7話 「うわ、液体が喋った!」
「マジで死ぬかと思った……」
【既に一度、死んでるんですけどね】
死に物狂いにスライムの中から顔を抜け出すことに成功した俺は、芝生の上……仰向けに横たわっていた。なんて空気が美味しいんだろう。俺は大胸筋を上下させながら呼吸を楽しむ。少し落ち着いてきた。その時だ。
俺の視界に、急にスライムが映り込んだ。
やばい! スライムは再び高高度に跳ね上がっていたのだ。そして俺の直上……重力任せに落下してくる。また呼吸を奪われてはたまらない。俺は両腕を顔面の前に揃え、それに備える。さあ来い、スライム! この肉のカーテン越しに俺の顔面を覆えるものならやってみろ!
ドスーン!
スライムが落下した音が……痛みが俺の五感に響いた。しかし俺の肉のカーテンが負けたわけではない。なぜならヤツは、俺の顔面ではなく……卑怯にもみぞおちに落下したからだ。またも呼吸が止まりそうな程の衝撃を受け、苦しむ俺。
【さっきから息が止まってばかりですね】
「それだけヤツの戦い方が巧みなんだろうな……」
俺は立ち上がりながら、すーさんに返した。そしてヤツの戦い方を振り返る。
お互いに牽制から始まった戦いは、まずは小手調べと言わんばかりの体当たりから始まった。次は窒息を狙ってだろう、俺の顔に覆い被り……最後は横たわる俺に上空から落下してきたってわけだ。なるほど……試合巧者なのは間違いない。
ん……試合巧者?
俺の頭に……何かがよぎる。
え!? ま、まさか……ひょっとして。
間違いない!
どうやら俺は気づいてしまったようだ……この世界の真実ってヤツにな。
【すごく嫌な予感がしますが……何に気づいたんですか?】
すーさんが疑いの声色で俺に尋ねてきた。そして俺は……己の辿り着いた真実を彼女に伝える。
「この試合、スライムの攻撃を思い出してみてくれ。最初は体当たりだっただろ……これはプロレスでもよくあるんだ。相手の体当たりで吹っ飛ばされないように耐える、そんな意地の張り合いみたいな展開がな」
【意地の張り合いというより……山田さんが虚栄を張ってるようにしか見えません】
「次は……俺の首を締めるかのようなスリーパーホールドだったな」
【スライムに顔が取り込まれた状態を……スリーパーホールドとは言わないと思うんですが】
「そして最後はダウン中の俺に上空から落下してダメージを与えてきた。あれはセントーンというプロレス技と……まったく同じだ」
【上から落ちることをセントーンって言うなら、ニュートンのリンゴはセントーンしたんでしょうね】
「このことから判断して…………わかったことがある!」
【私も……嫌な予感は当たるんだってわかりました】
「スライム! お前も俺と同じ……プロレスラーだったのか!!」
【wwwwwwwwwwwww】
すーさんの爆笑は……俺の脳内に数分間、響き続けるのであった。
***
脳内の笑い声が収まるのを待つ俺。スライムも律儀に俺の隣で待ってくれていた。
どうやら闘いを通して……スライムとの友情が生まれたのだろう。やっぱりプロレスって一番すげえ。
【久しぶりにwwwこんなに笑いましたwwwもう大丈夫ですwww】
大丈夫じゃなさそう。まだ引きつり笑いが脳内に響いている。その間もスライムは、ずっと俺に寄り添ってくれていた。
「しかし……まさかお前がプロレスラーとは思わなかったな」
スライムとの間に確かな友情を感じ、俺はスライムに話かけた。しかし相手は単なる液体だ。返事があるわけない。
「わしの正体を見抜くとは、お前……ただ者じゃないスラね」
「うわ、液体が喋った!」
【うわ、液体が喋った!】
さすがの俺も驚愕を隠せない。すーさんも隠せない。
スライムのヤツめ……まさか喋れるとは思わなかった。しかも語尾に安易なキャラ付けまでしてやがる。
「わしが喋ったことに驚いているスラ?」
スライムの確認に無言で頷く俺、きっとすーさんも同じだろう。そして読者も同じだろう。
「元気があれば何でもできるスラ。言葉も喋れるスラよ」
なるほど……元気があるから喋ることが出来る。何も間違っていないな。俺は心の底から納得できた。
【あれ? 私がおかしいんです? 何も納得できる要素なんてありませんよね。何、納得しちゃってるんですか!】
***
あれやこれや、なんだかんだあって忘れていたが……俺とスライムは、まだ試合中だ。俺はスライムに視線を送ると、スライムからも同様の視線が返ってくる。どうやらお互い……試合を再開させることに合意したようだ。
【スライムの視線とか言ってますけど……その液体の塊に目なんて付いてませんよ】
俺とスライムは距離を開く。そして互いの視線がぶつかり合う場所へ……俺は駆け出し、スライムは飛び跳ねた。二人の体が激しくぶつかり合う。
さあ、試合再開だ。




