27話 「今日で抱きつき魔からは卒業だ」
【武士は食わねど高楊枝。騎士は食わねど宝くじ】
俺がいつもの店で食事を待っていた時、すーさんは機嫌よさそうにライムを刻んでいた。
「武士や騎士が食事を取らないのは構わないが……俺は食うからな」
「お待たせしましたー。こちら海鮮丼とエールになりまーす」
俺の前に料理が運ばれてきた。うん、美味そうだ。この海鮮丼……実はメニュー表には書かれていない。店の入口に板書されていたのだ。きっと新鮮な魚介類が仕入れられたに違いない。そして……本日のみのメニューとして掲示したのだろう。そこには店長の矜持すら感じる。
俺は店長の挑戦を受けて立つことにした。そして今、プリップリの魚介の切り身が白米の上に載せられた丼が…………俺の眼の前に鎮座している。魚介が盛られた中央部分には、魚卵だろうか……まるで宝石のような輝きを秘めた魚卵は、見るからに濃厚な味を俺に約束してくれている。
「いただきます」
俺はこの芸術的な丼にて失われた命達に感謝を示した。そして……一口食す。なんて美味いのだろう。魚の切り身は舌の上でとろけるようだ。そこに魚卵の濃厚な味が絡むと……至福である。そしてなにより……この美しい調和を崩さないまま存在できる白米こそが素晴らしい。コイツは主役であり……脇役であり……万能な名役者だ。どんな丼でもお前がいることで……満腹という至高の満足感に辿り着くことが出来る。
海鮮丼を何口か頬張った後、俺はエールが波々と注がれたジョッキを手に取った。この重量感がたまらない。いずれ軽くなり……無くなってしまった時の寂寥感と対になる演出こそが重量感である。俺はエールを喉に流し込んだ。美味い。……その喉越しは爽快で、口内に残る後味をリセットさせてくれる。
さあ、また海鮮丼のターンだ。俺はジョッキを置くと……再び海鮮丼を食す。先程のエールの苦味を……海鮮丼の濃厚な味が上書きしていく。この瞬間が…………たまらない。
気づけば…………丼とエールは空になっていた。
「ごちそうさまでした」
俺は命……そして海鮮丼を提供してくれた、この店への感謝を述べた。さあ、少しゆっくりするか。俺は食後の一時をすーさんと会話して過ごすことにした。
「ところで、すーさん……今日はかなり稼げたわけだけど、団体設立にはどれくらい必要かわかる?」
【うーん……私はプロレス団体の経営ってよく知らないので、何とも言えないです】
まあ……それもそうか。俺だって元の世界の団体経営なら多少はわかるんだが、こっちの世界の通貨価値との比較なんかは難しいもんな。例えるなら、あっちの世界でかかる必要経費と……こっちの世界での必要経費に大きな違いがあれば、その時点で予算の想定なんて無意味になってしまう。
「と、なれば……」
【稼ぎましょう。肝心の対戦相手がいない時点で団体設立できるわけがないんですから……焦らずに行くしかありませんよ】
それもそうだな。つい大きな収入に先走っちまったが……まだまだ資金は不足している。それを稼ぎながら、問題をクリアしていくしかないな。
俺は店を出ると宿に向かって歩く。星の輝きが美しい。それだけでも明日からの活力になる。
さあ、今日も安宿で寝よう。そして、明日からも魔物討伐だ! 目指せ、団体設立資金確保だ!
***
デュラハンを倒して一攫千金と思った山田さんでしたが、まだまだ団体を経営していくにはお金が足りません。そういうことで山田さんは日々、魔物を討伐して過ごしていました。
そんなある日の事です。
「今日は……スライム狩りだ」
池の畔、山田さんは抱きつき魔と書かれたスウェットを脱いでいます。
「そして…………今日で抱きつき魔からは卒業だ」
丁寧にスウェットの上下を畳む山田さん。姿はいつものオーソドックススタイルになりました。
【どういう事です?】
「いや、団体設立の為には資金が必要じゃないか。そして俺にはそれを稼ぐという大義がある。だが、スライムを山田スペシャルで倒すのは……稼ぎの効率が悪い」
【周りの評判も悪いですけどね】
「そこで俺には秘策がある……いでよっ、対スライム最終決戦兵器!」
山田さんはレスラーパンツから……フォークを取り出しました。はい、フォークです。食事の時に使うアレです。
【何ですか……これ?】
「何って言われても、見ての通りフォークだ。だがしかし、これをスライムに刺すことで……山田スペシャルより、遥かに効率よくスライムを討伐できるってわけだ」
【筋肉が武器なんじゃなかったんですか?】
「いや、フォークはプロレスだ。よく外国人選手が使ってたからな。それに……プロレスでは5カウントまでなら反則が許される。つまり……これを使えばスライムを5秒以内に破裂させることが出来るんだよ。これで効率アップ、間違いない!」
いつの間にでしょう、山田さんの表情はヒールレスラーのそれになっていました。私は呆れを通り越して無感情になっています。
「ちなみに、このフォークは……いつもの飯屋の店長に頼んで譲ってもらった逸品だぞ」
【まあ、山田さん……お得意様ですもんね】
山田さんはフォークをパンツにしまうと……スライムを探しに駆け出しました。
スライムを見つけてはフォークを突き刺す山田さん。何十匹ものスライムが破裂させられていきます。周囲の冒険者の皆さんからはスライム絶対刺殺マンと呼ばれ始めました。
なるほど、確かに抱きつき魔からは卒業できましたね。それが良い事なのかは知りませんが。
山田さんはフォークを片手に、まだ暴れまわっています。あ、片手にスライムを捕らえました。そして、もう一方の手に持ったフォークをスライムに差し込んでいますね。
「ら、らめぇぇぇぇぇぇ。フォークの突起が三穴を責めてきて…………膜が破れて壊れちゃうスラぁぁぁぁああぁぁぁ」
スライムの悲鳴が聞こえてきました。
【こんな生き物、さっさと絶滅すればいいのに】
5 話分の連続投稿
お目汚し申し訳ありませんでした
本年も良いプロレスを祈念しております




