94話 「個性が出てきたのがいいよな」
墓地での練習に合流を果たした山田さん。その時、皆さんはスパーリングを始めたところでした。
今は……ヴィクトリアさんとサルヴァトーレさんがスパーリングをしていますね。サルヴァトーレさんの関節技にヴィクトリアさんが苦しんでいます。
それを眺める山田さん。私は話しかけることにしました。
【やっぱり……実力的にはヴィクトリアさんが劣っていますね】
「そうだな。でも、それは仕方ない。彼女にはスポーツや格闘技のバックボーンがないからな」
【まあ、冒険者ギルドの受付さんでしたからね】
「ああ。しかし、それのおかげかは知らないが……ヴィクトリアは真面目なのが素晴らしいな。練習で手を抜いているところなんて見たことないくらいだ」
確かに、言われてみれば……そうですね。ランニングや筋トレに大苦戦こそすれ、それから逃げ出すような事はありませんでした。常に全力、これがヴィクトリアさんの持ち味なのかもしれませんね。
そんな会話をしていたら、スパーリングではヴィクトリアさんが攻勢に回っていました。ヘッドロックやスリーパーホールドのような基本的な技で、サルヴァトーレさんのスタミナを削っています。
「それに……個性が出てきたのがいいよな」
【凶器攻撃とか場外乱闘のことです?】
「そうそう。あの手の技ってのは……案外、難しいんだ。場外乱闘で椅子を使うのに、ビビっちまうような選手だって多いしな。それに凶器や乱闘なんてのは……実は視野が広くないと出来ないんだぞ。会場の空気、雰囲気をしっかり把握して……ここぞという場面で盛り上げる。それが出来るだけでも見事だ」
【私には……ただキレてるようにしか見えませんでしたけどね】
「そう見せるのが……プロレスなんだ。ヴィクトリアはきっと……いいレスラーになれるぞ」
【既に、いい事務員にはなってくれてますもんね。後は……実力だけですか】
「それは……とにかく基礎から練習するしかないだろうな」
気づけば……スパーリングは仕切り直しになっていました。再びサルヴァトーレさんとヴィクトリアさんが対峙しています。
「サルヴァトーレか。アイツ……とにかく地味だよな」
【まあ、他が派手なだけに……不運ですよね】
「ただ……地味だけど、努力家なのは間違いない」
さあ、スパーリングの方では……サルヴァトーレさんが凶器を振り回し始めたヴィクトリアさんの腕を掴むと、脇固めに入りました。凶器攻撃を絶妙なタイミングで回避しての脇固め、見事な切れ味ですね。
「ああいった動きは、やっぱり衛兵仕込みなんだろうな。更に自分的なアレンジを加えてやがる。アイツ、ああ見えても……関節技の研究は熱心なんだよ。いつも自主練で関節技ばっか練習してるからな」
【なんだか職人みたいですね】
「そうだな。案外、玄人好みのレスラーとして……化けるかもしれんな」
【既に、一部の女性陣からは好まれてますよ】
「それに関しては……街を歩く度にヒリついた目に遭っているらしいな」
そしてスパーリングの方は……ヴィクトリアさん、脇固めから逃れられず地面を数回叩くと……無念のギブアップです。ギブアップの意思を確認したサルヴァトーレさんは、即座に技を解きました。そして、ヴィクトリアさんに手を差し出すと立たせてあげます。
「アイツ……同期の間でも兄貴分みたいになってるんだよな。思った以上に面倒見もいいし」
【確かにそうですね。ヴィクトリアさんやカルラさんの自主練に付き合ってたり、ターリアさんが天然な行動をしてたりしたら助けてますもんね】
「そうそう。あの四人の中では……サルヴァトーレが縁の下の力持ちってヤツなんだろうな。そういう目に見えない貢献が信頼を生んでいるんだろう」
【なんだか凄いですね。地味以外は褒める要素しか出てこないじゃないですか】
「まあ、敢えて苦言を呈すなら……もっと関節技以外を練習しないとダメだな。そうでなければ……本当に地味なだけのレスラーになりかねない」
山田さんによる選手評、なかなか興味深いですね。せっかくだし、他の人の事も聞いてみましょうか。




