中は?」
「うーん。え~、どしよっかな。この前何たのんだっけ?あ、カツサンド~?」
「じゃね?あてかこれデカいからあたし達また食べることになんじゃん!」
カチカチと森中のネイルが響く。それに合わせて皆も思い出したようにスマホを取り出した。
私は教科書とタブレットを取り出そうとして。
あ、またいるな。なんて。
「QRこれ?」
「そうそう。これもねがーい」
「今日数学?だりー。範囲も広いんだよ」
「それな。つか聞き取りにくいんよね、あいつん声」
「えもうさ食べてからでいんじゃね?勉強すんの。てか聞いて?この前さーー」
ネックストラップがぷらぷらと揺れて、黒い髪はあちこち跳ねていて。
シワ一つないワイシャツを着ているのに、猫背で、ふんにゃりしてる。
「お待たせいたしました!ご注文の…」
『臼杵屋』。チェーン店で、駅の前には大体どこにでもある。
そこの玄関に同じような格好のリーマンが吸い込まれてく。
だけどやっぱ、分かるんだよねー。
「ーーすずぴ?」
気づいたら、メロンソーダに乗っかってるバニラのアイスクリームが、グラスのコップの外側を流れ落ちる。
気づけばいつものように、他愛もない話をして、ちょっと勉強して。
解散する中で、私だけが一人、夕暮れの中でその扉を眺め続けて。
…お、出てきた出てきた。
ーーその一瞬。瞬きをしたその間、目が合った気がした。
気のせいだったかな。でも。
ネックストラップが風に吹かれて、空に翻る。
「ーー佐倉って言うんだ、あの人」
『カフェの鈴木と丼屋の佐倉』




