31話 「空の向こうから見守っていてくれ!」
「これから、よろしくっ! アタシはルカっていうの!! これまでは冒険者してたんだけど……明日からはアタシもプロレスラーねっ!!!」
テンションが極めて高い彼女。名前はルカさんと言うみたいです。明日からは肩書がプロレスラーになるという、まるで罰ゲームのような事態にも、大いに喜んでいました。
「ようこそ……我が団体へ」
ルカさんの入団を歓迎する山田さん。でも、なんだか表情には含みを感じます。どうも……素直に喜んでいるって感じではありませんね。
「だが……ルカ。その前に伝えなきゃいけない事がある」
山田さんは重々しい表情で、そう告げました。その深刻な雰囲気を察してか、ルカさんは…………
「な……何よ、そんなにかしこまっちゃって。ダメよ……まだ出会ったばかりなんだし…………」
と、モジモジワタワタしながら……赤面して答えたのです。
【チョ……チョロい。チョロインだ…………】
予想外の展開にも動じず、重苦しい雰囲気を守り続けた山田さん。本来言いたかったことを伝えるべく、口を開きました。
「ルカはプロレスラー二号と言ったが、実は……そうではないんだ」
「どういう事! まさかアタシ以外に……女がいたわけ?」
脱線する会話。隙あらば脱線していく暴走特急のようなルカさん。そんな彼女を気にすることなく、山田さんは語り続けます。
「プロレスラー二号は…………どう考えてもスライム師匠だからな。よってルカは三号だ」
「は?」
女の存在を疑ったらスライムが出てきたルカさん。なんだか見覚えのある顔をしていますね。あ……思い出した。山田さんが初めて冒険者ギルドに行った時、職業をプロレスラーと宣言した瞬間の……あの受付のお姉さんと同じ顔だ。
「そういう訳で、ルカは……スライム師匠の事を先輩扱いしないといけないからな」
山田さんは語り終えました。ルカさんの顔は再び赤く色づきます。でも……この赤面は怒りの赤に染まっています。
「何でアタシが、スライムなんかを先輩扱いしなきゃいけないのよ!」
吠えかかったルカさん。その勢いは止まりません。
「そもそもスライムがプロレスラーってどういうことなのよ!」
今にもルカさんは山田さんに飛びかかりそうです。しかし……今、この瞬間。何かが近づいてきました。
「おう、新人……ガーリックパンとスライムゼリー買ってこいスラ」
いつの間に、ルカさんの背後から近寄ってきていたスライム先輩。先輩は横柄に買い出しを命令しました。
「あっ……ハイ。今すぐ…………行かせていただきます」
先輩のお達しを受け……ルカさんはしぶしぶと返答しました。その顔には不満が満ちています。その不満が限界に達すると、ルカさんは駆け出しました。その方向はスライム先輩に一直線です。
「なんて、言うわけないでしょ―!」
そう言うと、ルカさんはスライム先輩を蹴り上げました。高く高く、何処までも飛んでいくスライム先輩。その姿は……青空に向かって、段々と小さくなり……そして、見えなくなりました。
こうしてスライム師匠は天空に輝く星となり……新団体を見守ってくれる事でしょう。
「俺、師匠の教えは忘れないからな。きっと、この世界で一番の団体を作ってみせる! 空の向こうから見守っていてくれ!」
山田さんは手で涙を拭いながら……師匠への誓いを口にしました。でも、私にはツッコミたいことがあります。
【この世界にプロレス団体作ろうなんて人、他にいませんから……設立した時点で一番ですよ】
「あ……そっか」
山田さんは急に涙を引っ込めました。きっと嘘の涙だったんでしょうね。もう素の顔に戻っています。そして……次はルカさんが泣きはじめました。そして震えながら言います。
「スライム先輩の事は今日の報酬の受け取りまでは忘れません。でも……色々と教えて頂いたことは夕食までは覚えておきます」
ルカさんの頬を流れる涙が一滴。その涙は……嘘泣きで溢れたのでした。




