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冴えないプロレスラーの俺がツッコミの女神に転移させられたのは娯楽のない世界だったので、プロレス団体を設立して人々に娯楽と笑いを届けよう  作者: マスクドぷるこぎ
団体創成編

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8話 「脂肪が厚すぎて打撃が効かない設定のプロレスラー」


 スライムとの体当たり対決は……両者微動だにぜず、引き分けに終わった。再び互いに距離を開くと、俺は言う。


「しかし……スライムがプロレスラーとは思わなかったな」


【私からすれば、スライムをプロレスラーだと断じる人類がいるとは思いませんでした】


 すーさんから辛辣なツッコミが入っているが気にしない。だって……スライムがプロレスラーだって何の問題もないだろ。職業選択の自由ってヤツが保障してくれているはずだ。


【私の世界では日本国憲法は適用されませんよ】


 それに、スライムと肌と肌でぶつかり合った俺には理解できた。あいつもプロレスラーの魂を持っている。その証拠に……あいつの魂は俺の魂と共鳴して、先程から素晴らしいプロレスを披露できているではないか。


【山田さんがフルボッコにされてたようにしか見えませんでしたけどね】


「いやいや、さっきも言っただろ。受けの美学ってヤツだ。だが、しかし……そろそろ攻守交代の頃合いだろう。スライムのヤツも多少は攻め疲れているようだからな」


【ん……? 私にはスライムさん……ツヤツヤしてて元気そうに見えてますが】


 俺は右足を前に、左足を後ろに……スライムとの対峙姿勢を半身に構え、距離を縮める。スライムは微動だにしない。やはりヤツも受けの美学をわかっているな。さあ、今度は俺の攻撃のターンだ。さあ、行くぞ! 喰らえ! 


「シャボン玉を砕くと評判の逆水平チョップ……名付けて山田チョップだ!」


【その評判は悪評です】


 俺は力のかぎり腕全体を水平に振り抜くと、手のひらがスライムの表面を叩く。


 パーン!


 辺りに打撃音が響き渡った。これほど素晴らしい逆水平チョップ……いや、山田チョップの音は、俺も今までに経験がない。思わず聞き惚れる。


【まあ、水風船を叩けば……誰にでもこんな音くらい出せますけどね】


 ふっ、素人にはそれが限界だろう。さあ、プロの技に驚くがいい。なんと俺は、この山田チョップを……連発できるからな! そして俺はスライムに……何度も何度も手のひらを叩きつける。


 パーン、パーン、パシーン、パニャッ、パニョッ、ポニョン、プニャッ、ポテッ……


【ああ、私にもわかりました。これが攻め疲れってヤツなんですね】


 俺の山田チョップは目に見えて速度が低下していた。無酸素運動の限界だ。俺は山田チョップを打ち込むのをやめ、大きく息を吸い込む。そして吐いた。そして、俺はスライムを見やる。どうだ、スライム……俺の山田チョップは効くだろう。


【シャボン玉よりツヤツヤしてますね。元気そうです】


 すーさんの言う通り、俺の視線の先のスライムはダメージを受けているようには見えない。何故だ……俺の山田チョップを喰らって無傷だなんてありえないだろ。この異常な状況に……俺の筋肉色の脳が答えを見つけ出す。ま、まさか……


「スライムめ、そういうことか……。お前、脂肪が厚すぎて打撃が効かない設定のプロレスラーなんだな!」


【設定とか言うの……やめてもらっていいですか】


「今どき、そういうギミックは客が喜ばないんだよ!」


【ギミックって言うのもやめてください】


 俺は怒りのあまり駆け出すと……スライムの中心よりやや下の部分に狙いを定め、黄金の右足を振り抜く。まるでサッカーのような動きで相手を蹴るプロレス技、これをサッカーボールキックと言うんだ。しかし俺のサッカーボールキックには固有名称がある。喰らえ! これぞ、豆腐を砕くと評判の……山田キックだ!


【食べ物を足蹴にするのには感心しませんし、その名前だと山田さんが蹴られる側です】


 ぽよーーーーーーーーん。


 サッカー用語で表現するのなら宇宙開発というのだろう……遠く、遠くへ飛んでいくスライムの姿は段々と小さくなり……そして、見えなくなった。




***




「地球は青かったスラ。見回してみても神はいなかったスラ」


 気がつけば戻ってきていたスライム。なんだか哲学者みたいなことを言って、すーさんの存在を否定している。


【スライムに存在否定されるのって……思った以上に悔しい気持ちになりますね】


 しかし困った。おかしな設定かギミックのせいで、あいつには山田チョップと山田キックが効かない。やるな、スライム……流石にお前もプロレスラーなだけはある。


「しかし、俺も同じプロレスラーだ! 負けるわけにはいかない」


【スライムと同じでいいんですか?】


 すーさんのツッコミが頭に響く。


 別にいいとか悪いとか……そういう話ではないのだ。スライムと俺に生物学上の違いがあろうと、俺達は同じプロレスラーである、それだけだ。ほら、スライムの顔を見てみろよ……いい顔してるじゃないか。まさにプロレスラーというか……漢の顔をしてるだろ?


【スライムの顔とか……ちょっとわからないんですけど、私視点からはスライムの性別くらいわかりますよ】


「便利な能力してるね」


【神様ですから。でも、あのスライムさんの性別……♀みたいですよ】


「えっ、そうなの? じゃあ、あれだ。女子プロレスラーの顔……戦乙女の顔をしてるだろ?」


【山田さんがそう思うんなら……もう、それでいいです】




 俺とスライムの試合はまだまだ続く。プロレスに終わりなんてないんだ。


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勢いとはすなわち説得力。 プロレスばんざーい!
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