20話 「プロレスが誤解されかねない」
翌日、起床すると……俺は全身の筋肉を解きほぐす。そしてスウェットに身を通した。
今日、書かれている文字は…… LOVE か。よくあるよな、I LOVE 東京……みたいな感じの Tシャツって。じゃあ三重県だったら、I LOVE 津とかなんだろうか。ちょっと語感が面白い。なんと言うか、急にリズム感が崩壊するのが素晴らしい。
【I LOVE 伊良部とかどうです?】
沖縄の島だっけ? うん、悪くない。ライムが刻まれているし……でも、俺だったら I LOVE 魔界倶楽部にするけどな。
まあ、そんなことどうでもいい。俺は……プロレス LOVE だ。
そんなこんな会話しながら、俺は宿を後にした。
街中を闊歩する俺。ちなみに今日の魔物討伐はお休みだ。今日はスウェットの文字も普通なので噂話もされていない。そういえば……この街をゆっくりと眺めるのは初めてかもな。
今日はこの街を散歩しよう、そう決めた。そうだな……食べ歩きなんかをするのもいいな。他にもいい店がないか調べておくのは必須だろう。あの店の休業日なんかに困っちまうからな。俺は目的地を決めず……気の向くままに歩き始めた。
「闊歩な散歩で一歩一歩、店舗を食レポ、古今独歩」
【Oh yeah ! 】
すーさんもご機嫌のようだな。この散歩は……楽しくなるに違いない。
【ところで、山田さん】
どれくらい歩いた頃だろうか、ご機嫌だったすーさんから呼びかけられた。俺は応える。
「何?」
【プロレス団体を作るのはいいんですが……まずは、どうするつもりです?】
そうなんだよな。それが問題だ。俺も昨日、寝る前に考えてたんだけど……気づけば、寝てた。
「とりあえず、ノリと勢いで言ってはみたが……正直、実現可能なのかは怪しい気がする」
昨日の威勢が嘘のように、俺の意欲は停滞していた。
【具体的には……何が怪しいんです?】
すーさんに対して、俺は寝る前に考えていたことを素直に伝えようと思う。
「俺がいた世界では、電車プロレスとか商店街プロレス、キャンプ場プロレスなんかが行われてたんだ。でも、この世界で最初の団体、最初のプロレスの試合がそんな感じだと……プロレスが誤解されかねないと思うんだよな」
【正鵠を得た意見ですね。でも……既に山田さんの振る舞いで、誤解は生じていると思いますよ】
俺は普通に過ごしてきたし……そんなことないと思うけどなぁ。まあいい、俺は発言を続ける。
「つまり、どういう事かというと……ちゃんとしたプロレスの試合をする為にもリングが必要なんだが……そのアテがないんだ」
【あーなるほど、良かった。私、電車とか商店街を取り寄せてこいとか言われるかと思いましたよ】
「え、取り寄せれるの?」
【不可能ではないですが、可能性は限りなくゼロです。そもそも……山田さんがこの世界に来れたのだって、奇跡的な確率だったんですから】
ふーん。転移のことなんてよくわからないから、まあそんなもんなんだろう。しかし確率がゼロではないのなら、それはつまりあり得るということだ。何しろプロレスでは 200% の確率だって存在するからな。
「それに……リングがなんとかなったとして、会場の問題だってある」
問題は山積みだ。ならば……それらを小分けして崩していくしかない。俺は問題点をすーさんと共有する。
【セパラドスだったら……中心の広場くらいですかね。もっと大きい街に行けば、会場になりそうな大きな建造物もあるんですけど、いかんせん……遠いんですよ】
そうか……小分けにしたとは言っても、問題の解決には至らない。そうなれば……次善の策も取り入れていかなければならないだろう。
「なら、広場を使わせてもらうか。屋外会場は慣れてるしな。元の世界でも会場がパチンコ屋の駐車場なんてのはよくあったものだ。それに……セパラドスにも恩返しがしたい」
小分けにした問題は……ようやく一つが解決した。
「そうなると……やっぱりリングか」
【リングですねぇ】
俺はリングの構造のイメージをすーさんに伝えた。そして相談に乗ってもらう。
【そうですね……金具系なんかは鍛冶屋さんに注文すれば何とかなりそうです。でも、特注だから高くつきますよ】
「ですよねー」
【マットは……土台となる木材なんかは足りてるので大丈夫です。その上に敷く衝撃緩衝材となると……難しいですね】
そうだよな。よくあるのはウレタンなんかの化学製品が多かったし……この世界では入手しづらいのは間違いないだろう。まあ、最悪……布団でなんとかするしかなさそうだ。
【エプロンの垂れ幕は布でもいいですよね。将来的には……ここに広告とか付くかもしれません】
付くといいな。それがあるとないでは見た目のインパクトが違うし……何より収入になるのが素晴らしい。
【で……ロープなんですが、ワイヤーロープの素材そのものは銅なので調達は可能です。ただワイヤーロープのカバーになる素材が難しそうなんですよね】
ああ、あれか。あのカバーは具体的に説明すると……実は散水用のホースだったりする。ホースの内部の中空に、ワイヤーロープが通っているってイメージだ。
しかし……カバーがないと困ってしまうな。さすがに導線を束ねて作ったワイヤーロープをそのまま使うわけにもいかない。そんなことしたら、剥き出しのワイヤーがレスラーの肌を切ったり、刺さったりするだろう。
「いきなり有刺鉄線電流爆破マッチから見せるわけにもいかないよな……」
【それなら、電気系の魔法使える人……呼びますか?】
どうやら……俺のプロレス団体設立への道は困難に満ちているようだ。




