38話 「そんなベタベタな手で……そんな所触らないでよ」
山田さんとルカさんがイクセントラさんの家を訪問した翌日、三名はスライムの生息する池の畔に集まっていました。
そして練習が始まります。山田さんとルカさんはストレッチから始めました。イクセントラさんは見学のようですね。
ストレッチが終わると、ルカさんは池を周回してランニングを始めました。山田さんはイクセントラさんに……この時間を使ってレフェリーに関しての説明をするようですね。
「基本的な試合のルールは……両肩がマットに付けられたらカウントを取る。それで三を数えたら勝負ありだ。他にも選手のギブアップを確認することやノックアウト、リングアウトなんかで試合が決着するんだが……それはまた、いずれな」
試合の決着について説明する山田さん。イクセントラさんは黙って聞いていますね。
「それで……特に重要なのはレフェリーストップだ。これはレフェリーが危険と判断したときに試合を止める行為で、選手に怪我をさせないためにも……この判断だけはしっかりする必要がある」
へー、そういうのもあるんだ。思ったよりもレフェリーの仕事って大変なんですね。
「それから、これも重要なんだが……試合を演出するってのも大切な仕事だ。例えば……反則を厳密に管理するのではなく、敢えて見逃したり許容したっていいぞ」
その説明にイクセントラさんが挙手をして発言の機会を求めています。視線で発言を許可する山田さん。
「レフェリーが公正でないのは…………不可解」
うんうんと頷く山田さん。その解答を示します。
「ルール的にはそうだな。だが、試合の勝ち負け以上に重要な事は……試合を面白く演出することなんだ。客が盛り上がるなら、割と無茶な判定をしたっていい。その辺りの匙加減が難しいんだが……イクセントラなら出来ると思うぞ」
「やってみなければわからないが…………期待には応えさせてもらう」
自信がありそうなんだか、なさそうなんだか……表情から読み取りにくいイクセントラさん。一応、レフェリーの仕事は請け負ってくれるみたいですね。
「それと……ウチの団体は人手が足りないから、入場のアナウンスなんかもお願いしたい」
要望が多い山田さん。イクセントラさんにさらなる仕事を押し付けています。
「あまり人前で喋るのは好まない…………しかし、にわとりマンの魔石を使った拡声器は用意しておく」
なんだかんだと、全てを了承してくれたイクセントラさん。実は心根のいい人なのかもしれませんね。趣味を除けばですけど。
レフェリーの仕事について説明を終えた頃、ルカさんがランニングを終えて戻ってきました。そして筋トレを始めます。腕立て、腹筋などなどを見学するイクセントラさん。腕立て中のルカさんの背中に乗ったり、腹筋中にお腹に座ったりとちょっかいをかけていますね。
ルカさんの筋トレの間、山田さんはスライムを狩りにいきます。今日はフォークを持参していません。その代わり……大きな瓶を用意していました。
「喰らえっ! 山田スペシャルだ!」
「ら、らめぇぇぇぇぇぇ」
ベアハッグでスライムを破裂させては、粘液を瓶に集める山田さん。この光景……もう見なくて済むと思ってたんですけどね。
刺殺マンから……抱きつき魔に肩書を戻した山田さんは、そんな感じで魔石と粘液を集めるのでした。
ルカさんの筋トレが終了し、ブリッジや受け身を行っていた頃……山田さんが粘液まみれで戻ってきました。そして言います。
「それじゃ……そろそろスパーリングといくか」
ファイティングポーズを取る山田さん。その身体は粘液でテカテカと光り、触ればヌメヌメすること間違いなしです。ルカさんにジワジワと接近する山田さん。ルカさんは後退りして、距離を保っています。
「ちょっと……粘液くらい落としてからにしてよ」
ルカさんは後退しながら、抗議の声を挙げました。しかし、山田さんはこれを無視。さらにルカさんに近づきます。そして……遂に組付きました。そのまま寝技に持ち込みます。
「イヤ……ちょっと……そんなベタベタな手で……そんな所触らないでよ」
これが……粘液まみれの筋肉男が女性にのしかかり、技をかける隙を探している図になります。ルカさんの顔はいつものように赤らんできましたね。
「ふむ…………こういった嗜好も…………満更でもない」
イクセントラさんは、それを興味深く見守るのでした。
***
そんな感じでルカさんは練習の毎日が続きました。イクセントラさんは家で魔具の制作をしています。そして山田さんはスライムを潰していました。
気がつけば……いつの間にかルカさんは、トレーニングを楽々とこなすことが出来るようになっています。スパーリングでもプロレスラーらしい動きが身についていました。そして稀にですが……山田さんから一本取ったりしてます。
こう見ると、なんだかんだで……プロレス団体設立が近づいてきましたね。




