82話 「塩とか……おでんってのもあるぞ」
イクセントラさんは名残惜しそうに……ロープから解放された山田さんを見つめています。その現場から足早に立ち去る山田さん。残されたサルヴァトーレさんはイクセントラさんから質問攻めに遭っていますね。そして山田さんはヴィクトリアさんの所へと向かうのでした。
「実験興行ではマッチメイクから外してしまって……正直スマンかった」
ヴィクトリアさんの横に腰掛けると、頭を下げ謝罪する山田さん。そうなんですよね、実は実験興行のマッチメイクにはスライムさんが加わっているので……現時点で六名が所属するスカイハイでは一名があぶれてしまうのです。今回、その不運な一名になってしまったのがヴィクトリアさんでした。
「いえいえ、お気になさらないでください。それに、今回は父と一緒に観戦しようと思いますので……逆に丁度良かったと言うか……」
手を横に振って謙遜するヴィクトリアさん。キレていない限りは常識的です。そして彼女は発言を続けます。
「本当にウチの父が迷惑をかけて申し訳ありません」
今度はヴィクトリアさんが頭を下げていますね。それを……手を横に振って謙遜する山田さん。
そんな社交辞令的な会話が一区切りすると……話題は本題へと移ります。
「皆……技を習得していってるが、ヴィクトリアはどうする?」
「そうですね……興味はあるんですけど、私の能力だとまだ早いかなって思ってます。もっと基礎から練習しないとですね」
技の伝授をやんわりと拒否するヴィクトリアさん。まあ、他の三者に比べると……実力が劣って見えるのは事実ですからね。基本を徹底していく方針を維持するようです。堅実ですね。
「あ……でも、山田さんに聞いてみたいことがあるんですが…………」
「いいぞ、何でも聞いてくれ」
技の代わりという事でしょうか。ヴィクトリアさんは……山田さんに質問を投げかけるようですね。
「あの…………凶器の種類について教えてもらえませんか?」
「は?」
予想外の質問が飛んできました。呆気にとられる山田さん。反対に……凶器に矜持をもった狂気のヴィクトリアさんは、興味津々な表情で山田さんを凝視しています。
「うーん……そうだな…………メジャーなのはフォークとか五寸釘当たりだろうか。サーベルも有名だな。もちろんヴィクトリア愛用の酒瓶なんかも悪くない」
様々な凶器が挙げられると、驚喜のヴィクトリアさん。視線で……もっと多くを求めています。
「他には……傘とか竹串、それにペンとか画鋲なんかもあるな」
凶器を列挙する山田さん。その発言にヴィクトリアさんが反応します。
「前職の経験上ですね、ペンや画鋲の扱いには慣れてるので……使ってみてもいいですか?」
前職とは……冒険者ギルドの受付ですね。ペンは書類書きに、画鋲は依頼書掲示に使っていたんでしょう。それが、今や……ペンと画鋲は凶器として活用したいと申し出るヴィクトリアさん。
「まあ……相手とも相談して使ってくれ」
山田さんはそう答えるのに精一杯でした。
「パパになら……無許可で大丈夫ですよね。ほら、山田さんに失礼を働いた以上……落とし前をつけないと…………」
可哀想なパパ。落とし前に……凶器で侠気を示されてしまうのでしょう。
「あ……他にも塩とか……おでんってのもあるぞ」
慌てて、他の種類の……無害そうな凶器を挙げた山田さん。
しかし、その言葉はヴィクトリアさんには届かないのでした。




