48話 「ありがとねっ!」
お互いに消耗しきった二人はリング中央、一進一退の攻防を見せています。
山田さんが自身の体重やパワーを活かす技を用いれば、ルカさんはスピードを重視して反撃していきました。
「喰らえっ……スパインバスターだ!」
ドシーン!
〈ワーワー!〉
「喰らいなさい……低空ドロップキックよ!」
バコッ!
〈ワーワーワーワー!〉
互いに一歩も譲りません。そんな極限の闘いを……会場は息を飲みこんで見守っています。お客さん達も、そろそろ決着の予感を覚えているんでしょうね。私も……そう感じています。
その後も攻防を繰り広げた山田さんとルカさん。ですが、次第にルカさんが優勢になってきました。どうやら、山田さんにとって……ルカさんのスピードに乗った飛び技が苦手のようですね。
しばらくすると、先程の低空ドロップキックのせいか……膝を痛めてしまったのでしょう。山田さん、遂には片膝をついたまま……立てなくなってしまいました。
「これで……終わりよっ!」
ルカさんはロープに向かって駆け出します。
しかし、その瞬間……山田さんがスクッと立ち上がりました。ひょっとして……足を痛めたのは作為的だったんでしょうか。すると……これを狙っていたんですね。
山田さんはルカさんに遅れて走り出しました。そして、右腕を肩の高さまで上げると……ロープの反動で戻ってきたルカさんの首元めがけ…………振り抜きます!
「これが、俺の必殺……ウエスタン・ラリアットならぬ…………山田ラリアットだ!」
バゴーーーーーーーーーーン!
〈うおおおおおおおおおおおおおおおお!〉
今までの技を遥かに越えた凄まじい衝撃音……観客からも凄まじい歓声が上がりました。
ルカさんは哀れにもカウンターの形でラリアットを受けてしまい……宙を一回転すると、頭から落下しました。そして、うつ伏せのまま……微塵も動く気配がありません。山田さんはルカさんの体を仰向けにすると、自身の体を被せました。フォールですね。
しかし……レフェリーはイクセントラさんです。
「ワン…………………………ツー……………………………………」
こんな間の伸びたカウントでは……当然、スリーカウントは入りません。ルカさんは無意識に肩を上げると、フォールから逃れました。
「お前さあ……さっきからカウントが遅すぎんだろ!」
頭に血が登った山田さん。イクセントラさんに詰め寄ります。
「もう反則負けでも構わねえよ。お前だけは許せねえ……そのヌーブラ剥がしちまうぞ! この野郎!!」
さらに詰め寄る山田さん。イクセントラさんは、その迫力に怯えています。
「違う…………これは…………ヌーブラではない…………自前」
「誰が見てもわかる嘘つくんじゃねえ、バカヤロー!」
山田さんとイクセントラさんが言い合いになっていた……そんな時。ルカさんの意識が戻りました。彼女は当然、周囲の状況を確認します。すると……対戦相手がレフェリーに食って掛かっているのが見えました。彼女は急いで起き上がります。
「相手は私よ! 山田!! こっち向きなさい!!!」
ルカさんは、そう叫びました。そして山田さんは振り返ります。
その時でした!
ルカさんは振り返りざまの山田さんの股間に右腕を差し込むと、それを………………全力でカチあげました。
キーーーーーン!
そんな擬音が聞こえた……気がします。女性の観客は歓声をあげていました。しかし、男性の観客は無言です。きっと……痛みに同情しているんでしょうね。
急所の激痛に……前屈する山田さん。そんな山田さんに、ルカさんは正面から近づくと……山田さんの両腕を背中側に引っ張り上げました。すると山田さんの腕は『く』の字のようにされ、ちょうど折り目の所でルカさんにロックされています。
「みんなーーーーー! 行くよーーーーー!!」
ルカさんは観客にそう宣言すると……『く』の字に通した腕に力を込め、山田さんを持ち上げました。ロックした腕を中心に九〇度回転させられる山田さん、頭頂部が下側になっていますね。
そしてルカさんは……山田さんを脳天から…………垂直にマットに叩きつけました。
ドスーーーーーーーーーーン!
〈ウオオオオオオオオオオオオ!〉
〈ドドドドドドドドドドドドド!〉
ルカさんは山田さんの両腕を抑え……フォールに入ります。イクセントラさんは素早くカウントの準備を整えました。そしてカウントを進めます。
「ワンッ!……………………」
〈ワンッ!〉
「ツー!………………………」
〈ツー!〉
観客の皆さんも……カウントを大声で叫んでいます! そして………
「スリー!!」
〈スリー!! うおおおおおおおおおおおお!!〉
カン! カン! カン!
