26話 「何か犯罪とかしちゃったなら、私でよければ相談に乗ります」
デュラハンは俺に背を向けたままだ。スケルトン達もデュラハンを讃えるのに忙しいのか、誰も俺を見てなどいない。まだだ、まだ試合は終わってはいないぞ。俺は気づかれないように距離を縮めた。
俺は音を立てないように気をつけながらも、速度を上げる。そして……潜り込むようにしてデュラハンの背後に迫った。
俺はデュラハンの背中に己の背中を合わせる。お互いが逆方向を見ている感じだ。そして、俺は背後から自身の腕をヤツの腕に絡めた。デュラハンはそこまできて……ようやく俺に気づいた。
デュラハンは振り返ろうとする。しかし両者は背中合わせの状況だ。振り返っても……俺の姿は見えない。
俺はデュラハンと腕を絡めたまま、体を前かがみにすると……デュラハンの体は俺の背中を滑る。その途中、ヤツの頭部が首から落ちた。俺はそんなこと気にせず、前にかがむ角度を大きくする。するとヤツは俺の背中から滑り落ち…………両肩が地に触れた。
「どうだ、これが俺の必殺の……逆さに抑え込む…………逆さ抑え込みだ!」
俺は自慢の必殺技名を叫んだ。さらに……追い打ちをかける。
「プロレスは両肩をマット……いや、大地につけられたまま3つカウントが入ると…………負けになるんだぜ!」
急にプロレスの勝敗の決し方を言われてか、焦るデュラハン。必死に肩を浮かせようともがくが……ビクとも動かない。足だけがバタバタと動いている。
【急にルール知らせるのとか……ズルくないですか?】
「ズルいというのは違うな。こういうのは試合運びの巧さと言ってくれ」
俺はすーさんに返事をしながらも、両腕に力を込め……より強くデュラハンの両肩を地面に抑え込む。
「なるほど……これが試合巧者というヤツですか。心底面白いですね」
その辺に転がっていたヤツの頭部が言った。しかし、そろそろ……カウントを始めようか。
「ワンッ!」
俺はデカい声で叫んだ。
「ツー!」
スケルトン達が遅れて叫ぶ。
「スリー……」
デュラハンは……己の敗北を口にした。
***
「こういった形のフォールをエビ固めというんだが……これは首の筋肉を跳ねるようにしてフォールを返すのが基本なんだ」
「つまり、私にとって極めて返しにくい技……ということですね」
試合終わったらさ、もうオフサイドだ。俺はデュラハンと握手を交わしながら、逆さ抑え込みの種明かしをした。
【それを言うならノーサイドです】
「弱点を狙ったのは申し訳ないが……これもプロレスだ」
「これも……プロレスですか。奥が深いのですね。それでは、どうぞ…………これをお受け取りください」
デュラハンは鎧の中から何かを取り出した。そして……それを俺の手のひらに両手で押し込んだ。俺はその物体を見る。
「これは……魔石か?」
「ええ、今日は面白いものを知ることができましたから……その御礼です」
「ワテらからも、御礼として魔石を受け取ってくださいスケー」
周囲のスケルトン達から魔石が投げ込まれる。俺は感謝を示しながら、全てを拾い上げた。
「ですが……覚えておいてください。私はプロレスを勉強して戻ってきます。そして、次こそは……貴方に勝ってみせます」
俺とデュラハンはもう一度、強く握手を交わした。
「ああ、楽しみにしている。ちなみに延髄斬りと延髄蹴りは……どっちでもいいぞ」
俺はそう言うと……次の瞬間にはデュラハン達は消えていた。すーさんが言うには、アンデッド達は霧に消えるようにして姿を消すことがあるそうだ。
そうだな……きっと、姿を消してるうちにプロレスを学んでくるのだろう。いずれ彼らと出会えることを期待しつつ……俺はセパラドスへと帰還するのだ。
***
セパラドスに辿り着いた俺は、その足で冒険者ギルドへと向かうと扉をくぐる。そして、いつものお姉さんを見つけると……その向かいに腰掛けた。
「この魔石を提出したいんだが……」
俺は両の手のひら、山盛りに積まれた魔石をお姉さんに見せた。その中でも……デュラハンの魔石は他よりも大きく、さらには輝きも際立っていた。
「とりあえず、その魔石はこちらに………………」
お姉さんは魔石提出用BOXと書いてある箱を俺に差し出した。そして声を落とし、俺に囁く。
「抱きつき魔さん……何か犯罪とかしちゃったなら…………私でよければ相談に乗りますからね」
お姉さんは慈愛の眼差しで、俺を諭すように言うのだった。
その後、俺は弁明……デュラハンに勝った経緯を説明する。お姉さんは半信半疑も、魔石を持参した事実は曲げられない。仕方ないとばかりに受付奥に下がると、報酬を持ってきてくれた。
「では、報酬はこちらになります」
俺の目の前に……見たことのない硬貨が置かれた。それと見覚えのある銅貨も沢山積まれている。
「こちら、デュラハンの討伐報酬で……銀貨四枚になります。銅貨の方はスケルトンの魔石分ですね」
あぁ、なるほど……銀貨ね、知ってる知ってる。銀のお金のことだろ。
【見事なまでの知ったかぶりアクションですね】
「仕方ないだろ、初めて見たんだから」
俺はすーさんに返事をしたのだが、それはお姉さんに届いた。
「銀貨を見るのは初めてでしたか。それなら説明しますと……銀貨は一枚で銅貨百枚分の価値を持ちます。そして金貨になると銀貨百枚分です。さらに上位になると、金のインゴットが商取引には用いられるみたいですが……流石にそれは国家レベルだったり、大店の帳簿精算ぐらいでしか使われませんね」
へー。そうだったのか。ポカーンと口が開いたままの俺。
「そういう事で、今回の報酬は銀貨四枚と銅貨九十枚……銅貨換算なら四百九十枚です」
なんとも目ん玉飛び出る報酬だ。俺は間抜けに口を開けながら……目玉を飛び出させていた。
しかし、まるで宝くじみたいだな。思わぬ高額報酬に……頬も緩む。
【頬を緩ませ、口を開きながら……目玉が飛び出している山田さん。どう見ても魔物ですね】
きっと、その魔物の討伐報酬は銅貨四百九十枚なんだろうな。
俺はお姉さんに礼を言うと報酬を受け取り、風呂へ向かう。思わぬ大金を手にしたせいか……少し足が震えていた。




