95話 「元の世界と変わらねえじゃねえか!」
さて、スパーリングはターリアさんとカルラさんに交代していますね。
二人は距離を取りつつ、自分の間合いに相手を誘っています。しかし自分から相手の間合いに入るのは避けたいですよね。そういうことで……二人のスパーリングは膠着するのでした。
「特にカルラが慎重だな。あれはターリアのパワーを警戒しているんだ。一度掴まれたら……あっという間に引っこ抜かれちまうからな」
山田さんが語った視点から二人を見てみますと……ああ、その通りですね。カルラさんはターリアさんの両腕が届く範囲には決して近づきません。
「ターリアのパワーは俺以上かもしれんからな。カルラの体格では……抗うことすらできんだろう。慎重にならざるを得んのは仕方ないな」
【山田さんよりもパワーがあるんですか? そうは見えませんけど……】
「俺のパワーは鍛えることで作り上げたものだ。だが、ターリアは……天然物に近いだろうな。ひょっとしたら生まれながらってヤツかもしれん」
【じゃあ……まだまだ伸びしろがあるってことです?】
「ああ、間違いなく……あるだろう」
【うわ……見た目に反して恐ろしい人なんですね】
ターリアさんのパワーについて、末恐ろしい話をしていたら……スパーリングの展開が大きく動いていました。ターリアさんのパワーボムが、カルラさんに炸裂しています。
【今のパワーボム……なんだか地面が揺れた気がしますね】
「そうだな……あれぞパワーボムの理想形だ。並の使い手では相手を持ち上げるので精一杯、地面に落とすのは重力任せってのが相場なんだ。しかしターリアは持ち上げた相手を……全力で叩きつけてやがる。少しでもダメージを与えたいんだろうな」
【何て言うか、とにかく一つ一つの技がエグいですよね。見た目に騙されると……文字通り痛い目を見そうです】
「まあ、見た目には……おっぱいのデカい天然のお姉ちゃんだもんな」
【そうですね……あんまりプロレスラー然とはしてませんよね】
「いや、それこそが武器なんだろうな。一見普通に見えるが、リング上では凄さが伝わるタイプのレスラー……こういった意外性は初見の観客なんかに受けが良い」
気付けばスパーリングの方は……ターリアさんが守勢に回っていますね。カルラさんが飛び技で翻弄しています。
【なんだかターリアさん……スタミナ切れみたいですね】
「悪い癖だよな。いつも攻めすぎて……こうなっちまう。もっと試合全体を通してのペース配分を覚えたほうがいいだろう」
【こうしてペースを奪われて……あっさり負けちゃうことも多いですからね】
「そうなんだよな。思った以上に打たれ弱いのも……ターリアの課題だ」
スパーリングはターリアさんのスタミナ切れにより終了しました。そしてターリアさんの代わりには……ルカさんが入ってきましたね。これはルカ VS カルラ……因縁のスパーリングになりそうです。
カルラさん、ターリアさん相手のスパーリングに比べると……見違えるほどに動きが良くなりましたね。これも対戦相手がルカさんに変わったからでしょう。カルラさん、押し気味に進めています。
【やっぱり……負けん気の強さが動きにも現れていますね】
「そうだな。私怨もあるんだろうが……負けん気の強さって良いレスラーになる条件の一つだからな。別に悪いことではない」
【そういうものなんです?】
「俺のいた世界でも……アイツにだけは負けたくないとか、そんなレスラー山程いたぞ。エリート相手に敵対心を剥き出しにする雑草育ちのヤツとかさ。それに……お客さんの判官贔屓もあってか、盛り上がるんだよな。やっぱり」
【なるほど。興行に取っても良いことなんですね】
「だから……カルラとルカの因縁に関して、俺は何も口を挟む気はないぞ。むしろ、その因縁が良い方向に働くんじゃないかとさえ思っている」
【そうなれば良いんですけど……今は乱闘ばかりですからね】
それで、スパーリングの方はというと……カルラさんが多種多様な飛び技で、ルカさんを圧倒しています。
【それにしても、あれだけ小柄なのに……凄まじい跳躍力ですね】
「風属性持ちとは聞いたが……やはり素質は抜きん出ているよな。あの飛び技……天才と言うに過言ではないだろう」
あ……カルラさんの飛び技が回避されてしまいましたね。これでルカさんがペースを握りそうです。
「飛び技一辺倒だと……こうなるんだ。だから、カルラはもっと他の技も磨くべきだろうな。今は飛び技にこだわり過ぎている」
その言葉が聞こえているわけではないでしょうが……ルカさんは投げ・パワー・打撃・極め・飛びと、多彩な技を見せています。
「ああやって、カルラに教えてやっているんだよ。何だかんだ言って……ちゃんと先輩してるよな」
【偉いですね。きっと山田さんよりも偉いですよ】
「うーん……否定は出来んな。俺はパワー技を愛用しがちだし、飛び技はそこまで多用しないからな。そういう意味ではルカって……理想的な万能型レスラーかもしれん」
【そうですよね。何をやっても上手くこなすイメージがあります】
「そうそう。それに試合運びも上手い。カルラのデビュー戦ではアイツの技を全部受けてやって……それで叩き潰してたからな」
【あの試合……ちょっと怖かったですけどね】
「でも、盛り上がってたよな? ああいう試合でもファンを喜ばせることが出来る……それこそが素晴らしい能力だ」
さあ、スパーリングはというと……ルカさん、カルラさんを難なく下しています。
「まあ、ルカに関しては安心していいだろう。このまま順調に伸びてくれればいい」
【なるほど。これで山田さんが……スカイハイの選手達に何を考えているかがわかった気がします】
「お役に立てて、何よりだ」
【それでですね、最後に伺いたいんですけど……今後の山田さんは…………どうするか考えてます?】
***
俺か? 俺の今後か? そうだな……流石にもうレスラーとしての伸びしろは少ないだろう。その当たりはルカ以降の選手達に任せた方がいいかもしれんな。
すると、やはり…………
「俺はスカイハイ……団体の成長に注力するのが良いかもしれんな」
【土地も何とかなりましたしね。後は……資金でしょうか】
そうなんだよな。結局は資金問題が目の前に立ちふさがっちまう。だったら、どうする……もっと魔物を狩るか? それともスポンサーを募るべく……企業をハシゴでもした方がいいんだろうか。
まあ、難しいことを考えるのは……後回しにしておくか。それにしても……俺もこの世界に慣れてきたもんだ。
気付けば魔物や魔法とか、俺の世界では考えられなかったような代物を……すっかり受け入れているんだからな。今では
転移して良かったな……とまで思うようになっている。そう……この世界は楽しい世界だ。
しかし……唯一不満を言わせてもらおう。
「団体トップが金集めに奔走するのは…………元の世界と変わらねえじゃねえか!」
俺は……そんな世知辛さを味わいながら、スカイハイをもっと大きな団体にしてやろう。そう決心するのであった。
二部 新人育成編 完