「三十二分四十一秒。エビ固めにより…………ルカ選手の勝利…………」
スリーカウントから少し遅れて、試合終了のゴングが鳴らされました。
しかし観客の大歓声は、それよりも大きな音を轟かせています。お客さん達は皆、とても満足した顔をしていました。
ルカさんはイクセントラさんに手首を掴まれると、腕を高々と上げさせられていますね。勝者である事を……会場中に誇っています。
〈プロレスって面白いな!〉
〈ああ、こんなに楽しいものを見たのは初めてだぜ!〉
〈俺は……金的に一番興奮したぜ!〉
こちらからは……男性の観客の会話が聞こえてきますね。どうやらドMの人がいるみたいです。
〈やっぱり女の方が強いのよ!〉
〈男を倒すとか、スッキリしちゃうわ!〉
〈……………………〉
あちらからは女性の観客の会話です。最後の真紅の服の女性は……感動のあまりに無言なんでしょうか? よくわかりませんね。
あ……あっちには魔物の方々もいますよ! なんて言ってるんでしょう?
「山田……よくやったスラ。プロレスラーであるわしには……全てわかっているスラ」
「コケー! チキンウィング・アームロックを使えば勝ててたコケー!」
「あの、最後の技……角度がエグかったスケ!」
「…………面白い」
魔物の皆さんも大興奮のようですね。あ……デュラハンさん、首が取れちゃってますよ! 早く拾わないと、魔物だってバレちゃいますって。
***
「どうだった……ルカ。プロレスやって……歓声を浴びる気分は?」
俺はリング上、痛む首を抑えながらルカに話しかけた。観客達はまだルカに歓声を送っている。俺に声援を送ってくれているのは……あっちのスケルトン達か。ちょっと寂しいな。
「最高に決まってるじゃない!」
興奮覚めやらぬ顔で応えたルカ。まだ激闘の余韻が残っているのか……呼吸も荒く、顔も赤い。それでもデビュー戦でここまで出来たんだ。胸を張っていいと思う。あ……張るほどないか。
「ねえ……ちょっと聞きたいんだけど」
そんなルカが……小声で話しかけてきた。いったい何の用だろう。
「試合前のアドバイスで、試合は全部……山田が作るって言ってたじゃない」
「ああ、言ったな」
「あの時から、自分を悪役にして……私が勝つ試合にしようって考えてたの?」
ルカの疑うような視線が刺さる。確かに……そう考えていたのは真実だ。その方が試合が盛り上がる確信もあった。
「いや……それは場内の反応を見ながら…………状況に応じて変えるつもりだった」
俺は本音を隠した。しかし、俺の発言は完全な嘘というわけでもない。俺だってベテランのレスラーだからな。状況によっては……俺が圧倒的なパワーで勝つ。そんな展開だってあっただろう。
「勝ちを譲られたのは釈然としないけど……まあ、いいわ」
納得したのかはわからないが、ルカはそれ以上を聞かなかった。
「そんな事よりも……ねえ…………山田」
ルカの顔が赤く染まっていく。きっと、これは……いつものヤツだ。
「ありがとねっ!」
そう言うとルカは、これまでに一度も見せたことのない…………はにかんだ、可愛らしい笑顔を浮かべた。
「遂に出たか……ツンデレムーブだ! 30話で出たツンデレの伏線が……やっと回収されたぞ!」
【長い事、引っ張ってきましたもんね】
俺はルカのありきたりなツンデレムーブをおちょくる。
「ツンデレじゃないわよ!」
それに怒るルカ。今の赤面は怒りの赤だ。俺も慣れたもので、わずかな赤みの違いが理解できるようになってきた。
「それは……あれか! 古文の反語だろ? 私はツンデレではない。いや、ある……みたいな!」
俺はルカを全力でおちょくる。リング上でいったい何をやっているんだろうな。
「違う……違うもん…………」
ルカの瞳に涙が浮かび上がってきた。やべぇ……やりすぎたか。
【女の涙はわかりませんよ。ツンだろうがデレだろうが、どっちでも使える最終兵器です】
「それは……最終兵器、嘘泣きってヤツだろ?」
俺は……すーさんに答えるべき発言を口に出してしまった。おかげで、その言葉は……目の前で赤鬼みたいになってる人に届いてしまう。
赤鬼ことルカ、ルカこと赤鬼は……俺の股間に右腕をぶち込んできた。そして……急上昇、カチあげてくる!
観客の声が聞こえる……大歓声だ。俺は今……垂直にマットに叩きつけられるところだ。ほら、マットが近づいてくる。
ドスーーーーーーーーーーン!
〈ウオオオオオオオオオオオオ! ドドドドドドドドドドドドドド!〉
【本日、二度目の必殺技に……お客さんも大喜びですね】
俺は……瞳が閉じゆく前に…………口を開いた。
「ちなみに、この技……タイガードライバー91って言うんだぜ…………」
そして、俺の瞳は……………………閉じるのであった。
【よかったですね、山田さん。不安だらけだった興行も大成功でしたよ】
私は笑顔満面で……リング上で寝ている人に語りかけます。
【私の名前から名付けた団体……大事に育ててくださいね】
一部 団体創成編 完




