85話 「壁をぶち破りにきました」
「それでは、これより…………実験興行開催」
〈わーわーパチパチ、わーわーパチパチ〉
イクセントラさんはプロレスのルール説明を終えると、興行開始を宣言しました。場内に響く歓声や拍手。そしてイクセントラさんは、第一試合の出場選手をリングへと誘います。
「青コーナーより…………ターリアの入場」
開場にダンスビートが刻まれました。そのリズムに合わせ手拍子が鳴らされます。次第に大きくなる手拍子の音に合わせて……ターリアさんが入場してきました。
〈魔物に負けるなー!〉
〈でけー!〉
花道には多くの人が詰めかけています。ターリアさんは彼らにハイタッチで応じていますね。そしてリングが近づいてくると……セカンドロープとサードロープの間からリングインしました。両腕を掲げ、大声援に応えています。
〈揺れ方、ヤベー!〉
「赤コーナーより…………スライムの入場」
会場に何やらバラードが流されました。あまり入場に相応しい気がしませんが……そのゆっくりとしたテンポに合わせて
、スライムさんが入場してきます。這い、跳ね……花道を往くスライムさん。先程のターリアさんとは対照的で、花道には誰も詰めかけてきていません。
「わ、わしとハイタッチしてもいいスラよ?」
寂しそうに言うスライムさん。しかし、近づくものは誰もいませんでした。仕方なくリングへ這い進むスライムさん。
そんな時…………
〈頑張れコケー!〉
そんな声援がするのでした。ああ、魔物の皆さん……今回も来てくれているんですね。
わずかな声援に背中を押され……って、スライムの背中ってどこだ……リングに這い上がりリングインしたスライムさん。
〈スライムさーん、設営はありがとなー。応援してるぞー〉
冒険者さんの声援を受けつつ、赤コーナーに待機するのでした。
「赤コーナー…………110パウンド…………ターーーーーリアーーーーー」
場内にイクセントラさんの選手紹介コールが響きました。
〈魔物なんか倒しちゃえー〉
〈垂直落下、期待してるぞー〉
〈おっぱいおっぱい!〉
彼女の試合時、声援の質は気にしないほうがよさそうですね。ちょっとアレなファンが付いています。さあ、次はスライムさんのコールですよ。
「青コーナー…………44パウンド…………スラーーーーーイムーーーーー」
〈魔物を代表して頑張るスケー〉
あんまり、そういう事言うと……身バレしちゃいますよ。まあ、よく知った魔物の声援だけが響きました。人間からの歓声はありませんね。ちょっと可哀想です。
さあ、試合開始かと思われましたが……イクセントラさんは拡声器をスライムさんに差し出しました。
えっと、あれは手なんでしょうか……ヌルリと伸ばした触手で受けると、それを本体に当てます。本当は口に当てますと言いたかったんですけど……どこが口なのか、私にはわかりませんからね。
さあ、スライムさん……何かマイクパフォーマンスするみたいですよ。
「皆さん、こんばんは」
まずは挨拶から。会話の基本ではあるんですけどね……今、やるべきことでしょうか? ほら、お客さんだってどうしたらいいか困ってるじゃないですか。
でも、なんだか、私……こういう気まずさの経験があった気がするんですけど。ま、いいや……忘れちゃいましょう。
スライムさんは続けます。
「今日は……壁をぶち破りにきましたスラ」
壁……ですか。きっと人間と魔物の間に立ちはだかる壁の事を言っているんでしょうね。その為に、今日は真面目に頑張っているスライムさん。更に続けます。
「人類と魔物は殺し合いをしているわけではないスラ! わかってくださいスラ!」
〈パチパチパチパチ〉
お……少し拍手が鳴っていますね。スライムさんの魂の叫びが……わずかですが届いているのかもしれません。スライムさん、まだ続けます。
「人類と魔物は……プロレスをする為に生まれたスラ! それを聞いて感じて考えてくださいスラ!」
〈いいぞー! 頑張れー!〉
少しですが、歓声が上がり始めました。どうやら、お客さんにも……スライムさんの覚悟が伝わったみたいですね。後は……試合で魅せるだけです! 頑張ってくださいね、スライムさん!
イクセントラさんは拡声器を回収すると、リング中央で構えます。そして……受付二号さんにゴングを要請しました。
さあ、記念すべき魔物プロレスになるのでしょうか。試合が……始まります。
カーーーーーン!




