29話 「プロレスとはキング・オブ・スポーツ」
パチパチパチパチッ
スライムとの激闘を制した山田さんの後ろから拍手の音が聞こえてきました。拍手の源を探ろうと山田さんは振り返ります。すると……山田さんに向けて女性が近寄ってきました。女性は両の手のひらを高く掲げています。
その姿勢……山田さんにはどう見えるのでしょうか。万が一にも変な誤解してたら大変なことになりそうです。ほら、そのポーズだけ見たら……降伏のポーズにも見えますからね。
【どうやら……ハイタッチを要求してるみたいですよ】
私は山田さんに状況を説明してあげました。これで、女性が勝手に降伏したとかいう変な可能性が消えます。
「なるほど……俺と師匠の試合でも観てたんだろうか? それにしてもハイタッチだなんて……なんだか花道を引き上げる時を思い出して懐かしいな」
そう言うと、山田さんはハイタッチで応えます。ごん太い両腕を上げると、勢いをつけて…………
パチーン!
女性は思った以上の力で叩かれたのでしょうか、ビックリしています。
その顔を見るかぎり……彼女は美人というよりはカワイイって感じでしょうか。髪は……燃えるような緋色の長髪で、体格は平均的……胸は大きくも小さくもないかな。そんな感じの女性ですね。
そして彼女は熱っぽい表情で口を開きます。
「スゴいもの見せてもらったわ! ありがとっ!!」
おお、褒められてますよ。良かったですね、山田さん。ですが山田さんは……なんだか困った顔を見せていました。そして、彼女に尋ねるのです。
「えっと、アンタ………………誰?」
「冒険者よっ!」
おそらくそれだけでは解答として不十分です。彼女は興奮のせいでしょうか、名乗り忘れていました。それどころか……更に語ろうとしています。
「狩り場に変な筋肉男がいると思って見てたら……ホント、スゴかったわ! アタシ、今までにあんな熱い戦い見たことないもの!! 思わず、スライム師匠を応援しちゃったわ!!!」
【人とスライムの戦いで、スライムを応援するとか……人としてどうかと思います】
とにかくよく喋る彼女。彼女は山田さんに喋る隙を与えません。
「アタシもスライム狩りがメインの冒険者だけど……スライム相手に、あんな白熱した戦いをした事なかったわ!」
【する方が珍しいだけですよ】
スライムとの戦いを観ていた彼女は、興奮気味に感想を語り続けました。
最初は嬉しそうに聞いていた山田さんも……次第に暇そうな表情を浮かべています。
そんなこんなで、ようやく彼女の喋りが落ち着いたようです。遂に山田さんは口を開く機会を得ました。
「なるほど……つまり俺の試合を気に入ってくれたわけか」
大きく、何度も頷く彼女。なんだか仕草は小動物みたいで可愛いですね。そして山田さんは発言を続けます。
「しかし……なんだかんだ嬉しいもんだな。なにせ初めて、俺の試合を褒めてくれる人間に出会えたんだ」
【そういえば……スケルトンさん達には褒めてもらってましたもんね】
「つまり、この世界で…………君こそが俺の観客第一号だ!」
カッコつけた感じで発言を締めた山田さん。なお、この発言によって……スケルトンさん達は観客認定されないのが確定しました。
山田さんのカッコつけた発言を受けた彼女は……何やら考え出しました。そして、呟きます。
「観客第一号なのは別にいいけど、それより……さっきからずっと試合って言ってたけど……試合って…………何よ?」
当然の疑問ですね。この世界で魔物と戦うことを試合と呼ぶ人は、私が知る限り一人しかいません。魔物を含めば、もう少し増えるくらいです。つまりは圧倒的少数派です。
「試合か……それは、まあ……プロレスの試合の事なんだが…………」
山田さんは解答します。しかし、それは解答になっていない解答です。
「プロレスって…………何よ?」
疑問の解答を求めたら……さらなる謎のワードに襲われた彼女。山田さんとの会話ではこれくらいで怒ったらいけません。多少の諦めが必須になります。
「そうだな、スライム師匠との試合を見た君が感じた事……君の気持ちを動かした物……それがプロレスだ。そして君の気持ちを動かした者……それがプロレスラーだ!」
【それっぽい事言ってるように聞こえますが……何の解答にもなっていませんよ】
さてさて、山田さんの謎解答を聞いた彼女の反応は…………
「なるほど! 今のアタシの気持ち……これこそがプロレスなのねっ……わかったわ!!」
何がわかったんでしょうね。ちなみに私には……彼女がヤバい人だということがわかりました。
彼女の発言を受けた山田さん、それに応えます。
「そうだ! プロレスとは今の君の気持ちのように……見る者の魂を震えさせるキング・オブ・スポーツなのだ!!」
そう……モストマスキュラーポーズで語った山田さん。これ……要約するとプロレスとはキング・オブ・スポーツって事を伝えるためだけに無数の脱線を繰り返したんですね。疲れました。
さて、どうやら……ヤバい人がヤバい人に出会ってしまったようです。これ以上の脱線はしない方向で、よろしくお願いしますね。




