6話 「受けの美学ってのがあるんだ!」
遂にスライムと対峙した俺。俺とスライムの間には試合前のような独特な緊張感が漂っていた。
俺はスライムに鋭い視線を向ける。どこが目でどこが口なんだろうか……よくわからないな。見た目はどでかいプロテインゼリーとしか言いようがない。
そんなスライムは……俺を対戦相手と認めたのだろう。ヤツからは殺気を感じる。俺の長年のプロレス経験が、このスライムは決して舐めてかかっていい相手ではないと告げていた。ジリジリと……少しずつ間合いを詰める俺とスライム。
【油断しないでくださいね。いくら最弱の魔物とは言えど、大怪我する人だっていますから】
「大丈夫だ! あんな液体の塊に……筋肉の塊たる俺が遅れをとるわけがない!」
すーさんとの意思疎通を終えた頃には……俺とスライムの間合いは……熟しに熟していた。そして…………
カーン!
何故だろうな、ゴングの音が聞こえた気がした。試合開始だ。
***
試合開始と同時に……俺とスライムはお互いに円周を描くようにして、距離を保ちながら様子を見始めた。お互いに牽制し合っているのだ。
互いに相手の力量を見極める。先手を取るべきか……それとも先の先、いや後の先こそ最良かもしれない。ゆっくりと時が流れる。円周を二周りほどした頃だろうか……液体の塊が収縮したように見える。そして、先手を取ったのは…………スライムだった。
【山田さん、気をつけてください! スライムの体当たりです!】
まるで地に弾んだドッジボールかバスケットボールのように、スライムが勢いよく飛びかかってくる。だが、その動き……俺には読めていた。だって、あんな液体の塊が攻撃してくる方法なんて……他に思いつかないからな。
スライムは俺に迫りくる。さあ来い、スライム! 自慢の大胸筋で迎えてやる!
ドスッ!
俺の予想ではヤツは俺の鋼鉄の大胸筋に当たるはずだった。しかし予想とは異なり……ヤツの体当たりは少し沈んだ。大胸筋まっしぐらの軌跡が……当たる直前に沈むだと!? まさか、ヤツはフォークボールの使い手だったか……。いや、ひょっとするとフォークボールそのものなのかもしれない。
【スライムです】
そしてヤツは……俺の上腹部、みぞおちに強烈な体当たりを叩き込んだ。
「うぐぅ……」
俺はみぞおちへの衝撃に呼吸が止まったかのように感じた。そして大地に膝を落とす。そこで呼吸を落ち着けようと深く息を吐き、吸い……また、吐いた。よし……落ち着いた。俺は膝に手を当てると上体を起こし、再び大地に立ち上がる。
【あの……回避することだって出来たと思うんですけど、何で真正面から体当たりを受けたんです?】
立ち上がる最中、脳内にすーさんの声が響いた。
「俺は……プロレスラーだからな! 受けの美学ってのがあるんだ!」
【それなら、それでいいですけど……スライムって20リットルくらいの水みたいなものですから、気をつけてくださいね】
20リットルか……でかいペットボトル10本分だと考えると、結構な重量だ。それでいて、あの俊敏性とフォークボールか……やるじゃないか! 正直、俺はスライムの事を舐めてかかっていたのかもしれない。だが……考えは改めた。今度こそ、俺の力を見せてやろう!
俺は足を肩幅より軽く開くと、両膝を曲げ腰を落とす。この姿勢にした理由は……先程の体当たり対策だ。簡単に説明すればキャッチャーの姿勢。こうする事で的が小さくなり、体当たりが命中しにくくなる。さらには……俺の懐も深く構えることが出来るからな。さらに……フォークボール対策としても、完璧な姿勢だろう。
【受けの美学は……どこ行っちゃったんです?】
「コンビニ行ったんじゃないか」
【なるほど、羞恥心さんと一緒に遠くのコンビニに行っちゃったんですね】
俺の脳内にすーさんの声が響いた。だが、そんな事はどうでもいい。俺は眼前のスライムの動きから目を逸らさない。もう油断している場合じゃないからな。ほら……飛びかかってきた。
スライムは先程の高速体当たりと比べ、かなり遅い速度で俺に向かってくる。遅い速度……そう感じるには理由があった。なぜならヤツは…………高高度跳躍からの体当たりを狙っていたからだ。
しまった……今の俺の体勢では高所からの攻撃への対応が遅れてしまう。俺は天を見上げた。スライムはもはや目前まで迫ってきている。俺は顔を守ろうと両腕を上げたが……わずかに間に合わなかった。
【腰を落としておいて上から攻められるとか……裏目にも程があるでしょうに】
そして俺は目を閉じると……顔面を襲う衝撃に備えた。
……………………
しかし、いくら待っても……顔面に体当たりの衝撃が訪れない。ヤツめ、自爆か? 俺は状況を確認しようと、細目を開く。あれ……なんだか視界がおかしい。なんだろう、世界中が水色に見える。
【ピンクよりはマシですよ】
俺は視界の違和感に焦る。そして気付いた。呼吸が出来ない! 俺は口に手を当てようとするも、膜のようなもの邪魔されて手が届かない。
そうか、そういう事か。俺はスライムの体内に……己の顔を取り込まれてしまったに違いない。わかりやすく説明するなら、そうだな……俺の顔 in スライムって感じだ。
【チーズ in ハンバーグみたいで草生えますねwww】
俺とスライムの戦いは……まだまだ、これからだ。
作者からのお願いです。
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