33話 「痛みを観客にわかりやすく伝えるくらいは朝飯前だ」
山田さんはそこらでスライムを狩っています。ルカさんはここらで筋トレをしています。
片方はスライムを見つけてはフォークを刺しまくり、もう片方は筋トレの反復運動に汗を流していました。
そんな単調作業が長く続き……ついに山田さんが戻ってきました。
「どうだった?」
ルカさんに筋トレの感想を問うた山田さん。その顔にはスライム狩りの成果でしょう、粘液が飛び散っていました。
「案外……やってみれば出来るものね!」
額に汗を浮かべたまま、ルカさんは答えました。その表情からは達成感が見て取れますね。そして、ルカさんは山田さんに何かを言おうとしています。
「それで……次は何をしたらいいの?」
「そうだな、それじゃあ次は……ブリッジや受け身の練習をするか」
筋トレを終えた高揚感でしょうね。ルカさんは山田さんの指示に素直に従いました。
仰向けの体勢から腰を高く反り上がるまで持ち上げると、両足裏と頭部のみで自重を支えるルカさん。山田さんはその腹部を押して負荷を高めようとしています。ルカさんは……ちょっと赤面してますね。
次は受け身の練習です。ルカさんは前から後ろから大地へ倒れ込みました。そして、その衝撃を広く背中で分散しています。他にも……衝撃を横に流したり、回転で受け流したりなどと応用編も試みていました。
「次はロープワークを練習したいんだが……リングがない以上は仕方ないな。諦めるか」
ルカさんが受け身の練習をしている中、山田さんは小さくそう呟きました。
「それでは実践的な練習に移るか。ルカ……スパーリングをするぞ。今のお前ができる限りのプロレス……俺にぶつけてみろ!」
山田さんはそう言うと、ルカさんから距離を取りました。そして体勢を低くしながら……ルカさんの動きを待っています。
ルカさんもそれを察したのでしょう。慎重に山田さんとの間合いを取ります。お互いの視線が……中央で激しく交錯しました。さあ……どちらから動くんでしょうね。
「アタシはまだプロレスを学んで初日だし、出来ることが少ないのなんてわかってるわ。でも、受け身の戦い方はアタシに合わないし……お先に行かせてもらうわよっ!」
先に動いたのはルカさんでした。丁寧に取った間合いを、惜しげもなく一気に詰めていきます。そして山田さんに迫ると……
「喰らいなさい! これが山田チョップよ!!」
パチーン……パチパチパチぱちぱちぱち
ルカさんは山田さんの大胸筋を平手で叩きました。そして……そのまま連打していますね。
この技を山田チョップと呼ぶってことは……ルカさん、何処かで山田さんの戦いを見たことがあるんでしょうか。山田さんは自慢の大胸筋を無数に叩かれ、苦悶の表情を浮かべていますね。痛そうです。
ルカさんは連打を終えると、再び山田さんとの距離を取りました。山田さんは、まだ大胸筋の痛みに顔をしかめています。すると……ルカさんは山田さんに向けて突進してきました。
「喰らいなさい! これが……体当たりよ!!」
叫ぶと同時に、山田さんに全力のぶちかましをお見舞いしたルカさん。山田さんは……吹っ飛んでしまいました。ルカさんも、あれだけの筋肉男を吹っ飛ばした反動でしょうか……少し足元がふらついています。
吹っ飛ばされるも、なんとか起き上がる山田さん。その起き上がりに合わせ……ルカさんが歩み寄ってきました。ルカさんは身を起こす途中の山田さんの肩を片手で掴みました。そして、もう片方の手を山田さんの股間に回します。すこし顔が赤いのは……試合による興奮状態なのかはわかりません。
そして、そのまま……ルカさんは山田さんを抱え上げました。
「喰らいなさい……これが……ボディスラムよ!!」
ルカさんは山田さんの重量に苦しみながらも、なんとか地面に投げ捨てます。
ドシャ!
山田さんは背中から大地に叩きつけられました。山田さんの顔は苦痛に歪んでいますね。これは痛いでしょう。
「最後はこれよ!」
ルカさんは目を伏せ、集中すると……なんと両の手のひらに炎の球が現れました。そして、その炎を山田さん目掛け……力いっぱい投げつけます。
「これがアタシのファイアボールよっ!」
ルカさんはファイアボールを投げると……再び創出しました。そしてまた投げる。延々とそんな攻撃が続きました。
「ファイブカウント以上の炎攻撃は反則だろーーーー!」
山田さんは、その身を焼かれながら……断末魔の叫びを上げています。
「炎を使うのは別に構わない。だが、もし使うのなら……会場の消防法を確認してからにした方がいいぞ」
山田さんは焦げた匂いをさせつつ、むくりと起き上がりました。そして語り始めます。
「とりあえず一通り、ルカの技を受けてはみたんだが……炎がちょっと熱かったくらいで、他は大した事なかったな」
【私目線では……すごく痛そうにしてたように見えましたよ?】
山田さんの発言にはルカさんもカチンと来たようです。仕方ありません。この人にはデリカシーとかオブラートに包むとか、そういった精神が欠けているんです。そして、そんな山田さんの語りは続きます。
「そりゃ……俺もプロレスラーだからな。痛みを観客にわかりやすく伝えるくらいは朝飯前だ」
ああ、なるほど。そういうことだったんですか。ルカさんは驚嘆しています。きっと気づいたのでしょう。
「しかし、いくら男女差が少ないとはいえ……やはり体重不足で威力が激減してしまうのは避けられないな」
語り続ける山田さん。流石のルカさんも口を挟めません。
「そうなると、体重が少ない分はスピードで威力を補いたくなるんだが……ロープが無い以上はスピード感を生み出すのにも限界がある」
「ロープって何よ?」
そこで、急にルカさんが口を挟んできました。そっか……ルカさんはリングの事とか、まだ知らないんですね。それを察した山田さんは、彼女にリングの説明をするのでした。
***
「そういうわけで、いつかはリングを用意する予定なんだが……まだロープと衝撃緩衝材の代わりが見つからないんだ」
リングの説明を終えた山田さん。長らく解決策を発見できていない命題を考えてか……とても苦い顔をしています。
「ふーん、ロープかぁ…………」
相槌を打ったルカさんは……なんだか含みある感じですね。
そろそろ日も暮れてきました。今日の練習は終わりですね。二人はセパラドスへと帰る道を並んで歩いていきました。




