18話 「だから夢みんだよ」
スケルトンに囲まれている俺。すると一体のスケルトンが近づいてきた。その両手は上げられており……敵意は感じない。俺はそいつが接近してくるのを許した。
「なんて……素晴らしい筋肉をしているスケ」
スケルトンの口からは、俺の筋肉を賛美する言葉が発せられた。
周囲のスケルトンも俺に迫ると、口々に俺の筋肉を褒め称える。
「あの上腕骨を動かしている筋肉、なんて大きいスケ」
「あっちの大腿骨を覆う筋肉なんかも半端ないスケ」
ふっ……これほどに絶賛されるとは、悪い気持ちはしない。俺は賛美への返答として……スケルトン達の中心でモストマスキュラーポーズを決める。
「ワテら、スケルトンにとっては筋肉は憧れの存在なんだスケ」
「あまりにも美しい筋肉に引き寄せられて近づいてしまったスケ。怖い思いをさせていたら申し訳ないスケ」
「いや、気にする必要はない。そもそも俺があんた達の領域に入り込んだだけだからな」
気づけばスケルトン達に混じって地面に座っている俺は、彼らとの歓談を楽しんでいた。
「これほどまでの筋肉……どうやって作り上げたスケ?」
俺の筋肉に興味津々のスケルトン達。せっかくだ……俺は彼らに筋トレを教えてやることにした。
「まずは足を肩幅ほどに開く。そして腰を落とす。そして上げる。この動作を繰り返すんだ!」
俺はスケルトン達にスクワットを指導した。スケルトン達は熱心にその動作を繰り返している。
「そうだ、腰を落として上げる時が一番キツイ。でも、そこを敢えてゆっくりと上げるんだ。筋肉の負荷を上げてやれ。これは全ての筋トレに言えるんだが……キツイ時間を楽しむのこそがコツだ!」
俺の熱い指導に、スケルトン達は一番キツイ動作をゆっくりと試み始めた。大腿骨をプルプルとさせているヤツまでいる。そうそう……その感覚を忘れないことが肝心だ。
【流石の私も……スケルトンが筋トレしたがっていたとは思いませんでした】
「夢の無い時代だろ。だから夢みんだよ……どいつもこいつも」
「そういえば……ここにいるスケルトンはお前達だけなのか?」
俺は他にもスケルトンがいないかを尋ねた。別にもっと多くから賛美されたいわけじゃないぞ。
「今日いるのは……これだけスケ。明日になれば、また別のスケルトンが沸くスケ」
なるほど。そういえば魔物ってのは、土地の魔力によって生み出されるとか言ってたもんな。
「スケルトンはいないスケど、デュラハン様ならいたスケよ」
デュラハン……? 聞き覚えのない言葉に戸惑う俺。
【えっと、デュラハンと言うのは……騎士の見た目をしているんですが首がない、そんな感じの魔物です。スケルトンに比べたら、遥かに上位クラスの魔物ですよ】
何だと……そんなヤツもいるのか。俺の心に不安がよぎる。今日は上位の魔物なんかと戦う心構えじゃなかったからな。
「でも……デュラハン様は今日はマフラーを買いにいってるから、いないスケ」
俺の不安は雲散霧消した。
「山田も冒険者スケ?」
一体のスケルトンが俺に問うた。俺は答える。
「ああ、そうだ」
「なら……ワテらと戦ってほしいスケ。さっきの筋トレで強くなれた気がするスケ、試してみたいスケ!」
「死ぬまで戦うわけじゃないから、安心してほしいスケ。ワテらが負けたら魔石は進呈するスケ!」
周りのスケルトン達も、俺を囲むと……俺との戦いを要求してきた。
「いいだろう、やってろうじゃないか! お前達に本当の筋肉ってヤツを教えてやる!」
俺はファイティングポーズと共に、そう叫んだ。さあ…………試合の始まりだ!
俺は手近のスケルトンの腰を背後から掴むと持ち上げる。そして俺の膝に向けて……スケルトンの尾てい骨を叩きつけた!
「どうだ、これが尾てい骨砕きとも言われる俺の必殺技……アトミックドロップだ!」
「尾てい骨が割れたスケー!」
断末魔と共に倒れるスケルトン。しかし、一体を倒しただけにすぎない。まだまだ頭数は残っている。俺は他の獲物に狙いを定めた。
次の犠牲者となるスケルトンは俺の両肩に担がれている。そして俺はスケルトンの顎と膝に手を当てると……力任せにヤツの体を反らせるのだ。
「どうだ、これがアルゼンチン式背骨折りとも言われる俺の必殺技……アルゼンチンバックブリーカーだ!」
「ワテの背骨が折れたスケー!」
俺は背骨が折れたスケルトンを投げ捨てる。そして、また獲物を探しに向かった。
【さっきから……容赦なさすぎません?】
「プロレスラーに手加減なんか出来るかよ」
俺はすーさんにそう返すと、また新たな犠牲者を見つけた。俺は低い姿勢でスケルトンを正面から抱え上げる。そして、そのまま俺が倒れ込むようにして……相手の背中を地面に叩きつける。
「どうだ、これが脊椎砕きとも言われる俺の必殺技……スパインバスターだ!」
【的確に骨を狙った技を出すあたり、山田さん……確信犯ですよね】
俺はすーさんに返事をすることなく……そのまま暴れ続けた。
「参った参った。降参スケ」
スケルトン達の戦闘意欲は遂に果てたようだ。俺に向け……皆が両手を上げ、降参の意を示している。
「これがワテらの魔石スケ、受け取ってほしいスケ」
俺は彼らから魔石を受け取る。ちょうど十個だ。
「ありがとうな。また来るから……それまで筋トレして成果を見せてくれよ」
俺はスケルトン達に笑顔を見せた。スケルトンも笑っているのだろうか、顎関節からカラカラと音が聞こえる。
「これだけ骨が折られると……整形外科に行かないといけないスケ」
そんなスケルトン達の会話を耳にしながら、俺は墓地から去る。
ふふっ、次に会うのが楽しみだ。彼らの体に筋肉がつくのが待ち遠しい。俺は足取り軽くセパラドスへ歩み始めた。
***
「初めてですね……まともに報酬を受け取りにきたの」
俺は帰るやいなや冒険者ギルドに行くと、馴染みのお姉さんに魔石を渡した。そして言われた言葉である。
「どうぞ……銅貨六十枚です、お収めください」
お姉さんは銅貨を渡してくれた時に、初めて笑顔を見せてくれた。
こう思うと…………今日は笑顔の耐えない素晴らしい一日だったな。
俺は上機嫌で風呂へ向かう。その後、美味い飯を食おう。
今日は……本当に気分がいい。




