54話 「金の雨が降るぞ!」
「ありがとうございましたー。またのお越し、お待ちしてまーす」
食事処から退店したスカイハイのメンバー達。ヴィクトリアさんは……顔を赤らめ目が据わっています。その横には……会計に驚いたまま、ずっと目の玉を飛び出させている山田さん。そして無表情のイクセントラさんとルカさん。
その他のメンバーは食べ過ぎの為、皆が口に手を当てたまま……俯いています。
【すごい金額でしたね】
「まさか……ヴィクトリアがあそこまで健啖家かつ酒乱とは思わなかった」
目の玉を飛び出させたまま、山田さんは呟きました。その後、疲れたのでしょうか……目を伏せます。
【銀貨三枚ですからね……デュラハンの報酬と変わらないくらいですよ】
「しかし……困ったな。これが毎晩続くとしたら……スライム師匠を狩るだけでは大赤字だ」
山田さんは目の前が真っ暗になるような未来図に……目を覆っています。
【せめて、お酒を頼ませなければ……ギリギリ賄えそうなんですけどね】
「だって……気づいたら、勝手に頼んでるんだもん」
これからはヴィクトリアさんの動向に目を光らせる必要がありそうですね。とは、言っても……彼女は目にも止まらぬ早業で、山田さんの目を盗んで注文するのでしょうが。
【なら、収入の方を増やすってのはどうです? 例えば……エプロンに広告を入れるとか】
「流石に……まだ難しいだろう。そもそも旗揚げして間もなくの団体だ。しかも……実績が一試合しかない」
うーん。なかなかいい目の付けどころだと思ったんですが……もっと目から鱗な案を探さないとです。
【なら……もっと報酬が高い魔物を狙ってみますか?】
「それしかないよな……。まあ、明日になったら冒険者ギルドで聞いてみよう」
目に余るヴィクトリアさんの飲食代金に、団体財政は火の車です。大至急、食事代を稼ぐ目星を付けなくてはいけません。山田さんは本日は散会を宣言すると……目を落としながら、安宿への帰途につくのでした
***
翌日、早朝から山田さんは……目を三角にして冒険者ギルドに走っています。到着すると、扉に手をかけ……一目散に受付へと向かうのでした。
「お前のとこの受付の牛飲馬食のせいで団体の危険が危ない。何とかしてくれ、受付二号!」
目を剥いて、そう発した山田さん。受付二号さんというのは……ヴィクトリアさんの代わりに受付に配属された人でしょうか。今までに対応してもらったことのない方です。
「あぁ、ヴィクトリアさんの……いつものですか」
目を逸らしながら、達観の表情を受けべる受付二号さん。どうやら彼女の暴飲暴食はギルド内で有名だったようですね。
その後、金策の相談に乗ってくれる受付二号さん。
「そういえば……最近、墓地の奥にフライング・ヘッドが現れているとの報告がありましてですね。手配書があったと思うんで……ちょっと待っててもらえますか」
そう言い残すと……受付二号さんは黒いショートカットの髪を揺らしながら、手配書を取りに行きました。
「フライング・ヘッド? 技の名前か?」
【違いますよ。えっと……人間の頭だけが飛び回っているイメージの魔物ですね】
「ふーん。それじゃ……デュラハンの頭と同じようなものか」
私は山田さんにフライング・ヘッドの詳細を説明します。
【デュラハンさんは紳士的でしたが、こちらは違うんですよ。フライング・ヘッドは……人の不幸を好む邪悪な魔物なんです。だから、最近になって現れたって言ってるのに……もう手配書が作られてるんですね。それほど緊急性が高いってことでしょう】
私の説明が終わる頃になると、受付二号さんが手配書を持って戻ってきていました。そして……それを山田さんに提示します。
「ふむふむ、手配書の絵を見ると……なんだか不気味な魔物だな」
手配書には狂気を帯びた笑みを浮かべ、頭部だけで飛んでいる魔物が描かれていました。次に山田さんは、手配書の下の方……報酬の欄に目を向けまます。
「銅貨八十枚だと!?」
その表記を目に焼き付ける山田さん。さらに、受付二号さんから追い打ちが入ります。
「えっと……先程、上の者と相談してきましてですね。ヴィクトリアさんが迷惑をかけたということもあって、抱きつき魔さんにだけは……銀貨一枚でも構わないとの事です」
山田さんは目の色を変えています。更には目がギラギラしてきました。どうやら、やる気に満ちているようです。おかげで受付二号さんにまで、抱きつき魔呼びが定着しているのに気づいていません。
「ふふっ……これで…………金の雨が降るぞ!」
山田さんはそう言うと……冒険者ギルドを後にし、全力で駆けていきます。目的地は墓地の奥でしょう。
墓地では団体員の皆さんがストレッチを行っていました。スケルトンさん達はその姿を、羨ましそうに眺めています。
そのど真ん中を全速で駆け抜けていく山田さん。
「ちょっと、何してんのよ! アンタはスライムを狩るって言ってたじゃない!!」
ルカさんが山田さんに叫びました。それはそうでしょう……来ないと言っていた男が全力で駆け抜けていったのです。
その不穏さを感じてでしょうか。ルカさんはストレッチをやめると……山田さんを追って、墓地の奥へと走り出すのでした。




