40話 「俺はリングの……ど真中に立ったんだぞ、今!」
練習とスライム潰しと魔具制作に日々が過ぎていきます。ルカさんはすっかりプロレスラーの基本が身についたようで、練習は、より実践的なものが加えられました。更には独自に技の練習も始めたそうで、デビューが待ち遠しいですね。
「同じ練習をやっていたら……みんなと同じプロレスになってしまうからな、いいんじゃないか」
山田さんは変わらず、スライムを山田スペシャルというベア・ハッグで潰しています。抱きつき魔という肩書はもはやセパラドスに留まらず、周辺都市にも響き渡るようになりました。今ではすっかり有名人です。
次にイクセントラさんですが……毎日、スライムの衝撃緩衝材を加工・制作してくれています。そして…………
「完成…………した」
今日の朝一番、それを告げに来てくれました。
完成品を見た山田さんは感動していました。ルカさんも、その感触に感嘆の意を示しています。イクセントラさんは……感情が読み取れません。
「これ……もう使ってみても…………いいか?」
山田さんは感極まった声で、衝撃緩衝材の使用許可を求めました。イクセントラさんは頷いて返します。
「なら……せっかくだ。一度…………リングを組んでみよう!」
その提案に、二人は首を縦に振るのでした。
そうして街外れに移動した三人とその他大勢。その他大勢と申しますのは、リング設営に使う部材の運搬を手伝ってくれた方々です。
まずは鍛冶屋のドワーフさんですね。見た目同様に力持ちで、主に鉄柱を運んでくれました。次に冒険者さん達です。抱きつき魔だとか刺殺マンだとかの異名を貰ったのは伊達ではありません。気づけば山田さんは彼らの人気者になっており、そんな彼らが手伝ってくれました。
組み立てを指示する山田さん。ドワーフさんや冒険者の方々は苦戦するも、着々とリングは形になっていきます。鉄柱、土台が組まれ……そして木の板と衝撃緩衝材が敷かれました。そして大きな一枚布で覆います。
次はコーナーに取り付けられた金具に、ロープを取り付けていきます。四方全てで十二本。伸縮するロープに苦戦しながらも、冒険者さん達は全てを設置してくれました。
そして、今……目の前にリングが設営されたのです。
そのリングを遠目に眺める山田さん。いつしか、その瞳には涙が浮かび……溢れ、零れました。
【どうかしましたか?】
私は山田さんを気遣って声をかけました。
「いや、このリングを見て……。こっちの世界に来てから、ここまでの苦労を思うと……」
その後は言葉になりません。ただ涙滴が頬を伝うだけの時間を私達は共有しました。
そして、涙が枯れると……山田さんはリングに向かって皆の方へと駆け出します。
山田さんが先にリングに上がるまで待っていたルカさん。こういう時は空気が読めるんですね。
彼女は体全体を使いロープとロープの間を広げます。そして、その隙間にまたぎ入る山田さん。ついにリングインです。冒険者さん達は拍手でそれを迎えました。
「俺はリングの……ど真中に立ったんだぞ、今!」
山田さんが何か言っていますが、放っておきましょう。遅れてルカさんとイクセントラさんもリングインします。
その後、山田さんはマットの感触を確かめていました。ルカさんにはリング上で受け身を取らせたり、ロープワークを教えています。ルカさんがその動きをある程度覚えると……今度はイクセントラさんにマットを叩いてのカウントや、レフェリーの基本的な動きを説明しました。
周りでは冒険者の方々が興味深そうに眺めています。ある人はリング上での山田さんの動きに目を引かれ、またある人は、ルカさんそのものに目を惹かれていました。ドワーフさんはロープを興味深そうに調べていますね。
「これで旗揚げの目処がたったな……」
山田さんは小さく、そう呟くとリングを降りるのでした。
それから山田さんは手伝ってくれた皆さんを集めました。そして皆さんに深々と頭を下げ、感謝の意を伝えています。
更には今後の旗揚げ戦開催に当たっての協力も求めました。ドワーフさんと冒険者の皆さんは快諾します。それにも感謝を述べ、頭を下げた山田さん。しかし、これだけの人達に協力してもらえるとは……流石は山田さんの人望ですね。
そしてドワーフさんと冒険者さん達は帰るのでした。
残されたのはいつもの三人。山田さんはルカさん、イクセントラさんに向けて宣言します。
「これで……旗揚げの準備は整ったぞ!」
それを聞くと……ルカさんは真剣な表情になりました。イクセントラさんは特に変わりません。
「そうだな……二人の動きを見るに、二週間だ。二週間後に旗揚げ戦を開催する。だから、それまで練習に励んでくれ」
大きく強く頷くルカさんとイクセントラさん。
こうして旗揚げ戦が決まりました。
二週間後には山田さんの望んだ団体が設立されるのです。私も……なんだかドキドキしてきました。成功を神に祈りたい気分です。え……私が神だって? いえ、違いますよ、私が祈るのは……プロレスの神様になんですから。
「あ……そうだ、言い忘れていた」




