5話 「いいんだね? 殺っちゃって」
冒険者登録を済ませた俺は、ギルドを出ようと出口へ向かう。すると……俺の強さが理解できたのだろうか、周囲の冒険者達は俺の進む道を空けるように散っていった。ふっ……まるでリングイン前の花道のようだ。
【君子危うきに近寄らずって言いますからね。色々な意味で危うい人からは距離を取っておきたいんですよ】
すーさんが何か難しいことを言っているが……多分褒められているんだろうな。悪い気はしない。そして俺はギルドを後にした。
「で、無事に登録は出来たけど……次はどうしたらいい?」
【無事という言葉の使い方がおかしい気がしますけど、山田さんがそう思うんならそれでいいです。じゃあ次は魔物を討伐しに行きましょう。大丈夫ですよ。そんなに強い魔物は生息していませんから……それじゃ、あっちの方に向かってください】
そして俺はすーさんの示す方へと向かうのであった。
***
「しかし、なんで受付のお姉さん……あんな塩対応になっちゃったんだろう?」
【プロレスラーなんて言うからですよ】
「そんなことを言われても……職業を聞かれたからには、プロレスラーと答えるべきだろ?」
【ファンタジー世界でプロレスラーとか……誰も理解できませんって】
狩り場への道中、足を動かす以外にすることのない俺はすーさんと意見を交わしていた。
ふーん、なるほど。そういうことか。そりゃ……プロレスを知らない人にプロレスラーって言ったって通じないよな。でも、なんて言うのがよかったんだろう。
【そうですね、無難なのは……戦士でしょうか】
あ、それを早く言ってくれればよかったのに。もしも先に、それを知っていたら……職業は革命戦士ですって答えることが出来ただけに……とても悔しい。
【人の世界で勝手に革命起こそうとするの……やめてもらっていいですか?】
と、そんなこんなたわいない事を話しているうちに俺は目的地であろう、魔物が出没する辺りへと到着した。
そこは魔物が出るという場所の割に平和そうに見える。例えるなら……俺の世界で言う自然公園か森林公園だろう。大きな池を芝生や木々が囲んでいる、そんなのどかな場所にしか見えなかった。
「ところで、すーさん。気になってたんだけど…………魔物って何なの?」
【そうですね。説明しますと……こちらの世界には魔力を秘めた土地があったりしまして、その魔力を糧にして発生する存在を魔物って呼んでいます。例えば水の魔力を秘めている土地だとスライムが発生したりしますね。で……放っておくと際限無く増えてしまうので、冒険者が駆除しているって感じでしょうか。もちろん討伐報酬も出ますよ】
なるほど。魔物は魔界倶楽部が作ってるわけではなく、自然発生らしい。少し安心した。
「ふーん……で、その魔物ってのはどれくらい強いんだ?」
【土地の微量な魔力で生まれる程度なんで大した事ないです……って、あれ、あれを見てください!】
すーさんの声を受け、俺は視線をやる。すると池の付近に……膝くらいの高さを持った液体の塊が、飛び跳ねているのが見えた。
【あれがスライム……この世界、最弱の魔物です。殺っちゃいましょう!】
「いいんだね? 殺っちゃって」
最弱の魔物と聞いて戦闘意欲を失いかけていたが……すーさんの発言に返答するうちに、何故だか殺意が高まってくるのを感じた。なんだろう、ありもしない過去の因縁めいた感情が生まれてくる。その感情は俺の気持ちを高ぶらせると、全身の筋肉が激しく呼応した。
ビリビリ……ビリバリ
不快な音がする。筋肉の膨張に耐えきれなかった俺の服が破れる音だろう。散り散りに破れた布地は地に落ち、俺はレスラーの正装を顕にする。すると、なんだろう……脳内に懐かしい音が聞こえてきた。これは、まさか……俺の入場曲だ! そして俺は……勢いよくスライムに向かって駆け出した。
これこそが、俺の……この世界における初の魔物討伐……いや、違う! 初のプロレスだ!




