46話 「ワンツース…………」
山田さんのセクハラ攻撃は、お客さんにとって誰を応援したらよいかの指針となりました。
しかし……セクハラ攻撃の功はそれだけではありませんでした。
ルカさんの緊張が……すっかりと消えていたんです。きっと羞恥心のあまりに山田さんに反撃しまくった結果でしょう。見違えるほど動きが良化したルカさんは、山田さんへの攻撃を緩めません。
リングを見れば……ルカさんは俊敏な動きとロープワークで、山田さん翻弄すると、その背後を取っていました。そして腕を腰に回すとロックし……山田さんを臍に乗せるようして、自分の腰から反り返ります!
山田さんは……重心を低くして耐えていますが…………ダメです! 引っこ抜かれました!
ズドーーーン!
〈うおおおお!〉
〈凄えな!〉
〈あの技、カッコイイ!〉
リング中央、ルカさんが山田さんを投げると……見事な夢の架け橋、人間橋が完成しました。
これが……ジャーマンスープレックスです! それにしても、山田さんに比べて小柄な女性が……山田さんを引っこ抜いて投げきったんですよ。そんな姿に……観客は大盛り上がり。誰もが、ルカさんを絶賛しています。
ルカさんは投げ終わった姿勢、つまりは反り返ったまま……山田さんをホールドしました。これも……ルカさんのブリッジ練習の成果ですね。
そして、この体勢は……フォールです。イクセントラさんが飛んできました。イクセントラさんはマットにうつ伏せると……カウントを取ります。
「ワンツース…………」
そのカウントの早さに……山田さんは慌ててフォールを崩し、立ち上がるのでした。
「カウント早すぎだろっ!」
山田さんはイクセントラさんに詰め寄りながら、文句を言っています。しかし、イクセントラさんは聞く耳持ちません。それどころか…………
「これ以上の抗議は…………反則負けにする」
そうやって突き放すイクセントラさん。山田さんも反則負けを言われては……引き下がるしかありません。
〈えー? 今……3つ入ってたでしょ!?〉
〈反則負けにしちゃえー!〉
女性のお客さんの声援も、多くなってきました。会場は盛り上がっていますね。
レフェリーへの文句も封じられると、山田さんはしぶしぶと矛先をルカさんに向けます。一方のルカさんは……流石に攻め疲れが見えてきました。片膝をついたまま、呼吸を整えていますね。まだまだスタミナ不足のようです。
「ん……バテちまったのか? なら……そろそろ反撃の時間だな」
山田さんはルカさんに近づくと、両手を組み……そのまま背中に振り下ろしました。
これは……ハンマー・ブローという技ですね。ハンマー・ブローを何発も背中に打ち下ろす山田さん。この攻撃で、ルカさんに早く立ち上がるよう急かしています。
たまらず立ち上がるルカさん。山田さんはそんなルカさんの喉元を片手で掴みました。もう片方の手は腰の背中側に添えています。そして……両腕に力を込めると、ルカさんを一気に持ち上げました。その勢いのまま……マットに叩きつけます。
ドーーーン!
〈ワーワーワーワー!〉
「見たかっ! これが……俺の筋肉パワーだ!」
お客さんに全身の筋肉を誇示する山田さん。先程の技はチョークスラム、もしくはのど輪落としと言いまして……力自慢のレスラーが主に愛用しています。つまり、山田さんも愛用している技ですね。
背中からマットに叩きつけられたルカさん。あまりの威力にマットでバウンドして見えましたが……大丈夫でしょうか? 立ち上がれません。
そして、山田さんはダウン中のルカさんに小走りで近づくと……跳び上がりました。そして己の身体を丸めながら、ルカさんに……背中から落下します。あ……この技知ってます! セントーンって言うんですよ。
ドシーン!
〈ワーワー!〉
山田さんの全体重を腹部で受けたルカさん。お腹を抱えて悶絶しています。
やっぱり……こういう体重差が威力の差に現れちゃうんですよね。一撃一撃の重さが段違いです。
さあ……長い時間をかけて、ルカさんはようやく起き上がるところですが……しかし、山田さんはそれを許しません。
片膝をついた状態のルカさん。山田さんはルカさんの頭部を己の股間に挟むと……腰に両腕を回し、一気に引き上げました。ルカさんが片膝をついていようがお構い無し……反転するように体を持ち上げられると、ルカさんの頭部は山田さんの頭部の遥か上にまで達するのです。
その姿勢で……動きが硬直しました。会場も無音になります。そして…………
「喰らえっ! パワーレスラーの見せ場……ランニング・パワーボムだ!」
山田さんは駆け出しました。そしてルカさんをマットへと…………叩きつけるのです!
ドカーーーーーン!
〈ワーワーワーワーワーワー!〉
〈やるじゃないか、あの抱きつき魔!〉
〈あのパワーは本物だぜ!〉
そのまま……ルカさんはエビ固めの形でフォールされました。
ルカさん、ピクリとも動きません。そしてイクセントラさんも……ピクリとも動きません。
「レフェリー……フォールだ」
山田さんが呼びかけるまで、イクセントラさんはそっぽを向いていました。しかし、呼びかけられてはカウントをしなければなりません。
イクセントラさんはゆっくり、緩慢に近づいていきました。そして怠惰にうつ伏せになると、仕方なくカウントを取り始めます。
「ワン……………………ツー…………………………ちょっと待って。ヌーブラがズレてしまった」
起き上がると、ヌーブラのズレを直す動作をするイクセントラさん。そして、再び……ゆっくりとうつ伏せになると……
「ワン…………………………ツー……………………………………」
徹底的に遅々としたカウントを取るのでした。
流石にこれだけの時間が与えられれば、ルカさんの意識も取り戻っています。ルカさんはエビ固めを返すと、跳ねるようにして山田さんとの距離を取りました。
こうして再び……お互い、対峙していますね。試合は中盤戦といったところでしょう。
さあ……この試合、いったいどっちが勝つんでしょうね?




