79話 「急に身内が来ると、なんだかテンションが自宅用と外向き用で混じりますよね」
実験興行のビラがセパラドス中に張り出されました。今、この街は……その話題で持ち切りです。
少し、そのビラの説明をしましょうか。
まずタイトルは……大きく実験興行と書かれていますね。
そしてマッチメイクが第一試合……ターリア VS スライム。
第二試合……ルカ・カルラ組 VS 山田・サルヴァトーレ組。
観戦料は一人当たり銅貨五枚。
◯月◯日、セパラドス中央広場にて開催。
このようなビラが街一面に貼られているのです。
当然、気になるのは……第一試合のスライムという記述ですよね。これが山田さんの言う……賭けというヤツでしょう。しかし、いくらプロレスとは言っても……魔物が街の中に入ってくるのには抵抗がある人も多いようです。
「魔物が暴れたりしたら危険じゃない?」
「あいつらには言葉が通じないからな」
「俺はスライムくらい倒せるが……女子供だっているんだぞ」
「山サルで組むんだって」「違うわよ……サル山!」
などと、スライムさんの参戦には……拒否反応とまではいかないですが、不安の声が上がっています。
そんなこんなでビラが貼り出されてから数日後の午後。スカイハイ一同は山田さんを除いて、墓地で練習の最中でした。山田さんは、まだ美容施術中みたいですね。そして……招かざる客が到来したのです。
「こんなところで練習をしているのかね?」
その言葉を発したのは…………
「パパ!? どうしてここに?」
ヴィクトリアさんのパパ、セパラドスの区長さんでした。
「どうしてもこうしてもない。私は今……街を騒がせている問題の対応に来たのだ」
そう言うと……区長さんは山田さんの姿を探していますね。しかし、そのタイミングで……山田さんは帰ってきちゃいました。手を泥まみれにしながら、こちらへ駆け寄ってくると…………
「いやいや、スマンスマン。今日のフライング・ヘッドは頭がデカすぎてな……時間かかっちゃったんだ。それで……このオッサンは誰?」
区長さんを泥まみれの指でさすと……誰かを問うのでした。
「あああああ……すいません、この人……ウチのパパなんです。ほら、パパ! この人が山田さん。私がお世話になってる団体の代表さんって言ったでしょ……まったく恥ずかしいから、来るなら先に言っておいてよ!」
急に身内が来ると、なんだかテンションが自宅用と外向き用で混じりますよね。その現象がヴィクトリアさんに起こっています。区長さんは、それに飲まれてしまいました。そして、山田さんに頭を下げながら言います。
「これはこれは……普段から娘がお世話になっております」
「あ……こちらこそ、娘さんにはいつも助けられております」
山田さんも深々と頭を下げるのでした。本題に入るのは……もうしばらく先になりそうですね。
「……というわけで、魔物を街に入れるのは許可できん!」
社交辞令の交換からしばらくして、ようやく本題に入った区長さん。急に威厳を取り戻しています。
「そんな酷い……スライムさんは悪い人じゃないのに」
ヴィクトリアさんがパパを説得しています。ちなみに言いますが……スライムさんは人ではありませんよ。まあ、意味が通じてるなら構いませんが。
「そのスライムとかいうヤツが善人だろうがなかろうが……住民が不安に感じている以上は許可できないんだ。わかってくれるだろ、ヴィクトリア?」
もう一度言いますけど、スライムさんは人ではありません。こういうの……私はツッコミたくて仕方ないんですよね。
「スライムは悪いヤツじゃないスケ、許してやってほしいスケ」
状況がカオスになってきました。魔物が街に入る許可を取れないことを、別の魔物が区長に懇願しています。これ、ターリアさんの対戦相手をスケルトンさんに変えたら……市長の許可、取れたりしませんかね?
「そういう問題ではないんだ。もし住民に何かあれば……わしでは責任が取り切れん」
ああ、なるほど……そういう事ですか。結局は責任問題になった時に、誰がその責を負うんだって事なんですね。その発言を受けて、山田さんは一歩前に踏み出ると……宣言します。
「それなら……俺が全責任を取ってやるよ!」
その発言に驚く一同。しかし、区長はそれを利用します。
「いいんだな? 騒乱罪は…………死刑だぞ」
「え?」
まさかの死刑宣告に躊躇しかける山田さん。しかし、ここで踏ん張りました。
「い……いいだろう、や……や…………やってやろうじゃねえか!」
山田さんは全責任を負うことを了承したのです。吐いた言葉を飲むのは……プロレスラーらしくないからね。
「それとだ……失敗したら娘も返してもらうからな!」
そして区長は魔物を組み込んだ興行の成否に、娘の身柄まで要求するのでした。
ただでさえ、練習場にパパが来て……団体代表に死刑の可能性すら突きつけ……そして親バカを見せたのです。
これにキレないヴィクトリアさんではありません。
「じゃかしいわ! このボケハゲタココラァ! そのドタマかち割ったろかい! 待てや、タコォ!」
酒瓶片手にパパを追うヴィクトリアさん。それを尻目に……他の団体員が山田さんに尋ねます。
「本当にいいのですか? 死刑なのですよ?」
「やる前から失敗すること考えるバカがいるかよ!」
山田さんは気合満点、右手を高々と掲げると……そう答えたのでした。
こうして……山田さんの命を賭けた実験興行の開催が決定しました。
さすがに賭けのチップとして、命は重すぎますよね。こういう勝負こそ、ヒリつく……って感じなんでしょう。




