62話 「山田魔物」
さて、最後の実践練習に向けて……スカイハイの一団は移動を…………していません。未だスライムさんの生息地のままです。新人さんで実践練習を行っていないのはカルラさんだけ。そのカルラさんは、もの問いたげな顔をして……山田さんを見ています。
「じゃあカルラは一歩前に……」
そんなカルラさんに山田さんが声をかけました。これは……ここで実践練習を行うということでしょうか? しかし、もうスライムさんとはターリアさんが戦っていますよ。相手がいないじゃないですか。
「え? 相手は……誰なのです?」
カルラさんも同じことを思ったようで、誰と戦えばよいのか……山田さんに問いかけました。
「相手か…………それは俺だ!」
なんと……カルラさんの対戦相手は山田さんが行うそうです。しかし、カルラさんは異を唱えます。
「でも、実践練習では魔物と戦うって言ってたのです!」
言ってた気はしますけど、確か、その時は練習の目的がどうこうだとかで……はぐらかしてたような気もしますね。
「そんな事言ったっけか……まあ、いい。それなら……今日に限ってはリングネームを山田魔物ってことにしよう!」
さすがに無茶ですよ。それが通るほど世の中甘くはないと思うんですが……しかし、カルラさんは……それを受けて立つつもりです。彼女は一歩前に踏み出すと…………
「魔物との戦闘ではボクの実力が発揮できないと思っていたのです。ここはありがたく……山田魔物先輩と戦わせてもらうのです!」
そう言うのでした。そして……カルラさんと山田魔物の試合が始まりました。
「さあ、来い!」
ファイティングポーズの山田魔物。そこから距離を取りつつ、隙をうかがうカルラさん。どうやら山田魔物は自分から動く気がないようですね。ファイティングポーズのまま……一歩も動きません。そんな山田魔物の様子に、カルラさんが動きました。
「喰らうのです! フライング・ニール・キックなのです!」
カルラさんは山田魔物に駆け込むと、跳躍し……回転するようにして脚を山田魔物に叩きつけました。カルラさんの踵が山田魔物の顔面に直撃します。すると山田魔物は仰向けにダウンしました。
「喰らうのです! スタンディング・ムーンサルトプレスなのです!」
仰向けの山田魔物の側方に立つと、背面を向けたカルラさん。そして、その場で高く跳び上がり……後方に一回転すると、山田魔物に体を浴びせるのでした。カルラさんはそのままフォールに入ります。
しかし……流石は山田魔物。両腕の力だけで、カルラさんの体を跳ね飛ばしてしまいました。
「まだ……軽すぎるな」
山田魔物は起き上がると、そう呟きました。仕方ありません。カルラさんはかなりの小柄です。攻撃するにしてもフォールにしても……やはり、不利は否めません。
「飛び技以外もやってみろ」
山田魔物はカルラさんを挑発しました。それに怒髪天のカルラさん。山田魔物の顔面を張り飛ばしました。そして……それを連発します。しかし、山田魔物は平然と受け続けました。
「ならば……締めるのです! 喰らえ……スリーパーホールドなのです!」
カルラさんは山田魔物の背後を取ると、その首に腕を回し……締め始めました。しかし山田魔物に比べると、身長が圧倒的に小さいカルラさんは……その足が地面に届きません。山田魔物はビクともせず仁王立ちしたままです。この光景、まるで……子供が親の首にぶら下がっているように見えました。
それから山田魔物が体を軽く揺すると、カルラさんは山田魔物を締める腕のロックが外れ……地面に落ちました。仰向けに倒れるカルラさん。彼女に向けて……山田魔物が口を開きます。
「体重が軽すぎる。それに、それを補う工夫も……まだまだだな」
図星をつかれたのでしょう、カルラさん。激昂して起き上がります。しかし、そのタイミングで……山田魔物の右腕が襲いかかるのでした。
「喰らえ……山田ラリアットだ」
ドカーーーン!
カルラさんの首元を捉えた山田魔物ラリアット。
振り抜かれる右腕と吹っ飛ぶカルラさん。
どうやら……ここまでですね。試合終了です。
***
カルラさんが意識を取り戻した後、皆さんは集まって山田魔物の総括を傾聴しています。
「これで全員が魔物との戦いを経験したんだが……学んだことや課題がハッキリと認識できたんじゃないか?」
頷く一同。カルラさんも神妙にしていますね。
「そういった点を今後の練習に活かしてくれ。それ次第で……お前達のデビュー戦を考えておく。それでは、今日は解散だ」
山田魔物の発したデビュー戦の言葉に、新人四名は色めき立っています。ここまでの努力が身を結ぶ瞬間が、遂に言葉として出てきたのですから当然でしょうね。
明日以降、きっと彼らは……より練習に励むと思います。良かったですね、山田魔物さん。
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