57話 「燃える毛根だ!」
「行くぞ……必殺…………山田アイだ!」
私の予想は見事に外れました。言い訳としましては……山田アイは技ではないと思うんですよ。ズルくないですか?
そんなこんなでフライング・ヘッドを、目を皿のようにして観察する山田さん。
「ふむふむ。外観の特徴は……頭しかない。行動の特徴は……飛ぶ、噛む、体当たり、火を噴く。その他の特徴……案外イケメン・ナイスガイだった」
【今までの戦いで……普通に理解できることですよね。何の為の山田アイですか】
「まあ焦るな、すーさん。実は……山田アイには派生技があるんだ。アイアンクローがアイアンクロースラムに派生するようにな。そして、その派生技こそが……山田演算装置だ! これから俺が……山田演算装置によって、ヤツの弱点を導き出してやる!」
【今の時代……山田 AI とかの方がいいと思いますよ。ほら……山田アイと対にもなるし】
そして山田さんは……目を閉じて深い思考の海へと沈んでいきました。フライング・ヘッドさんは、今回も待ってくれています。ウチの山田が本当にすいません。どうせ演算装置の性能も低いだろうから……ゆっくり待ってあげてください。
やっと山田さんは目を開けました。フライング・ヘッドさんは眠っています。先程の泥パックでイケメン化していたので、割と可愛い寝顔をしていました。
まあ、つまり……山田さんはそれほど長くの時間を、思考の海に沈んでいたのです。きっと溺れてたんでしょう。
「わかったぞ! 山田 AI の導き出した結論とは……顔を狙えばいい……だ!」
【うわ。人の提案をパクりましたよ、この人。しかも長い時間をかけたにしては……最低レベルの結論です】
「まあまあ、落ち着くんだ……すーさん。俺がこれだけ長い時間をかけたのには理由がある。それは……ヤツの顔を狙う技も一緒に導き出そうとしていたんだ。その結果だな……俺は悠久の時を経て…………それを見つけたぞ!」
【ああ、追加要素も思考時間に入ってるんですね。で……その技は?】
「アイアンクローだ……いや、アイアンクロースラムと言った方がいいな!」
【は!? その技名……山田 AI を使う前に言ってましたよね? それを導くのに……どれだけ時間かけてるんですか】
山田さんは、まだ寝ているフライング・ヘッドの顔を……手のひらで鷲掴みしました。そして力を込めると……その握力によってフライング・ヘッドさんの顔面が締め上げられていきます。
いきなり顔面を鷲掴みにされると、締められ……フライング・ヘッドさんは目を覚ましました。最悪の目覚めでしょうね。視界は山田さんの手のひらに全てを占められています。これでは……走馬灯を見ることすら出来ません。
「ここまでがアイアンクローだ。だが、俺は……今からコイツを地面に叩きつける!」
ドカーーーン!
右腕を振りかぶるようにしてから……山田さんはフライング・ヘッドさんを地面に叩きつけました。
「これがアイアンクロースラム……そして、このままフォールだ」
山田さんはそのまま右腕で、地面に叩きつけたフライング・ヘッドを地面に抑えつけます。
「ワン…………ツー…………スリー」
山田さんが三つ……カウントを数えました。するとフライング・ヘッドは……空気中に溶けるかのように消えていくのです。
「ケケケ……イケメンになれて楽しかったケケケ」
そう言い残すと、フライング・ヘッドは完全に消失しました。山田さんは右腕を地面から離します。すると、その場には……魔石が残されていました。
「フライング・ヘッド……お前もまた…………強敵と書いて友と読む存在だ!」
【その勝ち名乗り……気に入ったんですか?】
右腕を高々と掲げることで、フライング・ヘッドの供養とする山田さんでした。
【それよりも山田さん。ルカさんも戦ってるはずですし……加勢にいかなくていいんですか?】
「あ……そっか」
右腕をササッと降ろすと、山田さんはルカさんの戦闘現場を探しに駆け出すのでした。
***
ルカさんを発見するや、合流を試みる山田さん。しかし……この現場の雰囲気は、山田さんが戦っていたそれとは異なっていました。
「ケケケ……」
飛び回るフライング・ヘッド達。なんと、ルカさんは……複数のフライング・ヘッドに囲まれていたのです。山田さんは全速で駆け出しました。
ルカさんを支援する為……アイアンクローの手の形でフライング・ヘッドへと飛びかかる山田さん。その時です…………
「ファイアボール……行くわよっ!」
ルカさんは両手にファイアボールを生み出すと、それをフライング・ヘッドに投げつけました。ルカさんの魔力を得て、目標を追尾する火球。フライング・ヘッドは高速で火球から逃れようと飛ぶのですが、ファイアボールは……逃走速度を凌駕していました。
「熱っ!」
山田さんがアイアンクローを仕掛けにいったフライング・ヘッドにも、火球が直撃しました。それを直前で目撃した山田さんにも……その熱波が襲いかかったのです。
「うわ……」
山田さんの目の前で……フライング・ヘッドの頭髪が燃えています。
この状況、簡単に言うなら……先程、フライング・ヘッドが顔面から火を噴きましたよね。つまり、顔面には炎体勢があるんですよ。しかし……頭髪には炎体勢がなかった。そういう事になります。
頭髪の焼ける匂いに、顔をしかめ……鼻を覆う山田さん。その目の前でフライング・ヘッドの頭髪は……完全に焼け果ててしまいました。
「フライング・ヘッドが、全部……ハゲた」
山田さんは炎が沈下した後の光景に……そう呟きました。頭髪を失い、絶望の表情を浮かべるフライング・ヘッド達。もはや戦意はありません。
「全ハゲね!」
ルカさんは楽しそうに言いました。その言葉を聞いて……絶望の淵から絶望の海へと沈み行くフライング・ヘッド達。
「また……髪の話してるケケケ」
あれだけ不気味に聞こえたフライング・ヘッドの笑い声が……今は虚無や寂寥を感じさせるものになっていました。
その後、失意のフライング・ヘッド達を慰める山田さん。どうやら泥パックを教えて上げていますね。
それから、しばらくして……ハゲに傷ついていた彼らには、イケメンという特性がもたらされました。言うならイケメンハゲです。それが、とても嬉しかったのでしょうか……フライング・ヘッド達は山田さんに魔石を進呈していますね。
山田さんとルカさんが立ち去る際……多数の笑顔イケメンハゲ頭が見送ってくれました。山田さんは振り返ると……彼らに言います。
「ハゲだろうが気にするな! お前達は立派な……燃える毛根だ!」




