84話 「今日も……筋肉良し! ご安全に!」
「あ、来た来た……師匠来たわよー」
真っ先にスライムさんの控室入りに気づいたルカさん、それを全員に周知しました。スライムさんに皆の視線が集まります。
「今日はよろしくお願いしまスラ!」
大きく挨拶をするスライムさん。下げる頭はないのですが、なんとなく頭を下げている……そういう動作を見て取れます。きっと挨拶代わりに、小さく跳ねているのでしょうね。可愛いです。
「それじゃ、ちょっと打ち合わせといくか…………師匠とターリアはちょっと来てくれ」
そう言うと、山田さんは二人を連れ……控室を出ていくのでした。
山田さん達が戻ってくると、そろそろ試合準備開始です。まず女性陣が着替え等の準備をする間……男性陣は外に出て、開場やお客さんの誘導を手伝うのが恒例の流れでしたね。山田さんとサルヴァトーレさんは控室から立ち去ろうとします。
「ちょっと……師匠はどうすんのよ?」
しかし、山田さんが控室を後にする寸前……ルカさんからスライムさんをどうするのか、それを問われました。
「ああ、そうか。師匠用の控室までは考えてなかったな。しかし俺達はお客さんの誘導に行く以上、連れて行くことはできないし……困ったな」
頭を抱える山田さん。そんな時、助け舟を出してくれる人が現れました。
「あのーーー。それなら、スライムさんは……女性陣の方にいてもらってもいいと思いますよーーー」
ターリアさんです。ターリアさん的にはスライムさんを女性だと認識しているんでしょうか? まあ、それ以外のカテゴリーに含まれている気もしますね。
「ちょっと待ってよ! アタシは嫌よ。師匠に着替えを見られるなんて」
それに反対するルカさん。こちらはスライムさんを男性と断じているのでしょうか? 着替えを見られるのを嫌がっています。
「えーーーっと、それなら平気ですよーーー」
そう言うと、ターリアさんは大きな箱を運んできました。これは……女性陣の衣装を詰め込んだ衣装箱ですね。かなりの重量があるはずなんですが、流石の怪力です。そして衣装箱から、女性陣が本日必要な分だけを抜き取ると…………
「はい、それじゃ……スライムさーーーん。こっちへ来てくださーーーい」
ターリアさんは中身を抜いた衣装箱にスライムさんを誘いました。スライムさんは言われるまま入室ならぬ入箱します。するとターリアさんは蓋をして……カギをかけてしまうのでした。
「これで……問題ないですよねーーー」
ターリアさんは終始、笑顔のまま……スライムさんを衣装箱に監禁していまいました。これに異を唱えるものは、いるはずがありません。
「今後は……この箱がスライムさんの控室ですよーーー」
そんな発言を耳にしながら……山田さんとサルヴァトーレさんは開場の手伝いへと向かいます。
さて、衣装箱に閉じ込められてしまったスライムさんはというと……暗闇の中で手持ち無沙汰ですね。仕方なく衣装箱の内部を這い回っています。すると……山田さんとサルヴァトーレさん、そしてヴィクトリアさんの衣装があるではありませんか。
こうして、女性陣の着替え中……スライムさんは三名分の衣装の汚れを吸収して暇を潰すのでした。
さて、こちらは山田さんとサルヴァトーレさんですね……お客さんの誘導を行っています。いつものように孤児院の子供達を最前列に招く山田さん。
「スライムって魔物なんでしょ? 怖くない?」
「ああ……プロレスラーに怖いものなんてないぞ! きっとターリアが倒してくれるからな。でも、ひょっとしたら……魔物って怖い存在じゃないかもしれないぞ。そしたら……どっちも応援してやってくれよな」
「山サルタッグ……尊い」
「それやばくない……サル山が王道でしょ」
「あ……えっと……今日は皆さんをヒリつかせる試合をするんで、応援お願いしますよ。お嬢さん方」
こっちではサルヴァトーレさんが女性二人連れのお客さんを誘導しています。山サルとサル山って……いたい何が違うんでしょうね? 私は知らない……ってことにしておきますね。
ある程度、お客さんの誘導を手伝った二人は控室に戻ります。入れ替わるようにして控室を後にする女性陣。
「衣装箱の中に師匠いるから、出しておいてあげて」
ルカさんの発言を受け、山田さんは控室に入ると……衣装箱のカギを開けるのでした。そしてスライムさんと衣装を取り出します。
そして誰得な男性陣の着替えが始まりました。ノーカットでお送りします。
スウェットを脱ぎ……肌着も脱ぎ捨てた山田さん。生まれたままの姿……というと赤ん坊時代から筋肉ダルマになってしまいますね。素っ裸です。全裸でモストマスキュラーポーズを決めながら……口を開きます。
「今日も……筋肉良し! ご安全に!」
おかしいですね。私の視界には安全なんてものは見えませんよ……危険な全裸だけが見えています。
「それにしても師匠、今日は……いつも以上に真面目だよな」
「それは当然スラ! 今日のわしの行いで魔物、そしてプロレスの未来が決まるかもしれないスラ。だから、街の皆さんに対して敬意を込めて接しているスラよ」
「なるほど……流石は師匠だ。人間性が出来ているな!」
人間ではない存在の人間性を褒め称えた山田さん。言うならスライム性ですね。しかし、こんないい会話をしているのに……全裸というのが締まらないです。もったいない。
さて、山田さんはようやくレスラーパンツを穿く気になりましたか……パンツを用意すると…………
「あれ、なんだかレスラーパンツがキレイになってるな……サルヴァトーレ、洗ってくれた?」
こちら、サルヴァトーレさん。タオルで隠しながら……とっくに着替えを終えています。
「さすがにパンツは自分で洗ってくださいよ」
***
一方、こちらはヴィクトリアさん。観客としてパパと一緒に来場しました。
リングサイド、前もって用意されてあった席に座ると…………
「魔物が出るという割には、満員のようだな? まったく……不安とかいう陳情はなんだったのだ」
パパはそう愚痴をこぼすのでした。
「不安よりも……皆さん、楽しみや期待の方が大きいんですよ」
ヴィクトリアさんはお客さんの声を代弁していますね。しかし、自身の営業活動には触れません。
「そう言えば……知っているか? スカイハイの噂は王都にまで届いているらしい」
「え!? パパ……それ、ホント?」
「ああ、どうやらプロレス団体の噂が王女の耳に届いたらしくてな。たいそう興味をお持ちになられたそうだ。いずれ王都に呼んで見てみたいとも伺っている」
ヴィクトリアさんは驚愕の表情を隠せません。
そんな時でした。イクセントラさんが花道から入場してきます。
それでは……実験興行の開始です。




