56話 「山田スパイラルトルネードサイクロンハリケーンタイフーン」
「ケケケケケ!」
山田さん目掛けて高速で飛翔してくるフライング・ヘッド。来ましたよ! カウンターのチャンスです!
山田さんはフライング・ヘッドを目で追うと……ここぞのタイミングで右腕を振り抜きました。
「喰らえっ! 必殺の……山田ラリアットだ!」
スカッ
豪快な空振り音が聞こえた気がします。山田さんのラリアットは比喩的に言えば宙を舞い、フライング・ヘッドは実質的に宙を舞っています。そして……再び山田さんに突撃してきました。今度こそ……チャンスですよ!
「喰らえっ! 山田ラリアット!」
スカッ
再び宙を舞う右腕。何だか可哀想になってきたのか……フライング・ヘッドさん、もう一度……しかも、ゆっくりと突撃をしかけてきてくれました。
「山田ラリアット……」
スカッ
不気味な表情を浮かべていたフライング・ヘッドも、これには苦笑し……なんだか申し訳なさそうな表情になっています。ウチの山田が本当にすいません。後で言って聞かせますので、今回ばかりは……どうかご容赦ください。
そんな山田さんは……両手で顔を覆っていました。そして、何か言っていますね。
「恥ずかしい……」
【ほら……フライング・ヘッドさんに謝まりましょうよ。私も一緒に謝ってあげますから】
すると山田さんは両手を下ろし、フライング・ヘッドに向けて……
「正直スマンかった」
と、謝罪するのでした。
「顔から…………火が出そうだ」
いまだに恥ずかしさを引きずっている山田さん。しかし、その言葉はフライング・ヘッドに届いてしまいます。
「ケケケ……顔から火……面白い……ケケケ」
そう言うと、フライング・ヘッドは山田さんの眼前まで飛翔してきて……顔面全体から火を噴き出しました。
「熱っ! やめろ……本当に顔から火を出すな! ワンツースリーフォ……」
どういう理屈なのかはわかりませんが、フライング・ヘッドの顔面から吹き出した火によって……山田さんの顔面は四秒間ほど焼かれたのでした。反則負けは回避するあたり、よく理解していますね。
「ちくしょう。不用意な発言のせいで……ヤツの攻撃方法を増やしちまったな」
山田さんは悔しそうに言いました。まあ、その原因は……ラリアットの三連続空振りなんですけどね。
「参ったな……的が小さくてラリアットが当たらない…………」
【的のせいにしないでください】
山田さんは苦悩した表情を見せています。どうも攻撃方法に困っているようですね。
「うーん……山田チョップもダメだろうし、山田キックもダメだ。そうなると山田スパイラルトルネードサイクロンハリケーンタイフーンも……ダメに違いない」
【何ですか、その最後の謎の技名は!?】
「ケケケ……攻撃を当てたいなら……慣用句がヒントケケケ」
遂にはフライング・ヘッドさんから助言まで頂く始末です。それを恥とも思わない山田さんは思考を始めました。
「顔から火が出るという発言で、ヤツは本当に顔から火を出してみせた。ならば……俺はそれをやり返してやればいい」
山田さんは低い学力を総動員すると……脳内に慣用句を列挙しています。
「仏の顔も三度まで……アイツの顔は仏ではない、却下。合わせる顔がない……いや、ある……反語だな、却下。何食わぬ顔……そもそもヴィクトリアがあんなに食わなきゃ、俺はこんな目に遭わずに済んだんだ、却下」
そんな感じで慣用句を思考中の山田さん。フライング・ヘッドさんは律儀に待っています。
「わ……わかったぞ! アイツに攻撃を当てる手段……それは…………顔に泥を塗るだ!」
山田さんは地面部分から泥を手に掴むと……それをフライング・ヘッドさんの顔面に塗りたくりました。泥まみれのフライング・ヘッドさん。
ですが、賢明な皆さんにはご存知の通り……山田さんの攻撃は泥パックにしかなっていません。泥の微粒子が顔の表面をスクラブすることで……きっとフライング・ヘッドさんのお肌はスベスベになるのでしょう。
***
「ひょっとして……これ……何のダメージにもなってない?」
延々とフライング・ヘッドさんに泥を塗りたくっていた山田さん。遂に攻撃になっていないことに気づきました。悔しさのあまり片手の泥塊、もう片手のフライング・ヘッドさんを投げ捨てます。
地面に落ちる泥塊。飛翔する泥まみれのフライング・ヘッド。どうやら高速で飛翔して泥を落とすつもりですね。そこかしこ、目にも止まらぬ速さで飛び回っています。
「ケケケ……スッキリしたケケケ」
泥が落とされたフライング・ヘッドさん。よく見てみると、なんと……先程までの不気味だった顔が…………美少年になっているではありませんか! 私も泥パックにこんな効能があるとは……驚愕です。いやぁ……長年神様やってても、知らないことって多いんですね。
再びフライング・ヘッドと対峙する山田さん。さて……どう攻撃をしていくのでしょう。
「ふふっ……すーさん。俺が困りきっているとか思ってるだろ?」
【はい!】
「だが……すーさんは知っているはずだ。俺が今まで、どうやって困難を乗り越えてきたかを……」
【乗り越えてきたと言うよりは……ハードルの下を潜ってきた感じでしたね】
「せっかくだから考えてみてくれ……俺が次に何の技を見せるかをな!」
そう言うと……再びファイティングポーズを決めた山田さん。フライング・ヘッドを睨んでいます。
はてさて、いったい何の技をするつもりでしょう。本命は…………ベア・ハッグこと山田スペシャルだと思います。
あ……大穴は山田スパイラルトルネードサイクロンハリケーンタイフーンでいきましょうか。




