19話 「キング・オブ・エンターテインメント」
メニュー表を凝視する俺。にわとりマンステーキにどうしても目が行ってしまう。これを見る度……頭の中に大音量のコケーという声がこだましてしまうのだ。勘弁してほしい。
「店員さん、注文おなしゃす!」
俺は店員を呼ぶと注文を通す。
「ガーリックパンとビーフシチューで!」
注文を取ると、店員さんは元気よくそれを厨房へと伝えた。やはり活気のある店だ。素晴らしい。
【エールはいいんですか?】
「ああ、それは遠慮しておく」
【泥酔するほど飲まなければ大丈夫ですよ。なにせ今日の稼ぎは六十枚でしたからね】
すーさんが珍しく優しい言葉をかけてくれた。だが、その優しさを受け取るつもりはない。今の俺にとってはエール一杯ですら無駄遣いなのだ。飲んでいる場合ではない。
【どうかしたんです? 頭でも強く打ちましたか?】
心配してくれているのか、バカにしているのか……どっちなんだろう。まあいい。そんなことより会話を進めるとするか。
「いや……やりたい事が出来たからな。だから無駄遣いは極力控える方向でいこうと思う」
【やりたい事……ですか?】
すーさんは真意を探るべく、俺のやりたい事について尋ねてきた。
「この世界って平和だよな」
【そうですね。最初に言った通り……魔王が闊歩するような世界ではないですから】
「そう、その通りだ。今日なんかスケルトンと輪になって歓談できるくらいには平和だったからな」
【誤解しないでほしいんですが、そんなことするのは山田さんしかいませんよ。それより、やりたい事って……】
なかなか俺の真意が見えてこないからだろう。すーさんが俺の目的を聞く声に焦りを感じる。ふふっ……もっと焦らしてやろう。たまには仕返しをする権利くらい行使したいからな。
「平和な世界、それはそれで素晴らしいものだが……何か不足しているものがあると思わないか?」
【バカなプロレスラーは補充してきたので……他に何かありますかね?】
バカにされている気がする。そのバカなプロレスラーって俺のことだろ。俺はすーさんをもっと焦らせてやろうと決めた。仕返しの権利の二重行使だ。
「俺のいた世界では、こんな時代があったらしい。それは……戦争が終わり平和が訪れた後、人々は復興に励んでいた。そして幾分か生活がマシになってくると、人々に余暇が生まれ始める。いったい人々はその余暇をどう過ごすのか、そんな時に人々に娯楽を与えたのが……プロレスだ」
【へー、プロレスってすごいんですね】
「俺はこの世界を、それと同じような状況だと思っている。この世界は平和だ。余暇もある。だが……娯楽が足りないんだ。最初に会った時、お前も言っていただろ。この世界は【つまらない】ってな」
【言いましたね……確かに】
そろそろ焦らすのもやめておくか。流石に可哀想だ。
「だから、俺はこの世界で……すーさん含め多くの人々に娯楽を提供する…………そんな夢のあるプロレス団体を作ろうと思うんだ!」
【……………………】
「それに……自分の団体を旗揚げするってのは、全レスラーの夢といっても過言ではないからな!」
【なるほど……そう来ましたか。私の発したつまらないって言葉から、こんな事まで考えつくだなんて…………本当に感激です!】
気のせいだろうか、すーさんの声色からは熱っぽさを感じた。
【山田さんの団体が出来るの……ずっと応援してますからね!】
「期待しておくといい。必ずや俺が……この世界にキング・オブ・エンターテインメントを実現してやる!」




